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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第三章
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35話 生きてる価値

 たまになんで僕はこんなクソみたいな世の中で生きているのかわからなくなる。


 最近は特にだ。


 以前はアニメやなろう小説だけを楽しみにしてなんとか生きてきたが、最近はその楽しみすらもない。




 なのに何故僕は生きているのだろうか。


 さっさと死ぬ勇気がないから?

 大分前に読んだあるなろう小説に、自殺したらロクでもない異世界に強制転生させられるって書いてあったから?

 それとも、生きていればその内いい事があるなんて妄想を未だに捨てきれていないからなのか?


 


 ただ一つ言える事は、人というのは生きる喜びがなくてもなんだかんだで生きていけるということだけだ。


 理由なんてない。

 ただの惰性だ。




*




「おいモエ!起きろよ!」


 ある日の休み時間、僕はいつものように自分の机に突っ伏して寝た振りをしていたら、またしても吉田達に絡まれた。




「おい起きろよwどうせ起きてるんだろw」

「…………」


 佐藤はそう言うが、僕は寝た振りを続けた。


「起きろよ、おい!」

「…………」

 

 田中はそう言いながら僕の机を思いっきり蹴った。




 このまま寝た振りをしていてもこいつ等は僕から離れる事はないだろう。

 そう思った僕は顔を上げ、彼らを睨んだ。


「やっぱり起きてるじゃねーかw」

「…………」

「本当お前ってマジでキモイよなぁ!」

「…………」

「なんだよ、辛気臭い顔しやがって」

「…………」


 吉田達三名に絡まれ、沢山嫌な事を言われる。

 いつもと何も変わらない僕の平凡な日常のワンシーンだ。




「もしかしてあれか!女にまた騙されでもしたのか!?」

 

 吉田のその発言を聞き、僕のこめかみに電流が流れるような感覚が走った。




「おいおいwお前みたいなのは二次元で満足しないと駄目だぞw」

「流石にそれは可哀想だろ!モエにだって夢くらい見させてやれよ!」

「無理無理!だってこんなのと付き合いたがる奴いないに決まってるじゃん!」


「…………」


 いつもと何も変わらない光景の筈なのに、今日はやけに腹が立つのは何故だろう。 




「でもモエにだって妄想する自由くらいはあるだろ!」

「ねえ」

「駄目だってw変に希望もたせたら性犯罪犯すからw」

「ねえ」

「やめろよ!ウケるから!」

「ねえ」

「あ?なんだよ?」


 僕が何度も問いかけていた事にやっと気付いた吉田は、楽しい会話を妨害されたせいなのか、不機嫌な顔をしながら僕を凝視した。




「僕って生きていていいの?」

「は?」

「僕ってこの社会に必要な人間なの?」


 僕がそう言うと、吉田佐藤田中の三名は大声をあげて笑いだした。




「なんで笑うの?」


 僕が続けてそう言うと、今度は吉田達は腹を抱えて大笑いをはじめた。




 虫唾が走る。


 なんでこんな奴が楽しく生きていけて、僕がこんな目にばかり遭わないといけないんだ……。




「僕が何をしたって言うんだよ……」

「あ?なんだって?」

「お前らみたいに人を蔑んだのかよ……」

「はぁ?何言ってるんだお前?」

「お前らみたいに人の心を弄んだか……」

「おいwモエがついにおかしくなったぞw」

「お前らみたいに人を傷つけたか……。僕が何をしたって言うんだよ……」


 


 そう呟き、僕は立ちあがりながら思いっきり机を叩いた。


 その音に反応し、クラスメイト全員が一斉に僕の方を振り向いた。




「……僕は何もしていない。……悪い事なんて何もしていない」


 僕がそう言っても、やはり吉田達は笑っていた。


「お前たちとは違う……。僕は何も悪いことはしていない……。ただ普通に毎日を過ごしたいだけなんだ……。なんで僕がこんな目に遭わないといけないんだ……。やっと手に入れた幸せも、全部お前たちにブチ壊される……」


 僕がそう言っても、みんな僕を笑うだけだった。


 その上面白がって「モエがキレてるぞー!」なんて野次を飛ばすクラスメイトまでいた。




「ねえ、キモイ事ってそんなに悪い事なの……?キモかったら、僕みたいな社会的弱者を苦しめても許されるの……?友達がいて恋人がいたら、何をやってもいいの……?」


 僕がそう言っても、やはりみんな僕を見て笑うだけだった。


 僕を見て嘲笑うクラスメイトの連中を見ていたら、どうしようもない程の不快感が心の奥底から湧いてきた。




「黙れよ!なにがそんなに面白いんだよ!?」




 僕がその場にいた全員に向かってそう怒鳴ると、みんな狂ったように笑い出した。

 



「僕みたいな社会不適合者は生きてちゃいけないの!?なんで僕がこんな目に遭わないといけないんだよ!?僕が一体何をしたって言うんだよ!?こんな糞みたいな世界で僕が生きる意味ってあるの!?なんでお前らが笑って僕がこんなに苦しい思いしないといけないんだよ!?ねえ!教えてよ!?」




 僕がその場にいた全員に問いかけても、みんな僕を見て笑うだけだった。



 

