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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
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23話 優しい人

 ある休み時間の事だった。


「あの……、モエ君……」

 僕は教室内にて、クラスメイトの女子である石原さんに声をかけられた。


 僕が橘さん以外の女子から話しかけられる事なんてまずない。

 だが石原さんの顔はかなりひきつっていたので、僕にとって愉快ではない話題を振りに来たという事は一目でわかった。


「こういうの……、困るんだけど……」

 そう言いながら、石原さんは女の子折りされていたピンク色の手紙を僕に差し出してきた。


「じゃあ、そういうことだから……」

 石原さんはそう告げると、僕の元をスタコラと去って行った。


 僕はすぐさま手紙の中身を確認した。




『ずっと前からあなたの事が好きでした。

 だから付き合ってください。

 付き合うのが無理なら一発やらせてください。

 このままだと僕童貞拗らせて死んじゃいます。

 三万円あげるから一発だけやらせてください。

 お願いします。何でもしますから。                                      byモエ』




 その手紙を読んだ直後、僕は自分の机で読書をしていた橘さんの元へと駆け寄り問い詰めた。


「なんだよこれ……」

 僕は橘さんにその手紙を見せた。


「ああ、それね。私が書いたの」

 橘さんは一切否定する事なく自らの犯行を認めた。


「よく書けてたでしょ?」

「どこがだよ……」

「その顔を見るに、どうやら駄目だったみたいね」

「当たり前だろ……」

「それなら宛名を変えて別の相手に送り直しましょう。大丈夫よ。一回くらいダメでも、根気よく何回もやってればいつか彼女くらい……」

 話している途中だったが、僕は手紙を丸めて橘さんの顔面めがけて投げつけた。


「なにすんのよ!?」

「そりゃこっちの台詞だよ!」

 怒声をあげる橘さんに対し、僕の怒声で返した。


「なによ!折角私があんたの為にやってあげたのに!」

「頼むからやめてくれよ……、お願いだよ……」

「なんでよ?上手くいけば彼女かセフレが出来るチャンスだったのに!」

「こんなのでセフレになりたがる人なんていない」

「いるかもしれないじゃない!?」

「絶対いない」

「なんでそう言い切れるの?やってみなければわからないじゃない?」

「やらなくてもわかるよ……」

「そんなネガティブな姿勢じゃ出来る彼女も出来ないわよ?」


 真顔でこんな事を言いのける橘さんを見て僕は改めて確信した。

 橘さんの脳味噌はきっとうんこで出来ている。




「なんなの……。新手の嫌がらせかよ……?」

「違うわよ。私がそんな事するような人間に見える?」

「見えるよ。超見える」


 その上前科だってある。


「あんた私をどういう風に思ってるの?」

「バカで性格がとんでもなく悪い頭のおかしいスカトロマニアの変態」

「あんた私の事そんな風に思ってたの!?」

「事実でしょ」

「違うわよ!そりゃ性格悪かったのは確かだけど、だからこうして罪滅ぼしの為にあんたに彼女を作ってあげようとしてるんじゃない!」

「頼むからやめて……。本当お願い。何もしないで……」

「はぁ……、あんたって本当にネガティブね……」


 そう言いながらため息をつく橘さんを見て、僕も大きくため息をついた。

 この人のバカさ加減には本当に呆れる……。




「ねぇ、モエってどんな子が好きなの?」

「なんでそんな事聞くんだよ……」

「彼女探しの参考にしようと思って。やっぱり椿みたいにスペックの高い子?」

「教える義理はないよ……」

「教えてよ」

「この流れで教えるかよ……」

「そんな事言わないで教えてよ」


 この人本当に面倒臭い……。


「じゃあ、優しい人」

「適当に考えて言ったでしょ」

「別に。本心だよ」

「そっか。椿は全然あんたに優しくなかったもんね」


