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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
60/102

24話 フェチ

 ある日の休み時間、僕はいつものように自分の机に突っ伏して寝た振りをしていた。

 何故そんな事をしているのか、賢明な皆様には説明しなくてもきっとわかるだろう。


 そんな時、クラスの女子達のある会話が聞こえてきた。




「ねえ、モエってキモくない?」

「うん、キモイよね」


 僕は他人の雑談を一々気にする程神経質ではないが、どんな奴でも流石に自分の悪口を言われていたら気にしてしまうのが自然だろう。

 僕はつい聞き耳を立ててしまうのであった。


「本当キモい」

「最近モエ、橘さんと連んで変なことばかりしてるよね」


 変なことしてるのは橘さんだけだ。


「ってかさ、橘さんってなんか変じゃない?」

「いつも下品な事ばかり言ってるし」


 僕もそう思います。


「ってか橘さん、男子とばかり話してて女子と話してる所見た事ない」

「女子の友達いないのかなあ?」


 あの人、女嫌いらしいしね。


「最近モエに彼女作るとかって、わけのわからない事ばかり言ってるよね」

「私も変なラブレター送られた。モエって名前書いてあったけど、あれって橘さんの差し金?」


 そうだよ。


「ねえ。橘さんってウザくない?」


 うん、ウザいね。


「少し美人だからって調子に乗ってない?」

「ちょっとシメない?」


 是非ともそうしてくれ。


「やめといた方がいいよ。何されるかわかった物じゃないし」

「モエを使って変な事させられるかもしれないし」


 僕は紳士だからそんな事はしないのに、心外だ……。


「ねえ、知ってる?橘さんって親いないんだって」

「あーあ、なるほどー」

「どおりで常識がない訳だ。変な事ばかり言ってるし」

「頭おかしいもんね」


 確かにおかしい。

 一体どんな環境で育ったら、あれだけイカれた性格になるのだろうか……。


 何はともあれ、橘さんの悪評がついに女子の間でも広まった。

 まあそれも当然か。あの人かなり変だし。


 それにしても、橘さんはよく男子達からチヤホヤされている訳だが、僕と同じく橘さんの性格がおかしいと思ってくれる人もちゃんといると知れたのは、なんか嬉しい。


 まあ僕も仲間とみなされているのがアレなんだけど……。




*




 しばらく寝た振りを続けていると、今度は橘さんの声が聞こえてきた。

 どうやら同じクラスの女子である内田さんに声をかけている様子だった。


「ねえ、内田さん。モエと付き合わない?」

「え……?」


 あの人、またバカな事やってるよ……。


「あんたぼっちで腐女子でしょ?」

「ち、違いますよぉ……」

「あんたどうせ一生処女でしょ?おそ松や黒子のBL同人誌見てグチョるくらいなら、いっそのこと生身の男と交際した方がいいんじゃない?人生妥協も大切よ」

「い、嫌ですよぉ……」

「ここらでモエ辺りで喪失しなさいよ。あれでも一応ついてるし。大丈夫、初めてでもあんまり痛くないわ。意外に大したことないから。私が保証する」

「そんなぁ、困りますよお……」

「じゃあ手だけならどう?それならいいでしょ?」

「誰かぁ……、助けてぇ……」


 弱々しく嘆く内田さんの声を聞き、僕は慌てて寝た振りを中断して橘さんの元へと駆け寄った。




「なんつーこと言ってんだあんた!」

「あら、モエ。丁度いいわ。今ここで口説きなさいよ」

「あんたバカだろ!」

「なんで?内田さんもあまりモテないみたいだから、あんたと付き合えばWin-Winでしょ?」

「どこがだよ!?」

「内田さんじゃ不満なの?あんた面食いね」

「違うよ!お願い!もうこんな事やめてぇ!本当にやめてえ!」

 僕は涙目になりながら抗議した。


「何も泣くことないじゃない……。私はあんたの為を思って……」

「お願いだからやめてえ!本当にお願ぃ!」

「手だけでも嫌なんて、やっぱキモイから無理なのかしら?」

「僕のキモさ以上に、橘さんの誘い方に問題があるんだよ……」


