ゲーマー、三姉妹に脅される
なんでこんなことになった。
いや、薄々分かっていたことだ。
まだこんなふうになっている分優しいんだろう。
俺はそう自分に言い聞かせる。
「ちょ、楓!私の射線に被らないでよ!」
「姉ちゃんがチンタラしてるからでしょ!」
「……やった」
「あぁー!!また私のキルがぁ!」
「やっぱ姉ちゃんざっこ」
「楓もおんなじようなもんでしょ!?」
「言ったな?キルレ私より下なくせに!」
「そっちだって2くらいでしょ!?そんな変わらないじゃない!」
「全然違いますぅ。姉ちゃんは決定力に欠けるしね」
「は?やっちゃおうか、楓?」
「……雅ねぇ、楓ねぇ、安地」
「了解(怒)!」
「オッケー(怒)!」
そう、なぜか俺は今この三姉妹の後ろに立ち尽くしているのだ。
それもゲーム中の彼女らの後ろに。
それを語るには一つ注釈しないといけないことがある。
俺がなぜこの三姉妹に知られるのを嫌ったのか、それにも通ずるからだ。
というのもこの三人は生粋のゲーマー。
それもゲームの中でもシビアでライト向けじゃない、FPSというゲームジャンルであるから。
FPS、ファーストパーソンシューティングとしていわゆる一人称で銃を打ち、敵をキルするというゲームスタイルの総称である。
ちなみにTPSもFPSも基本は同じで、自分の視点が一人称視点なのか、三人称視点なのかが変わってくるだけである。
そんなFPSというジャンルに加えバトルロイヤル要素を加えたゲームの一つである「バーテックス」。
それが最近特に世界的に遊ばれ始めていて、最近大きな大会も開催されてると何とか。
たしか三人一チームで、全二十チームの中から一チームのチャンピオンを決めるチームゲームだった。
ともなれば今俺が見せられている光景も察するに、バーテックスをプレイしているところなのだろう。
俺はプレイすらしたことないが。
そして試合も終盤。
俺がなぜこの三人の後ろに立たされているのかもわからないままに試合は大詰めに入っていた。
「一枚落とした!楓、行くよ」
「おけ」
「……もう一枚も落とした」
「げっ、私の出番がなくなるっ」
「一応葵も右からフォロー入っといて」
「……りょ」
「よし、お膳立ては完璧ってわけね!」
楓が標準を素早く敵に合わせてその一回の射撃で最後の一人を倒して見せた。
「あ、あれ?一発……?」
「……私が削っといた」
「さっすが葵。うちの一番槍!」
「ま、キルポ入ったからいいけどさっ」
「楓もそうすねない。でも無事見せつけられたんじゃない?私たちの実力」
そうして三人そろって椅子を反転させて俺のほうを見てくる。
いったい何のまなざしだそれは。
なんでそんな顔をしてくる。
俺はどうしようもなくただ顔をしかめる。
「いったい何の真似だ」
自分でも驚くくらいには低い声が出てしまった。
でも実際俺は、今さっきずっと秘密にしてきたことが今目の前にいる三人にばれたのだ。
今なぜここに呼ばれたのか、わかるはずもない。
「何って見ての通りだけど」
「俺の部屋に勝手に入ってクローゼットに押し入れてた段ボールを引っ張りだしといて?」
「う、うん」
「俺をなんだと思ってるんだ……」
「そりゃ、天下のスカイ様……?」
「聞いた俺がばかだった。はぁ~」
もしかしたらこいつらが俺を知らない可能性を考えてたんだが。
やっぱり知ってるよな……。
「っていうかなんで空はこんなすごいこと私たちに黙ってたのさ!」
「別にお前らに特別黙ってたわけじゃない。等しく誰にも話さなかっただけだ」
「それは……まぁ確かに。だけど隠す必要だってないじゃない!」
「バラす必要もないだろ。所詮ゲームだ」
「……むぅぅ、なんでそんなこと言うのさ……」
雅は自分の椅子に深く腰を下ろして座る。
「ところでどうだった?さっきの試合」
楓はそんな姉の様子を見かねてなのか、最初に聞いてきたことをもう一度質問する。
とはいっても、もう一度聞かれたところで何を求められるというのか。
「いったいなんて答えてほしいんだよ……」
「そんなの簡単だよ。私たちが上手かったかどうか、それだけ」
「ん?上手いかどうか?」
「そう、空は知ってる?近々バーテックスの大会があるんだ。そこに出てみようと思って」
……??
話が見えてこないぞ?
「いや、知らないが」
「その大会にこの三人で出ようかなって思ってたところなんだよ。一位の賞金で百万円だよ?夢があると思わない?」
「そ、そうだな」
「私たちもそれなりにうまいとは思ってるんだけど、せっかくならもっとうまい人に教えてもらいたいじゃん?そんな時に姉ちゃんが言い出したんだよ。空は何か隠してるって。それもゲーム関連のことでね」
「はぁ?」
「ま、そんな感じでままあって、無事姉ちゃんの言う通りいやそれ以上の実績を残した、いわゆる伝説的なゲーマーの正体を知っちゃったから直々に教わろうかと思って?」
「……一応はわかった」
じゃあ何か?
俺は傍から見ればそんなに何かを隠そうとしているのがわかりやすかったっていうのか?
一応隠してきたつもりだし、ばらさないように細心の注意を払ってはいたんだがな。
いっそのことあんなもの捨てておけばよかったか。
「ま、実際は姉ちゃんが大のスカイファンだってだけなんだけどね」
「か~え~でぇぇ~?」
「失敬失敬」
「つまりは俺がお前らをコーチングしろ、と?」
「そういうこと」
楓はそう即答し、雅もぶんぶんと顔を上下に振る。
百歩譲って俺がスカイだということがばれたのは良い。
ただもしその質問に答えるとするならば俺は。
「なら、答えはノーだ」
「え、なんで!?」
雅は身を乗り出してそう言った。
てか俺の肩までつかむな。
俺は貧弱だからすぐに折れる。
「簡単なり、理由さ。……てか離せ!お前の怪力は容易に俺を傷つける!」
「あ、ごめん。ヒョロイもんね」
「あ?」
まったく俺の貧弱性は折り紙付きだぞ。
「まぁ、いい。なんで俺が断るかなんて簡単な理由さ」
「俺がゲームが嫌いだからだ」
仲間と協力してやるチーム制のe-sportsなんかは特に。
それにバーテックスはやったことがないしな。
「えっ……」
その言葉に驚くように固まる三姉妹。
まぁ、一度は最強のゲーマーとして祭り上げられたようなやつが「ゲームが嫌い」なんて言い出したらそんな反応になるわな。
だから隠してたっていうのに。
ただどうやら、俺もどこかで彼女らも普通の夢見がちな少女だと勘違いしていたらしい。
だってこうして現実を見せつけてあげれば、失望するに違いない。そう思っていたから。
しかし、そんな俺の発想こそとるに足らない、つまらない想像だったらしい。
なぜって?
だって現実がこうも奇をてらっているなんて思わないだろう?
「イエスって言ってくれないと、ソラの正体ばらしちゃうかも」
雅の声じゃない。
これは次女楓の、これまであまり接点もなかったはずの楓の声だ。
それを認識するのでさえ時間を食ったというのに、楓はなんていった?
ばらす……。ばらす……?
「はぁぁぁぁぁああああ!?」
多分今年一番の大声だったに違いなかった叫びが、部屋の中をこだました。
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