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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第二章
39/102

3話 恋人らしい事

 友誼部。

 それは僕がかつて所属していた忌々しい部活だ。


 一言で言うとSOS団や隣人部的な流行遅れな仲良しグループ。

 奉仕部や娯楽部のように外との関わりがある訳ではなく、ひたすらに内向きで閉塞的な集まりで部活内のみで人間関係は完結していた。


 一見するとただの愉快な慣れ合いサークル。

 しかし実態は一人の男を取り合って、女達が腹の探り合いを永延と続けるおぞましい部活だった。


 そして友誼部は男女関係の縺れが原因で見事に崩壊してしまった。

 いや、最初から友誼部内の人間関係は破綻していたが、無理やり仲良しグループとして存続していたと言った方が適切か。


 そんな友誼部がある事をきっかけに完全に崩壊した訳だが。

 崩壊の経緯は……、説明が面倒だから第一部を参照してくれ。


 ちなみに僕が小鳥遊さんと付き合うことになった理由はこの部活にある。

 直樹の発言をちゃんと聞いた訳ではないが、恐らくあいつが不登校になる直前に言った一言が小鳥遊さんが僕と付き合いたいと申し出た原因なのだろう。




*




 そんなある日の下校時、僕は小鳥遊さんに声をかけた。


 


「あ、あのさ小鳥遊さん……?」

「なに……?」

 小鳥遊さんの表情はどことなく嫌そうだった。


「あの……、もしよかったらでいいんだけど……、今日は一緒に帰らない?」

「昨日帰ったでしょ……?」

「ごめん……」


 ちなみに小鳥遊さんが僕と一緒に下校してくれるのは週一回までと決まっている。

 月四回なら月二回しかデートしないという決まりよりはマシだね。


 決まりを破ったのは僕の方だから、小鳥遊さんが不愉快な顔をするのも無理はない。


 