 僕がそう言うと、横にいた内田さんも無言でコクコクと頷いていた。




「そういえばあんた、ToLOVEるダークネスのキャラだと誰が好み?」

「なんでそんなこと教えないといけないの……?」

「あんたの好みのタイプを探ろうと思って」

「教えたくない……。ってか萌えキャラ、もう嫌い……」

「嫌いなら嫌いでいいわ。もしヤるとしたら誰がいい?」


 そういやこの前、ティアーユの陵辱同人誌で抜いたけど黙っておこう。


「そうよ!正攻法じゃ駄目そうだから、フェチ的な側面から彼女を探しましょう!」

「アホらしい……」

「性癖の相性が良ければ彼女が見つかるかもしれないわ!あんたは一体何フェチなの?」

「教えたくない」

「なんでよ?」

「教える必要性が感じられない」

「彼女が出来るかもしれないでしょ?」

「そんなので出来たら苦労はない」

「やってみないとわからないわ」

「逆に聞くけど、橘さんはなんでうんちが好きなの?」


「う、うんち!?」

 横にいた内田さんが、うんちという単語に思いっきり反応していたが、橘さんは構わず会話を続けた。




「私は別にうんちが好きな訳じゃないわよ」

「じゃあなんで?」

「好きな人に汚されるって、凄く幸せな事じゃない」

「ごめん、なんだって?」

「大事な人の汚いもので汚されるって、凄く幸福な事じゃない」

「ごめん、全然わからない」

「好きな人に汚されたい願望。あんたにはないの?」

「だからないよ……」

「そう?気持ちいいのに」


「うんちって……。うんちって……」

 横にいた内田さんは明らかに引いていたが、橘さんはそれに構わず会話を続けた。

 



「っていうか、あんたは私の性癖を知ってるのに、私があんたの性癖知らないって不公平じゃない?」

「あんたが勝手に教えたんだろ……」

「でもフェアじゃない。教えて」

「はぁ……」

 僕は大きくため息をついた。


「もうバカな事しないって約束するなら……、教える」

「バカな事?」

「他の女子に僕と付き合えって言ったり、変なラブレター渡したり、お金やるからヤってあげろって頼んだり……」

「全部あんたの為にやってるのに」

「お願いだからやめて……」

「手コキ頼むのは?」

「それもダメ」

「口は?」

「ダメ」

「足は?」

「駄目に決まってるでしょ……。常識で物事考えてよ……」

「じゃあなんならいいのよ?アナル?」

「エロい事全般頼むのやめて、本当……」

「わかったわよ。じゃあ教えて」


 本当にわかってるのかなあ……。




「はぁ……」

 僕は再び大きなため息をついた。




「ちょっと来て」

 僕は移動するべく、そう言いながら橘さんを手招きした。


「なんで移動するのよ?」

「人に知られたくない」

「たかが性癖ぐらいで」

「あんたがぶっちゃけ過ぎなんだよ……」




*




 僕と橘さんは、人気の少ない非常用階段まで移動した。


「こんな所まで連れてきて、変な気起こさないでよ?」

「起こすかアホ!あんたみたいな性悪のスカトロマニアこっちから願い下げだ!」

「本当あんた、言うようになったわね……」

「はぁ……」

 僕はまたしても大きなため息をついた。


 これで一体、本日何度目だろうか……。


「言っとくけど、くれぐれも他の人にバラさないでよ?」

「わかったわよ」

「もしバレたら、多分卒業するまでネタにされて、同窓会でも格好の酒の肴にされるだろうから……」

「わかってるわよ。いいから早く教えなさいよ」


 本当にわかってるのかなあ……。




 そう思いつつも、僕はスマホに保存されていた石化した女の子の虹画像を橘さんに見せた。


「何これ?」

「……昨日のオカズ」

「え?」

「昨日、これで抜いたの」

「え?意味わかんないんだけど?」

「で、これが一昨日のオカズ」


 僕は別の石化した女の子の虹画像を見せた。


「え……?なにこれ?なにがいいの?」

「こういうフェチなの」

「石化してる女の子見てると勃つってこと?」

「そうだよ……。僕としては、女の子がちょっと苦しそうな顔をしてるのが好みで、破損部位があったりしたら何か抜けなくなるんだけど……。まあ、言ってもわかんないだろうけど……」