 その発言を聞いた時、僕は反射的に眉を細めてしまった。


「優しいってことは、あんたから見て都合のいい女ってことよね?」

「確かにそうかもしれないけど、なんかそういう言い方嫌なんだけど……」

「それなら、あんた的に智代はどうなの?」

「片桐さんは……、凄くいい人だと思うよ」

「ふーん、じゃあ付き合いたい?」

「別にそんな……」

「そういえばあんた、智代と仲良かったわよね?」

「仲が良かったって言うか……、よく愚痴を聞いてもらっていたって言うか……」

「メンヘラが好きなの?」

「別にそう言う訳じゃないけど……」

「それもそうか。あんたが好きなのは、やっぱり椿みたいに単にスペックが高くて見た目だけがいいだけの女だからね」

「なんか引っかかる言い方だなあ……」


 それにしても、橘さんってよくこういう皮肉交じりな物の言い方するよなあ……。




「じゃあなんであんたは、椿とは真逆の智代なんかに懐いていたの?」

「なんでって?」

「椿と違って、智代は滅茶苦茶スペック低いじゃない」

「そんな事ないでしょ?」

「そうかしら?メンヘラだし、勉強もあんまりだし、これと言った特技もないし、トラブルばかり起こしてた問題児だったし、見た目だって厚化粧で誤魔化してただけじゃない」

「そりゃ確かにそうかもしれないけど、片桐さんは凄い努力家だよ」

「あんな変なキャラ付けが努力ねぇ……」

「そういう言い方やめてよ。片桐さんはいい人だよ」

「あんたは結構智代の事買ってるのね。ある種の同類意識?」

「僕は片桐さん程立派じゃないよ……」

「あれが立派ねぇ……」

「少なくとも、自分を変える努力もしないで、邪魔な人を排除して好きな人を物にしようとしていた橘さんよりはずっと立派だよ」

「あんた……、言うようになったわね……」

「橘さんみたいな性悪としょっちゅう話してれば、僕だってこうもなるよ」

「…………」

 僕がそう言うと、橘さんは眉間にしわを寄せながら黙った。




「智代が頑張ってたのはわかるけど、なんか頑張る方向性ズレてない?アニメキャラみたいなわざとらしい属性取り繕ったりしてさあ」

「人に嫌がらせしてまで、直樹の彼女になろうとしてたあんたが言うなよ……」

「っていうか、あんたはなんでそんなに智代に肩入れしてるの?」

「別に肩入れしてるって訳でも……。片桐さんは親切だし、僕の話もちゃんと聞いてくれたし、優しかったし……。だからいい人だなあって思っただけだよ」

「ふーん、じゃあつまりやっぱりあんたはスペックが高い女よりも、単に自分の話をちゃんと聞いてくれる優しいだけのメンヘラ女がいいって事ね?」

「凄く気になる言い方だなあ……」

「まあ親切で優しくしてくれる人に好意を持つのは別にそんな変な事でもないけどね。私にとっての直樹もそんな感じだったし」


 この人と同じにされるとか、なんか凄く嫌なんだけど……。




「折角だから智代の家に押しかけたら?無理やり犯したら案外喜んでくれるかもよ?」

「エロ漫画じゃあるまいし……」

「むしろレディコミね」

「どっちでもいいよ……」

「大丈夫よ。メンヘラは性欲強いって相場が決まっているから」


 直樹にした夜這い行為もそうだが、橘さんってちょっとエロゲやエロ漫画と現実を混同している節があるよなあ……。

 そういや前に男女の貞操意識が逆転している世界って設定のエロ漫画があったけど、常にヤることしか考えてない橘さんってまるでそれに出て来る登場人物みたいだ。




「っていうか、橘さん、改心したって言うなら片桐さんに謝りなよ」

「なんで?」

 橘さんは全く悪びれる様子もなく首をかしげた。


「いや、だって片桐さんが学校来なくなったのは半分は直樹のせいだけど、もう半分は橘さんのせいでしょ?」

「嫌よ」

「なんで……?」

「嫌いだから」

「まだ嫌ってるのかよ……」

「当たり前でしょ?私は納豆と女が大嫌いなの。特に直樹によりつく女はもっと嫌い。邪魔だから」


 その発言を聞き、僕は大きくため息をついた。




 この人、女嫌いだったのか……。

 だから男子とばかり絡んでいたのか……。

 なんていうか、色々とどうしようもないよこの人……。


 正直、怒りを通り越して呆れるしかない。


 


