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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
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9話 ラブホ

 『この話暗過ぎるんだよ。いい加減明るい展開こいよ。とりあえず女とくっつけよ』と思ったそこのあなた。

 残念ながらそんな展開はない。




 この物語の舞台は異世界でも命がけのオンラインゲームの中でもない。

 この物語はあくまで現実世界を舞台にした学園ハーレム物であり、僕はその脇役だ。


  クドいようだがこれはあくまで現実世界が舞台だ。

 その上僕は脇役のキモオタ。したがってご都合的な展開は来ない。

 なので話が陰鬱なまま進行していくのも致し方ない。


 友情、努力、勝利。そんな都合のいい物は僕にはない。

 精々薄っぺらい友情、無駄な努力、強者のみが奪っていく勝利辺りがいい所だ。


 現実というのはある人種を除くと、嫌な事があるとまた別の更に嫌な事が起きるのが常だ。

 だから辛い展開が続いたからと言って、アニメやラノベみたいに楽しい展開が必ず来るなんて道理はない。




 でも流石に、そろそろここらで何が少しくらいいい事があっても罰は当たらないだろうに……。




*




 僕が直樹や伊織と再会してから数週間経った。


 学校での生活は以前とさほど変化はない。

 吉田達に絡まれ、女子達にキモがられ、ちょくちょく吉田達以外の男子にも絡まれ、先生から態度がだらしないとか曖昧な事で注意され、つまらない学業に励む。


 小鳥遊さんと距離を置いたからといって、これと言って変わった事はない。

 いつも通りの憂鬱な学園生活だ。




 やっぱり直樹と橘さんは相変わらず学校に来ない。

 きっと家でヤりまくってるのだろう。


 一体二人でどんな風に性欲を発散しているのか、興味が一切ないという訳ではないが、気分的に不愉快になりそうだからあまり知りたいとは思わない。




 友誼部があった頃よりは僕を取り巻く状況は大分マシになってる筈なのに、何故かあの時以上にやるせない気持ちが僕の心の中を渦巻いている。


 元々小鳥遊さんとは週に一回か二回程度しか交流していなかったが、それでも話せる相手がいないということに孤独感を覚えているのだろうか。

 自分から距離を置きたいと申し出たのに、我ながら勝手だと自分でも思う。

 それでもやっぱり寂しいものは寂しいのだ。


 結局のところ、僕が交流する機会がある人間は吉田達のように僕をからかいに来る連中だけだ。

 でも話題がいつも僕に対しての罵倒や侮辱や嫌がらせなので、話していてもまったく楽しくない。




 学校以外の場所でも憂鬱なのは変わらない。

 

 バイト先では毎日毎日先輩に怒られたり、クレーマーの常連にパーラメントじゃなくてパーラメントワンをよこせって怒鳴られたり、パーラメントワンを渡すとパーラメントをよこせって怒鳴られたりする。

