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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
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8話 新人歓迎会

 この世界の実態というのは基本的にどれも同じである。

 同じ光景が延々と広がっており、どこに移動しようと同じような環境がそこにはある。

 些細な変化はあれど、殆どの面で違いはないと言える。

 だから一定の環境に上手く溶け込めない人間はどの環境でも上手く溶け込めない。


 僕がその典型的な例だ。

 アニメのような変な部活に入部出来たからと言って、僕のようなキモオタが馴染めるとは限らない。




*




「新人歓迎会に行くわよ」


 橘さんがそう言った為、僕達友誼部一同は新人歓迎会を行うべくに学校近くのカラオケ店へと移動していた。

 学校からカラオケ店までの距離は約15分。

 遠くなければ近くもないと言った距離にある。

 当然の如く移動中は部員同士で雑談という事になる。




 しかし、この場において物凄く不自然な事が起きている。


 これから僕達は新人である僕の為に新人歓迎会をする。

 なのに移動中、誰も僕に話しかけてくれないのだ。

 小鳥遊さんも橘さんも片桐さんも、僕に話しかける事はなくいつものように直樹に群がり楽しそうに雑談している。

 これから僕の歓迎会を始めるにも関わらずにだ。


 しかも雑談の内容は直樹の昨日見た夢についてだ。

 これ程までにどうでもいい話題がこの世に存在するのだろうか。

 普通この場は新人である僕について色々尋ねたり、僕の趣味や特技を色々と聞いたりするのが常なのではないのだろうか?

 それとも、先ほど橘さんが行った気持ちの悪い僕の物真似自己紹介のせいで僕と話す気が失せたのだろうか。




 いずれにしても、これではいつも僕が見ている光景と何一つ変わっていない。

 直樹。直樹に群がる女子達。その女子達の中にいる小鳥遊さん。それらを遠くから見ている僕。

 これじゃ距離がほんの少し近くなっただけで、後はいつも僕が見ている日常のワンシーンと何も違いはない。


 小鳥遊さんが直樹の昨日見た夢の詳細について真剣に聞き入っている姿を見ていると、何とも言えないやるせなさを感じてしまう。




*




 移動中、僕の直樹に対するヘイトは溜まり続ける一方だったが、こんなのはまだ序の口だった。

 カラオケ店に着くと直樹はもっと酷い光景を僕に見せつけた。


 最初は直樹と橘さん。その次は直樹と片桐さん。その次は直樹と小鳥遊さん。そしてまた直樹と橘さん。

 といった具合に部員の女子全員が代わり番こに直樹とデュエットし始めたのだ。


 普通集団で行くカラオケと言えば、一人一人がローテーションで歌っていくのが自然だ。

 ぼっちの僕でもそんなことは知っている。

 デュエットするにしてもちゃんと次の人に代わる。

 でも直樹は一人カラオケでもないのに終始歌いっぱなしだ。

 しかも隣でデュエットする女の子を毎回交代させた上でだ。

 これ程までにムカつく光景があるだろうか。


 その上更にムカつく点がもう一つある。

 カラオケ店に着いた直後、片桐さんは「アニソン縛りで行きましょう!」と非常に面倒臭い宣言をした。

 これにより、直樹の歌う曲は全てアニソンになった。


 しかし直樹の歌う歌はAAAのwake up!、KANA-BOONのシルエット、Galileo Galileiの青い栞等、有名なアニメのタイアップ曲ばかりだった。

 直樹が歌った曲の中で一番アニソン感の強い曲がLinked Horizonの紅蓮の弓矢。


 直樹は性格だけじゃなくて、選曲センスまでもが面白味がないという事が存分にわかった。

 しかし彼はこんなにもつまらない男にも関わらず、何くわぬ顔で女子をとっかえひっかえにしてデュエットし続けてる。

 非常に腹立たしい光景だ。




 当然の如く僕に順番なんて回ってはこない。

 仕方ないから僕は部屋の片隅で、ドリンクバーのメロンソーダとサイドメニューのポテトを食べ続けながら直樹と女子達のデュエットを見届けるしかない。


 もはやカラオケなんてロクに行った事がないから戸惑ったとかそういうレベルではない。

 これ程までに不愉快なシュチュエーションが他にあるだろうか。

 そもそも名目上にしても、これは一応僕の歓迎会の筈なのに何故僕はこのような疎外感を噛みしめているのだろうか。




 まったく、何が友誼部だ。何が友達作りの為の部活だ。

 こんなの直樹がハーレム生活を謳歌する為の部活じゃないか。


 しかも一見すると直樹に群がる女子達三人は仲良くしているように見えるが、部長である橘さんは小鳥遊さんを、恐らく片桐さんも同様に邪魔者として疎ましく思っているのが実情だろう。

