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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第三章
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29話 連行

 僕は一心不乱に走り、片桐さんの家に入ろうとした。

 だけどすぐさま近くにいた警察のおじさんに取り押さえられた。


「ちょっと君、何やってるの!?」

「片桐さんは!?片桐さんはどうなってるの!?」

「危ないから、近づいちゃ駄目だって」

「危ない!?どういうこと!?これなに!?なんでこんな事になってるの!?」

「とりあえず落ち着いてって……」


 警察のおじさんは僕を静止しながらなだめようとしていたが、この状況で落ち着ける訳がなかった。


「落ち付けってなに!?なんでこんな事になってるの!?片桐さんが何したって言うんだよ!?」

「だからちょっと今立て込んでて……。もしかして君、この家の人の知り合い?」

「片桐さんは!?大丈夫なの!?」

「大丈夫って言うか……、その……」

「なんなの!?なんでこんな事になってるの!?片桐さんはどうしたの!?」

「ちょっと誰か来て!誰かこの子なんとかして!」




 警察官のおじさんがそう言うと、別の警察官の人が二人やってきた。


 そしてその人達は完全に気が動転していた僕に対し、片桐さんの身に何が起こり、どうしてこのような事態になってしまったかを丁寧に説明してくれた。




*


 


 つい数時間前の事だった。

 近所の人から通報があったらしい。


 この家の子、つまりは片桐さんが、何の前触れもなく唐突に家の中の物を片っ端から窓から投げ捨て始めたのだ。


 私は生きていてはいけない人間だの、私は人殺しだの、殺されるだの殺されなきゃいけないだの、とにかく支離滅裂な事を言いながら家具やゴミ等のあらゆる物を二階の窓から投げ捨てていたらしい。

 幸い怪我人は出ていないが、両隣の家の敷地にかなりの物が投げ込まれていて、その家の物にも被害が出ているらしく、言葉で止めようとしてもまったく止まる気配がなかった為、止むを得えず近所の住民が警察を呼んだというのが事件のあらましである。




 警察が来てからの片桐さんは怯えてたのか、家の中の物を窓から投げ捨てる行為はやめたものの、ドアと窓のカギを締めきって立て籠もってしまった。

 時折二階の窓を開け、警察の人達に向かって子供がどうとか私を殺しに来た等と意味不明な発言で威嚇していたらしく、とにかくまったく話が通じない状態らしい。


 警察の方も片桐さんが精神系の病気の子だと調べがついているようで、直接人に被害が出ている訳でもないし事情が事情だけに強硬手段は取れずに手をこまねいている様子で、今に至る。




*




「こういう時はですね、本人に責任能力がある訳ではないので、まずは家族とか保護者の人に連絡を取らないといけないんですよ。強引に鍵をこじ開けるにしても、家主の了解を取らないといけませんし」


 仕事である以上あたりまえの事ではあるが、この件を僕に説明してくれた二名の警察官の態度は完全に他人行儀だった。


「今連絡先を調べて、家の人に連絡を取ろうとしてるんですけど、電話も繋がらないんですよね」

「なんで……」

「多分仕事で手が離せないとかなんじゃないんですかね?とりあえずこのままじゃ危ないから、保護しないといけないんですけど。まあ見ての通り、完全に警戒しちゃって……」

「逮捕……、するんですか……?」

「いやいや、事情が事情だけに強硬手段は取れないって言ったでしょ?」

「…………」


 あんな状態の片桐さんを保護して、一体どうするつもりなんだ……。




「君、あの子の友達?」

「…………」


 警察官のお兄さんの質問に対し、僕は黙って頷いた。


「出て来るように説得してくれませんか?」

「出て来るって……、どうやって……」

「直接話して説得するとか、電話でも入れるとか」

「電話もラインも、繋がらないんです……、さっきからずっとそうなんです……。学校も休んでて、昨日から様子が変だったから……、それで心配になって来たのに……、なんでこんな事に……」


 僕が意気消沈気味にそう嘆くと、警察官の人二名はバツの悪そうな顔をした。


「ごめん……。そりゃこんな状態じゃ無理だよね……」


 さっきまでこの人達は敬語だったのに、僕が弱みを見せた途端急に口調を崩された為、なんだか舐められているような気持ちになったが、そんな些細な事はこの状況ではどうでもよかった。