 そもそも小鳥遊さんと距離を置いている以上、洋服代やデート代を稼ぐ必要性もなくなったが、店長にバイトを辞めたいと申し出るのが面倒なのでとりあえず続けているのだ。

 だが正直、何のためにバイトしてるのかよくわかなくなってきたので仕事にはあまり身が入らない。


 相も変わらず僕はジムに通って体を鍛えているが、どうせ鍛えた所で周りの奴等からキモがられるのに、一体僕は何を思ってジムに行っているのだろうか。

 なんで毎日一時間近くも有酸素運動をし、様々なトレーニングマシンを駆使して筋肉を鍛えているのだろうか。

 僕は何のために毎日汗を流し、筋力トレーニングに励んでいるのか。

 一体僕は何を思ってわざわざ自炊をしてまで脂肪の溜まりにくい食事を意識しているのだろうか。


 どうせ何をしようと周りからキモがられるのに、何故僕は毎日律義にワックスを使って髪を立てているのか。

 何故僕は髪を染め続けるのだろうか。

 何故僕はこんな嫌な学校に毎日に通い続けているのか。

 何故僕はこんなクソみたいな社会で活躍する為に毎日つまらない勉学に励んでいるのか。




 そもそも一体僕は何がしたいのか。

 僕には何もかもがわからない。


 っていうか、何が楽しくて生きているのかすらもわからない。




 気持ち的な問題は色々あれど、僕の私生活の内容は以前とはあまり変わってはいない。

 交際していた小鳥遊さんと距離を置いたにも関わらず、日常生活自体に変化はあまりない。

 だが、ここ数日で劇的に変わった事が一つだけある。


 僕はアニメを週に二本しか見なくなった。

 直樹や橘さんや伊織と再会したあの日以来、僕は殆どのアニメを見なくなった。


 というか見れなくなったのだ。見ていると辛くなるのだ。

 内容にもよるが、大抵の作品に対して面白いという感情よりも先に不快感が湧くようになったのだ。

 特に萌えアニメはキツい。




 僕が見ていたアニメの大半が深夜枠だった。

 でももう深夜アニメは一本も見ていない。

 深夜枠のアニメは基本的にオタクっぽい物が多いが、僕はオタク臭のキツいのは全体的に駄目になったのだ。


 かと言って、朝やゴールデン帯の物を数多く見ているのかと言われれば、別にそうでもない。


 ドラえもんやクレしんなら内容的に問題はないだろうが、特番で中止になる事が多いのでわざわざ放送日を狙ってまでテレビを付けるのが面倒臭い。


 ポケモンは最近微妙にオタ臭がキツくてギリギリアウト。

 ヒロインがオタに媚び過ぎで受け付けない。


 ナルトはヒロインがいい子過ぎて完全にアウト。

 どうしてもこんな男の願望詰め込んだような女が現実にいる訳ないだろと思ってしまう。

 しかもヒロインのスペックが、美人で巨乳で一途で性格も良い良家の娘とか、僕の不快感を駆り立てまくるので見るに堪えない。


 ビバップや蟲師みたいな媚び感ゼロのアニメならまあ見れるだろうが、豚に媚びたアニメが大量生産されている昨今でわざわざその手の硬派系作品を探してまで見るのは非常に面倒臭い。

 っていうか、もうそこまでしてアニメを見たくない。


 夏休み中は毎朝早起きしてランニングしていたが、今は早起きするのが面倒なので内容的に問題なさげなドラゴンボールやワンピースは見ていない。

 元々録画してまで見る程好きでもなかったし。




 以上の理由で、現在僕が視聴しているアニメはまる子とサザエさんの二本のみである。


 僕はアニメを視聴するに当たって、楽しむより先に不快感が先行したり、面倒臭いという感情が来るようになったのだ。

 いや、アニメやラノベに対する情熱自体が失せてきたと言った方が的確だろう。


 少し前まで狂ったように深夜の萌え系アニメばかり見てたのが嘘みたいだ。


 何故こうなってしまったのか、理由は色々あるだろうが、僕は考えた結果ある一つの仮説を立てた。




 アニメやゲームのようなオタク文化が市民権を得てたから数年の時が経った。

 僕が生まれる前の時代は、オタク趣味を持っていると言うだけで性犯罪者扱いされていたが今は違う。

 オタク文化は十分に社会に浸透している。

 人によってはステータス扱いされることもある。


 だからオタク趣味のある伊織やその彼女も笑いながら堂々とアニメの話が出来るし、学校等でも楽しく過ごす事が出来る。

 いや、伊織だけじゃない。今の時代リア充でも美少女アニメくらい普通に見る。

 単純に好きだからとか、流行っているからというのが主な理由だろう。




 でも僕は違う。


 アニメやオタクが市民権を得た今でさえ、僕はキモオタのモエというレッテルを張られ、肩身の狭い日々を過ごしている。

 時代がオタクに対して寛大になっているにも関わらず、何故僕は肩身の狭い日々を過ごしているのか。

 単純に僕の外見がキモいという事以外にも色々と理由はあるだろうが、とりあえずそれは置いておこう。


 リア充達は趣味や話題作りの為にアニメを楽しんでいる。

 だが僕は違う。僕にとってアニメは現実逃避の手段だった。

 アニメやラノベを見るのだって、嫌な現実を紛らわす為だ。


 アニメやラノベで活躍する主人公に自己を投影させ、ヒロイン達に慕われている主人公をまるで自分のように錯覚し、辛い現実から目を逸らしていた。

 それが僕のオタク文化の楽しみ方だった。




 僕とリア充達とでは、創作物に対する捉え方が根本的に違うのだ。

 奴等は楽しい日常をより楽しくする為に、あくまで娯楽としてアニメを見る。

 でも僕は嫌な日常を忘れる為に、現実逃避の手段としてアニメを見る。


 でもこんな事をした所で、僕の陰鬱な日常は何も変わらない。

 アニメやラノベの中の人物がいくら幸せな思いをしようと、当の僕の人生には何の変化も起こらない。




 恐らく、僕はその事に気付いたからアニメ等が楽しめなくなったのだろう。


 勿論小鳥遊さんや橘さんとの交流により、現実の女の子がいかに理不尽で身勝手なのかを知り、二次元の世界の女の子がいかに不自然で男にとって都合の良い歪な存在なのかを知ったのも一因だろうし、完全にそれだけが原因だとは言い切れない。




