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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第三章
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31話 後悔

『直樹がいなくなったの……。お願いだから探してぇ……』


 


 スマホ越しに聞いた泣き声まじりの橘さんの説明はかなり支離滅裂で非常にわかりにくかったが、直樹が突然失踪した事だけはわかった。


 


 とりあえず僕達は、以前橘さんから下手糞な深愛を聴かされたあの公園で合流することにした。


 橘さんは制服姿のままだった。

 きっと学校から帰って間もない時に直樹が失踪した事に気付き、着替える暇すらも惜しんで直樹の捜索をしていたのだろう。


 橘さんの目の周りも真っ赤に腫れていた。

 きっと泣きながら直樹を探し続けていたのだろう。




 合流して早々、僕と橘さんは今日起きた出来事を教えあった。

 最初は僕も橘さんもかなり取り乱していた為、お互いの言動の全てが支離滅裂だった。

 それにより、しばらくはまともな情報交換ができなかった。


 小一時間程話した後、ようやくお互い少しは落ち着いてきて、やっとまともに意思の疎通が取れるようになった。


 


 どうやら学校が終わり橘さんが自分の家に帰ろうと思ったところ、直樹の妹さんから電話が来たらしい。

 家に帰ったらお兄ちゃんがいない。携帯も家に置きっぱなし。ずっと部屋から出なかったお兄ちゃんが何も言わずにどこかへ行くなんてただ事ではない。といった内容の電話だったようだ。


 橘さんも妹さんも、必死で直樹を探したらしい。

 学校に橘さんの家。ローソンにファミリーマートにセブンイレブン。イオンにピアゴにダイエーにマックスバリュ。マックにスガキヤにサイゼリア。その他諸々。

 考え付く限りの直樹の行きそうな所は全て探したそうだ。

 

 もしかすると小鳥遊さんと一緒にいるのかもしれないと思った橘さんは連絡を試みたが、小鳥遊さんには直樹くんが来る訳ないでしょとヒスを起こされた為それはないと判明したらしい。

 とりあえず妹さんの方は、今は直樹と入れ違いにならないようにと自宅で待機中との事だ。


 とにかく橘さんはどうすればいいのかわからなくなった為、僕に何度も連絡をしてきたようだった。




 直樹がどこに行ったのかはわからなかったが、確実に片桐さんの事が原因で失踪したのだろうと思った橘さんは、片桐さんの家も探そうともしたらしい。

 でも片桐さんの家は大分前に地図でチラッと一度見たきりなので、橘さんには場所がわからなかったようだ。


 もしかすると片桐さんの所にいるのかもしれないと話していた橘さんに対し、僕は今日片桐さんの身に起きた事を語り、あの場で直樹に出会う事はなかったと説明した。




「もう……、警察に知らせるしか、ないのかもしれない……」

「…………」


 また警察のお世話になるなんて正直御免だったが、橘さんのあまりにも切羽詰まった表情を見ているとそんな事は言えなかった。


「早まったこと……、してないといいんだけど……」


 橘さんの言う早まったことの意味が、僕には瞬時に理解できた。

 今日僕もまったく同じ事を思ったからだ。




「智代のところにもいないんだとしたら……、直樹は一体どこに行ったんだろう……」


 よくアニメとかだと、こういう時は思い出の場所に行くと相場が決まっている。


 アニメ脳のあいつが、この状況で行きそうな所。

 僕には一つだけ、心当たりがあった。




「あんた、他に直樹の行きそうなところの心当たり……、ある?」

「部室は……?」

「真っ先に探したわよ……」

「いつ……?」

「……夕方」

「夕方……、ねぇ……」


 日は完全に沈み空も暗くなっており、それから結構な時間が経っていたであろう事はすぐにわかった。




「行き違いになったんじゃ……」

「え……?」


 橘さんは、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。




「その発想は……、なかったわ……」

「…………」


 橘さんは基本的にバカだが、今日の橘さんは明らかに冷静な判断ができなくなっていた。

 もっとも、大好きな人が精神的に不安定な状態のまま突然失踪したのだから、そうなるのも無理はない。




*




 僕としてはどうしても直樹に対して文句を言いたい心境だった為、橘さんの直樹捜索に同行することにした。


 僕と橘さんは、学校に向かうべく電車に乗った。

 あたりまえだが、こんな夜遅くに制服のまま学校に向かった事なんて今までの僕の人生の中では一度もない。




「あんたも……、色々と、大変だったのよね……」


 橘さんは少し冷静さを取り戻したのか、僕を気にかけるような発言をしてきた。




「智代、警察に連れて行かれたのよね……。家の物窓から投げ捨てまくって、人様の物壊して、警察の前で散々暴れて……」

「…………」


 僕は無言で頷いた。


「精神病院に、入院するかもしれないのよね……」

「…………」


 僕は無言で頷いた。




「智代……、どうなっちゃうんだろう……」

「あの時……、僕が、押し倒さなかったから……」

「え……?」

「橘さんの言う通り、片桐さんを押し倒していれば……、そしたらこんな事には、ならなかったのかもしれない……。何も押し倒さなくたって、泣いている片桐さんを抱きしめて、大丈夫って言ってあげるだけでもよかったんだ……」

