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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第三章
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9話 文化祭

 その日、僕の学校では少し遅めの文化祭が行われていた。


 ちなみに僕は文化祭に限らず学校行事全般が嫌いだ。

 理由なんて説明するまでもないだろう。


 でもその日の文化祭だけは事情が違った。

 何故なら、片桐さんが僕と一緒に回りたいと誘ってくれたからだ。




 校長や生徒会長等の挨拶が終わった後、僕と片桐さんは体育館内で合流した。

 最初にどこを回るか話し、とりあえず体育館内で行われる出し物を一通り見てからあちこち回ろうという事になった。

 

 僕たち二人が体育館内に置いてあるパイプ椅子で座ってからしばらく待っていると、壇上の幕が上がった。

 すると中にはライブ用の楽器と共に、それを演奏する男女4名が並んでいた。

 女子が一人、後の三人は男子。

 何故かボーカルと思しきセンターの女子は頭にリボンを付けバニーガールの格好をしていた。

 そして後ろの男子の内のギタリストの一人は何故か女子の制服を着ており、どういう訳か魔法使い風の三角帽子とマントを装着していた。


 まさか……、と僕が思った矢先、その四名は案の定God knowsを演奏し始めた。




「まあ、案の定って感じですね……」

 片桐さんは少し呆れ気味に言った。


「今渡されたプログラム表見たんですけど、これどうも軽音楽部とかじゃなくてアニ研部の出し物みたいですよ……」

「通りで選曲や演出が痛々しい訳だ……」


 どうでもいい事だが、この曲の作詞も畑亜貴氏である。

 畑亜貴氏はやっぱり凄いね。




 彼らの微妙な演奏をしばらく聞いた後、片桐さんは冷めた顔をしながら言った。


「歌、あまり上手くありませんね……」

「正直僕も、片桐さんと同じ事考えていたよ……」

「演奏も、正直微妙ですね……」

「っていうか格好、痛すぎでしょ……」

「あんなでもきっと、音楽室借りたり貸しスタジオ行くなりして、一生懸命練習したんでしょうねえ……」

「頑張って演奏してるってのは、わかるんだけどねえ……」

「やっぱり、ちょっと滑ってますね……」


 僕と片桐さんだけでなく、体育館内全体が微妙な空気に包まれていた。

 きっと彼ら的には最高の青春の一ページを刻んでいるつもりなのだろうが、明らかに空回りしていて見てるこっちが悲しい気持ちになる。


 ってか、初っ端の出し物がこれって、予定組んでる人何考えてるんだよ……。




「友誼部以外にもアニメに触発されてあんな痛い事する陰キャラがいるなんて、何だか不思議な気持ちですね……」

「そうだね……。しかも10年も前のアニメだもんね……」

「そんな昔のアニメをネタに、よくこんなアレな事をやろうって人が四人も集まりましたよね……」

「ってかギターの長門、男だし……」

「ちょっと太いですよね……、制服裂けそう……」

「ってか、ボーカルのバニー以外皆男だし……」

「それにあのボーカルの子、見るからにオタサーの姫感漂ってますね……」


 片桐さんの言う通り、ボーカルのバニーガールハルヒの真似をしていた女子はお世辞にもあまり可愛くなかった。




 そんなこんなでアニ研部の演奏するGod knowsが終わった。

 これでこの微妙な空気から解放されると思ったと安心したその時、彼らは事もあろうに第二幕としてハレ晴レユカイをダンス付きで踊り出したのだ。


 あまりの痛々しさに耐えきれなかった僕と片桐さんは、見てるこっちが恥ずかしくなるという事で体育館をそそくさと出た。




*




 アニメの文化祭ならいざ知らず、現実の文化祭は相当ショボイ。

 他校の生徒は呼んではいけないと予め決められているし、勿論地域住民も来ない。出店だって正直微妙な物ばかりだ。

 その上片桐さんや僕のクラスのように、明らかにやる気のない出し物だって数多くある。


 片桐さんのクラスの出し物は地味なバルーンアートの展示。

 僕のクラスの出し物に至っては、たったの1日で用意したアンパンマンの糞ショボいマスアートだ。しかも所々のりが剥がれかけていて、展示されている教室は実質休憩所となっている。


