表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
42/102

6話 違う生き物

 時々、リア充が僕とは別の生き物のように思える事がある。


 アドレス帳は100件以上登録されてるのが普通だったり、彼氏彼女がいるにも関わらず合コンに参加して新しい出会いを探したり、恋人と別れてギャーギャー嘆いてると思ったら一月もしない内にまた新しい恋人を作ったり。

 リア充のやることなす事、何一つとして僕の理解が及ばない。


 僕との意識や価値観の差があまりにも広過ぎて、DNAレベルの時点ですでに違う生き物とさえ思えてくる事が頻繁にある。


 今回の直樹と橘さんの一件だってそうだ。




 あれから約二か月、僕は彼ら二人が何をしていたか知らない。

 夏休みも挟んだこの空白の二カ月の間に、あの二人の間に何があったのか、典型的な非リア充である僕には到底想像できない。


 だがこれだけは言える。

 この空白期間の間に、あの二人は幼馴染兼親友という一線を越えたのは間違いない。

 あの二人の間に何かが起こり、それにより二人は同居する事になり、交際に近しい親密な関係になったのだ。




 加えて、彼らはここ二カ月ずっと学校をサボっていた。

 年頃の若い男女が一つ屋根の下で、学校サボってヤる事と言ったら一つしか思いつかない。


 彼ら二人の関係がどこまで行っているか正確に聞いた訳ではないし、彼ら二人の家族が二人の同棲に対して何を思っているかもわからない。

 だからこれは僕の推測の域を出ないが、恐らくする事はやっている筈だ。

 