 これ程までにおぞましい人間関係など他では見る事は出来ないだろう。


 もう一つ、異常な光景があった。

 片桐さんは自分の歌う番では無い時に凄まじく激しい動作でオタ芸をするのだ。


 直樹の歌う曲はアニソン感の薄いタイアップ曲ばかり。

 だからオタ芸とは非常に相性が悪い。

 にも関わらず、片桐さんはまるで自身の存在感を直樹に誇示するかの如く激しく動きまくっている。ふなっしー並みの機敏な動作だ。

 

 オタクとは聞いていたが、こういう具合にアクティブな方面に行くタイプだったとは……。

 ハッキリ言って、いかにも派手な今風のギャルの格好をした片桐さんが見た目に不似合いなオタ芸をする光景は明らかに不自然だ。

 片桐さんはそうまでして直樹に自分の存在をアピールしたいのだろうか。


 直樹は女子にかなりモテる。

 ここにいる女子以外の女子とも話している所をよく見かける。

 競争率が高いので他の女子達と差をつけたいのはわかるが、ここまで必死だと流石に引く。




*




 途中、片桐さんと橘さんがこんな会話をしていた。


「直樹さん、次は私と歌いましょうよ」

「ちょっと智代!次は私の番でしょ!?」

「いいじゃないですか別に」

「黙りなさいこのオタク!」


 そんなような事を言いながら片桐さんと橘さんが直樹の両手を引っ張っていた。

 まるで玩具を取りあう子供のようだった。

 それはハーレムアニメのヒロイン達が繰り広げるような光景だった。


 何よりムカつくのはこの光景を小鳥遊さんが物欲しそうな目でずっと見ていた事だ。

 小鳥遊さんよ、直樹の何がそんなにいいのか僕に教えてくれ。




 片桐さんと橘さんに両腕を引っ張られながら直樹が言う。

「やれやれ、俺の身体は一つしかないんだぞ」


 うぜえこいつ。


「直樹さん。次はガンダムの曲歌いましょうよ。SEEDや00辺りならわかりますよね?」

「いや、全然わからん」

「あれ?じゃあ直樹さん、世代的にAGEや鉄血の方がわかりますか?」

「なんつーかロボット物ってさ、オッサン臭いってか古臭くって見る気しないんだよな。時代遅れってかさ」


 直樹よ。それはガンダムシリーズを全作視聴している僕に対して喧嘩を売っているのか?