 僕と片桐さんは特に行く所も思いつかなかった為、とりあえずその糞ショボいマスアートを見る為に僕のクラスの教室に移動する事にした。




 僕と片桐さんが教室に入ろうとしたその時、教室の片隅で陰キャラ達とヴァンガードをする橘さんの姿が見えた。

 やはり橘さんはその陰キャラ達からチヤホヤされていた。

 橘さんはノリノリに「ファイナルターン!」等と叫んだりしていた。




「うわぁ……。痛い……」

「小夜さん、気分はさながらアニメキャラなんでしょうね。まあ、私が言うなって話ですけど……」

「女の子がカードゲームやって、楽しいのかなあ……」

「あの人、色々と変わってますから」

「ってかなんであの人、陰キャラとカードゲームなんてやってるんだ……?」

「オタサーの姫の気分を味わってるんですかね?」

「日頃散々リア充連中にもチヤホヤされてるのに、なんであんな奴等とカードゲームを……」

「小夜さんって、意外とリア充でも陰キャラでも分け隔てなく接するタイプなんですかね?」

「気まぐれなだけじゃない?」




 それにしても、改めて考えると橘さんのコミュ力は高いとしみじみ感じた。

 リア充だけでなく、陰キャラ達のノリにも瞬時に溶け込める適応能力は素直に凄いと思う。

 かつての友誼部メンバーの中だと、断トツで社交性があるのは橘さんであるとマジで思う。


 その上顔が良くて下ネタ耐性あって、いかにも男受けしそうなオタク趣味持ちで、それでいて適度にバカっぽいんだから男にモテるのも頷ける。

 改めて考えると、橘さんって色々とどうしようもない性格をしてる割にスペック自体はモテる要素しかない。




 ってか、人気あるんだから、いい加減直樹以外の相手見つけろよ……。

 なんていうか、色々と勿体ない……。




*




 僕と片桐さんは、橘さんが陰キャラ達とノリノリでカードゲームに興じている教室に入るのは抵抗が合った為、またしても移動する事にした。

 片桐さんのクラスに出向きバルーンアートの展示を見たりもしたが、そんなに面白い物でもなかった為すぐに外に出た。


 そんな中、たまたま目についた視聴覚室で、どうやら映画の上映会をしているようだったので入ってみた。

 プロジェクターを通じてショーシャンクの空にが上映されていたが、映画を真面目に見ている者はほとんどいなかった。

 視聴覚室内は、明らかに学校に馴染めていない感じのぼっち達の溜まり場になっていて、ほぼ全員が寝ているか寝た振りをして過ごしていた。

 さながら、負け犬のオーラに満ち溢れているような部屋であった。

 

 


 そんな中一人、僕達のよく知る人物の姿があった。


「あれ、直樹さんじゃないんですか?」

「何やってんだろ、あいつ……」

「椿さんと一緒にいなくてもいいんですかね?」

「知らない。上手く行ってないんじゃないの?」


 僕達二人はそんな事を話した後即座に部屋を出た。




 何故彼女持ちのリア充である直樹がこんな所でぼっち達と一緒に寝た振りなんてしているのか興味は湧かなかった。




*




 僕と片桐さんが適当に廊下をブラブラ歩いていた所、 一際賑わっているクラスがあった為興味本位で覗いてみた。

 そのクラスは小鳥遊さんの所属するA組で、出し物は焼うどんのお店だった。

 何故か凄い盛況っぷりで、昼前にも関わらず生徒達の列が廊下まで伸びていた。




 しかし、異常な点が何点もあった。


 列を作っているのは何故か全員が女子だった。

 その上、列が廊下まで伸びる程客が多いにも関わらず、売り子が何故か一人しかいなかったのだ。

 しかもその売り子は、小鳥遊さんだった。 

 列を作っていた女子達は「まだ出来ないのー!?」「もう何分も待ってるんだけどー!」等と小鳥遊さんを急かしていた。


 明らかな虐めの一環だ。


 途中慌てた小鳥遊さんが手元を滑らせ、焼うどんを床にぶちまけたりもしたが、その場にいた女子達は小鳥遊さんを誰も助けなかった。

 その上慌てて片付けをする小鳥遊さんに対し、「本当グズ!」「つかえねー」「早くしろブス!」等と言った野次まで飛ばしていた。

 小鳥遊さんは何も言わずに淡々と床にぶちまけられたうどんを片づけていたが、その表情は明らかに辛そうだった。




 橘さんがいつだったか言っていた、卑の意思という単語が僕の頭の中に過った。

 うちの学校は別にバカ校という訳ではないが、生徒の民度は結構低いとこういう光景を見ていると実感する。

 この前だって小鳥遊さんに帰れコールしてたし、橘さんが起こした事件以外でもちょくちょく盗難事件とかが起きるし、僕に対する虐めや嫌がらせ行為も日常的に行われている。

 これがゆとり教育の弊害なのか、はたまた荒んだ現代社会の影響なのかどうかはわからない。


 まあ、こうして見て見ぬふりしてる僕も大概だけどさ……。




 僕が小鳥遊さんの様子を見ながらそんな事を思っていた時、隣にいた片桐さんが淡々とした様子で言ってきた。


「いい気味ですね」

「……そうだね」

「散々強さんに酷い事してきたんですから、天罰ですよ」

「うん……」


 口ではこうは言ったが、正直言うとやはりちょっと可哀想だとは内心思ってはいた。




 あれだけの事をされてもなお、小鳥遊さんに対して未だにこんな感情を持つ僕はやはりバカなのだろうか。

 だったら助ければいいだろという話ではあるが、どういう訳か何故かそれだけは絶対にしたくないと思ってしまう。

 やっぱり、小鳥遊さんに散々酷いことをされた経験が尾を引いているのかもしれない……。




 それにしても、直樹はなんで大事な彼女を助けずにあんなところで呑気に寝ているのだろう?

