ファンタジーシスター
[三娘C]
「私は尼さんになる!」
三娘Cが、中空をビシッと指差して宣言した。
その場に居た者は二人を除いて指の先を追う。
その二人とは三娘AとBで、追わなかったのは、
その指がどこも指していない事を知っていたからである。
ただのキメポーズだし。
[神官教育]
他の四艦と違って、騎士団の発注した母艦は、まじ問題だった。隠蔽と慣性制御を付与しようとすると、用意された魔石ではまるっと容量が足りないのだ。
勿論、どちらも森人に委託しなければならないと言う問題もある。すると、予算が数倍に跳ね上がる。上手い具合に折り畳んで魔石に術式を刻めば何とか為りそうでは在るが、森人委託では、今度は技術料で足が出そうである。
シャオ様に相談したら、両方の魔法術式を上手い具合に折り畳んで[噛み合わせる]と言うアイデアに興味を持ったらしく、
「家にお出で」
と言われた。
神官長に頼んで短期の神官教育を受けさせて貰えるらしい。
「隠蔽は神殿の専売、術式を弄るには資格が必要」
と、シャオ。
「?森人って全員隠蔽使えるよね、全員資格持ち?」
コッソリと隣のBに訊くA。
「全てではない。戦闘服の付与された隠蔽には資格は要らない。だが、一人前の戦士は自分で付与する。イバーラクの特殊戦分隊も、仕上げに神殿で資格を取った」
シャオには聴こえていた。
因みに、その特殊戦分隊は、イバーラクからの分離の折り、森に居たため神樹の庇護下にある。
[名誉森人]
神域に入った三娘は先ずウロに案内され、アーカイブに放り込まれた。お目々クルクルになって出てきた三娘は、互の耳の形が変わってる事に気が付いた。
「あれ?名誉森人に成るのって、条件必要じゃなかった?」A。
「何したっけ?」B。
「天馬で、風竜落とした」C。
「私落としてないし」A。
「飛空艦からの高速離艦方の改善、硫黄分僅少化火薬の製造、高性能自立ボルトの開発、西部戦線での戦功、そして今回の複合術式に拠る魔石容量圧縮方の示唆、実績は十分」
シャオはそう説明した後、お約束の宣言をした。
「エルフをエルフと呼ぶ事を赦す」
それから、翻訳魔石を渡しながら、最低でも古代エルフ語をマスターする様にと、言った。
[眷属移籍]
長を筆頭にエルフの有力者にズラズラと会いに行って、三人娘はなんか変だと思いだした。
「神官見習いやるだけだよね?しかも短期の」A。
「なんか、挨拶する人多すぎね?」B。
「あっ、眷属移籍しちゃってるぽい」C。
慌てて、ステータスウィンドウを開くAB、
[所属:神樹の森/シャオの眷属]
「なんじゃこりゃー!」AB。
[短期?]
「コアの了承済み。見習いが終わるまでの短期移籍」シャオ。
「そういう事なら」AB。
そこで三娘Cが手を上げた。
「具体的な期間は?」C。エルフの時間感覚が気に為ったらしい。
「ほんの十年くらい」
「やっぱり」C。
「納期とか完全無視ですか!」AB。
「納期?」
こてんと首を傾げるシャオ、ややもあって、ポンと手を叩いて曰く。
「忘れてた」
[エロフ]
魔石に刻む術式の監修をシャオがしてくれる事に為った。眷属移籍の解消は、
「神樹様が拗ねるから駄目」
と、膠も無い。
「私達虎治の嫁なんですけど」A。
「愛する二人(複数?)を引き離すなんて非道」C。
「また、男旱の日々だし、ぴえん」B。
「それは問題ない」
「?」ABC。
森人化した事でプロシージャとしての深度が深く為っている。アーカイブ内の使える領域が増えたため、そこにデュプリケイトを構築して、虎治の分割ルームに紐付ける。
「それって偽物ぽくない?」B。
「記憶は共有しているので問題ない。更には子供も作れる」
分割ルームの存在時間は此方の時間軸では+0秒だ。今までと何の違いも発見出来ないだろう。
違いはあった。
「うっほほーい、エロフきたー(゜∀゜)」虎治。
なんか、頑張っちゃったらしい。
[ご先祖様]
翌日、本命の神殿に出向いた。
「神殿?」C。
「なんか和風だね」A。
「お寺とか神社とか」B。
神官長は[カマー=ユグドンチウ]と名乗った。
「アケビ・カンナです」A。
「ハチヤと申します」B。
「北の谷と書いてチャタン」C。
「ほう、お三方とも古代エルフ語の名前ですか、ご先祖様にエルフの血が混ざっても居る様ですね」
「まさかの、エルフ、日本人起源説!」ABC。
神官長とは、小一時間ほど問答を続けたが、残念ながら、それ以上のエルフと日本人の接点は見付からなかった。エルフの血については、耳の事かと思い、神樹様に整形を受けたのだと申告したが、外見ではなく内面の魔素の波動に痕跡があるのだと言われた。
三娘Cの眼が、俄然ギラ付いた。そして、突然立ち上がり中空をビシッと指差し宣言した。
「ご先祖様がエルフだなんて何てロマン!何てファンタジー!私は決めた!」
「この世界で尼さんになる!」
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