 本当に直樹の言動は一々僕の癇に触る。


「こんなに直樹さんとボクで意識の差があるとは思わなかった……!これじゃボク、直樹さんとデュエットしたくなくなっちゃうよ……」

「すまん智代。何のアニメの台詞かさっぱりわからん」


 スパロボKのミストさんだよ。

 そんな事も知らないのかお前は。


 まあガンダムが古臭くって見る気がしないとか言っている人間には一生知る機会なんてないだろうが。




 とにかくこんな光景もう見たくない。

 早く帰りたいと僕は思っていた。


 これ以上直樹のリア充っぷりを見せつけられたくはない。気が狂う。

 直樹が女子にモテるという事は十分にわかった。

 直樹とデュエットしてる時の小鳥遊さんのキラキラした表情を見ていると、彼女がどれだけ直樹を好いているかもよくわかる。


 正直、同じ部活に入れば小鳥遊さんと付き合えるかもしれないとバカな期待を一切していなかった訳ではない。

 だがそんな事は目の前にいる直樹のモテっぷりと僕のコミュ障具合、小鳥遊さんの直樹に対するゾッコンぶりを考慮すれば無理だということはよくわかった。


 早く家に帰りたい。

 お願いだから家に帰らせてくれ。

 家に帰って取り貯めしたアニメを見たい。

 日頃の日課のエロzip集めもしたい。

 お願いだから家に帰らせてくれ。




 僕がそう思った時、直樹はぐったりした様子で座り言った。


「もう俺歌い疲れたからいいや。あとは皆で好きに歌ってくれ」


 そりゃあ休みなしでずっと歌い続けていれば疲れるだろう。

 だったら僕を今すぐ家に帰してくれ。

 それが嫌ならせめて僕に一曲歌わせてくれ。

 一応僕の歓迎会なんだし……。




 そう言おうと思ったら、まるで妨害するかのごとく片桐さんが皆に聞いた。


「じゃあボク歌ってもいいですか?」


 こんな言われ方をされたら、控えめな性格の僕は何も言う事が出来ない。

 他の皆も特に返答しなかった。すると片桐さんは何曲も曲を入れた。そして片桐さんのワンマンライブが始まった。




 片桐さんの選曲はタイアップ曲ばかりの直樹とは対照的で、アニソン感の強い萌え系の曲ばかりだった。

 太陽曰く燃えよカオス、七つの海よりキミの海、Daydream cafe、それは僕たちの奇跡。

 そう。皆さんご存じ畑亜貴氏の作詞する物ばかりなのだ。

 さっきのオタ芸といい歌っている歌といい、やはり片桐さんの容姿とはあまりにもかけ離れていて不自然と通り越して恐怖感を覚えるレベルだ。


 そもそもよくある美少女アニメのオタク少女なら未だしも、女の子が可愛い女の子が大勢出て来るのが売りの萌えアニメを女子……、まして片桐さんの様なギャル風の人が見て楽しめるかどうかは激しく疑問である。

 



*




 この苦痛な時間は約三時間続いた。

 直樹のデュエットヘビーローテーションも片桐さんのソロライブももうこりごりだった。


 もう夜の7時を超えている。

 夕食時だからお腹もすいた。

 そもそも直樹みたいなリア充は毎日こんなに遅くまで外出しているのだろうか。

 親は何も言わないのだろうか。


 そもそもこれは新人歓迎会と呼んでいいのだろうか。

 直樹とその他女子部員達のデュエットを僕に見せつける余興だったとしても、僕にとっては何も面白くはない。不愉快な気持ちになっただけだ。


 片桐さんのライブだってそうだ。片桐さんは不気味なくらい見た目には不釣り合いなキャラをしているとわかっただけで何も面白くない。

 こんな事ならトイレか何か理由をつけて黙って勝手に帰ればよかった。




 そんな時だった。片桐さんが話しかけてきた。


「そう言えばモエさん、一曲も歌ってなくないですか?」


 当たり前だ。僕が歌うだけの隙を与えなかったのは主に直樹と君だろう。


「っていうかモエ、いたんだ」

 と橘さんは冷たく言い放った。


 僕を無理やり入部させておいてその言いぐさとは何たることか。


「一応あんたも最初にお金徴収したし、一曲くらい歌いなさいよ」

 橘さんはそう言いながら僕に選曲用のリモコンを渡した。




 無難なタイアップ系は直樹が一通り歌った。

 それに僕が歌えばナルシスっぽいと橘さんに非難されそうで怖い。

 ならば受けを狙って片桐さんの様な萌え系のアニソンで行くべきか。

 いや、そんな気色の悪い事をすれば確実に小鳥遊さんに嫌われる。


 悩みぬいた上で僕が選んだ曲は天空の城ラピュタの主題歌、君を乗せてだった。

 下手にマイナーな曲を選んでも場が白けるし、そもそもカラオケ慣れしていない僕が歌えるような難易度の曲、かつ女子から気持ち悪がられなさそうな歌は限られていた。

 それにこの歌は中学の時の合唱コンクールで歌った事があるので一応は歌える。


 慣れないマイクを手に持ち、僕は息を飲み立ち上がった。

 曲のイントロが流れ、歌詞が表示される。




 そして僕が声を出そうとした時、部屋に備え付けられていた受話器のコール音が鳴り響いた。

 橘さんが受話器を取り、その後僕に告げた。


「もう後5分で終わりだって。モエ、私達会計済ませて先帰ってるからあんた勝手に歌ってていいわよ」




 曲が流れる中、僕以外の四人は部屋から出て行った。




 僕は部屋に一人取り残され、モニター画面には君を乗せての歌詞が流れ続けていた。

 僕は持っていたマイクを床に投げつけ、演奏停止ボタンを押し部屋を後にした。


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