 彼氏なんだから手伝えばいいのに、倦怠期なのかなあ……。




*




 折角大好きな片桐さんと文化祭を回る事になったのに、なんだかさっきから辛気臭い光景しか見ていない気がする……。

 僕と片桐さんは巻き返しを図るべく、出店で目についた食品を適当に購入し、中庭のベンチで少し早めの昼食を食べる事にした。




「見てください強さん。このたこ焼き、タコが入っていませんよ」

「本当だ。他のには入っているのになんでだろう?」

「有難味のないロシアンルーレットたこ焼きですね」

「これぞまさに文化祭クオリティだね」

「まったくですね」

「この焼きそばも凄いよ。所々焦げてて凄く堅い。まるで墨みたい」

「本当ですね。しかもソースかけ過ぎで正直不味いです」

「文化祭でもなければこんな物絶対に食べないよね」

「本当そう思いますよ。お金払ってこんなの食べるくらいなら、イオンのフードコートの方がずっといいですよ」


 僕達二人は一緒に笑いあった。

 つまらない文化祭でも、やっぱり大好きな片桐さんと過ごすだけで楽しく思える。




 そういえば昔、つまらないダンスが君となら楽しくてステップを踏むとかそういう感じの歌があったっけ。

 多分今の僕の心境は、その歌と同じ感じだろう。




「おいwモエが女連れてるぞw」

 なんて事を僕が考えていた時、水を指すように聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 いつも僕を弄る吉田、佐藤、田中の三名が僕と片桐さんの元へとやってきた。




「またお前、女子に騙されてるのかよ?」

「お前wキモくてモテない癖に女子との接点だけはあるよなw」

「しかもそんな派手な子とか、どう考えても遊ばれてるのに本当懲りないなぁ」


 確かに僕は今まで、小鳥遊さんに裏切られたり、橘さんにいいように利用されたりしてきた。

 でも今ここにいる片桐さんだけは違う。

 片桐さんは僕のことをちゃんと友達だと思ってくれていて、僕のことを大事にしてくれる。

 だからこいつ等が僕と片桐さんに対して感じた印象は見当違いもいい所であり、実際のところ僕が片桐さんに騙されているというのはこいつ等のバカな思い込み以外の何物でもない。


 


 なんて事を僕が思っていたら、片桐さんの顔を見るや否や、吉田は血相変えた表情で田中と佐藤の手を引き、その場から離れようとした。


「おい……、ちょっとお前ら、来い……」

「なんだよ吉田。どうしたんだよ?」

「モエと一緒にいるその子……、ヤバいって……」

「ヤバいってなんでだよw」

「お前ら、E組の片桐知らないのかよ……?精神病で、中学の時問題ばかり起こしてたって……」

「え?片桐って、前にいきなり暴れて旧校舎の窓割ってパソコン投げ捨てた、あの片桐?」

「そんな奴がなんでモエなんかといるんだよw」

「知らねえよ……。とにかく、あまり関わらないほうがいいって……」


 前々から吉田達は無神経でバカな奴等だとは思っていたが、こんな事を言われたら片桐さんがどう思うかも考えられない程想像力が貧困なのだろうか?

 本人を目の前にして、こんな事を平然と言う蛮行には流石の僕も我慢ならない。




 僕が吉田達に抗議する為にその場から立ち上がろうと思ったその時、片桐さんは僕の制服の裾を掴み微笑んだ。


「え……?」


 困惑する僕に対し、片桐さんは笑顔を向け続けた。




 そうこうしていたら、吉田達三名はその場から立ち去っていった。


「片桐さんはあんな事言われて……、平気なの……?」

「まあ、事実ですから」

「事実でも、片桐さんのせいじゃないんだし……」

「そんなことありませんよ」

「そんなことあるよ……」

「例えそうだとしても、他の人はそうは思ってくれませんよ」

「そうかも……、しれないけどさ……」

「それにここで強さんが怒っても、何にもなりませんよ」


 確かにそうかもしれないけど、だからと言って片桐さんの悪評があんな形で広まっているだなんて、僕としては非常に我慢ならない。


 そりゃ片桐さんは確かに精神病だし、今まで沢山問題を起こしてきたのだって事実だ。

 それでもやっぱり、片桐さんが本当はどんなにいい人なのか誰も知らないまま、他人からあんな勝手な事を知った風に言われるのはどうしても納得できない。




 僕が煮え切らない感情を抱きモヤモヤしていたその時、片桐さんは思いがけない事を言ってきた。


「でも、嬉しかったですよ」

「え……?」

「私の事で、そんな風に怒ってくれて、とっても嬉しかったです」


 片桐さんは屈託のない笑顔を向けながら僕に告げてくれた。




 そんな片桐さんの嬉しそうな顔を見たら、さっきまで僕の心を取り巻いていた不快感は一瞬で晴れた。


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