前世の記憶
初めての投稿です。これからよろしくお願いします。
「ナ・・、・イ・、・・ト」
うん? なんだ? なにか聞こえる。
「・・・ト、ナイト! もう朝よ! 早く起きなさい!」
目を開けると、目の前には超絶美人な人がいた。
「あー、母さん。おはよう」
そうだ、この人は俺の母である。しかし、俺にはもう1人同じように口うるさい母さんを知っている。
「もうそろそろ朝食ができるから顔洗ってきなさいよ!」
「うん」
横には俺と同じように大声で起こされている父がいる。頬には冒険者時代に負った大きな傷跡が目立ち、強面の顔がさらに強烈なものへとなっている。だが、脳裏にはもう1人父さんのことが思い浮かんでいた。
・・・ハハ、まさかこんなことになるなんてな。
顔を洗い、机に用意されたご飯を食べながら、先ほど夢の中で見た記憶のことを思い出す。
ーーーーーーーー
この世界はRPGのようなレベルとスキルが現実に存在している。日々の生活の何気ない動作、歩く、息をするなど全ての行動で経験値を得ることができ、この経験値によってレベルを上げ、スキルを育て、成長していく。
そんな世界で、俺はナイトという名前を持つヒト族 マーレ人として生まれた。(ヒト族とは種族のことで、この他にもファンタジーでは定番なエルフ族、ドワーフ族などがいる。この種族には、黄色人種や白色人種みたいな人種の違いがあって、俺はその中でもマーレ人と呼ばれる人種である。)
冒険者の父と母の間に生まれたナイトはとても活発な性格をしている。身体能力が高く、村のガキ大将として村の子供たちからは慕われており、そのくせ優しい。幼馴染みが2人いるのだが、そのうちの1人はとても内向的な性格であり。このことからよくいじめられていた。その度にこの俺様が助けていた、褒め称えるが良い。・・・いじめられっ子の幼馴染、村長の息子なのだが、その子をいじめるのって普通にやばいとおもう。いじめっ子の親たちはどう思ってるのだろうか?
閑話休題
今日、俺は12歳になったわけだが、その夢の中で前世の俺である、田中蓮の記憶を思い出した。
田中蓮はぴちぴちの大学1年生だ。長い長い受験戦争を経て、念願の大学の入学式を迎えた。
家族と記念写真を撮り、一緒に合格した小学校からの親友たちとは入学式の後にカラオケに行ってそのまま夕飯も一緒に食べた。その帰り道、俺はトラックに撥ねられて死んだ。事故のショックからかトラックに当たった衝撃しか覚えていないのは不幸中の幸いではあるが、その衝撃でさえ今思い出すだけで吐き気がする。もし死んだ時の感覚まで覚えてたらと思うと・・・。
そして、今日この日に田中蓮の記憶を思い出した。ナイトの自我と田中蓮の自我が統合され、外で友達と遊びたい子供ながらの欲求がありながら、外に出るのは面倒くさいと感じる矛盾した精神が出来上がった。
とは言っても、ナイトの自我はまだ完全には出来上がっていなかったので、意識的には前世の人格が強く出ているが、今の親に家族としての愛情を強く感じているし、子供ながらの欲求もある。なので、前世の記憶でナイトの人格がなくなったという展開は避けられたと思う。
前世の未練はないの? と聞かれれば、即答であると答える。あれだけ苦労して大学に入ったのだ。何より10年来の親友と一緒の大学だ。最高に楽しい生活を送ることができただろう。それこそ死ぬ前の夜飯では、どんな大学生活を送ろうかという話で盛り上がった。
「サークルは何入ろう? 」
「やっぱ大学生なったからには軽音部一択っしょ」
「20歳になったら家族みんなで酒飲もうぜ!」
「いいねいいね! 父さんたち俺らと酒飲むの楽しみにしてるっぽいし、あ〜、早く誕生日来ねえかな〜」
「まだ一年以上の話だぞお前らw」
そんな馬鹿な話をするのが何より幸せだった。それが今はもうできない。今世においてもあいつらと同じくらい仲の良い友達はできた。しかし、物心つく前から一緒にいるため友達というより家族に感覚は近い。好きな女は誰? 隠している性癖は? そんな話ができるのは悪友であるあいつらだけだ。
何より親より先に死んだのが一番未練だ。小さい頃はよく体を壊しており、母さんにはよく看病をしてもらった。父さんとはサッカーをしたり、キャッチボールをしたり、一緒にRPGで遊んだりもした。中学の時はそれこそ、親の考えがわからず、結構な反抗期を迎えた。今では親の言うことも理解できる、共感はしないが。それが、やっと大学生になって、これからはクソ生意気な息子は卒業しようって思ったその矢先だ。ほんと、本当に親不孝な子供だよ。孫の顔も見せてあげられなかったなと思ったが、俺とは違ってとても優秀で超かわいい彼女もいる弟がいたので、心配はないだろう。俺がいない分、より親孝行してくれたら嬉しいな。
・・・本当に、なんで今になって前世の記憶を思い出したのだろう。思い出さなければただのナイトとして生きることができたはずなのに。
・・・いや、今日という日だからこそかな。ナイトにとってとても大事な日である。
けど、けどなぁ、前世に戻りたい、過去に戻りたい、親に会いたい、友達に会いたい。
しかし、ナイトという12年分の記憶もあるわけで、この世界にも同じくらい愛着を持っている。今世の父と母は大好きだし、幼馴染みたちも同じくらい大好きだ。この世界を捨てるという選択肢はない。ならばここは気持ちを切り替えて今世を満喫せよ! って感じなのだが、そううまくいかない。どちらの世界も等しく愛しいものだ。選ぶことなどできない。
しかし、覚悟を決める必要がある。この世界に生きる覚悟を。それに、ナイトは俺の記憶を思い出す前に別で覚悟を固めている。8歳も年下の餓鬼が幼いながらも自分で道を切り開こうとしているんだ、俺も覚悟を決めよう。過去を忘れることは到底できないが、努力が報われやすいこの世界に生まれ変わったんだ、全力で楽しもう。人生の計画は既にナイトが立てている。田中蓮として生きた20年をフル活用して、ナイトの人生では未練のない人生を歩もう!
拝啓、前世の父さん母さん、俺、異世界で頑張っていきます。
ーーーーーーーー
ご飯を食べ終わり、普段遊ぶ服に着替えようとすると母さんに止められた。
「ナイト、今日は天啓の儀があるから、儀式用の服着るのよ。・・・顔色が少し悪そうだけど、大丈夫なの?」
母さんはこちらを心配そうに見つめてきた。
「え!? いや、うん! すごい楽しみにしてて、今日ちょっと寝不足だったんだ! でも今はご飯も食べてもう元気だよ!」
さすがに、前世の記憶を思い出してちょっと鬱になってたとは言えない。ごめんね、嘘ついて。
「そう? それならいいのだけれど」
まだ不安そうな表情をしていたが、一応安心はしてくれたようだ。すると、普段はあまり話さない父さんが話しかけてきた。
「ナイト、今日はとても大事な日だ。気張れよ!」
そして俺にだけ聞こえる声で、
「・・・あいつにも勝てよ」
とだけ言って外に出かけた。
・・・父さんにはバレてるか。うーん、隠していたんだけど同じ男として気づいたのかな〜。
そう心の中で考えながら天啓の儀のために準備をする。
最後までお読みくださりありがとうございます。面白い感じれば、ブックマーク、高評価の方よろしくお願いします!