4話 再会
その日、僕と小鳥遊さんは今月二度目のデートをしていた。
僕たちはまたしても映画を見に行った。
僕は前回の反省を生かし、ちゃんと女の子受けしそうなある映画を選んだ。
言っておくがオタク系では断じてない。今巷で話題のあの映画だ。
男の子と女の子の身体が入れ替わったり、一緒に隕石騒動にあたふたする青春物のアニメ映画だ。
ちなみに当然映画代二人分は僕持ちだ。
今回小鳥遊さんは途中で帰りたいと言わず最後まで映画を見ていたが、終始退屈そうな顔をしていた。
*
「映画、どうだった?今回のは女の子が見ても楽しめる奴だったと思うんだけど……」
「そんなに、面白くなかった……」
「そっか……」
「他人の恋愛なんて見て、皆何が面白いんだろう……?」
「…………」
今になって僕はようやく気付いた。
この人はお姫様願望がある割に、創作物には入り込めないタイプだ。
今後小鳥遊さんと一緒に映画を見るのはやめよう……。
「そう言えばここ、前に通った事がある……」
小鳥遊さんは町中で足を止め、そう告げた。
「前にね、小夜の誕生日プレゼントを買う為に直樹くんと来たんだ」
また直樹の話かよ……。
「直樹くんがね、親友とはいえ小夜は女の子だから、何をあげたら喜ぶかわからないって言うから、あたしがプレゼントを選ぶのを手伝ってあげたんだ」
「そう……」
「何を買ったか忘れちゃったけど、帰りに直樹くんと一緒に食べたアイスが美味しかったんだ」
「そう……」
「直樹くん、結構甘い物が好きでね、サーティーワンってお店に入ったんだ」
「そう……」
「知ってる?直樹くんってアイスを頼む時こだわりがあるんだよ?必ずトリプルポップでストロベリーチーズケーキと抹茶とオレオクッキー&クリームを頼むんだよ」
どうでもいいよ……。
「しかも直樹くんね、アイスを乗せる順番にもこだわりがあってね、一番上にストロベリーチーズケーキを乗せてその下に抹茶を乗せて一番下の段にオレオクッキー&クリームを乗せてもらうんだって」
「そう……」
「そうするとね、上の二つがいい具合に溶けて最後のオレオクッキー&クリームにいい感じに味が染みついてますます美味しくなるんだって」
なんでこの人は、橘さんの誕生日プレゼント買いに行ったのに買ったプレゼントの事を忘れて、直樹の食べたアイスの種類だのアイスの配置だのどうでもいい事ばかり鮮明に覚えているんだよ……。
小鳥遊さんにとって直樹以外の人間は全てどうでもいいという事なのだろうか……。
「あの時食べたアイス、美味しかったなあ……」
「そう……」
「直樹くんに言われなきゃ、ああいう店に入ろうなんて思わなかったんだろうなあ……」
「そう……」
「直樹くん、今何やってるんだろう……」
しるかよ、もう……。
「なんで直樹くんは、あたしを選んでくれなかったんだろう……」
知らないよ……。
「何が足りなかったんだろう……。何が不満だったんだろう……。直樹くんにとってのあたしって、智代や小夜と同じくらいの価値しかなかったのかなあ……」
だから知らないって……。
「直樹くんにとってのあたしって、あの部活以下の価値しかなかったのかなあ……」
小鳥遊さんは直樹についての話題を嬉しそうに話した後、バットトリップの如く急に悲観的な愚痴ばかりこぼす事がしばしばある。
しかも一度悲観モードに入ると抜けだすまで結構時間が掛かる。
その上悲観モードを抜け出すと急にいつも通りのノリに戻る為、付き合っているこっちが疲れる。
ハッキリ言って面倒臭い性分だと思う。
僕はこの嫌な流れを変えるべく、小鳥遊さんに告げた。
「サーティワン、食べに行く……?」
*
サーティーワンにて、僕が何を頼んだかは……、まあどうでもいいから書かなくてもいいだろう。
小鳥遊さんはアイスをトリプルポップでストロベリーチーズケーキと抹茶とオレオクッキー&クリームの三種を順番指定した上で注文していた。
嬉しそうに頼んでいた所を見るに、間違いなく直樹の真似をしたのだろう。
勿論ここでも会計は僕持ちだ。
テーブルに座り、アイスを二口三口食べ、小鳥遊さんは告げた。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
「…………」
頼む前に言ってよ……。
アイスが溶けてしまうだろうに、小鳥遊さんのマイペースっぷりには本当にいつも困らせられる。
「溶けるよ……?」
「また買えばいいでしょ?」
「…………」
代金払うのは僕なんだけど……。
別に今に始まった事じゃないけど、小鳥遊さんはマイペースで自分勝手だ。
*
「はぁ……」
どんどん溶けていくアイスを眺めながら、僕は大きなため息をついた。
なにが悲しくてデート中に、溶けていく彼女のアイスを眺めながら、1人で黙々とアイスを食べなければならないんだ……。
「もう嫌……、こんな生活……」
小鳥遊さんが目の前にいないからか、つい弱音を口に出してしまった。
僕はただ、好きな人と楽しく過ごしたいだけなのに、どうしてこんな虚しい気持ちを噛みしめなければいけないのだろうか……。
花音さまと御影くんだってもう少しマシな付き合いをしてた筈だろうに……。
「はぁ……」
僕は再び大きなため息をついた。
小鳥遊さんのトイレタイムがあまりにも長いもんで、小鳥遊さんの注文したアイスはすっかり溶けてしまい完全に液体となっていた。
小鳥遊さんが戻った時、多分僕がお金を払ってまた注文させられるのだろう。
しかも単に注文するだけでなく、トリプルポップでストロベリーチーズケーキと抹茶とオレオクッキー&クリームの三種を順番指定するという、直樹のお気に入りの組み合わせで注文するのは間違いない。
小鳥遊さんは一応彼氏である僕の前でもそう言うことを平然とやれる人だ。
というか小鳥遊さんはデリカシーという物をまるで心得ていない。
そう思うと本当にやるせない気持ちになる。
そもそも僕ら、なんで付き合っていたんだっけ……?
「はぁ……」
僕はまたしても大きなため息をついた。
休日の昼間のサーティーワンなんて、周りは皆カップルばかりだ。
僕らだってその中の一組だろうに、どのカップルよりもつまらない交際をしていると自信を持って言える。
辺りのどのカップルを見ても僕らみたいに、つまらない顔をしてアイスを突いている人達なんてどこにもいない。
どのカップルも楽しそうに談笑しながらアイスを食べている。
「なんで僕だけ……」
僕がそんな事を思いながら周りにいたカップルを眺めていると、その中の見慣れた顔ぶれの一組がいた。
(なんであいつ等がいる……?)
一瞬僕はそう思ったが、多分人違いだ。
あいつ等がこんな所で楽しそうにお喋りしながらアイスを食べるなんてありえない。
そう思いつつも僕は再び彼らの様子を確認した。
「え……?え?」
思わず声が出てしまった。
やはり、何をどう見ようとあいつ等だった。
何かの間違いだ。他人の空似か何かだ。そうに違いない。
あんな事があった後なのに、あいつ等があんなに楽しそうな顔をしながら一緒にいる事が出来るなんてありえない。
そう思いながら僕は彼等に近づいた。
彼等と距離を詰める内に疑惑は確信へと変わった。
彼らの容姿、声、仕草。
どれを取っても僕のよく知っている不愉快な二名の物だった。
「あんたら、何やってるの……?」
僕は店の片隅で仲睦まじくアイスを食べていた直樹と橘さんに声をかけた。