 ちなみに週一の下校と、月二のデート以外の時に小鳥遊さんに話しかけると彼女は本気で嫌そうな顔をする。

 だから休み時間や昼休み等に話しかけたり会いに行く事は出来ない。なので僕は依然として昼食は便所で食べている。

 その上小鳥遊さんにラインや電話を入れても、いつも無視される。


 彼氏彼女の関係ってこんなにドライな物なのかと疑問になるが、僕達のような不釣り合いなカップルの付き合い方は自然とこういう形になるのだろう。




「来週はもう一緒に帰らなくていいっていうなら、今日は一緒に帰ってあげてもいいけど……」

「え……、あ、ありがとう……」


 お礼は言ったが、正直こんな言われ方をされてもあまり嬉しくない。




*




 どうでもいい事だけど、僕は必ず小鳥遊さんと一緒に道を歩く時は車道側を歩くようにしている。

 ちなみに、この事を小鳥遊さんに感謝された事はない。


「小鳥遊さん、さ……。その、学校はどうよ……」

「普通」

「そう……」


 小鳥遊さんと僕との会話はいつも盛り上がらない。

 それに小鳥遊さんは僕といるといつも不機嫌な顔をする。

 だからこんなに綺麗な子と一緒に歩いていても僕としてはあまり嬉しくない。




 でも一応、小鳥遊さんが唯一嬉しそうな顔をする事があるにはある。


「直樹くん、今何してるんだろう……」


 それは小鳥遊さんの思い人である直樹の話題をする時だ。




「あの頃は、楽しかったよね」

「あの頃って、友誼部があった時の事……?」

「うん。毎日直樹くんに会えて、毎日直樹くんと話せて、直樹くんと色々な事ができて、楽しかったなあ……」

「…………」


 また直樹か……。

 正直うんざりする。


「小夜や智代が鬱陶しかったけど、直樹くんがいたから楽しかった」

「そう……」

「直樹くんにね、友誼部に誘われた時はとってもうれしかったんだ」

「…………」


 割とマジで、僕は小鳥遊さんに直樹の話をされると不愉快な気持ちになる。

 何故なら僕は直樹の事を嫌っていて、小鳥遊さんは直樹の事を未だに好いている。なのに何故か小鳥遊さんは僕と付き合っている。


 かといって、僕は小鳥遊さんに身の丈に合わない交際をさせてもらっている身だ。

 だから不満に思っても、小鳥遊さんに文句は言えない。




「直樹くんにね、お昼一緒に食べる友達がいないって相談したらね、友誼部の事を勧められたんだ」

「そう……」


 この話をされるのは一体何度目なのだろうか……。

 小鳥遊さんと付き合い始めてからもう五回以上はこの話をされたぞ……。


「友達のいない生徒同士で楽しく過ごす部活だって言って、直樹くんがあたしを友誼部に入れてくれたんだ」


 ちなみに、友誼部の一応の活動目的は友達がいない生徒が友達になり皆で楽しく青春を謳歌する部活だ。

 勿論これは建前上の物であり、本当の目的は創設者である部長の橘さんが直樹と二人きりでいる為の口実作りの部活だ。

 だが脳味噌が矮小な直樹は、友誼部内の人間関係が完全に崩壊するその日までこの嘘の活動目的を信じきっていた。




「直樹くんと二人きりになれる。そう思ってたら小夜がいたんだ。幼馴染か親友か知らないけど、あたしの好きな直樹くんに付きまとって本当に迷惑な人だって思った……」

「そう……」


 ちなみにその橘さんも、小鳥遊さんに対してまったく同じ様な事を言っていたが、小鳥遊さんはその事をちゃんと理解しているのだろうか。


「小夜が邪魔だと思ってたら、智代までやってきた。直樹くんは女の子に好かれやすいから仕方ないけど、それでもやっぱり鬱陶しかった……」

「そう……」

「直樹くんに相応しいのはあたしに決まってるのに、何で他の女の子が慣れ慣れしくしてるんだろうって、いつも思ってた……」

「そう……」


 なんで僕は仮にも彼女である小鳥遊さんからこんな話を聞かされなければならないのだろうか……。


「小夜なんて、自分からは直樹くんに何もしない癖に、あたしに直樹くんを取られたくないからって、あたしに嫌がらせばかりしてきて、本当に迷惑だった……」

 

 それについては僕も同感だ。

 小鳥遊さんの下着や服の窃盗。小鳥遊さんへの脅迫文。小鳥遊さんへの無言電話。

 小鳥遊さんの私物の破損。僕を使った小鳥遊さんへの数々の嫌がらせ。小鳥遊さんへの暴力行為。

 その他諸々の迷惑行為。


 橘さんが小鳥遊さんにした悪行をあげればキリがない。


「あんな人があたしの大好きな直樹くんの幼馴染で親友だなんて思うと、凄く嫌な気持ちになる……」

「そう……」


 僕的には小鳥遊さんが直樹の話をしている方が嫌になるけど、それを僕の口から言える訳がない。


「小夜のせいで、直樹くんが学校に来なくなった……。電話も繋がらないし、メールも返してくれない……。全部小夜のせいだよ……」


 小鳥遊さんが橘さんを恨むのはわかるが、そんなに直樹直樹言わないでくれ。

 僕の精神的にかなりキツイ。




 僕はこの嫌な話題の流れを変えるべく、別の話題を振ることにした


「あのさ、小鳥遊さん……。僕達付き合ってからそろそろ二カ月経つよね……?」

「そう……?」

「その……、二カ月も付き合ってるのに、恋人らしい事って何もしてない気がするんだけど……」

「デートしたよね……?それじゃ嫌なの……?」

「…………」

 

