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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
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8話 嘘っぱち

 今日は嫌な事が沢山あった。

 僕はせめてもの気晴らしにと、自室のPCでソードアートオンラインを見ていた。

 

 ちなみに僕は、最初からリアルタイムでこのアニメを見ていた訳ではない。

 最初にこの作品に触れたのは、伊織が録画した物をDVDに焼いてくれた奴を貸してもらったのがきっかけだ。


 そして今見てるのが、その時伊織に貸してもらったDVDだ。

 借りパクではない。伊織が友情の証として僕にくれたのだ。

 DVDの表紙に、伊織の下手くそな字で『ソードアートオンラインその1』と書いてあるのが何とも味である。




「つまらないな……、このアニメ……」




 一応このアニメは僕のオタクデビュー作品だけあって、思い入れのある作品だ。

 だけど不思議なことに、今見ても全然面白くない。

 ほんの数年前はあんなにハマってたのに、何故か少しも楽しめなかった。




「このアニメ……、こんなにつまらなかったっけ……」




 というか、面白いつまらない以前に、このアニメのどんな点に魅力を感じていたのかすらもわからない。

 結構殺罰とした世界観なのに、全体的にご都合的で、主人公に課せられた過酷な戦いもその後必ずくるヒロインと過ごすハッピー生活の為の布石みたいで、予定調和感が漂ってきてなんだか嫌になる。

 オマケにこのアニメに出て来る女の子たちは、皆主人公をチヤホヤしてくれる。


 全ての面で僕の人生とは真逆で、全然感情移入出来ない。

 というか、気持ち悪いとさえ感じてしまう。

 大好きだったシリカにも一切魅力を感じられない。


 昔はあんなに好きな作品だったのに、今はもう何をどう楽しんでいたかすらもよくわからない……。

 これはもしかすると、僕が年を取ったせいでアニメの好みが変わったせいなのだろうか?




 そう思った僕は、口直しにと録画してあったリゼロを見ることにした。




「……つまらない」




 何故だ……。

 何故これもつまらなく感じるんだ……?

 ほんの数日前まで、毎週楽しく見ていたアニメだぞ……?

 なのになんで、こんなにつまらなく感じるんだ?


 僕の大好きななろう作品だぞ?

 異世界が舞台で、主人公がニートで、可愛くて魅力的な女の子に慕われる。いかにも僕が好みそうな作品なのに、なのになんでこんなにつまらないんだ……?


 面白いつまらない以前に、そもそもなんだか受け付けない。

 ストーリーも舞台設定も、主人公もヒロインも全部が気持ち悪く感じる。

 この手の作品を見て気持ち悪いだなんて、少し前の僕なら考えもしなかった筈だ……。

 なのに何故?




 ちょっと前まで大好きだったレムにもエミリアにも、今はもう何の魅力も感じない。

 それどころか、こんな童貞の妄想を体現した女キャラ現実にいる訳ない、男にとって都合が良過ぎてなんか不自然で気持ち悪い、とさえ思えてしまう。


 その上何故か、このアニメを見ていると知り合いの事を思い出してしまう。

 スバルを見てると、全然似ていないのに何故か直樹や伊織の顔がチラつく。

 レムやエミリアを見てると、何から何まで違うのに何故か橘さんや小鳥遊さんや伊織のブスな彼女の顔が思い浮かぶ。

 パッとしない主人公に擦り寄って、ひたすらチヤホヤしてくれる女の子達という図式が、直樹や伊織を取り巻いていた環境とダブって見えるのだろうか。




 その後、僕はこのすばや劣等性やダン待ちやGATE等の他のアニメを見てみたが、どれもリゼロや竿と同様にまったくもって楽しむ事ができなかった。

 アニメだけではなく、いつも読んでいるラノベも読んだが、やはりそれも楽しめなかった。

 アニメやラノベを見ていると、どうしても気持ち悪いと思ったり、知人の顔を思い出したり、自分の身に起こった嫌な思い出の数々を思い出してしまう。


 異世界が舞台だったり主人公がチヤホヤされるのがダメなのかと思い、ごちうさやきんモザやゆゆ式等の男キャラが出てこない美少女動物園系の日常アニメを見てみたがやっぱり楽しめなかった。

