2話 遊び
図らずも僕は小鳥遊さんと付き合うことになった訳だが、勿論僕も何もしないで手をこまねいていた訳ではない。
小鳥遊さんと僕のスペックはあまりにもかけ離れていた。彼氏彼女として付き合う上で不釣り合いなのは僕も重々承知だった。
だから僕は少しでもその差を埋めるべく、結構大規模なイメチェンを試みた。
まず僕は毎日ジムに通い、体を鍛えるようになった。
30分の有酸素運動、その他諸々の筋肉トレーニング、毎朝早起きしランニングもした。
運動だけではなく食事制限もした。炭水化物の摂取を控えて間食をなくし、それらの甲斐もあって夏休み期間の間に7キロの減量に成功した。
僕は小太りだったがこれにより幾分マシな体系を手に入れる事が出来た。
それだけではなく、リア充層が好んで読みそうなオシャレ雑誌を読み、脱オタファッションガイドも熟読した。
これにより従来よりは少しマシなファッションセンスを会得出来た。
それだけでなく、ユニクロ以外の洋服を買う為の資金やデート代を稼ぐべくアルバイトを始めた。
対人性を少しでも上げる為、僕はバイト先にコンビニを選んだ。
とりあえず知らない人に大声でいらっしゃいませと言えるくらいの度胸は付いた。
ボソボソとした喋り方も少しは改善されたと思う。
他にも黒髪はダサいと判断し、学校にいるリア充を真似て校則違反に接触するかしないかくらいの髪色に染めた。
髪型だって今までは床屋オンリーだったが美容院に行き、高い金を払ってオシャレな髪型にしてもらった。勿論毎日ワックスをつけて髪も立てている。
これらの大規模なイメチェンは全て僕の尊敬する片桐智代さんからの影響だ。
片桐さんは好きな人に気入られたい一心で、ダサい自分を買えるべく様々な努力をしてきた。
その姿を僕は立派だと思い、彼女の行動を真似た訳だ。
でもこれだけの事をしてその甲斐があったのかと言うと、正直あまりない……。
以前バイト先のコンビニでもこんな事があった。
*
「なあ、お前これ知ってる?」
バイト先の先輩が艦これフェアのポスターに書かれている鹿島を指差し聞いてきた。
「艦これ……、ですか……?」
「ああ、やっぱお前知ってるんだ?お前こういうの好きそうだもんなあ」
*
僕のイメチェンの成果は精々こんな物だ。
自分では精いっぱいオタク臭を拭ったつもりだが、どうにも第三者から見たら相変わらずオタク的な雰囲気を醸し出しているらしい。
そのせいか、僕はクラス内では依然として蔑視と嘲笑の対象である。
ある有名漫画にて、自分を信じられない奴に努力する価値などないという言葉があったが、このような体たらくではとてもじゃないが信じられないというのが現状だ。
『チートスキル全盛期の今の時代に好きな子の気をひく為に努力して自分を変えるなんてバカだろ』
『努力する主人公じゃ自己投影出来ないわ』
『ヒロインは都合よく向こうからやってこないとかねえわ。読むのやめるー』
等と思ったそこのあなた。安心してくれ。
この物語に置いて僕は主人公ではない。高瀬宋次郎的ポジションのただの脇役だ。
この物語の主役は僕じゃなくてあいつだ。
何もしないで女の子に言い寄られるのはあいつの役目だ。僕じゃない。
だから僕が現状打破の為にいくら努力を重ねようと、お約束的には何も問題はない。
努力してない主人公が楽して努力しまくった雑魚を倒す物語はよくある。僕がその雑魚だ。
勿論小鳥遊さんだって一応彼氏である僕がイメチェンしたにも関わらず、依然として僕に対して一切好意を持っていない。
それどころか夏休み前に自分を振った男の事を未だに引きずり、相も変わらず直樹直樹言っている。
それでも僕は小鳥遊さんと打ち解ける日が来ると信じている。
そりゃ一カ月や二カ月じゃ無理かもしれない。
でも長い時間をかけて小鳥遊さんに尽くし続け、徐々に親睦を深めれば小鳥遊さんが僕に心を開いてくれる可能性はゼロではない。
