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ゲーマー、頭を悩ませる



 そこまで伝えると担任は扉を開いて教室から出た。

 それが皮切りとでもいうようにドタバタと音が迫る。

 一気に椅子を引いて、周りの首がくるっと周りこっちを向いたその光景はさながら餌に群がる魚の如く。


「よろしく佐伯くん!」


「よろしく」


「よろしくね、佐伯くん!」


「よ、よろしく」


「なぁなぁ、海外ってどこ行ってたん?」


「アメリカ」


「すげー」


「特に留学らしいことをしたわけでもないんだけどね」


「ていうかなんで銀髪?」


「なんとなく?」


「好きな食べ物ってある?」


「うーん」


「アメリカのどこいってたん?」


「ちょ」


「入学式の時以来だよね?」


「う」


「何か趣味とかあるー?」


「嫌いな食べ物は?」


「留学は一年の時からずっと?」


「てか身長高いね?何センチ?」


「何か運動とかしてる?」


「足細いよねー羨ましいぃー」


「もしかして私より軽い!?」


「佐伯くんこんなキャラだったんだね」


 その怒涛の質問に俺もついには言葉を紡ぐ間すらも無くなって、ただ質問だけが隙間なく飛び交う空間になってしまった。

 そして何故かいつのまにか俺の背後に立ち尽くす雅。

 なんだ?なんでそこで何もせずに立っているんだ?

 その視線はなんだ?怖いんだが。


「空くんって苗字雅さんと一緒だけどもしかして親戚?」


 そんな時におそらく彼女にとって決定的な質問が投げられたんだろう。

 俺たちの関係をバラしたくはないと言った雅は、なぜか俺に代わってその問いに答える。


「違うよ」


「ん?雅さん?」


 俺が答えるより前に雅は俺の背後からそういうのだから、みんな驚くのも仕方なく……。


 てかなんで雅が答えるんだ!?

 俺も極力知られたくはないんだからわざわざお前が否定する必要ないだろ!?


「……佐伯くん……空くんって呼んでいい?」


「あ、あぁ」


「空くんは入学式の時、苗字違ったよね……?」


 さっき担任が間違えたせいで変な疑惑を持たれてしまったか?

 どうしようか。


「いえ、空はずっと佐伯姓です」


「え」


 俺が悩む間にまたも答えるのは雅。

 お、お前墓穴を掘ってることに気づけ……!?


「そ、空くんと雅さんは何か関係が……?」


「ないです。ただの赤の他人、たまたま苗字が同じだっただけです。ねぇ、空?」


「あ、あぁ」


 赤の他人はわざわざ横から割って答えたりしないし、俺のことを空、だなんて呼ばないんだよ。

 

 ほら!しかもなんかクラスメイトが各々耳打ちするくらいの声で話し始めちゃったじゃん!

 絶対怪しまれてるじゃん!

 おい!そこの女子!

 結婚とかそんなわけないだろ!年を考えろぉ!


 俺は頭の中でツッコミを入れるものの、当の本人雅は疑問を浮かべている様子。

 

「おい、雅……!なんで会話に入ってきた……!」


 俺は少し後ずさったクラスメイトに聞かれないくらいの大きさで雅に話しかける。


「え、だって私たちが義理の兄弟だってバレないように……」


「否定したって?それは俺の役割なの!そうじゃなきゃ俺と雅が接点あることをみすみすクラスメイトに教えてるようなもんだろ……!」


 一瞬考えたようなそぶりを見せると、ハッとしたように雅は理解を示した顔をする。


「たしかに……!」


「わかってくれたか」


 俺がそんな風に納得してくれたのに肯首している中、後ろにいた雅はさっさっと俺の前にまで躍り出る。


「あれ?みや、び?」


「私と空は全くの無関係だから!勘違いしないでよね!」


「…………」


「これで大丈夫でしょ」


 俺に向き直りそういう。


「いんや、そういうとこだバカ」


「なっ!バカって言った!?」


「この間言われた返しだバーカ」


「またバカってぇー。ってそうだ!」


 そう言って口を押さえる雅。


「こんなやりとりしちゃったらバレちゃうもん」


「だからぁ、もう遅いんだって……」


 だってもうクラスのみんなの目線がそういう目だもん。

 きっと彼ら彼女らの中では有る事無い事囁かれてるんだよ、雅。


 二人の間には何かあるとは知られてしまったんだ。

 せめて義理の兄弟ってところが隠し通せたら万々歳ってところだな。


 はぁ、学校ってこんな疲れるとこだったのか。




―――



 あれから数時間と経ち、最後の授業も終わり放課後に移る。

 何時間も学校に留まるなんて久しぶりのことで尻が痛みを訴えているが、無事特に問題があるわけでもなく一日を終えることができた。

 雅と俺の関係性については特にこれ以上の言及もあったわけではないから。


「雅は部活とかやってるのか?」


 高校生の放課後たるや部活に励む者も少なくない。


「もちろんやってないよ」


「もちろんなのか……?」


「そりゃもちろん」


 まぁ部活をやられていたら帰り道を模索しなきゃいけなかったからありがたくはある。


「ちなみに楓もやってないよ」


「双子揃ってかい」


「ゲーム部とか有れば入ってたかもなぁ」


「さいで」


「もしあったら入る?」


「もちろん、入るわけがない」


「言うと思った」


「じゃあ聞くな」


 そして帰り支度も終え、校門を前にして帰ろうと思う時、いつのまにか雅以外の二人も加わって三姉妹が集結してしまっていた。

 

 どうやら妙に懐かれてしまったらしい。

 雅は自分が義理の兄弟であることをバレなくなさげなのに自分から何かと関係性を示唆することを言うし、下校するに至っても自然と隣に並ばれている。

 

 いや、懐かれているという表現は正しくはないか。

 今こうなっているのは彼女らの脅しのせいなんだから。

 あぁ怖い怖い騙されるところだった。

 思い出せ、俺。あの時の楓のあのおぞましいほどに妖艶な笑みを。

 

 これから一体何をされるんだか。

 今の俺にはわからない。


 ただ一つ言えること。

 この三姉妹に秘密がバレて良かった試しなどないんだということだ。

 俺のスカイとしての勘がそう言ってる。


 そしてもしいつかあんな風に思う時が来るのなら、今の俺は何て言うんだろう。彼女らなら何て言うんだろう。

 


 あぁやめだやめ。

 考えても仕方ない。

 

 とりあえず帰ろう、俺たちの家に。


 


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