 やはりこれらに対しても嫌悪感を覚えてしまって、まったくもって楽しめない。

 なんていうか、美少女キャラそのものが男にとって都合が良過ぎて、何だか不自然に思えて気持ち悪く見えてしまう。




 どうしてこうなってしまったのだろうか……。




 短い期間に嫌な事が集中していた為、僕の心がストレスの許容量を超えてしまい、僕のメンタルに何か致命的なダメージを与えてしまったのだろうか。

 そのせいで、僕は今まで好んで見ていたアニメ等を楽しむだけの心の余裕すらもなくなってしまったのだろうか。


 一応考えてはみたが、僕がこれらのアニメやラノベ等が楽しめなくなった理由はやはりハッキリとはわからない。

 だが恐らく、これらの作品は僕が現実で過ごしている生活と大きな隔たりがあるというのが、理由の一つであると見て間違いないだろう。




 この手の美少女が出て来る作品は、まず例外なく男にとって非常に都合のいい世界観が展開される。


 主人公を好いていて、常に主人公を全面的に肯定してくれる女の子。

 主人公にとって居心地が良く、ハッピーエンドが前提のストーリー。

 異世界やTUEEE、チートにハーレム。

 大多数の男の願望を描いている為、現実ではまずありえないくらいの理想的な世界が構築されている。


 視聴者である男を満足させるのが第一の作風なので、この手の作品の主人公は漏れなくハッピーになる。

 主人公は大活躍するし、悪者は倒されるし、主人公に惚れる女の子もいくらでも出てくる。

 たとえ不幸な事が起きても、それは必ず後でハッピーな展開を迎える為の前振りで、絶対にカタルシスが用意されている。




 でも現実は違う。

 僕は社会で評価されるような人間ではないし、僕を傷つけて楽しむ奴ものうのうと生きている。

 僕を好いてくれる女の子だっていないし、絶えず嫌な事しか起きないのでカタルシスなんてある訳がない。

 ハッピーな展開だって用意されている訳もない。


 少なくとも僕にとっての現実はそうだ。

 僕の過ごす現実とは、アニメやラノベの主人公とは完全に真逆の世界なのだ。




 でもあいつ等は違う。

 伊織も直樹も、彼女を作って幸せに暮らしてる。

 あいつ等は僕と同じ現実の世界に生きているのに、アニメの主人公みたいに幸せになっている。


 僕に嫌な思いをさせた奴は皆そうだ。皆僕と違って幸せになっている。

 僕をいびる吉田も佐藤も田中もその他諸々のウザい連中も毎日楽しそうにしている。

 僕のアバラを二本折ったリア充や、それを見て笑っていた連中も、きっと今も毎日楽しく過ごしている筈だ。




 あいつ等はアニメやラノベの主人公と同じで、多少不幸な事があっても、それはその後必ず来るハッピーへの前振りだ。

 嫌な事があっても絶対に後でいい事があるように出来ている。


 友誼部の崩壊だってそうだ。

 あれは直樹にとって辛い経験だったかもしれないし、友誼部の実態がただの茶番であると知ったのは直樹にとってはかなりショックだっただろう。

 でも今直樹は橘さんと付き合って、同棲までして毎日やる事やって幸せに過ごしている。

 ちゃんとハッピーになっている。




 でも僕は全然幸せじゃない。

 小鳥遊さんと付き合ってもなお、僕を取り巻く現実は嫌な事ばかりだ。

 退屈な学業。やりたくもない勉強。僕を虐めるリア充達。僕をキモがる女子達。贔屓する教師。バイト先の嫌な先輩。怖いクレーマー。将来の不安。嫌な家族。嫌な事ばかり言ってくる小鳥遊さん。