 直樹は多分橘さんと既に何度も……、というか日常的にヤってる筈だ。

 特に確証はないがきっとそうだ。


 橘さんは病的なまでに直樹のことを好いていた。

 一つ屋根の下で、実質付き合ってるみたいな状態で、あの二人の間に何も起こらないなんてありえない。


 今日の二人で仲良くアイスを食べている様子だって、どう見ても友人同士が交流するような感じではなく、恋人同士の楽しいデートのワンシーンにしか見えなかった。


 色々あったけど、あの二人はそういう仲になったのだ。




 まったく、何が友誼部で仲良くやって行きたいだ。

 何が皆と仲良くやりたいから卒業するまで交際は待ってくれだ。

 結局やる事はちゃんとやってるんじゃないか。


 どうせ発情期の猿みたいに、学校来なくなるくらい夢中になって橘さんとヤりまくってるのだろう。


 毎度の事だがあいつの不誠実さには反吐が出る。




 もっとも、恋人同士でエロい事をするのが悪い事じゃないなんてことは僕だって知っている。


 何もエロ漫画やエロ同人に限った話ではない。

 好きな者同士がエロい事をする。それは男女の関係において必然だ。


 流石に学校サボってまでヤりまくるのはどうかと思うが、エロい事自体は悪い事じゃない。

 むしろそれに対し問題があると指摘する方がどうかしている。それは僕もわかっている。


 僕の奴に対する苛立ちは勿論奴の不誠実さにあるのは確かだ。

 でもぶっちゃけて言うと、僕の抱いている感情はただの妬みという面が強い。




 直樹にとっての橘さんとは違い、小鳥遊さんは僕に何もさせてくれない。

 僕だって付き合って二カ月くらいになるのに、未だに小鳥遊さんとは手すら繋いでいない。


 手を握る事も楽しくおしゃべりする事も、小鳥遊さんは何もしてはくれない。

 勿論これから先親密な関係に進展する気配もないし、当然エロい事なんて夢のまた夢。

 小鳥遊さんは凄まじい程に美人だけど、僕には何もさせてくれない。




 だが直樹は僕とは違う。

 したいと言えば橘さんはどんなことでもさせてくれるだろう。

 橘さんは直樹の事が大好きだから、頼めばきっとどんなことでもしてくれる。


 僕なんかとは全然違う。


 いい思いをするのはいつもあいつばかりだ……。




 家でヤってる途中にショベルカーが突っ込んできて、橘さんと二人揃って事故死でもしてくれればいいのに……。




*




 僕はサーティーワン店内にて泣きじゃくる小鳥遊さんをなんとか近くの公園のベンチまで誘導し、小鳥遊さんが泣き止むまで見守ることにした。


 周囲の通行人達の視線が痛かったが、小一時間程泣いた後小鳥遊さんは泣き止み、とりあえずは落ち着いた。




 小鳥遊さんは「なんで小夜ばかり……」とか、「なんであたしじゃないの……」的な愚痴を永延と呟いていた。


 こういう時、アニメの主人公なら泣いてる女の子を優しく抱きしめたり、頭を撫でたりしてなだめるのだろう。


 でもこれは現実。そんなに上手くは行かない。

 僕が小鳥遊さんにそんな事をしたら、確実に嫌がられるのは間違いない。


 というか、最悪性犯罪で訴えられかねない。




「直樹くんは、小夜の何が良かったんだろう……」


 そんな事、僕にわかる訳がない。


「顔もスタイルも成績も家柄だって……、どう考えても私の方が、小夜より直樹くんの彼女に相応しいのに……」


 直樹に相応しいってなんだよ。

 あんな奴に相応しい彼女になれたとして、一体何が嬉しいんだこの人は……。


「なのになんで……。なんでなの……」


 もう、知らないよ……。




「ねぇ……、教えてよモエ君……」

「僕に言われても……」

「モエ君……、直樹くんと同じ男の子なんだからわかるでしょ……?教えてよ……」

「わからないよ……」


 あいつの考える事なんて何一つ理解できない。


 難聴主人公の真似をしてた時だってそうだったし、部活の為に卒業するまで交際は待ってくれと小鳥遊さんに土下座したのだってそうだし、橘さんと付き合った事もそうだ。

 あいつのやることなす事全部が僕には理解できない。




「もう嫌だよ……、なんで小夜ばかり……」


 僕だってもう嫌だよ、こんな事……。




「小夜なんて……、何もしなかったのに……」

 さっきから小鳥遊さんはずっとこんな事ばかり言っている。


 小鳥遊さんは一度悲観モードに入ると抜け出すまで時間がかかる性分だが、今回は特に酷い。

 小鳥遊さんの大好きな直樹が、小鳥遊さんの大嫌いな橘さんにNTR的な事をされたショックがそれだけ大きいのだろう。




「あたしはずっと、直樹くんの為に頑張ってきたのに……」


 僕には小鳥遊さんにかける気の利いた言葉が思いつかなかった。

 っていうか、仮に言えたとしてもきっとこの人は喜ばないだろう。


「あたしがこんな辛い目に遭ってるのに……、なんで小夜は直樹くんと……」

「…………」





「直樹くんの為に、嫌な事だって……、沢山我慢してきたのに……」




 小鳥遊さんのその言葉を聞いた瞬間、僕が日頃必死で塞いでいた感情の蓋が再び外れた。




「辛いなら……、なんで僕と付き合ってるの……?」

「え……?」

「小鳥遊さん僕の事全然好きじゃないよね……?っていうか嫌ってるよね……?一緒にいても全然楽しくなさそうだし……。だったら、なんで僕なんかと付き合ってるの……?」




 小鳥遊さんは少し間を置いた後、答えた。




「そんなの、決まってるでしょ。直樹くんが……」




「やめて!」




 僕は小鳥遊さんの言葉を遮るように叫んだ。




 すると小鳥遊さんはまったく悪びれる様子もなく、不思議そうな顔をした。




「その続きは……、聞きたくない……」

「なんで……?」

 小鳥遊さんのその視線からは、まったくの悪意を感じられなかった。

 何故僕がこんなに苦しそうな顔をしているのか、当の小鳥遊さんはまったく理解していない様子だった。


 それが僕にとっては余計に辛かった。




「言わないで……、お願い……」


 小鳥遊さんがあの後、なんて言おうとしていたかなんて、そんなの簡単に想像できた。

 でも僕はどうしてもその一言を聞きたくなかったのだ。




「ねえ……、小鳥遊さん……」

「なに……?」




 正直、前々から小鳥遊さんとやって行くのは限界だと思っていた。

 一緒にいても全然楽しくないし、辛いと思う事ばかりだった。

 でも僕は、もしかすると何かふとしたきっかけが起き、小鳥遊さんと仲良くなれるチャンスがくるかもしれないと、必死で我慢していたのだ。


 だが今回の一件で踏ん切りがついた。




「しばらく……、距離、置きたい……」




*




 僕は小鳥遊さんと別れ、一人でとぼとぼと帰路を歩いていた。




 あの時何故、小鳥遊さんに別れたいと言わなかったのか。

 ぶっちゃけ言うと未練であり、もしかすると小鳥遊さんと仲良くなれるのではというバカな期待を完全に捨てきっていないからだ。


 そりゃ可能性なんてゼロだということはわかっている。

 でもやっぱり期待したくなるのが僕という矮小な人間だ。

 だから距離を置くなんて曖昧な言い方をしたのだ。


 我ながら女々しいと思う。

 自分でもバカを通り越して愚かだとしか言いようがないと思っている。

 



「はぁ……」


 僕は再び大きくため息をついた。

 一体本日何度目のため息になるのだろうか。




 そんな時だった。




「おい、モエ!モエじゃないか!」


 誰かが僕の忌々しいあだ名を呼んでいた。




 僕の名前を呼んでいたその男は、僕に近づくとフレンドリーに話しかけてきた。




「よお、モエ!久しぶりだな!元気してたか?」




 話しかけてきたのはかつての僕の親友だった。


 彼は、お世辞にも美人とは言い難い彼女と思しき女の子を連れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