ゆめとげんじつ
初投稿です。頑張ります。お手柔らかにお願いします。
これから描かれる物語はもしかしたらつまらない唯の日記のようなものになってしまうかもしれない。
私のように平々凡々と暮らしてきた人間というのは元来、才能を持っていないわけで、拙い文章と馬鹿げていて阿呆だらな表現方法をしてしまうことに対して先に謝罪しておこう。
何せ小説というものを書くのはこれが初めてでしかも私に今現在降りかかっている事実をここに書き記すのだから、例えば、ゲームでいうボスキャラクターを倒すとか、主人公が心変わりして成長していく場面とか、そんなスバらしい小説にすることは不可能である。
ただ、現時点で私にとっては非常に興味深いことに巻き込まれていることは事実で、それが面白い結末に向かっていくような。そんな予感と期待を胸に現在筆を持ち、私の持ち歩くノートにこれをつづっていく。
念のため、言っておくがこの小説が私のみの主観的なものになってしまってはいけないと思うので、適当な箇所。自分よりの適当な語り手がいる場合は、その人の主観に乗せて書くとする。例えば、誰かが書いた記事や文章、私が取材して分かった事実などは、できるだけその人が言っているように思えるような文章で書こうと考えている。
最期に。私がこのノートを書き続けることができなくなってしまった場合は誰かがこれをを受け継いでくれるとうれしい。
(これを公の場に出すことは予定していないが、知人のものに見せて好評だったら検討しようと考えている。)
「ヒナタ」
先程まで河原で遊んでいたと思っていたのに、振り向くと違う景色になっていた。振り返ると水の中に入り込み、溺れそうになった。苦しいはずで、心臓は脈をひたすらに叩きつけているはずなのに、体はいうことを聞かない。
私が死を意識したその瞬間、次は真っ白い、先ほどまで色彩にあふれていた世界が突然漂白されたかのように真っ白になった。上下左右の方向感覚を失いどちらが上か下か、分からなくなった。
ふっと吐息をついて、振り向くとどうやら私は火事のど真ん中にいた。自宅が燃え、妻が燃え盛る焔の餌食となり食われている。泣いて嘆き、つらい。つらい。つらい。涙があふれそうな感覚をいくつも覚える。
絶望を覚え、消防士がいたはずの方を向くと、私はとあるビルの屋上に来ていた。強風が吹き荒れるなか、私は非常に心が軽くなるのを感じながら、屋上の端に足を進めるたびに段々心が晴れやかになっていくのを覚えた。立ちはだかるフェンスを超え、風が私を持ち上げて私と一緒に新たな生を喜び合いながら…。
丁度その時、風で目が乾ききっていたのだろう、本能には逆らえず、瞼を強くこすった。一旦は目を閉じて、真っ暗な世界を嗜みつつ、また元の世界に戻ろうとしたとき、何か違和感を感じた。
瞼が開かないのだ。あれ。どうして。瞼が開かない。悪魔に縫いつけられたとでもいうのか?そんな冗談を考えながら私は無我夢中でこの状況から脱しようとした。
必死に目をこすりながら、暗闇の世界から脱出しようとする。それとともに暗闇の奥から誰かの声が聞こえてくる気がした。
「……きろ……」
上下も左右も分からないこの世界ではどこからこの声が聞こえてくるのかも分からない。体を暴れさせて見るが、何も起こりはしない。
「……なた……」
どんどん声が近づいてくる。誰かが助けに来てくれたのか?私をこの暗闇の世界から!おそらくそうだろう。そうでなければこんなに何度も私に向けて声を発するはずがない。
「助けてください!」
私はそう声を荒げて言った。お互いの声は声を出すたびに近づいてくる!間違いない。この行動はあっていた。
「あっ……」
私の視界に光が差し込んでくる。陽の光だ。そう思った次の瞬間、目の前に大きく鳴り響く目覚まし時計が現れた。
「た……す……けて……?」
私がその目覚まし時計の音量の百分の一にも満たないしゃがれた声を出すと、それに答えるように、その目覚まし時計の百倍くらいはある音量で私の頭上から図太い声が聞こえた。
「ヒナタ…いい加減にしろよ…?起きろって言ってんだろうが!!!!」
その巨大な化け物が咆哮したような恐ろしい声を出したのは体格が図太く、筋肉質で顔が猪のような顔をした男性だった。
夢。夢だったのか?