 デートは片手で数えられる程度しかしていない。

 しかも全部途中で小鳥遊さんに勝手に帰られた。


「今だって一緒に帰ってるよ……?それだけじゃ不満なの……?」

「…………」


 正直不満しかない訳だが……。




「その……、もっと親密な事がしたいんだけど……」

「親密な事……?」

「一緒に楽しくおしゃべりとかさ……」

「今してるよね……?」

「…………」


 直樹についての話題は、僕にとってはとてもじゃないが楽しいお喋りの内には入らない。

 やはり小鳥遊さんは男心を何もわかっていない。


 というか、人の気持ちを全然察せないと言った方が正しいか……。




「あのさ……、そろそろ、手くらい繋いでも……」

「え……」

 小鳥遊さんは眉間にしわを寄せ、本気で嫌そうな顔をしていた。


「ねえ……、なんでそんなことしないといけないの……?」


 僕と付き合っているからと言おうと思ったが、そんな事を言うとますます不愉快そうな顔をするだろうからやめておいた。




「ごめん……、嫌だよね……」


 そう言えば、以前僕が小鳥遊さんと握手をしただけで、小鳥遊さんは急いでトイレに駆け込んで手を洗ったこともあった。

 小鳥遊さんにとって、好きでもない男と触れ合うのはそれだけ嫌な行為なのだろう。


「そ、そうだね……。小鳥遊さんは潔癖症だから、急には無理だよね……。ごめん……」


 自分で言ってて思ったが、僕は仮にも自分の彼女である女性に対し、何故こんな事を謝らなければならないのだろうか……。

 彼氏が彼女に手を繋いでもらうという行為は、それほどまでに恐れ多い行為なのだろうか……。




 いや、世間一般のカップルの常識を社会の底辺に位置するキモオタの僕が語るのは暴論と言うものだろう。

 小鳥遊さんが嫌がるのも無理はない筈だ。


 ここはやっぱり、僕が我慢するしかない。


「そうだよね……。でも今は無理でも、だんだん慣らしていけば……」

「…………」

 僕のその発言に対し、小鳥遊さんは浮かない顔をしていた。


「ねぇ、モエ君……」

「え……、なに?」




「あたし達……、いつまで一緒にいればいいんだろうね……」




 小鳥遊さんのその言葉を聞いた瞬間、僕が日頃必死で塞いでいた感情の蓋がちょっとだけ外れた。




「なんでそんなこと言うの……?」

「え……?」

「僕と付き合ってるのに……、なんで小鳥遊さんはいつもそんな事ばかり言うの……?」

「え?どうしたの……?」

 小鳥遊さんはまったく悪びれる様子がなく、きょとんとした表情をしていた。




 そんな小鳥遊さんの態度を見て、僕はふと我に返った。


「その……、変な事言ってごめん……。用事思い出したから、今日はもう帰るよ……」


 僕はそう言って小鳥遊さんの元を去った。

 小鳥遊さんは僕に別れの言葉すらかけなかった。




*




 正直、小鳥遊さんに対する好意が失せつつある。

 小鳥遊さんはスペックだけなら最高の人だ。

 でも僕の事を全然大事に思っていない。


 それでも僕が彼女と別れないのは……、もう説明したっけ……。




 僕らは彼氏彼女らしい事を何一つとしてしていない。

 手も繋いでないし、勿論キスだってしてないし、それ以上の事なんて夢のまた夢だ。

 そもそも一緒に楽しくおしゃべりした事すらない。


 僕等がやったことは、精々先日のようなフラストレーションにまみれたデートくらい。

 小鳥遊さんは僕の事なんて一切見ていないし、僕と付き合っているにも関わらず相も割らず直樹直樹言っている。


 僕みたいなキモオタに彼女が出来たこと自体奇跡だから、こんな事態でも甘んじて受け入れるしかないのはわかってる。

 別れたところで他にアテはないし、他に付き合ってくれる女の子だっている訳がない。




 もしかして、片桐さんもこんな気持ちだったのだろうか……。




 精一杯頑張ってるのに、好きな人が自分の気持ちを無視し、自分に振り向いてくれない。

 こんな思いばかりしていたら、ふとしたきっかけで感情の蓋が取れてしまい、人や物に当たりたくなるのも仕方ない気がする。


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