……そう思いたい。
*
そんなある日の休み時間
「おいモエ!お前この前の休みに小鳥遊と一緒に歩いてただろ!」
僕はいつものように教室で吉田とその取り巻き二名に絡まれてた。
ちなみに吉田、田中、佐藤の三名の内の誰が何を喋っているかを詳細に書くと非常に冗長な文章になってしまう為、テンポ重視でアバウトに書かせてもらう。
その辺りは各自で適当に脳内補完してくれ。
もっとも、僕にとってこいつ等三名は等しくウザい存在なので、誰が何を言っていても割とどうでもいい訳だが……。
「歩いてたけど、だから何……?」
「なんで一緒にいたんだよ?まさかと思うけど付き合ってるとか?」
「……そうだよ」
「「「あははははは!!!」」」
吉田、田中、佐藤の三名は僕の発言を聞き大笑いした。
「え?じゃあなに?二学期になってからお前急にイメチェンしたけど、まさか小鳥遊と付き合い始めたから?」
「……そうだよ」
「「「あははははは!!!」」」
彼ら三人は再び僕を嘲笑った。
僕が身の丈に合わない付き合いをしていて、その為に散々愚行を重ねている事がそれほどまでにおかしいと言うのだろうか。
「お前そんなで小鳥遊に釣り合うと思ってるのかよw」
思ってねえし。
「お前なんかちょっと痩せて髪立てた所でキモオタには違いないし!」
んなこと自分が一番よくわかってるよ。
「第一なんで小鳥遊みたいな美人がお前なんかと付き合うんだよwww」
「小鳥遊がお前なんかと付き合う理由ねえだろ」
そうだね。
「本気な訳ないじゃん。まさかお前本気で小鳥遊がお前なんかの事好いてると思ってんの?」
思ってないよ。
「どうせ遊びなんだろ?」
ハッキリ言って、その方がまだマシだよ……。
「わかった!罰ゲームだな!」
だったらどれだけいいか……。
「案外付き合ってると思ってるのはお前だけだったりしてw」
そうかもね……。
「で、ヤったの?」
「チンポ舐めてもらった?」
なんでリア充はこんな下品な質問を躊躇なく出来るのだろうか……。
どうしてリア充はこのような下品な話題で盛り上がれるのだろうか……。
「手すら握ってないよ」
「「「あははははは!!!」」」
僕がそう言うと、再び三人は手を叩きながら大笑いした。ウザい。
「え?じゃあなに?おっぱい揉んだの?」
バカかこいつ等、手すら繋いでないって言ってるだろうが。
「揉んでないに決まってるでしょ……」
「「「あははははは!!!」」」
再び彼ら三人が大笑いした。
どっかの誰かさんもそうだが、リア充は何故こうも皆僕の不快感をかきたてるのだろうか。
「やっぱり遊びじゃん!」
「いや罰ゲームだろw」
「どっちにしろお前そんな付き合いしてて虚しくならないのかよ?」
虚しいに決まってるだろうが……。
「なんでお前遊ばれてるってわかってるのに付き合ってるんだよ?」
「あれだろ田中、折角出来た彼女だから例え遊ばれてるってわかってても別れたくないんだろ?」
「なんだよそれw悲し過ぎるだろwww」
その通りだよ。
全部お前らの言う通りだよ。
自分でもわかってるんだからもうほっといてくれよ……。
結局のところ僕は、吉田達のからかいを堂々と否定出来る程の信頼関係を小鳥遊さんと構築している訳ではないので、この場においてはただため息をつくくらいの事しか出来ないのであった。
小鳥遊さんと付き合うようになったにも関わらず、僕の日常は相変わらず鬱々としていた。
もっとも、これでも大分マシになった方ではある。
あの忌々しい部活、友誼部があった頃はもっと酷かった。
あの鈍感難聴主人公気取りのヘタレのゴミクズバカ男と、品性下劣性悪阿婆擦れクソ女の二名に関わっていた時期は今なんて目じゃないくらい酷い日々を僕は過ごしていた。
もっとも、僕が小鳥遊さんと付き合うに至った理由もあの友誼部にあった訳だが……。




