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ゲーマー、殺意を手に入れる

 


 それから安全地帯もだいぶ狭い区間になり、そろそろ試合も終盤に差し掛かるころ。


「う、嘘……。20キルまで行っちゃった」


「あと五人、か」


「本当にスカイだ……。生スカイだ……。わぁ〜、本当にキーボードは普通置きなんだぁ。マウスはハイセンシ気味でスナイパーのドラッグショットの時のマウスの動きが綺麗すぎる……。わぁぁ、やばい興奮してきた」


「あ、あれ?楓さん?キャラ変わってない?」


「本当は違うんじゃないかって疑い掛けてた私をこうも裏切ってくれるなんて凄いよ!」


「それは誉め言葉なんだよな……?」


「もちろん!その人外っぷりはスカイに違いないってね!」


「さいで」


 というわけで残りの五人も片っ端から葬っていく。

 基本一対一の状況で戦うものの、人数の少なさゆえに銃声によって来る人の影もちらほらと出てきているためよりやりやすかった。

 漁夫の利を狙っている敵程狩りやすい相手はいない。


「はい、終わり!」


 画面に一位を映し出された瞬間に俺は、飛び跳ねるようにして椅子から即離脱する。

 

「いいんだよな!?もう一試合とか言わないよな!?」


「言わない言わない。さすがに行ったことは曲げないって。それにしても本当に凄いね……。改めて世界最強ってどういう意味か分かった気がするよ」


 感心したかのような、信じられないものを見たかのようなそんな顔を楓はする。

 ただそれもたったの一瞬のことで次に彼女の顔を見てみれば、目をキラキラとさせていつか俺の正体を知った時のようなそんな笑顔を見せていた。


「それならなによりだ。じゃ、俺は二人が来るまでジェンガでもして待っていようか」


「ジェンガなんてないけど……っていつの間に!?てかジェンガ持ってたんだ!どこに隠し持ってた!?」


「まぁまぁ。そんなこと気になさんな。二人が来るまで俺はここでジェンガしてるから、そろったら呼んでくれ」


「しかも一人で!?……しかもホントに一人でやり始めたよこの人」


 呆れるようにため息をつく楓をよそに、俺は一番下から両角のジェンガのみを順番に取っていくゲームをし始める。

 この順番というのがみそで、積み方が悪いと最悪三段あたりで積んでしまうのだ。

 ちなみに最高記録は十五段。あの日の感動は今でも忘れないだろう。


「……はぁ。まだ二人が来ないみたいだからさ、ちょっと話さない?」


「なんだ」


「私はもちろんなんだけど、うちらって全員ゲーマーじゃん?」


「まぁそうだな」


 初めて知ったときなんか驚いたもんだ。


「ってなるともちろんいっちばん強いゲーマーって誰なんだろうって思う日も来るわけじゃん?」


「それは知らん」


「そういうもんなんだよ。……だから初めてskyってプレイヤーを知ったときは心底驚いたんだよ。知ってる?スカイが三年位前かな?その時にテッペンとった格ゲー、今じゃスカイ式っていうコンボがメジャーになってるの」


「へぇー」


「あとこれは二年くらい前の話。当時最高峰のバトロワって呼ばれてたPGUP。そのソロモードの日韓大会の覇者、超絶技巧のサイボーグskyって異名が広まってる話」


「よく知ってるな」


「そりゃね、一回検索にかければわかることだもん」


「そうなのか。知らなかった」


「そして一番インパクトあった、バーンナイトの世界大会一位っていう肩書き。私たちがリアルタイムでスカイの活躍が見れたのがこの時だよ。スカイがこのゲームをやっているのはわかってたしね」


「へぇー」


「だから聞かせてほしいの。……なんでスカイがそんなにゲームを嫌っているのか」


 今は楓に背中を見せているせいなのか、なんとなく言い知れぬ圧を楓から感じた。

 部屋が圧迫されているようなそんな気さえする。


「そんなに聞きたいか?俺のこと」


 息をのむように「うん」と頷く楓。

 その部屋にはどこか緊張感すら感じさせる雰囲気が漂っていた。


 そんな中、俺は意を決するように手を引き抜く。


「あああぁぁぁ”!!!」


「えっ!?何!?」


「ジェンガが、倒れた……」


「……は?」


「くっそぉ~。最初の波がよかったせいでそのままの勢いでぇ!くっそぉ!!」


「はぁぁぁ?今、ちょっとシリアスな雰囲気だったじゃん!ここは答える流れだったじゃん!てか今の話中もジェンガやってたの!?」


「いや、だってジェンガしてるって言ったじゃん」


「確かに言ってたけど!そのうえ話しかけたのは私だけど!でも普通手を止めるところでしょ!!」


「えぇぇ……。ごめんって。そんな逆切れされるとは思わんやん。次からはちゃんと手を止めてマジカルバナナにしとくから」


「手を止めるとこ、とは言ったけど……そうじゃなぁぁぁい!!!てかスカイわかってて言ってるでしょ!っもう!」


 そして俺がマジカルバナナの論理的思考力について語ってやろうかと考えてる時に、ガチャリと扉を開ける音とともに雅が入ってきた。

 どうやら雅は夜の食事の用意をしていたらしい。

 やはり家事命なのだろう。

 あぁありがたや。


 ちなみに葵は部屋でぐーたらしているのを発見した俺は、何故か直々の葵の命によってこのゲーム部屋へと運ばされた。

 運ばされたと言っても、引きずるまでは行かなかったのは幸いというもので、せいぜい俺のお気に入りのパーカーがダボダボになるくらいだ。

 次機会があったらお姫様抱っこでもしてやろうか。

 いや、筋力的に無理なんだけどね?