「え……?あんたいつもこんなので抜いてるの……?」

「まあ普通のオカズでも抜くけどさ……。3回に一度くらいはこれ系の画像で抜いてるよ」

「え、意味わかんない。キモくない?キモい。キモイ!マジで気持ち悪い!」


 明らかに引いてるな、この人……。


「糞尿好きのあんたにキモイなんて言われたくはないよ……」

「キモイキモイキモイ!なにこれ!?いくらなんでもキモすぎるわあんた!頼むから犯罪起こさないでよ!?」

「変態糞JKのあんたにだけは言われたくないよ……」

「こんなの見てシコるあんたの方がずっとキモいわよ!?あんた女の子をこんな風にしたいの!?」

「僕は空想と現実の区別はちゃんと付いてるから。嫌がる相手に全裸土下座して、スカトロプレイを強要していたあんたとは違う」

「…………」

 痛いところを突かれたのか、しばらく橘さんは黙っていた。




「それにしても中々独創的な趣味ね……」

「あんたが言うなよ……」

「大した奴ね……。私には何がいいのかさっぱりわからないわ……」


 どうでもいいけど、橘さんから初めて褒められたような気がする……。


 でもあまり嬉しくない……。




「ところであんた、一体何がきっかけでこんなキモイ性癖に目覚めたの?」

「ネットでたまたまこういうフェチについて扱っていた記事を見かけて、思いのほか興奮して、それでだよ」

「なるほどね。こんなのでなんで興奮できるのかさっぱりわからないわ」

「だからあんたが言うなよ……。っていうか、だったらあんたはなんでスカトロ好きになったんだよ?」

「え、私?」

「ネットでそういう動画をたまたま見たからとか?」

「他人の糞尿見て興奮出来る訳ないでしょ。バカじゃないの?」

「…………」


 この人、本当わけわかんないわ……。




「じゃああんたは直樹の糞尿にしか興奮しないって事?」

「だから私は糞尿に興奮してる訳じゃなくて、大好きな人に汚される事に悦びを感じるの。スカトロマニアとは違うわ」

「…………」


 さっぱりわからん……。




「ネットとかじゃないとしたら、一体何がきっかけなの?まさか偶然直樹の糞尿をかけられて、それで目覚めたとか?」

「まあ、似たようなものね」

「え……、マジかよ……」

「私よくね、お母さんから生ゴミ投げつけられてたのよ」

「生ゴミ……?」

「私が言う事聞かない時とか、私がちゃんと言う通りに出来ない時とか、よくお母さんに生ゴミを投げつけられてたのよ」

「ちょっと待ってよ……、それって……」

「まあ躾の一環ね。どこの家でもそのくらいのことはするでしょ?」

「いや……、しないよ……」

「そう?あんたの親って随分甘いのね」

「…………」


 この人のズレた性格の原因が少しだけわかった気がする。

 この人、幼少期の親子関係の時点で既におかしい……。




「あんたのその甘ったれな性格は親の教育のせいなの?」


 どう考えてもおかしいのはこの人の家の方だろうに……。


「私の親は結構厳しい方だったから、他にも色々躾けられたわよ」


 他にもって何……?

 これ以外にも何かされてたの……?


 気にはなったが、僕には聞く勇気が湧かなかった。




「私は生ゴミをぶつけられた時よく思ってたわ。『お母さんは私の事を愛しているから、こうして私を汚すんだ』って」

「愛してる人にそんな事しないだろ……」

「うん、そうね。だってお母さん、ある日何も言わずに突然いなくなったし」

「…………」


 だからそういう話……、リアクションに困るよ……。




「その時ね、私はこう思うようになったの。『大好きな人に生ゴミよりもっと汚い物で汚されたい。お母さんは私を汚した後何もしてくれなかったけど、大好きな人には私を汚した後に綺麗にしてもらいたい』って」

「なんでそうなる……」

「自分でもよくわからないけど、多分深い愛情を感じるからだと思う」

「さっぱりわからないよ……」

「そう?まあ別にいいけど」

「…………」


 重えよ……。

 橘さんの性癖、色んな意味で重いよ……。

 



「あーあ、いつか直樹が自分の意思で私を汚してくれる日が来ればいいんだけどなあ……」

「来る訳ないだろ……」

「寂しい事言うわねえ……。私はいつかきっと、土下座しなくても直樹が自分からそうしたいって言ってくれるって信じているわ」


 変な所でポジティブだな、この人……。




 それにしても薄々思ってはいたが、橘さんは幼少期の人格形成の時点で既におかしかったということが発覚した。

 それを踏まえれば、このとんでもなくズレた性格もちょっとは納得出来る。


 そういえば、いつだったかネットの記事で読んだ事がある。


 成長期に親から注がれる愛情によって与えられる安心感を得られない人は、大人になる過程で重大な歪が心の中に発生し、心身のバランスが取れず不安定で他人に依存しがちな人間になるらしい。


 橘さんはまさにそれだ。


 いや、橘さんだけではない。

 片桐さんや小鳥遊さんも間違いなく同じケースだ。


 直樹の周りって、そんな人ばかりだ……。




「それにしても、石化出来る女の子かぁ……、流石に見つけるのは無理ねえ……」

「当たり前でしょ……。いい加減現実と空想の区別を付けてよ……」

「男の子に糞尿かけるのが好きな女の子ならまだ見つかるでしょうけど」

「あんたと同じベクトルで考えないでよ……」

「女の子を石にして動けない状態にしたいってことは、あんたは本能的にSなのね?」

「そうなのかなあ……」

「じゃああんたに合わせて、Mの女子を探してみようかしら?」

「お願いだから、これ以上何もしないで……」

「ああ、ちなみに私はMよ?だからって変な気起こさないでね?」

「どうでもいいよ……」


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