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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
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5話 修羅場

 直樹と橘さんは僕の顔を見た瞬間、まるで息子の部屋に隠してあったコミックLOを発見してしまった時の母親のように青ざめた表情をしていた。


「その、奇遇だな……」

 直樹は気まずそうに告げた。




「こんなところで何やってるの……?」

「その、アイスでも食べようかって……」

「ふーん……。学校、来ないの?」

「…………」

 直樹は黙り込んだ。


 すると隣にいた橘さんが話を逸らすかのように僕に言ってきた。


「モエは、一人でアイス食べてたの?」

「……小鳥遊さんと一緒だよ」

「そう。色々あったけど、今は椿と仲良くしてるのね?」

「そんな訳ないだろ……」

「…………」

 僕が少しキレ気味に言うと、橘さんは黙った。





「橘さん散々言ってたじゃん。小鳥遊さんが僕を好きになるなんてありえないって。僕なんかが小鳥遊さんと順風満々な交際が出来るとでも思ってるの?」

「その……、ごめん……」

 橘さんは柄にもなくしおらしく僕に謝ってきた。


 いつになく常識人的な対応をする橘さんの態度に、僕は違和感を覚えた。

 直樹との仲に何か進展があり、それが橘さんの僕に対する態度の変化に繋がったのだろうか?




「っていうか、お前は何で橘さんと一緒にいるんだよ?」

「…………」

 直樹は申し訳なさげに黙っていた。




「なに?まさかと思うけど付き合ってるの?」

「付き合っているというか、その……」

 直樹が煮え切らない態度で呟くと、橘さんが代わりに答えた。


「その……、ね。一緒に住んでるの」

 橘さんの思わぬ発言に、僕は耳を疑った。


「は?」

「だからその……、一緒に住んでるのよ」

 なに言ってんだこの人。


「え、なに?どういうこと?」

「だから、直樹と一緒に住んでるのよ。そうよね直樹?」

「あ、ああ……」

 なに言ってんだこいつ等。


「付き合ってる訳でもないのに、一緒に住んでるの?」

「まあ、実質は付き合っているみたいな物なんだけど……、そうよね直樹?」

「あ、ああ……」






「はぁ!?」


 僕は思わず大声を出した。






「なにそれ!?どういうこと!?」

「…………」

「…………」

「付き合ってる!?一緒に住んでる!?前々から訳わからない奴だと思ってたけど、本当に訳わかんないよお前!あんな事があった後なのになんで平然と橘さんと付き合える訳!?なんでそんな事出来るのお前!?」

「俺は……、小夜を沢山傷つけたから、責任を取る為に……」

「小鳥遊さんや片桐さんだって傷つけただろうが!それはどうなんだよ!?」

「…………」

 直樹は申し訳なさげに黙りこんだ。




「黙ってないで何とか言えよ!?」

「俺には、椿と付き合う資格はないから……」

「橘さんとなら付き合う資格があるっていうのかよ?へぇ、片桐さんも小鳥遊さんも橘さんも傷つけたのに、橘さんだけ責任は取るんだ?なんで?」

「…………」

「ねえ、モエ。やめてよ」

 僕が直樹に対しそう言うと、橘さんが直樹を庇うように言ってきた。


 でも僕は直樹に対する言及をやめなかった。


「第一、お前小鳥遊さんが好きって言ってたじゃん?なのに何で橘さんと付き合うの?」

「…………」

「モエ、お願いだからやめて」

 橘さんはまたしても直樹を庇うように言った。


「幼馴染だから?親友だから?だから他の子なんてどうでもいいの?」

「…………」

「お願いだからやめてよ……」


 橘さんはこの状況で何故直樹を庇えるのか僕にはさっぱりわからない。




「わけわかんないよ、お前……」

「…………」

「あれだけの事をしておいて、なんで橘さんと普通に付き合えるんだよ……?」

「…………」

「モエ、やめて……、お願いだから……」

 僕は橘さんの静止を無視し、直樹に対する尋問を続けた。


「黙ってないで何とか言えよ」

「ごめん……」

「誰に対する謝罪だよ?」

「ごめん……」


 相変わらずこいつの言動全てが僕の癇に障る。




「っていうか、橘さんの方も橘さんだよ。あれだけの事があって、なんで直樹と普通に付き合える訳?」

「…………」

 今度は橘さんが申し訳なさそうに黙り込んだ。




「第一、一緒に住んでるって、二人揃って仲良く学校サボって毎日何やってるんだよ?」

「…………」

「…………」

 今度は直樹と橘さん二人共が申し訳なさそうに黙り込んだ。




「まあ、聞くだけ野暮か」

「…………」

「…………」

 


 

 休日昼間のカップルだらけのサーティーワンにて、僕等三人は場違いな気まずい沈黙に包まれた。




 そんな時だった。




「何で直樹くんと小夜が一緒にいるの!?」


 トイレから戻ってきた小鳥遊さんが大声を上げて叫んだ。




 小鳥遊さんの大声に反応し、周りにいたカップル達が一斉に僕達の方を振り向いた。

 



