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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
62/102

26話 合コン

 帰れコール事件の起きたあの日以来、小鳥遊さんはうちの教室に来なくなった。

 いくら空気の読めない小鳥遊さんと言えど、流石にあんな事があった後なのでそれも当然だろう。


 その代わり、休み時間や昼休みになると直樹は必ずどこかへ行くようになった。

 多分小鳥遊さんが直樹の元に来なくなった代わりに、直樹の方が小鳥遊さんに会いに行っているのだろう。

 直樹の意思なのか小鳥遊さんの方からそうしてくれと申し出たのかはわからないが、あの2人がイチャついている光景を見ていると僕的には非常に不愉快な気持ちになるので有難い事ではある。




*




 そんなある日の放課後の事だった。


「合コンに行くわよ!」

 下校しようと廊下を歩いていた僕に対し、橘さんは突拍子もない事を言ってきた。


「なんで……?」

「彼女を作る為よ!」

「まさかと思うけど、僕に言ってるの……?」

「当たり前でしょ?」

「…………」


 物凄く気乗りしない……。




「どうしたのよ?そんな顔して」

「合コンってあれだよね?盛りのついた若い男女が、体に悪い飲み物を飲みながら、不道徳な行為に及ぼうとする不埒な会合のあの合コンだよね?」

「何その偏った表現」

「行きたくない……」

「なんで?」

 橘さんはうんち提案おじさんみたいな口調で聞いてきた。


「これからジム行くんだよ。バイト休みだから」

「あんたバカ?ジム行っていくら筋肉鍛えても、女に話しかけなきゃ彼女なんてできっこないのよ?」

「そりゃそうだろうけどさ……」

「あんたの為に手配してもらったから、だから行きましょうよ!」

「あんなの盛ってるリア充だけでやってればいい。僕には関係ない」

「童貞卒業のチャンスなのよ?」

「卒業出来る訳ないだろ……。第一、僕みたいなのが行っても、女性陣にキモがられるのがオチでしょ……」

「そりゃあんたはダサいけど、逆にそういうのが好きって子がいるかもしれないでしょ?」

「仮に見た目でオーケーもらえたとしても、性格が暗いから彼女なんて無理だよ……」

「そう諦めないでよ。世の中広いんだから、ダサくて暗い奴が好きって物好きな女もいるかもしれないでしょ?」

「いる訳ないだろ……」

「なんであんたはそうネガティブなのよ?」

「あんたが変な方向にポジティブなだけだろ……」

「努力してても、行動しないと彼女なんて出来ないのよ?」

「……恥かくくらいなら彼女なんていらない」

「あんたねぇ……、一体どれだけ自分に自信がないのよ……」

 橘さんはため息混じりに呟いた。




「あのねモエ、これはチャンスなの」


 大分前にも橘さんからそんなような事を言われた気がする……。


「あんたのその汗かきおデブママのあそこみたいな人生を変えるチャンスなのよ?」

「人前でそんなくっそ汚い言葉使うなよ……」

「あんたはこれでいいの!?このままで満足なの!?」

「満足じゃないけど、別にこれでいいよ、もう……」

「あんたはこんな二人のホームレスが小便の溜まってるクソの中でファックしたような人生のままで本当にいいの!?」

 橘さんは大声を出しながら僕に問いかけてきた。


 橘さんのその汚い言葉に反応し、周りにいた生徒達が一斉に僕たちに注目した。


「お願いだからその汚い言葉使いをやめてよ!」

「じゃあ行ってくれる?」

「それは嫌だ……」

「じゃああんたはこんな最悪のデブブス娼婦のまんこ汁を鍋に入れて、ぐちょぐちょ煮込んでそれに糞とタンポン混ぜて雑煮にしたようなこんな人生のままで本気でいいの!?」

「だからその汚い言葉使いをやめてよ!お願いだから!皆こっち見てるから!」

「じゃあ行ってくれる?」


 そう聞いてくる橘さんに対し、僕は渋々返した。


「わかったよ……。もう……」




*




 僕と橘さんは電車に乗り合コン会場まで直行した。

 合コンの会場は、県内でも有数の繁華街にあるカラオケ店だった。


 橘さんは事もあろうに吉田達に今回の合コンの手配を依頼したようで、その為僕は放課後も吉田達のからかいを受けるという非常に憂鬱な思いをする羽目になった。