「智代は落ち込んでてずっと学校休んでるから、今優しくしたら案外コロッと落ちるんじゃないの?」

「なんであんたの発想はそういつもゲスいんだよ……」

「いいじゃない別に。童貞卒業のチャンスよ?そこいらの女子に粉かけるよりずっと可能性はあるわ。だからさっさと智代を口説いてきなさいよ」

「無理だよ……」

「なんで?」

「だって片桐さん、凄く傷ついているんだもん……」

「だからあんたが慰めるのよ。大丈夫よ!絶対いけるって!多分智代も、そんなにあんたの事悪く思ってないから」




 橘さんはそうは言うが、片桐さんが僕がそういう仲になる事はまずないと思う。


 傷ついていた片桐さんに会いに行ったあの日、片桐さんはどれだけいい人で、どれだけの事を僕にしてくれて、僕は片桐さんにとても感謝しているという事を包み隠さず伝えたが、片桐さんは依然として学校を休み続けていた。

 きっと僕の片桐さんに対する気持ちを聞いても、片桐さんの心は満たされなかったのだろう。

 もしも片桐さんが、あの時の僕の発言を少しでも嬉しいと感じてくれてたら、きっと立ち直って学校にだって来てくれた筈だ。


 だから僕なんかが付き合いたいと言っても、片桐さんは喜んでくれない。


 それどころかきっと嫌な思いをする。

 きっと片桐さんを困らせる事になる。




「無理だよ……。前に会いに行った時も、片桐さん全然喜んでくれなかったし……」

「でもあんただって、智代がヤりたいって言ってきたら喜んでヤるでしょ?」


 なんつー下品な質問してるんだこの人……。


「っていうか、片桐さんは異性として好きとか思ってた相手じゃないし……」

「そうなの?私から見たらあんたは智代に常にデレデレしてたような気がするけど?あんた明らかに椿より智代の方を慕っていた感じじゃない?」

「そりゃいい人だもん」

「ヤりたいと思わない程度に?」

「あんたの頭の中じゃ男女間の付き合い=ヤる事なの?」

「違うの?」

「そんなだから直樹に振られるんだよ……」

「でもそれが恋愛の本質でしょ?」


 なんていうか、ヤリサー所属のオラついたチャラ男みたいな事言うなこの人……。




「椿だってきっと毎日直樹とヤりまくってるでしょ?」

「橘さんじゃあるまいし……」

「あいつも相手に依存するタイプみたいだし、する時は結構激しいのかも」

「そうなの?」

「見るからに性欲強そうでしょ、あいつ。きっと暇さえあれば毎日ヤってるわ」

「そうは見えないけどなあ……。精々週2、3回くらいでしょ?真面目そうだし」

「真面目な女は好きな男の気を引く為に大嫌いなキモオタとなんか付き合わないし、人の彼氏を寝取ってラブホテルにも行かないし、寝取った相手の顔面殴って嘲笑ったりもしないし、元カレと彼氏の元カノがいる教室で堂々と彼氏と仲良く手作り弁当つついたりしない」

「そうだね……」


 僕も小鳥遊さんの被害者だから、橘さんの言い分はよくわかる。

 この人も大概だが、小鳥遊さんの方も十分すぎる程におかしい。


 っていうか、今まで真面目な優等生だと思っていたが、最近小鳥遊さんが一番おかしいような気がしてきた……。




「それにああいう阿婆擦れは性欲が強いってのが世間の常識よ」

「同棲してた時に四六時中直樹とヤりまくってたあんたはどうなるんだよ……」

「私はいいのよ」

「なんで?」

「直樹の幼馴染だから」

「…………」


 意味わからん……。




「あいつさ、あんな虫も殺せないような、いかにも私か弱くて清楚な優等生の女の子です的な顔しておきながら、裏では大喜びで直樹のちんぽしゃぶったり、直樹の顔に跨ってまんこ舐めさせたりしてるのよね?本当にクソビッチよね、あいつ」

「あんただってそうしてただろうに……」

「私はいいのよ」

「なんで?」

「直樹の幼馴染だから」

「…………」


 わけがわからないよ……。




「やっぱり、椿が上になってるのかしら?」

「さあ、どうなんだろう?」

「直樹が上だと嫌だなあ……」

「なんで?」

「私の時、いつも私が上だったから……」

「…………」

「いや、頼めば上になってくれたんだけどね?」

「…………」




 直樹ってもしかして、マグロなのか……?


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