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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第三章
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22話 大事な話

「片桐さんがなんでイメチェンしたのか?」

「三学期になって急にああなったんだけど、ウチらもよく知らないんだ。なんでか聞いたら気分って言ってたけど」

「イメチェンしてから調子が良かったように見えたけど、何も言わずに急に学校来なくなったんだよね……」


「そう……、なんだ……」




 あれから更に数日の時が経った。


 片桐さんは相変わらず学校を休んでいるし、電話もラインも繋がらない。

 片桐さんの家にも何度か出向いてみたが、何故かいつも留守だった。


 痺れを切らした僕は、ある日の休み時間にE組の教室に出向き、片桐さんとよく話していた友人ら3名に事情を聞こうと試みた。

 でもどうにもこの人達も、なんで片桐さんが学校に来なくなったのかは知らないようだった。




「イメチェンした理由も、学校休んだ理由もわからないんだよね……」

「うん……、ごめんね」

「その……、なんか悩みがあったとかって話は、聞いた事はある?」

「そういえば悩みとか、聞いた事がないなあ」

「え……?」


 僕にはよく愚痴ってたのに……。




「なんか片桐さん、いつも笑ってたよ」

「いつも面白い事言って、ウチらを笑わせようとしてくれてた」

「でも何か、悩みでもあったのかなあ……」


 彼女らのその話を聞いた時、僕は友誼部があった頃の片桐さんの立ち振る舞いを思い出した。

 あの時みたいな過度なキャラ付けはしなかったにしても、やはりこの人達の前でも無理をして明るく振舞っていたのだろうか……。


 でもだからって、それだけが原因で何も言わずに学校を休む程の精神的負担を感じる物なのだろうか……。




「その……、何か学校を休みたくなるような理由に心当たりって、ない?」

「理由……?」

「その、家族と上手くいかないとか、進路の事で悩んでいるとか」

「聞いた事ないなぁ……」

「たとえば、彼氏と上手くいかなくなったとか……」


 僕がそう言った途端、3人とも呆気に取られたような表情をした。


「っていうか、君が彼氏だったんじゃないの?」

「え……?」

「だっていつも一緒にいたし」

「それは……」

「違うの?」

「そんなんじゃ、ないよ……」

「でも、仲良さそうだったし」

「…………」


 僕と片桐さんって、他の人達にはそういう風に見えていたのか……?




「彼氏……、じゃないんだけど、君がいなくなってから片桐さんがいつも1人でいて、昼ごはんも一人で教室で寂しそうに食べてたから、ウチが一緒に食べようって誘ったの」

「元々授業で、班作る時とかにもよく誘ってたし」

「変な事聞いて嫌な思いさせても悪いし、その事についてはあまり聞かないようにしてたんだけど……」


 なるほど。

 そういう事情で片桐さんはこの人達と友達になったのか。




「片桐さんと別れたの?」

「いや……、そもそも最初からそんな関係じゃ……」

「喧嘩でもしてたの?」

「うん……、まあ……」


 本当は、全然違うんだけど……。




「片桐さん、大丈夫なの……?」

「病気だって聞いていたけど、ウチらの前だと普通だったんだけど……」

「前にも結構長い間休んでいた時期あったし……。あんまり休んでばかりいたら、卒業出来なくなっちゃうよ……」


 彼女達は本気で片桐さんの事を心配している様子だった。

 少し話しただけでも思ったが、この人達は見るからにいい人だ。

 片桐さんがこの人達に対して無理して明るく振舞っていた可能性もなくはないが、それが原因で片桐さんが学校を休みたくなるという線は薄いような気がする。




 となると、一体片桐さんは何が原因で学校を休んでいるのだろうか……。




*




 片桐さんの友人らに聞き込みをした後、僕はA組の教室の隣を通りかかった。


 ふと教室内を見てみると、小鳥遊さんがまたしてもクラスメイトの女子達に絡まれていた。

 女子達は小鳥遊さんの髪を引っ張ったり酷い言葉を浴びせたりしていたが、当の小鳥遊さんは放心状態で何も言わずに自分の机に座っていた。


 気にする義理はないと思った僕は、そのままA組の教室を後にした。




 たまにA組の近くを通る時に見かけるが、直樹と別れて以来の小鳥遊さんの様子はずっとあんな感じだ。

 まあ、あれだけ盲心的な愛情を向けていた直樹に一方的に別れを告げられたのだから、ああなるのも無理はないだろう。




 でもそれより気になる事が僕にはあった。 


 片桐さんが学校に来なくなったのと、直樹と小鳥遊さんが別れたのはほぼ同時期だ。

 橘さんは僕の考えすぎと言っていたが、これは単なる偶然なのだろうか……。

 もしかすると、この二つは何か関係しているんじゃないのだろうか……。




 あの日以来、片桐さんに対する電話もラインも繋がらない。

 でももしかしたら、あいつになら繋がるかもしれない。


 そう思った僕は、直樹に対して『最近学校来ないけど何してるんだよ?』とラインを送った。




 既読マークはつかなかった。




*




 それから更に数日の時が経った。


 やはり片桐さんは相変わらず学校を休んでいるし、不定期的に電話もラインもしているが一回も繋がらない。

 たまに片桐さんの家にも行ってはいたが、やはりいつも留守だった。


 不安が募るばかりだった。


 一体片桐さんの身に何が起こっているのだろうか……。




 連絡は取れないけど、もしかするとここに来るかもしれない。


 そう思った僕は、その日は部室で片桐さんが来るのを待つことにした。

 でもやはり、片桐さんは部室には来なかった。




 夜も更け、最終下校時刻を告げる放送が流れる時間が近づいたその時、部室の扉が開く音が聞こえた。

 僕は片桐さんが来てくれたと期待し、出入り口の方へと一目散に駆け寄った。




 しかし、その期待は一瞬で砕け散った。


 部室の扉を開けたのは、やはり片桐さんではなく橘さんだった。




「またあんたかよ……」

「…………」

 橘さんは柄にもなく真剣な顔をしていた。




「なんだよ、そんな顔して。地上デジタル放送がアナログ放送に戻るとか言いにでも来たの?」

「……違う」

「じゃあなんだよ?こんな時間に来てさ」

「……大事な話があるわ」

「なんだよ……?」

「……………………」


 橘さんは普段のふざけた態度からは到底考えられないような真剣な態度で、深刻そうな顔のまま黙っていた。




 これ以上なく、嫌な予感がした。




「直樹と……、智代が……」

「まさか、付き合ってたの!?」

「……………………」

 僕がそう言うと、橘さんは俯いた。


 まさかと思うけど、僕の懸念が的中していたのか?




「もっと悪い……」

「どういう事だよ……?」

「これ言ったら……、あんた確実に、取り乱す……。」

「いいから……、早く言えよ……」

「多分あんた……、直樹を、殺したいって思う……」

「……………………」


 橘さんのその発言で、ただでさえ不安でいっぱいだった僕の心は更に不安に慄いた。




 橘さんの口からどれだけ無慈悲な言葉が出てもいいように、僕は身構えた。




「妊娠……、してる……」

「は……?」

「智代……、直樹の子供を……、妊娠してる……」


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