「学校って事は、君、あの子と同じ学校なんだよね?」

「はい……」

「あの子、学校でも普段からあんな感じだったの?」

「…………」


 そんな訳ないだろと怒鳴りつけたい気分だったが、この人達は完全に部外者であり片桐さんの事を何も知らないのだ。

 だからここで僕がこの人達に怒っても仕方がない。


 それでもやはり、この人達の無理解っぷりには腹が立ってしまう。




「ちょっと前まで……、普通だったんです……」

「普通……、ねぇ……」


 腹立たしい事に、その警察官の人二名は(マジかよ……)とでも言いたげな顔をしながら呟いていた。


「僕といる時は、普通だったんです……。優しくて、いい人で……、こんな事する人じゃなかったんです……」

「そうなんですか……」

「なんでこんな事に……。僕がもっとちゃんとしていれば……、こんな事には、ならなかったのに……」

「はぁ……、そうなんですか……」

「そりゃ片桐さんは病気だったけど、本当はこんな事する人じゃなかったのに……。全部僕が、僕が悪いんです……」

「はぁ……、そうなんですか……」


 その警察官の人二名は、僕の話なんてまるで興味はないといった様子だった。








 そんな時だった。


「家主の人と連絡が取れました!」


 僕達と少し離れた距離にいた警察の人がその場にいた全員に聞こえるような大声で言った。




 その声を合図に、警察に混ざって待機していた作業服を着た2人のおじさんが待っていましたと言わんばかりの様子で片桐さんの家の玄関へと移動し、何だかよくわからない器具を使ってカギをこじ開けようとしはじめた。


 一人暮らしの老人が玄関を施錠した状態で孤独死した可能性がある場合、警察はそれを調べる為にこういう手段を用いると聞いた事がある。

 さっき警察の人に強引にやるにしても家主の了解を取る必要があるとか言っていたが、きっとこれの事だったのだろう。

 でもそんな事は今はどうでもよかった。




 作業着の二人が玄関の方へと移動し作業をはじめ、ほんの数分後にドアが開いた。

 でもチェーンがかかっていたので、それも別のよくわからない器具を使ってこじ開けていた。




 ドアが解錠し、片桐さんの家の前で待機していた警察の人数人が家の中へと入って行った。


 しばらくすると、家の中からとても大きな叫び声が聞こえてきた。




 それからまたしばらくすると、警察官の人達3人に取り押さえられた状態の片桐さんが玄関から出てきた。


 片桐さんは必死で抵抗していた。

 警察の人達は相手がか弱い女子高生であるにも関わらず、大の男3人がかりで片桐さんを取り押さえていた。

 

 片桐さんは今まで僕が見た事もないような形相をしながら、「はなせ!」「さわるな!」といった台詞を叫び死に物狂いで抵抗していた。

 普段は落ち着いていて、誰に対しても敬語で話すいつもの片桐さんの姿からは到底考えられないような態度だった。

 片桐さんははなせとさわるなの他にも、「殺される!」とか「死にたくない!」とも叫んでいた。




 こんな片桐さんの様子を見て、僕はどうすればいいのかわからなくなって、ただその場に立ちすくむしか出来なかった。




 暴れる片桐さんの両手をしっかりと掴み、首根っこを強引に押さえつけた警察の人達の手により、片桐さんは連行されていった。

 途中片桐さんは家の前で突っ立っていた僕とすれ違ったが、片桐さんは僕の存在に気付かなかったのか、泣き叫びながら警察に対する抵抗を続けていた。




 片桐さんは必死に抵抗していたがやはり大の男3人の力には敵わず、警察の人達の手により家の前に止めていたパトカーの後部座席へと無理やり連れてかれた。

 パトカーに押し込められる寸前、片桐さんは何度も直樹の名前を呼びながら助けを懇願していた。




 大好きな人が訳のわからないことを喚きながら暴れ、それを数人の警察が強引に取り押さえ、パトカーへと無理やり押し込むという異様な光景。

 僕はあまりの非現実的状況を脳で処理する事が出来ず、完全に固まってしまった。


 言葉すら出なかった。




 警察の人達は片桐さんをパトカーに押し込め、パトカーの中でも暴れる片桐さんを強引に押さえつけ、ドアを完全に閉めて片桐さんが出られないようにすると、そのままパトカーを走らせた。


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