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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第三章
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21話 嫌な予感

 小鳥遊さんは、僕と付き合ってた頃ですら電話やラインをしてきた事は一度もなかった。

 それなのに何故、今になって僕に電話をしてきたのだろうか……。




『少し前から、急にしてくれなくなったの……。それだけじゃないの……。最近会ってくれる回数も減ってたの……。テストで一位も取ったのに、毎朝家に迎えにも行ってたのに……』

「…………」


 どうやら直樹に別れを切り出されたようだが、だからといって何故そんな事を僕に電話したのだろうか……。


『なんでこうなったの……?あたしの何がいけなかったのぉ……』

「…………」


 いや、だからなんでそんな話を僕にするんだよ……。


『直樹くんは何が不満だったの……?あたしに至らないところがあったから……?でもあたしは直樹くんが喜ぶと思う事はなんでもしてきたのに、なのにどうしてぇ!?』

「…………」


 僕じゃなくて、直樹に直接聞けばいいのに……。


『毎日家に迎えに行ったのがいけなかったのぉ……。それとも……、毎日一緒に帰りたいって言ったのがいけなかったの……?いつも一緒にいたいって言ったから……?毎日したいって言ったから……?あたしの作るお弁当が直樹くんの口に合わなかったから……?』

「しらないよ……」

『モエ君直樹くんと同じ男の子だからわかるでしょ!?あたしには直樹くんが何が嫌だったのかさっぱりわからないよぉ!」

「…………」


 そういう態度が嫌で別れたいと思ったんじゃ……。


『お弁当作りすぎたのがよくなかったの?それで嫌だって思われたの……?でも、前に量が少ないって言ったのは直樹くんだよ!?だからあたし、少ないよりいいと思って毎朝早起きして沢山作るようにしたのに、直樹くんの苦手なキュウリとトマトだってちゃんと入れないようにしたのにぃ……、あたしあまり食べられないから男の子がどのくらい食べるかなんてわからない!どうすれば直樹く……』