 こんな僕の生活にハッピーなんて用意されている訳がない。




 片桐さんだって言っていた。

 人生という物は、ちょっとばかしい事があっても、必ずそれを覆す程の悪い事が起こってしまうと。

 僕もそう思う。


 その上僕にとっての人生という物は、いい事なんて滅多にないのに悪い事ばかりは何故か重なってしまう。

 あばら二本折られた時の事なんかいい例だ。


 リア充一人の気まぐれであんな大怪我させられただけでも既に最悪なのに、何故学校はもみ消しなんてしたのだろうか。

 しかも何故あの最悪なタイミングで、父の会社が潰れかけて、母方の祖父が死んだのだろうか。

 あそこまで悪い事が重なると、もはや作為的な意図まで感じるレベルだ。




 今日だってそうだ。

 僕が小鳥遊さんと最低なデートをしているタイミングで、都合悪く直樹と橘さんのデートに出くわし、小鳥遊さんが泣きだし、これまた図ったようなタイミングで彼女連れの伊織と再会して僕は凄まじく嫌な思いをした。

 挙げ句の果てにアニメまで楽しめなくなった。




 何故こうも悪い事ばかりが重なるのか。

 神様ってのが橘さん以上の性悪なのか、はたまた僕みたいな人種には逆ご都合主義とでもいうべき力でも働いているのだろうか?




 いい事なんて殆どない。

 僕の住んでいるこの世界はアニメとは違い、嫌な事が起きてもそれを巻き返すような展開は起きない。

 嫌な事が起きると特に救いもなく、更に追い詰めるかのように別の嫌な事がまた訪れる。


 片桐さんもそうだった。

 片桐さんは家庭環境の時点で既に最悪だったのに、更に追い打ちをかけるかの如く不幸な事ばかりが立て続けに起こり、精神的に深く傷ついた。




 もう十分悲惨なのに、たまにちょっとでもいい事があると、必ずそれを帳消しにするくらいの嫌な事が起きてしまう。

 アニメやラノベならまだしも、現実では普通に生きてたらそうなる筈だ。


 僕達にアニメのようなハッピーは来ない。

 創作物と現実は違う。

 だからそんな事を嘆いていても仕方ないという事は僕でもわかっている。




 でも、どうしても納得のいかない事がある。




 じゃあ直樹や伊織は?なんであいつ等は彼女と楽しそうに過ごしてるんだ?

 あいつ等はアニメやラノベの世界に生きている訳でもないのに、なんであんなに幸せそうにしていられるんだ?

 あいつ等と僕とは一体何が違うんだ?

 あいつ等を好いてくれる人は沢山いるのに、どうして僕には一人もいないんだ?

 それが普通なのか?

 あいつらの周りが普通で僕だけがおかしいのか?

 おかしいのは僕だけなのか?


 僕の基準だと彼女なんている方がどうかしてると思うが、もしかすると連中の方がまともで、そんな事を思う僕の方がおかしいのか?

 僕に酷い事をしたり、僕に嫌な思いをさせる奴がまともで、僕の方がおかしいのか?

 だからいつも僕ばかりが酷い目に遭うのか?


 だったら片桐さんは?

 酷い目にばかり遭っている片桐さんも僕と同じなのか?

 片桐さんもまともじゃないのか?




 そもそもまともって何?

 このクソみたいな世の中で一体何がまともなの?

 あんな嫌な奴ばかりがいい思いをして、僕や片桐さんみたいなのばかりが酷い目の遭うこのクソみたいな社会で一体何をもってまともだって決めればいいんだ?




 そもそも、こんな事を思う時点で僕はまともじゃないのか……?






 僕には何もわからない。

 片桐さんにこのことを言ったら、どう思うんだろう……。




 ただ一つ言えるのは、萌えアニメなんて全部嘘っぱちのフィクションであるという事だけだ。






 今『この話主人公ウジウジし過ぎてて超ウゼー』って思ったそこのあなた。

 今の僕とまったく同じ立場に立ったとして明るく笑う事が出来る精神構造をした人間がいると言うなら今すぐここに連れてこい。


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