 ある種の嫌がらせなのではと思ったが、橘さんのズレた性格からして本気で善意を持ってこのような行いをしている可能性が普通にありそうなのが怖いところであった。


 合コンのメンバーは男女合わせて8人で、男性陣は僕、吉田、佐藤、田中の4名。

 女性陣の内3人が吉田達が招集した他校の女子。そして人数合わせの為なのかはどうか知らないが、何故か橘さんが女性陣の中に混じっていた。

 なんでもその女子3名は吉田達が声をかけて召集したらしい。

 橘さん曰く上玉を集めたとの事だったが、お世辞にもあまり可愛くはなかった。




 合コンなんて行った事のない典型的非モテの僕がいうのもおこがましいかもしれないが、この合コン、明らかにおかしい。

 最初に行った簡単な自己紹介の時以来、吉田達は自ら声をかけて呼んだ筈の他校の女子三名には目もくれず橘さんに対してのみコミュニケーションを取っていたのだ。

 その為、橘さん以外の女子3名達は完全に不貞腐れていて、女子同士で愚痴をこぼし合ったりため息をつきなかまらスマホ弄ったりしているだけだった。


 勿論僕はこんな環境に馴染める訳もなく、そんな彼らを見つめて隅っこでメロンソーダとサイドメニューのポテトを永延と食べ続けているだけだった。

 カラオケ店内で異性に囲まれチヤホヤされてる人を、気不味い思いをしながら遠くから眺めているハブられ気味の僕。

 いつぞやの胸糞悪い思い出を彷彿させる構図である。




 そんな中、田中が橘さんに対し言った。


「橘さんって、パンツ何色?」

「緑と白の縞々」

「マジか!見せて!」

「無理。自分で勝手に想像して」

「わかった!そうする!」

「クロッチの所もしっかり頼むわ」

「やっべ、勃ってきた!」


 なんでリア充はこうも公然とセクハラトークできるんだ……。

 なんでこいつ等が引かれないで、僕が普通に暮らしているだけでキモがられるんだ……。

 普通に返す橘さんも橘さんだが、リア充の生態はやっぱりわからん……。




 今度は吉田と佐藤が橘さんに対して言った。


「前々から思ってたけどさ、橘さんってかなり可愛いよなあ」

「そうかしら?」

「剛力彩芽より断然イケてるぜw」

「なにそれ。あまり褒められてる気しないんだけど?」

「そんな事ないって。文化祭のミスコン出たら絶対一位になれるって」

「あんなの自己顕示欲の強いバカしか出ないわよ」


 小鳥遊さんの事を言っているのか……。


「橘さん、一時期学校に来なくなってたけど、俺本当寂しかったわぁー」

「ってか橘さんw前は相沢とばかり絡んでたけど、最近みんなともよく絡むよなw」

「俺、橘さんがこいつ誘ったら来るって言うからわざわざモエなんか呼んだのに」


 なるほど、そういう経緯か。

 橘さんとお近づきになりたいが為に、わざわざこんなリア充的イベントに僕を混ぜる事にした訳か……。

 やっぱバカだなこいつ等。

 滅茶苦茶チヤホヤしてるけど、どの道橘さんは直樹以外の奴と付き合う気なんて微塵もないのに。


 それにしてもこいつ等、可愛い可愛いと散々持て囃している橘さんがスカトロ趣味持ちと知ったら、一体どんな顔をするのだろうか……。




 そんな事を思っていた時、この状況にイマイチ溶け込めていない僕の事を察してか、橘さんが言った。


「そんな事より皆、もっとモエと話してあげてよ。特に女性陣」


 橘さんのその発言を聞いてもなお、女性陣はスマホを弄り続け不貞腐れていた。

 当たり前と言えば当たり前である。




 そんな橘さんの発言を無視し、吉田達は依然として橘さんとの会話を続けた。


「つーか最近よくモエといるよね、橘さん。今日だってモエを合コンに連れて行けって言ってきたしさ、遊んでるの?」

「モエに彼女を作ってあげたいの」


「「「橘さん優しーい!」」」

 吉田達三名が一緒にハモっていた。 


 っていうかこいつ等、橘さんという人間の本性を何も理解していない。




 確かに橘さんは黙っている分には割と美人だ。

 でも性格が尋常じゃないくらい悪いのと、スカトロ趣味があるのと、下品でヤる事しか考えていないのと、直樹に対して異常な程の行為を抱いているのと、とにかく性格がズレにズレまくっているせいで色々と台無しである。