 小鳥遊さんが話していた途中だったが、僕は電話を切った。




「怖えよ……」




 ってか、今更どのツラ下げて聞いてるんだあの人は……。

 前々から変な人だとは思ってたけど、あんな振り方した僕にこんな事聞くなんて本格的にどうかしてるだろ……。




 僕がそんな事を思っていたら、再び小鳥遊さんからの電話の着信音が鳴り響いた。


「ひっ……!」


 僕は反射的に叫んでしまった。




 恐ろしくなった僕は、急いでスマホを操作し小鳥遊さんに対しての着信拒否とラインブロック設定をした。




「なんだよ……、あの人……」




 何故直樹は小鳥遊さんと別れたのか……。

 そんなのは考えるまでもない。


 小鳥遊さんはスペックだけなら完璧だ。

 でも性格は……、なんとも形容しがたい。


 直樹が小鳥遊さんを好く気持ちと、小鳥遊さんが直樹を好く気持ちには大きな溝があったという事くらい、部外者である僕の目から見ていても十分わかる。

 自分に対して崇拝に近しい好意を向けて来る小鳥遊さんに対し、直樹は重いと感じたのだろう。


 見た目に似合わず腹黒く、人の気持ちを思いやれないから平気で他人を傷つける。

 その上自分勝手で常識がなく、気にくわない事があると周りの迷惑顧みずすぐに大声を出す。挙句の果てに好きな男とヤることしか頭にない。

 直樹が小鳥遊さんの本性を知り、それに対して失望して別れを切り出したと推測するに十分すぎるだけの要因は揃っている。


 っていうか、側から見ていてもいつ別れてもおかしくない雰囲気だった。

 むしろよくこれまでもった方だ。




 でもやっぱり、直樹は不誠実で自分勝手だと僕は思う。


 訳のわからない事言って散々迷惑かけて、変に期待を持たせるような事も言って、ヤル事も沢山やって、重いと感じて疲れたら捨てる。

 これを自分勝手と言わずなんと呼べばいい。




 まあ、今となってはもうそんな事はどうでもいい。

 あの二人は、今の僕にとってはただの他人にすぎないのだから。




*




 小鳥遊さんの電話から数日経った。


 小鳥遊さんから僕の方に直樹の件について何かしらの接触があるのではと懸念したが、あれ以来小鳥遊さんの方から僕に会いに来たり連絡を取ったりする事はなかった。

 そんな事より、僕には気になる事があった。




 あの日以来、僕はいつも登下校の際は片桐さんが登下校する時間と合わせてる。

 でも何故か、いつも会えないのだ。


 電話やラインだって不定期的にしてはいるが、一度も返事が来た事はない。

 勿論休み時間などに片桐さんの教室に出向いたが、何故かその時になるといつも片桐さんはきまって教室にいないのだ。




 もしかしたら、避けられてるのかなあ……。




 そんな事を思っていたある日の下校時、学校の廊下で橘さんにまたしても話しかけられた。


「エロ漫画のキャラってさ、毎日が安全日よねえ」


 いつもの橘さんの突拍子もない発言である。


「いくら中出ししても基本妊娠しないし、避妊も滅多にしないわよね。その割に凌辱系だとよく孕まされてるけど、あれ一体どういう理屈なのかしら?」

「前々から思ってたけどさ、女がエロ漫画見て面白いの?」

「面白いわよ。馬鹿馬鹿しくて」

「……変な趣味だね」

「最近あんた、部室来ないわね」

「…………」


 片桐さんの事が気になってそれどころじゃないんだよ……。




「そういえば知ってる?椿、直樹に振られたらしいわよ」

「知ってたの?」

「まあ風のうわさでね。正直ざまあみろって思ってるわ」

「だろうね……」

「まああんな調子だったし、前々からすぐに別れるとは思ってたけど、案外もったわね」

「なんだかんだであの二人、半年以上は付き合ってたよね……」

「本当、あんな阿婆擦れのどこが良かったのかしら?やっぱり顔と胸?」

「っていうか、それくらいしかあの人と付き合う理由、ないよね……」

「やっぱりあんたもそう思う?」

「スペックは凄いけど、色々とアレだもん……」


 まあ、以前好いてた僕が言うのも難だけどさ……。




「そういえば、ちょっと前に小鳥遊さんから電話が来たよ。『なんで振られたのか教えてよ。モエ君直樹くんと同じ男の子だからわかるでしょ』って……」

「あいつやっぱり頭おかしいわね……。振った男にそんな事聞くなんて」

「そうかもね……。あと弁当がどうとか、訳のわからない事も言ってたよ」

「なにそれ?」

「直樹の嫌いなキュウリとトマトは入れないようにしたとか、量が少ないって言われたから少ないよりはいいと思って毎朝早起きして沢山弁当作ったとか、男の子がどれだけ食べるかよくわからないからそうしたのにとか……」

「重っ!」

「あんたが言うなって思ったけど、やっぱり小鳥遊さんの方がおかしいよね……」

「何が弁当作りすぎたから振られたよ。毎日彼女にギャーギャー喚かれてたらそりゃ誰だって別れたくもなるわよ」

「そうだよねえ……」

「多分アレね。椿は直樹の事、自分の事救ってくれる王子様だと思ってたんでしょ?だから直樹は常に自分を満足させてくれるとか、直樹は常に自分を幸せにしてくれるって思いこんでたのよ」

「まあ、そんな感じだったよね……」

「だから直樹が情けない事言うと異様なまでに苛立つし、直樹が自分の意にそぐわない事をする度に大声出してたんじゃないのかしらねぇ」

「なんか改めて考えると、小鳥遊さんって相当難儀な性格してるよね……」


 まあ、僕も僕であまり人の事を言えないけどさ……。


「あいつってさ、常識ないって言うか、モラルとかその場の空気より常に自分の感情や性欲優先してるって感じじゃない?」

「前の橘さんだってそうだったでしょ……」

「前のって事は、今はそうじゃないって事?」


 いかん、つい口が滑った。




「そういえば知ってる?直樹、最近また不登校になったのよ」

「またかよ……」

「やっぱり椿と別れたショックで休んでるのかしらね?」

「自分から別れを切り出したのに……」


 もしかすると、また家で妹さんに迫られたりでもしてるのかなあ……。


「まあ、直樹ってあれで結構豆腐メンタルだし」

「あいつ、恋愛絡みで何かあるとすぐに学校休むよなあ……」

「椿に何かされそうで怖いってのもあるんじゃないの?あいつ何考えてるかわからないし」

「確かにそうかもしれないけどさ……」

「やっぱり今なら、優しく慰めたら喜んでくれるかしら?」

「またヤル気なの?」

「流石の私もそれくらいの空気は読めるわよ。椿と別れたと聞いてすぐに会いに行ったらいかにも待ってましたと言わんばかりで、確実に引かれるわ」

「でも、実際待ってたでしょ?」

「うん、待ってた」


 本当ブレないなあ、この人。

 たまに羨ましくなるよ……。


 前みたいに、直樹とスカトロプレイでヤりまくる日を迎えるのが、この人の一番の目的なんだよなあ。

 目標があるから迷わないし、したい事も明確だから悩まないし、自分がどうしたいかすらもわからない僕なんかとは、全然違うよ……。




「はぁ……」

「どうしたのよ?ため息なんかついて。」

「僕にも橘さん程のふてぶてしさがあれば、片桐さんともっと上手くいってたのかなあ、って思ってさ……」

「この前とは逆の事言ってるわね、あんた」

「そうだね……」

「まあでも、がっつき過ぎは引かれるから、そこんとこ難しいわね」

「小鳥遊さんとか、まさにそんな感じだもんね」

「そうでしょうね」

「世の中って、難しいんだね……」

「難しいのよ。色々と」


 


 そう言った後、僕たち二人は一緒になってため息をついた。




「そういえばさ、最近智代も学校にきてないらしいわよ」

「え……?」

「ちょっと前から来てないみたいよ。なんか私、教師連中から未だに智代の友達って思われてるみたいで、智代の担任からも何かあったか知らないかって聞かれたのよ」

「ちょっと……、前から……?」


 最近会えないと思ってたけど、学校に来てなかったのか……?


「やっぱり学校で上手くいっていないのかしらねえ。メンヘラだし」

「…………」

「ああ、友達とは上手くいってるんだっけ?じゃあ別の事で悩んでいるのかしらねえ」

「…………」

「どうするの?慰めに行く?今度こそ犯す?」

「……………………」

「ちょっと、そんな顔しないでよ。軽い冗談よ」

「嫌な……、予感がする……」

「どうしたのよ?そんなオビ=ワンみたいな事言って」

「直樹も……、最近、学校来てないんだよね……?」

「そうだけど、それがどうかしたの?」

「…………」


 何故だろう……。

 胸がザワつく。




「流石に心配し過ぎでしょ?直樹が椿を振って智代を選ぶって言うの?ありえないでしょ?」

「…………」


 ありえないと思った事が、今まで一体何度起きてきたのか……。




 また僕の知らない所で、どうしようもなくロクでもない事が起きている予感がする……。



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