 とはいっても女の子の恥じらいというものはないのか、と言いたいものだ。

 自室の扉を開けっぱにして男の俺を部屋に呼んでみせたんだ。

 お兄ちゃん心配でたまらないよ。

 

「イテッ」


「……何か変な想像、したでしょそら」


「なぜ叩く!?」


「……なんとなく」


「はぁ、なぜバレてるんだか」


 そうして三人が部屋に集まった。

 どうやら本当にするらしい。

 あの半ば強制的に決められたゲームのコーチングと言う話。

 しかも普段から気怠げで何をやらせても怠惰な一面を見せてくる葵すら、この部屋に入ってからは一番にゲームを起動している。


 その小さな体のどこにそんな原動力が隠されていたと言うんだ!?


「あれ、もしかしてもう付けてる?」


「もう付けてるよーん」


「早くない?何して…………ってあぁ、なるほど。そういうわけね」


「そういうことっ!」


「よく許したわね?」


「これをチラつかせれば本当に面白いくらいやってくれたよ、スカイは」


「スカイ……あぁなるほど。そりゃそうだよね。ていうか楓ももう板についてきちゃってるじゃん」


「葵ほどじゃないけどね」


 そんな2人の会話にところどころ疑問符を浮かべながら俺は三人が準備しているところを待つ。

 てか今になって気づいたが、この三人のPCそれなりにスペックが高いな……。

 マウスやヘッドホンもそれなりに性能のいいやつだし、キーボードに至ってはおそろいか?


 …………ん?

 いや、今時は普通…‥なのか?

 まぁオンラインでやるときはあったほうが便利だし。


 いやまさか、そんなわけないよ、な?


「そういえばスカイにはもう言ってあるの?」


「いんや、言ってない」


「言ってないの!?」


 目の前には驚いて席を立つ雅の姿があった。

 

「え、な、なんだ?なんか言ってないことがあるの、か?」


「んーー、まぁもういっかな。次の時にもあれを見せればいいし」

  

 楓はまた妖艶な笑みをして見せる。

 それにぶるっと震える俺は小動物のように縮まって見せた。

 

「スカイはさ、疑問に思わなかった?」


「な、何を?」


「ほら、根本のところ。私たちがなんで賞金百万円の大会に出られるのかってやつ」


「予選、を勝ち上がったからじゃない……のか?」


「さすがに私たちじゃまだ、本当のプロの人たちには敵わないよ。だからこの大会はプロの集うガチな大会じゃないんだ」


「つ、つまり?」


「もうわかってるんじゃない?この大会は招待制の大会で全20チームの内一位が百万円を貰えるっていうストリーマー大会なの。ストリーマーとして影響力のある人を集めて大会を開くってだけで良い宣伝でしょ?私たちは特にこのゲームを配信したりしてるしね」


 ストリーマー。

 ライブ形式で映像配信をする人たちを指す言葉であり、主にゲーム実況や音楽演奏、雑談など多岐にわたる配信ジャンルが存在する。

 ここでは主にゲーム実況をしている配信者、を指す言葉として用いられることが多いストリーマー。

 ゲームが上手い人はプロかストリーマーと呼ばれるくらいには多く存在する。


 とどのつまり、ストリーマーはゲームを生で配信する人。

 それが楓であると言っているわけだ。


 そこまで来ると、さっきの2人のやりとりが自然と俺の中で想起される。


ーーあれ、もしかしてもう付いてる?


ーーもう付いてるよ〜ん


 主語は配信。

 今生放送しているかどうか聞いてたんだ。

 そして。


ーーよく許したわね?


 この雅の言葉。

 俺が許す。

 つまりは雅から見れば俺が許すはずないことを楓はやっていたということ。

 それに加えて生放送と言うワードだ。


 この二つで察せられないわけもない。

 そうだ、最初っからどこかおかしいと思ってたんだ。


 楓は俺のことを普段はソラと呼んでいたはず。

 なのにこの部屋に入ったその瞬間から俺のことをスカイ、と呼んでいた。

 自分の名前を言われて隠そうともしないあたり、名義もその名を使っていると考えれば自然だ。


 それにさっき楓の椅子に座って気づいたことでもある、マイクだ。

 やけにゴツく、VCを通すには高性能なマイク。

 これが配信のためというなら合点がいく。


 

 つまりこの佐伯楓という女は、最初っからずっと生放送をしていたと言うこと。

 それが指すことは、スカイのプレーを世に晒してしまったと言うことだ。楓の手によって。


「はあぁぁぁあああ?」


 俺はそんな言葉しか出てこなかった。


 楓はそんな俺を見て笑いを堪えるかのように頬を膨らませて机を叩いている。

 ちなみに楓だけじゃなく雅さえも口元を押さえて吹き出すのを抑えているそぶりを見せているのだ。


 俺の中で何かがふつふつと煮えたぎるようだ。

 これはなんだ?

 まさかこれが……。



 あぁ拝啓俺。

 今とても殺意が高いです。 

 未来の俺がこの気持ちを忘れているなら、今の俺が思い出させてあげるので決して忘れないでくださいね。

 この気持ちは未来永劫引き継がなければいけませんよ。


 せめて未来の俺にとっても葵が癒しであらんことを祈って。


 

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