 恐らく吉田達は、バカだからそんな簡単な事にも気付けず、橘さんに対しただの面白くって可愛い下ネタ好きの女の子程度の認識しか持っていないのだろう。




 そんな中、橘さんは歌いたい気分になったと急に言い出し、リモコンで歌を入れて歌い始めた。


 橘さんが入れた曲は栗林みな実のRumbling hearts。

 ちなみにこの曲、僕等が二歳くらいの時に発売された物凄く有名なエロゲの主題歌だ。

 そのエロゲの内容は、説明するまでもないだろう……。

 かなり昔に発売されたエロゲの曲なのだが、何故橘さんはこの曲を知っているのだろうか。

 というか、橘さんはそのエロゲの内容を知っているのだろうか。


 もしも知っていた上で歌ってるとしたら、相当なバカだ……。




 橘さんの歌唱力は正直微妙で、明らかに下手なのにやはり吉田達は「歌UMEEEー!」「橘さん可愛いよ!」等と言ってチヤホヤしていた。

 そんな光景を見て、僕はなんとなくザラついた気持ちになった。




 橘さんは続けて曲を入れた。

 今度の曲は皆さんご存じ、μ'sのそれは僕たちの奇跡である。

 自分で歌うつもりなのかと思いきや、何を思ったのか僕にマイクを渡してきた。


「さあ、モエも歌いなさいよ!μ'sの曲なら歌えるでしょ!」

「なんで僕が……」

「あんたの歌唱力を披露するのよ!あんたの歌でここにいる子を魅了するの!」

「……歌いたくない」

「そんな事言ってないでほら、歌いなさいよ!さあ、夢を~♪ってほら!」

「一人で歌ってろよ……」

「もう、本当ノリ悪いわねえ。皆ごめんね、モエはシャイなのよ」


 ウザい。

 前々から思ってはいたけど、今日の橘さんはかなりウザい。

 かつてない程という訳ではないが、それでもやはりとてつもなくウザい。




 僕がそう思っていた中、佐藤が言った。


「橘さーんwにっこにっこにーやってよw」

「にっこにっこにー♪」


 気色悪い……。


「って何やらせんのよ!私じゃなくてもっとモエに絡んでよ!」


「「「橘さんおもしれー!」」」

 橘さんのノリツッコミに対し、吉田達三名が再び一斉に声を発した。


 一体何が面白いんだよ……。



 

 僕が一向に歌う素振りを見せないので、痺れを切らした橘さんは演奏停止ボタンを押した。


「モエ、歌はもういいわ。ぼーとしてないで、何か面白い事しなさいよ」

「はぁ?」

「例えばほら、一発芸とか自己PRとか」

「なんで僕が、自己紹介だってさっきしたでしょ……」

「名前くらいしか言ってないでしょ。ほら、彼女作るんでしょ?」


 吉田が途中で茶々を入れたせいでちゃんと名乗れなかった訳だが……。


 それにしても。橘さんに催促された上での自己PR。

 いつぞやの嫌な記憶を思い出してしまう。


「何を言えって言うんだよ……」

「なんでもいいから、趣味とか好きな事とか将来の夢とか」

「ないよ」

「なんかあるでしょ?」

「最近はバイトかジムくらいしかやってないし……」

「それでも何かあるでしょ?」

「アニメやラノベももう見てないし……」

「将来の夢は?」

「夢なんかある訳ないでしょ……」

「何かあるでしょ?ある男を殺すとか木の葉を潰すとかrevolutionとか」

「だからないって……」


「「「橘さんおもしれー!」」」

 吉田達は再び一斉に歓喜の声をあげていた。


 さすおにかよこいつ等。一体何が面白いんだ……。

 陽キャラのノリはやっぱりわからん。他の女性陣も舌打ちしてるぞ……。




「でもなんかしたい事くらいあるでしょ?」

「家に帰りたい」

「はぁ……」

 橘さんはため息をついた。




「モエ、あんた何か特技はないの?」

「ないよ……」

「なんでもいいから。タイピングが早いとか、絵が上手とか、古谷徹の物真似が出来るとかそういうのでいいから」

「だからないって……」

「それでも何かあるでしょ?よく考えて。なんでもいいから」

「…………」


 特技ったって、僕は何の取り柄もないただの冴えない陰キャラだぞ……。

 