「あんた……、何言ってるの……?」


 橘さんは怖々とした様子で聞いてきた。


「そりゃ嫌がったかもしれない……。でも、喜んでくれたかもしれないんだ……」

「そんなの……、今更言っても、しょうがないじゃない……」

「よくあるアニメの主人公みたいに、そうしていれば、こんな事にはならなかったんだ……」

「……あんたのせいじゃない」

「でも、何か出来た筈なんだ……。なのになんで、あの時、何もしなかったんだろう……」

「あんたには無理よ……。っていうか、誰にだってそんな事出来ないわ……」

「でも、片桐さんの事、大好きなのに……。あの時、もうちょっとだけ、僕が自分の気持ちに素直になっていれば……、そしたらこんな事には……」

「死にたいって泣いてる女を前にして、一切うろたえずに優しく抱きしめて慰めるなんてアニメの主人公みたいなキザな真似、出来る奴の方がどうかしてるわよ……」

「でも……」

「ましてあんたなんて、誰かから常に否定されるのが、あたりまえの生活してたんだから……」




「違う!違うんだよ!」


 僕は涙を堪えながら叫んだ。




 僕の大声に対し、電車内の乗客が一斉に振り向いたが、それでも僕は発言を続けた。


「あの時以外でも、いくらでも機会はあったんだよ!」

「そりゃ……、そうだけど……」

「一回振られたくらいで、何も会うのまでやめる事はなかったんだよ!友達としてでも、ずっと一緒にいられる事だって出来た筈なんだよ!」

「確かに、そうかもしれないけど……」

「それに告白したのだって、片桐さんは全然嫌がってなかったんだ!むしろ喜んでくれたんだよ!?」

「え……」

 

 僕がそう言うと、橘さんは目を大きく見開いた。


「嬉しいって……、こんな私を認めてくれて嬉しいって……。素の私を受け入れてくれて嬉しいって。言ってくれたんだ……」

「…………」

「産まなきゃ良かったって何度も言われてきた私を、好きになってくれて嬉しいって……。言ってくれたんだよ……」

「…………」

「だから……、一回じゃダメでも、もう一回告白してれば……、付き合ってくれたかもしれないんだ……」

「…………」

「片桐さんは僕のこと、嫌ってなかった……。むしろ片桐さんは僕の事、異性として見てなかったんだろうけど、大事に思ってくれてたんだよ……」

「…………」

「それにもっと早く気づいていたら……。そしたら、こんな事にはならなかったのに……。片桐さんだってきっと、ずっと普通でいられたかもしれないのに……」

「……………………」


 今にも泣きそうな顔をしながら嘆く僕に対し、橘さんは無言で憐れむような視線を向け続けるだけだった。




 それからしばらくすると、電車が学校の最寄り駅へと到着した。




*




 僕と橘さんは、施錠されていた校門を昔のジャッキー映画のようによじ登り、中に入った。

 かなり夜が更けていた事もあり、学校の敷地内には誰も人がいない様子だった。


 旧校舎の入口の前に着くと、扉のガラスが割られて鍵がこじ開けられており、誰かが入った形跡があった。

 一応言うが、我が校には警備員や防犯設備なんて上等な物はない。




 (こんな時までアニメみたいな事を……)と、僕は呆れた。




「他にガラス割ってここに入るような奴の心当たり、ないよね……?」

「…………」

 僕が尋ねると、橘さんは無言で頷いた。




 わざわざ本校舎から上履きを回収する時間も惜しかったし、かといって土足のまま校舎内に入るのも抵抗があった為、僕と橘さんはその場で靴を脱ぎ入口の辺りに靴を置いて中に入ることにした。




*




 真っ暗な旧校舎の中を、スマホのライトを頼りに歩き続け、僕と橘さんは友誼部の部室の前に辿りついた。 

 部室の扉に手をかけると、やはり鍵は開いていた。

 部室内も当然の如く真っ暗になっていたので、僕は壁についていたスイッチを押して明かりをつけた。




 明かりをつけて部室内の様子を確認すると、案の定直樹が部室の隅っこにいた。


 直樹はベタなアニメの落ち込んでいるシーンみたく、部室の片隅で体育座りをしながら俯いていた。


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