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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第三章
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16話 にわか

 ある日の昼休み、僕はいつものように部室に向かっていた。


 そんな時、中庭で一緒に手作り重箱弁当を食べていた直樹と小鳥遊さんの姿が見えた。

 小鳥遊さんはまたしてもヒスを起こしている様子で、直樹は涙目になりながら黙りこんでいた。




「別れりゃいいのに……」


 僕は小さくそう呟くと、その場から立ち去った。




*




 その日の放課後、僕はいつものように片桐さんを待つべく部室に向かっていた。


 部室に入ろうとドアの前に立った時、部屋の中からギターの音と聞き覚えのある下手な歌声が聞こえてきた。

 扉を開けて部室に入ると、橘さんがギターを演奏しながら聞き慣れない歌を歌っていた。

 相変わらず橘さんの歌唱力は微妙だったが、ギターの演奏は素人目の僕が見た所かなり上手く見えた。




 演奏がひとしきり終わり、僕は橘さんに拍手した。


「凄いね。ギター、弾けたんだ」

「まあね。ベタベタな青春アニメみたいでしょ?」

「意外な特技だね。どこで覚えたの?」

「今お世話になってるお姉さんに教えてもらったの。同棲してた時も直樹に何度も聞かせてたわ」

「へえ、意外にロマンチックなところもあったんだ」

「ヤった後、直樹の賢者タイムの間を持たせる為によく弾いてたの。全裸で」

「…………」


 前言撤回。

 やっぱり脳みそ下半身のこの人には、ロマンも何もない。




「ってか鍵の隠し場所、知ってたんだ」

「あんたらの考えることくらい全部まるっとお見通しよ」


 この人、本当に勘いいよなあ……。

 たまに怖くなるわ……。




「ところで、そのギターはどうしたの?」

「さっきアニ研の陰キャからもらったの。オタサーの姫のボーカルの子に振られたとかで、もういらないって」


 あの時ギターを弾いてた長門か。

 なるほど……。


「そんな特技あるなら、軽音部にでも入ればいいのに」

「いやよ、面倒臭い」

「そうかい……。ちなみにさっき歌ってたの、なんで曲?」

「AiMの夕陽の約束」

「何それ?アニソン?」

「デジモンの曲よ」

「無限大なの奴しかわからない……」

「この曲、ミミの中の人が歌ってるの」

「世代じゃないからさっぱりわからない……。あれ確か、20代後半くらいの人のアニメでしょ?」

「そうね。ちなみにこの曲は、三代目の映画の主題歌よ」

「デジモンって、大昔にちょっとだけはやったポケモンのバッタもんだよね?」

「あんたそれ、ファンの前で言うと張り倒されるわよ」

「そういや今もあれ、アニメやってるんだっけ?」

「いや、あんな出来そこないの妖怪ウォッチ、デジモンと呼ぶなんておこがましいわよ」

「そうなの?シリーズが多いってのは知ってるけど、ちゃんと見たことないなあ……」

「まあ結構面白いわよ。それにこの曲にはちょっと思い入れがあるの」

「へぇ、そうなの?」

「直樹と別れた後の幼少期に、この曲よく聞いてたから」

「歌詞的に遠距離恋愛の歌っぽいね」

「まあね。その頃の私と直樹もこの歌の歌詞みたいな感じだったし、まあ当時は付き合ってない上に連絡すら取れなかったけど。寂しい時に聞くと身に染みるのよ」


 この人、意外とセンチメンタルなところもあったんだ……。


「橘さん、深愛とかRumbling heartsみたいなそれ系の曲好きだよね」

「辛い時にそういうの歌ってるとなんか落ち着くのよ」


 もしかして今、辛い気分だったのか……?