 そう思いつつも僕は考えた。




 何か……、何か僕にでも出来る事……。

 あ、そういえば一つあった。

 でもあれを言ったとしても、だからなんだという話にしかならないような気がする……。

 まあでも、このままずっと黙っているのもなんだし……。




 そう思った僕は発言した。


「左手で鶴が折れる」


 僕がそう発したら、皆の笑い声が部屋いっぱいに鳴り響いた。




「あはははは!」

「うわぁwきめえwwww」

「なんだよそれw片手で鶴ってwしかも左手ってwwww」


 吉田達三名だけではなく、さっきまで不貞腐れていた女子三名まで何故か笑っていた。

 そして勿論、橘さんも笑っていた。




 笑っている。皆笑っている。

 僕を指さして笑っている。

 腹を抱えて笑っている。手を叩きながら笑っている。

 この場にいる僕を除く全ての人間が笑っている。

 

 この楽しい雰囲気の中、僕に許された対応は皆と一緒に笑うか我慢するかのどちらかだけだ。

 もしもこの状況で僕がキレたりしたら、明るいこの雰囲気は一変し、僕は悪者になるだろう。


 僕の意思なんて関係ない。

 リア充達が僕をダシに笑っている。僕はそれを受け入れるしかない。

 

 不愉快に思っているのは僕一人。

 世の中は多数派こそが正義で、少数派は悪だ。

 だからこの状況だと僕が悪だ。

 リア充達が楽しく過ごす雰囲気に馴染めない、それどころか嫌な思いをしている僕が悪なのだ。


 だから橘さんは何も悪くない。

 橘さんだって僕を陥れる為にこんな事をしているのではない。それは僕にもわかってる。


 橘さんに悪気はない。

 むしろ橘さんは、僕をこの状況に溶け込ませる為に皆に笑いを提供したのだ。

 それは僕にもよくわかっている。


 でもやっぱり、頭ではわかっていても、心までは割り切れない……。




「帰る……」

 頭に血が上った僕は、そう言って荷物をまとめて部屋のドアに手をかけた。


「モエ、ちょっと待ってよ!」

 橘さんはそう言いながら、僕の肩を掴んだ。


「どうしたのよ?あんた……」

「アホらしい……」

「なんでそんなに怒ってるのよ?」

 橘さんのその様子から察するに、やはり悪気は一切ない様子だった。


 それが僕にとっては、どうしようもなくイラついた。




 僕は軽い復讐とばかりに、その場にいた皆に聞こえるように告げた。


「橘さん、スカトロマニアだよ」


 僕のその発言を聞き、吉田達は首をかしげた。


「ちょっとモエ、あんた何言ってるの?」

「事実だろ……。あんたは男に糞尿かけられて喜ぶ女だろ……」

「そうだけど、それがどうかしたの?」

 橘さんはまったく恥じらう様子もなく、淡々と答えた。




 そんな橘さんの様子を今この場で見ていた筈の吉田達は、非常にバカな事を言っていた。


「はぁ?何言ってんだあいつ」

「スカトロマニアってw橘さんがそんな訳ないじゃんw」

「いきなり訳わからんこと言って、やっぱキモいわあいつ」


 前々からこいつらはバカだと思っていたが、一体どこまでバカなんだ?

 散々チヤホヤしてる癖に、橘さんが日頃何を言っているのかも聞いていないのか?

 今ここで橘さんが自分で自分がスカトロマニアだって認めてるのに、なんで気付かないんだよ……?


 橘さんの良い面しか見ていないし、そもそもいい面しか見る気がないから、だからこんなバカな事が平然と言えるのか?




 あまりにも馬鹿馬鹿しくて頭に来た為、僕は橘さんや吉田達を無視してその場から出て行った。


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