私が頭を拗らせてしまったのか分からないが、どうも現実味のある後味の悪い夢だった。皮膚にこびりつく焦げた匂いがまだ鼻の奥でしている気がする。不思議な体験は自らを呆然にさせるのには十分であった。
が、また猪男、もといセキさんと目があい、私はベッドを飛び上がり、学校へ登校する支度を始めた。
「ヒナタ……また遅刻になるぞ……!」
この短気な男性はこの家の主であり、私の育て親のセキさんであった。私たちがいるのが二階で一階は酒場となっている。その酒場の店主がセキさんということになる。朝は仕込みで着替えはする必要ないはずだが、セキさんは好んで店のマークが描かれた紺色のエプロンをしていた。その中にこだわりはないのか、白のシャツに下は黒のシェフパンツを履いていた。普段はこんなに顔をしかめているわけではないが、何分最近の私の遅刻率が高いので私のそれがセキさんの腹を立たせるのに一役買っている。
私は早急に着替えを済ませ、セキさんの作ったホットサンドを味わいながら牛乳で流し込むと、厨房に皿を出して、靴を履いた。
先ほどセキさんに起こされて、ベッド横にあった目覚まし時計には八時五分とあり、私はピッタリ十分に家を出ることに成功したため、現在、八時十五分。そして、登校時刻は八時半。ここから学校への距離はさほど遠くないものの、学校はこの街の一番上に位置するため、坂があり普通に行けば、二十分かかる。
……私は規則を守ることを諦めた。自転車に乗ったところまではよかったが、普段通りの速さで学校に向かうことにした。
私の家は海が一面に広がるところに位置していて、少し歩けば砂浜があり、その向こうには海港がある。車道に沿って燦爛たる※トラユリが植えてあり、反対を向くと海があった。
「※トラユリ
中心に位置する教会から人類を囲う海の岸まで植えられている。基本的に管理者が植えているため、自然には育たない。花の花弁を指でこすると甲高い声が微かに聞こえるのが特徴。花弁につく花粉がこすれてそのような音が出るといわれている。」
私は海面に反射する陽の光に目を細めながら、先ほど見ていた夢について考えていた。
遅刻している癖にそんな呑気にしている奴がどこにいるという指摘は前置きにしておいて、やはり最近の夢がおかしいと私は思案した……。
夢というのは人間の記憶や体験から作り出されるもの。というのは誰かから聞いたことはあるが、あのような体験はしたことがないし、記憶の断片について探ってみても、過去の記憶から夢につながるような記憶はなかった。
記憶の断片というのはつまり、ある夢を連想するために使われる記憶ということ。例えば、火事の夢を見る際、火事の体験をせずとも「誰かが火傷をした」と幾ばくか噂になったことを聞いたこと。新しい家が建築されたという見聞。猛暑の日に外へ出たという経験。これらが調合されることにより私は火事の夢を見ることが可能になるのだ。
しかし今回のことに関していえばそれはないと思っている。誰かが火傷をしたとは聞いていないし、勿論私もしていない。新しい家が建ったという情報もないし、寒さには弱いが、暑さに対して苦しいと感じたことは一度もなかったからだ。
だから溺れてしまう夢とかは私が泳げないことに由来するというのは分かるが、何故火事に巻き込まれる夢を見るのかどうしてもわからなかった。しかも、存在しない妻がいるというのも…まあ願望が私にあったのかもしれないが、もしそれだったとしても、夢だとしても殺しはしないだろう。
妻を殺す人間の夢など…これではまるで私が異常者のようではないか!……実に忌まわしいこと極まりない。
そのうえ私の見る夢は非常に具体的で厄介であった。毎回あの夢を見るたびに陰鬱な気分となるのはいつものこと。このままでは本当に異常者になる未来も想像がたやすかった。また知らない女性に妙な罪悪感が沸いて仕方がなかったことも実に奇妙で。本当にその世界が存在していてそこに対する私の感情も本物のような……そんな気がしてたまらない。
最も私が忌避する夢は、自殺を試みようとするものだった。ここの風景は夢によってさまざまで屋上から飛び降りたり、海に飛び込み溺死だったりするが、最後には必ず自殺をするのが私の夢であった。
しかしそんな願望を持っているわけではないし、では私の無自覚部分にそのような願望をもっているかと言及されたらそれは神のみぞ知ることになるが。いずれにせよ、私は今現在に納得しているし、自殺なんて微塵も頭にないので、私の夢は奇妙極まりないものだということだ。
……抑々、自殺なんてものが意味の分からない行為なのだ。自ら自分の体を壊すなんて神経が麻痺しているか、唯の目立ちたがり屋かの二つの人種に違いない。体は神から授けられたもので壊すことなど到底許されるものではない。
自分の体に醜さを感じているのならば、他に体を用意して置けばそこに※コアを渡すことで新しい体に生まれ変われるかもしれないが、それは禁忌だろうし、正教会が許すわけがない。それに世論も加わるだろう。まず第一に私は自分の体に一切の不満は抱いていないわけだが。
「※コア…私たちを構成する魂のこと。私たちの体はシートと呼ばれる肉体部分とコアに分けられる。シートを解剖、研究、製造することは正教会によって禁止されており、破ったものは街の北西部にあたる森の地下牢に入れられることになっている。」
そして、自殺について私は一つ補足しなければいけないと思う。この世界で自殺することに対して、意味のない行為だと言ったことについてだ。死を求めるほど、欲求するほどこの世で無意味なことはないのだ。どんな前提条件があったとしても自殺などする必要がなかった。というのも
この世界で死など恐れる必要がないのだから。
否、もっと本質的なことを言ってしまえば、
この世界に死など存在しないのだから。
……こう言えるだろう。
もしこのような夢を誰かに話したら、私は狂人だと判定されて地獄に降ろされるだろう。友人に言えば、優しく親切に教会に言ってみればいいじゃないかと軽蔑とも親切とも取れる風な言い方をして、できるだけ関わりたくないという意思を示すだろう。
隣人に言えば、自分の家から飛んでみたら、自殺なんて考えることもなくなるさと言うのだろう。私がその夢を見てしまった愚かさを教訓にするよう無責任に教育するのだろう。
そうはなりたくない。
だから私はこのことを誰にも話さずにいる。遅刻という代償を負ってこの苦しみを更に広げぬよう努めていた。遅刻ですむのなら、まあ安いものだろう。
さあ、学校についた。五分と三分オーバー。意外と早かったな。信号に一回も引っ掛からなかったからかな。十分以上でも私はよかったのだけれどね。
自転車を校門の近くにある駐輪所に止めた。ここから校舎まではまだ時間がかかる。私はここから校舎に取り付けられた時計を見た。…着いた時には十分オーバーか。
まあゆっくりとこの晴ればれとした空の下歩いていこうじゃないか少年。陽気で新鮮な潮風は私にそう伝えてくる。
トラユリの切ない香りが、暖かな光を吸収している制服の匂いとまじりあった。
こんないい日はぼーっと歩くのが正解なのだ。