 でも僕の日常は前にも増して無気力な物になったというのは揺るぎない事実だろう。




 学校は相も変わらずつまらない。

 ウザい奴が沢山いて憂鬱な事も満ち溢れている。


 家族との仲は元々そんなに良くなかった。

 その上現実逃避の手段であったアニメやラノベも楽しめなくなった。

 だから家にいても全然心は満たされない。


 ジムに通うのは惰性であり、趣味ではない。

 バイトだって単に辞めたいと切り出すのが面倒だから続けているだけだ。




 これらの他に僕がする事と言ったら、精々ネットの動画サイトでレトロゲームの実況動画を見ながらエロ画像を集めてオナニーするくらいだ。

 不思議な事に、萌えアニメや萌え系ラノベは見れなくなっても、エロ漫画やエロ同人誌ではちゃんと勃つのだ。

 人の性欲とは不思議なものだ。




*




 そんなダウナーな日常を過ごしていたある日の事だった。

 ある事件が起きた。




 朝のホームルームにて、地域住民から昨日うちの生徒がラブホテルに入ってると苦情が来たと、担任の細谷先生から説明されたのだ。

 

 細谷先生は『恋愛するなとは言わんが、せめて制服着て入るのだけはやめてくれ。対応するの俺らなんだから……』と非常にやる気のないお説教を僕ら生徒にしていた。

 あとその後『避妊だけはちゃんとする事』ともっともな忠告をしていたが、残念ながらまったくもって僕には関係ないというのが悲しいところである。




 それにしても、不埒な生徒もいたものだ。

 僕にだって一応彼女は出来たが、今は疎遠状態で付き合っていた当初から今に至るまでずっと手も繋げないのが現状だ。ホテルどころか楽しく会話した事すらない。

 それなのにこんな事をする生徒がいるだなんて、まったくもって不道徳極まりない。

 最近の若者の性は乱れていると様々なメディアでよく聞くが、まさか直樹や橘さんの他にもこんな不純な事をする奴がいるだなんて、非常に嘆かわしく思う。


 羨ましいとは思うが、何故制服で行くのだろうか。

 脳が性欲で支配されているので物事を深く考えられないのだろうか。

 はたまた、学校から帰って着替えるまで待てない程に盛かっているのだろうか。




 まったく、発情期の猿かって。


 リア充のやることなす事、やはり僕には理解できない。




*




 僕がそんな事を思っていた次の休み時間にて、吉田達三名がまたいつものように僕に取り囲んできた。


 てっきりいつものように僕に不愉快な事を言ってくるのかと思いきや、吉田達は何故か何も言わずに異様なまでにニヤニヤしていた。




「おい田中wお前モエにあの事教えてやれよwww」

「えー、嫌だよー!俺そんな事出来ないって!吉田行けよ吉田ー!」

「俺だって嫌だよ!こんな残酷な事言えねえよー!」


 なんだよこいつ等、さっきから訳のわからん事ばかり言いやがって……。


「じゃあじゃんけんで決めようぜw」

「よし!そうしようぜ!」


 吉田達三名は僕のすぐそばでじゃんけんを始めた。




「「「じゃんけんポン!」」」




「うわー!俺負けちまったよおー!」

「じゃあ吉田、頼むわ!」

「よろしく頼むぜw」


 一体何がよろしくなんだか……。

 ウザいからさっさとどっか行ってくれよ。




「なあ、モエ。お前さっき細谷が言っていたラブホ入っていた生徒、誰か知ってるか?」

「知らないよ……」


 どうせどっかのヤリチンと股の緩そうなクソビッチだろうに……。


「A組の木村がたまたま見たらしいんだけどさあ……。ふふ……、ああ、駄目……!無理!言えないって!」

「いいから言えよー!」

「じゃんけん負けただろw」

「駄目だって!無理無理!」


 なんだよこいつ等……。

 いつもウザいけど、今日はやけにウザいなあ……。


「じゃあ言うぞ!言うからな!」

「おう!言え言え!」

「頑張れ吉田ー!」


 何が頑張れだよ……。

 誰と誰がラブホに入ろうとどうでもいいよ……。






「昨日ラブホ入ってた生徒ってさ、小鳥遊……、らしいぞ」






「は……?」




「だから、小鳥遊なんだよ」





 

 吉田のその発言を聞いた時、僕の頭が真っ白になり、気が付くと僕は教室を飛び出し一心不乱に走っていた。


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