「なんで笑うの……?」


 僕がみんなにそう問うと、吉田は冷たく「だってお前キモイじゃん!」と腹を抱えて笑いながら言い放った。


 その吉田の発言を聞き、教室内がますます笑いに包まれた。






 吉田達は笑っていた。

 クラスメイトもみんな笑っていた。

 教室内に笑い声が鳴り響いていた。


 みんな楽しそうにしていた。

 みんな僕をバカにして、楽しそうな顔をしていた。


 とんでもなく不愉快な光景なのに、そう思っているのは僕だけだった。

 ここにいる人間の中で苦しい思いをしているのは僕だけで、みんなは嬉しそうな顔をしながら笑っていた。


 


 誰も僕を助けない。

 誰も僕に同情しない。

 みんな僕を見て、嘲笑うだけだ。


 でもこれは当然の事だ。

 弱肉強食が自然の摂理だ。だから社会的弱者である僕は当然淘汰される立場だ。


 僕はこの世に必要のない人間だ。だから誰も僕を助けない。

 僕は誰にも迷惑かけずに普通に生きていきたいだけなのに、駄目人間の僕にはそんな事すら許されない。

 僕みたいな奴は何処に行ってもつまはじきにされ、嘲笑され蔑視されるのがあたりまえなんだ。


 そんな事はわかっている。

 今までだってずっとそうだったし、これからもずっとそうなんだろう。




 でも、どうしても納得出来ない事がある。



 

 僕が社会に必要のない人間なのはわかる。

 でも、そんな僕を寄ってたかって笑い物にしているここにいる連中が、本当にこの社会に必要な人間だなんて呼べるのか?


 自分より弱い立場の者を平気で差別して、蔑んで貶めて傷つける。

 こんな連中がこの世の中で本当に必要とされる人間なのか?

 こいつ等全員生きている価値があって、僕は死んだ方がいい人間なのか?



 

 確かに僕はどうしようもない駄目人間だけど、ここにいる薄汚いクソ虫連中の方が僕より生きている価値があるなんて事、絶対にあるわけない。

 

 

 



 そう思った時、気がつくと吉田はゴムまりのように吹き飛んでいた。






*




 その日以来、僕を取り巻く環境は少し変わった。


 あの一件がきっかけで、僕は吉田達に絡まれなくなった。

 そして誰も僕をバカにしなくなった。

 それどころか誰も僕に話しかけないし、僕の話題すらしなくなった。


 惰性で通い続けていたジムだったが、わざわざ鍛えた甲斐があったとようやく思う事ができた。

 たった一発のパンチで、僕は平穏な日常を手に入れる事ができたのだ。


 といっても、決してクラスに馴染んでいる訳ではなく、やはり僕は周りの連中からいないものとして煙たがられている。


 でもまあ、この方が気が楽だから都合がいい。

 もしかしたら影で僕の悪口を言っているのかもしれないけど、僕の見ない所でする分には気にしないし、これならもう昼食だって教室で堂々と食べられる。




 いい事づくめだ。

 いい事づくめなのだ。


 でも授業で二人一組を作る時、いつも誘っている陰キャラグループの連中は、明らかに僕を怖がっているのがちょっとだけ気になる。




 もう一つ変わった事がある。


 風の噂で聞いた話によると、橘さんと直樹が正式に学校をやめたらしい。

 橘さんと直樹は、元々留年になってもおかしくないくらい出席日数が足りていなかった。

 その上、二人はあの事件以来学校には一度も来ていない。

 以上の事から退学という措置は非常に妥当なものである訳だが、それでもやはり僕としてはどうにも釈然としない。


 先日の小鳥遊さんの発言から察するに、恐らく直樹は今は橘さんの家辺りで保護されていると思われる。

 多分、今の精神的にかなり弱り切った直樹を、小鳥遊さんのストーキング行為から遠ざけるのが目的なのだろう。


 でも心神喪失に近い状態の直樹の方はともかく、橘さんまで学校をやめる必要はどこにもなかった筈だ。




 橘さんは学校での人気者としてのポジションも捨て、更に高校中退という非常に重い社会的ハンデを背負うことになった。

 橘さんはバカだが、流石に今のこのご時世で高校中退の人間がこの先どんな人生を歩むのかを想像出来ない程バカではない筈だ。

 それを承知の上で、橘さんは直樹と共にいる事を選んだ。

 きっと彼には私がいないとダメなのという、典型的なバカ女の心理が働いたのだろう。


 大した取り柄もないダメ男一人の為に何故こんな事が出来るのか、以前の僕には想像もできなかっただろうが、今の僕には橘さんの気持ちがほんの少しだけ理解できた。

 多分、大好きな人の事が心配で、大好きな人と少しでも長く一緒にいたいのだろう。




 でも橘さんのくだらない下ネタや、ギターの演奏や下手くそな歌も聴けなくなり、橘さんからオススメのアニメを紹介される事ももうないと思うと、やはり物寂しさを感じてしまう。




 最後にもう一つ変わった事がある。

 あの日以来、僕は一度も部室に足を運んでいない。


 部室に行っても誰も来ないと、わかりきっているからだ。




 何はともあれ、僕を取り巻く環境は以前に比べると格段に良くなった。

 でもそれなのに、前にもましてつまらない日々だと思えてしまうのは何故だろうか。




 きっとあれだ。

 友達がいないからだ。



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