「一緒に住んでるって!?付き合っているってどういうこと!?」

「…………」

「…………」



 どうやら小鳥遊さんは僕等の会話の一部始終を聞いていた様子だった。




 パチンッとした音が店内に鳴り響いた。


 小鳥遊さんが橘さんをビンタしたのだ。

 またしても修羅場である。




「なんで小夜なの!?なんであたしじゃないの!?」

「…………」

「…………」

 小鳥遊さんの言及に対し、橘さんは何も言わずに黙っていた。

 橘さんだけでなく、直樹の方も何も言わずに黙っていた。


「あたしが今までどれだけ我慢してきたと思ってるの!?」

「…………」

「嫌な事だっていっぱい我慢してきた!全部直樹くんの為だと思って!」


 その嫌な事ってもしかして僕といることなのだろうか……。


 いずれにしても、普段僕といる時はいつもつまらなさそうな顔をしている小鳥遊さんが、直樹の事でこれだけ感情的になっている光景を見ると、僕の精神衛生的にはかなり辛い気持ちになる。




「でも小夜なんてあたしに嫌な事するだけで、直樹くんに好かれるような事は何もしなかったでしょ!?」


 おっしゃるとおりです。


「小夜が直樹くんの為に何をしたって言うの!?教えてよ!ねえ!?」

「…………」

 意外なことに、橘さんは小鳥遊さんの言及に対し何も言い返さなかった。

 痛い所を突かれて何も言い返せなかったのだろうか。


 僕には橘さんが申し訳なさそうな顔をしているように見えたが、橘さんのキャラ的にそれはかなり違和感があった。

 流石の橘さんも、こんな寝取りみたいな真似をしたことで一応の罪悪感を噛みしめているのか、もしくはまたロクでもないことを考えているのだろうか、今の僕には判断しかねる。




「直樹くんはこんな小夜の何がいいの!?あたしじゃなくて、小夜を選んだ理由ってなんなの!?教えてよ!」

「それは……」

「何がいいの!?顔!?見た目!?性格!?それとも幼馴染だから!?親友だから!?だからあたしじゃなくて小夜を選んだの!?」

「…………」

 直樹は煮え切らない態度で俯き黙っていた。




 そんな直樹を見かねたのか、小鳥遊さんはテーブルに置いてあった食べかけのアイスを橘さんに投げつけた。

 オレオクッキー&クリームが橘さんの髪の毛にべっとりと付いた。

 洗うのが大変そうだが今はそんな事はどうでもいい。


 月並みな表現になるが、正に昼ドラみたいな光景である。


 当然の如く、この異常な光景を周りにいた人達も奇異の目で見ていた。




「どうしてあたしの邪魔ばかりするの!?小夜さえいなければ、全部上手いっていたのに!」

「…………」

 小鳥遊さんにアイスを投げつけられてもなお、橘さんは申し訳なさげに黙り込むだけだった。




「小夜なんて、直樹くんに告白する勇気もなかった癖に!」

「…………」


 それにしても、あの時とは橘さんと小鳥遊さんの立場が完全に逆だ。 

 でも僕がただ見ているだけで、基本的に蚊帳の外という点だけは同じだった。




「直樹くんの嘘つき!あたしのこと、好きだって言ってくれたのに!」

「…………」

「…………」

 直樹も橘さんも、やはり二人は何も言わずに申し訳なさそうな顔をするだけだった。




「なのにぃ……、なんで小夜なの……。なんであたしじゃないのぉ……」


 小鳥遊さんはそう嘆くと、人目を憚らず大声で泣き始めた。


 泣きたいのはこっちだよと言ってやりたかったが、とてもじゃないがそんな事を言える状況ではない。




 直樹や橘さんは特に弁明する事もなく、ただ何も言わずに気まずそうに、泣いている小鳥遊さんを見ているだけだった。




 しばらくすると直樹は橘さんの肩を掴み、「行こう……」とだけ告げて二人はどこかへと去って行った。




*




 周りにいたお客さんのカップルや店員さんは、直樹と橘さんが去ってもなお泣き続ける小鳥遊さんに対し、何とも言えない視線を向けていた。

 明らかなドン引きである。




 ここにいるお店の皆さんごめんなさい。

 店員さん達には多大な迷惑をかけてしまいましてすみません。

 それとここにいるカップルの皆さん。折角のデートの雰囲気を台無しにてしまってごめんなさい。




 僕は心の中でこの場にいた全員に謝罪した。




 なんにせよ、このまま小鳥遊さんに泣き続けられては、本気で店の営業妨害になりかねない。




 そう思い僕は小鳥遊さんの服の裾を引っ張って店を出るべく誘導しようと試みた。

 ちなみに腕ではなく服の裾を掴んだ理由は、直接触ると間違いなく嫌がるだろうからだ。


 しかし小鳥遊さんは動く気配はなかった。




「はぁ……」


 そんな小鳥遊さんの態度を見て、僕は思わずため息をついてしまった。




(もう嫌……)






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