 いや、ないか……。




「他にもなんか弾けるの?」

「弾けるわよ」

「ちょっと引いてみてよ」

「いいわよ」




 橘さんはそう言うと、またしても僕が知らない曲を微妙な歌唱力で歌いながら上手いギターを演奏してくれた。




*




 演奏が終わり、僕は再び橘さんに拍手した。


「いやぁ、上手いもんだねえ」

「そんな大した物じゃないわよ」

「ちなみにこれ、なんで曲?」

「僕らの時間。歌詞がいいのよ」

「心をずっと締め付ける終わった日々、ってところ……、まさか直樹と過ごした日のこと思い返しながら歌った?」

「そうよ。よくわかったわね」

「ってか素晴らしい日々って、あんた的にはスカトロライフの事じゃないか……」

「もっとも、私はこの歌みたいに直樹との日々を戻らない日々にするつもりはないけどね」

「これもアニソン?」

「フタコイオルタナティブのED曲」

「聞いた事もないアニメだ……」

「まあハルヒブーム以前の深夜アニメだし、そこまで人気作って訳でもなかったしね」

「なんで橘さんはそんな古い上に知名度も微妙なアニメを知ってるの?」

「今世話になっているお姉さんからの影響」

「なるほど……」


 この人、前々から見た目に似合わず妙にオタク知識に精通してると思ったけど、そういう訳だったのね……。


「ちなみにこれ作ったのはGOD EATER落としまくったので有名なあのufotable。新しい方のFate作ってたところね」

「…………」


 アニメの製作会社の話されても、シャフトかサンライズかPAワークスかディオメディアくらいしかわかんないよ……。


「ちなみにこの曲、イジメコネクトで有名な eufoniuが歌ってるわ」

「ヨスガノソラのOP歌っていた?」

「そう。その頃は菊地創きくちはじめもまだいたのよねぇ」

「誰それ?」

「あんた知らないの?桃井はるこディスって炎上して今は活動休止している作曲とかやってた人」

「さっぱりわからない……」

「結構な騒動になったのに知らないの?あんたモグリ?」


 そういえば、前に片桐さんがオタク趣味の女の子は殿方に対する意外性と親近感を簡単に出せるとかって言ってたけど、多分この人のはそんな付け焼刃の物じゃないぞ……。


「橘さんって、もしかして僕よりアニメ詳しい?」

「かもね。ってか、単にあんたがにわかなだけでしょ?つい最近のか有名なのしか知らないじゃない」

「そ、そんな事ないよ!ガンダムは初代から全部見たし……」

「ガンダム以外のロボットアニメは?」

「スパロボなら何作か……」

「原作見たのは?」

「……エヴァなら見たよ」

「まさかと思うけど、新劇だけって事はないわよね?」

「…………」

 僕は黙った。




「やっぱりにわかじゃない。どうせ萌えアニメだって、ハルヒブーム以降のしか知らないんでしょ?」

「ぱにぽには見たよ……」

「どうせ物語シリーズか、まどマギのついでのつもりで見たんでしょ?」

「…………」


 本当に鋭いな、この人……。




「……攻殻機動隊は見たよ」

「アップルシードと東のエデンは?」

「知らない……」

「あんたってキモオタってバカにされてたけど、やっぱり言うほど詳しくないわね」

「…………」

「いるのよねぇ。あんたみたいに見た目だけはかなりガチっぽいのに、話してみると案外全然詳しくない奴」

「…………」


 僕みたいなキモイ奴がアニメに詳しかったらキモがられるだけだが、橘さんみたいな美人がアニメに詳しかったらステータスにしかならないのはわかってる。

 でも男にモテモテのリア充で、オマケに非処女でケツ穴まで犯されてる上にスカトロプレイしまくっていた橘さんに、仮にもキモオタというレッテルを張られている僕がオタク知識の事でここまで言われるとか、流石にやるせない気持ちになる……。


 っていうか、普通に屈辱的だ……。




 つーかオタクはじめて精々5年未満の僕が古いアニメやマイナーなアニメまで知ってる方がおかしいだろ……。




「……違法配信で見てる癖に」

 僕はボソっと呟いた。


「見るだけ、聴くだけ、語るだけ。お金なんて絶対落とさない。それが私のモットーよ」

「最低のモットー……」

「何言ってるの?アップロードは犯罪だけどダウンロードは合法なのよ?」

「合法じゃあないだろ……」

「でもあんただって見てるでしょ?」

「……………………」

 僕は黙った。




 話を逸らそう。


「ちなみに今歌ってた曲のアニメ、どんなアニメ?」

「ダメ探偵と双子の美少女とイカが出てくる」

「萌えアニメ?」

「まあね。これなら多分、今のあんたでも楽しめるんじゃないの」

「でも萌えアニメなんでしょ?」

「でもそこそこ面白いわよ」

「…………」

「興味あるの?」

「…………」




 正直なところ、アニメの評価が基本かなり辛口である橘さんの言うそこそこ面白いアニメがどういう物なのか興味があった。




*




 僕と橘さんは、部室のノートパソコンでフタコイオルタナティブを視聴した。

 例によって、海外字幕付きの違法配信動画だ。

 違法配信で見ておいてなんだけど、先日見た某アニメ製作会社アニメはまるで楽しめなかったが、どういう訳かこれは楽しめた。


 主人公が双子の美少女と一つ屋根の下で仲良く暮らしている。その上美少女達は主人公をかなり慕っているという、いかにも萌えアニメ感全開なシュチュエーションの作品な訳だが、何故かこれには不快感がまったく湧かなかった。


 それどころか、むしろ主人公に感情移入出来た。

 自分でもよくわからないが、このアニメの主人公の境遇や考え方にはなんとなく共感出来たのだ。

 やや古い萌えアニメだけあって絵が少し古く感じたが、それを踏まえても十分見応えのあるアニメだった。




 アニメを数話見た辺りで、橘さんは聞いてきた。


「あんた、割と真剣に見てるわね」

「なんていうか、今まで僕が見たことのないタイプのアニメだ……」

「そう?」

「確かにどう見てもこれ萌えアニメなんだけど、なんていうか全体的に懐かしい感じっていうか……」

「ノスタルジック?」

「そう。それ。感傷的っていうの?なんかセンチメンタルな雰囲気で、割と面白い」

「そう、そりゃよかったわ。まあそれもイカが出てくるまでなんだけどね」




 それにしても、現実逃避の為ではなく、純粋に娯楽としてアニメを楽しめたのは随分と久しぶりな気がする。

 そりゃ、今回見たのがたまたま今の僕の嗜好に合っていたって事もあるんだろうけど、それを踏まえても感慨深いものがある。


 今までなんとなく嫌な現実を忘れる為に見ていたアニメだったけど、ちゃんと見てみるとこんなに面白かったんだ……。




「今日はもう遅いから、続きは帰って家で見るよ」

「違法配信で?」

「…………」

「気にする事ないわ。皆やってるから」 

「そういう問題かよ……」

「そういう問題なのよ」

「あのさ……、橘さん」

「どうしたの?」

「たまにでいいからさ、こういう僕でも楽しめそうなアニメがあったら、教えてくれない?」

「別にいいわよ」


 橘さんは快く了承してくれた。




 そしてその日以来、橘さんは気まぐれに部室に現われては、僕に色々なアニメを見せてくれるようになった。


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