2話 友達
直樹とは授業で二人一組を作る際によく組んだり、ぼっち飯を回避する為に一緒に食事をするくらいの仲ではあるが、彼は僕の友達ではない。お互いの学校生活を円滑に進める為の薄ぺっらい交流を維持しているだけの関係だ。
だから僕がクラスのリア充に絡まれていても直樹は僕を助けないし、逆に直樹が困っていたとしても僕が助ける道理もない。
直樹は一言で言うと物凄くつまらない人間だ。
成績も容姿も運動神経も全部並み、趣味も特にない、没個性を極めたような奴、男友達はいない。
なのに何故か女子に異様にモテる。
一言でいえば、まるでハーレムアニメの無個性主人公のような男だ。
だから直樹は多分、(俺は普通の高校生だ)なんて独白を常に頭に浮かべながら生活しているのだろう。
よくハーレムアニメの主人公に対して、「こんな何の取り柄もないつまらない奴に惚れる女なんていねえよ!」と突っ込みを入れる輩がいる。
だが、現実においても何がいいのかまったくわからない男がモテる事は割とよくあることだ。直樹がまさにそれだ。
基本的に僕は直樹に対して不愉快な感情しか抱いていないが、最も不愉快なのは直樹に群がっている女の子の中に僕の大好きな小鳥遊さんがいるという事だ。
きっと僕みたいなキモオタにはわからないような魅力が直樹にはあるのだろうが、小鳥遊さん程の素晴らしい人が何故あんなつまらない男を好いているのかはわからない。
いつもダルそうな顔をしている直樹。そんな直樹に群がる女子たち。そしてその中に混ざっている小鳥遊さん。そしてそれらを傍から見ている僕。
ハッキリ言って僕をよく虐めに来るリア充の吉田達よりも、直樹の存在の方が僕にはずっと妬ましく腹立たしく思えた。小鳥遊さんを含む女の子たちに囲まれている直樹とは打って変わり、僕の学校生活は憂鬱そのものだからだ。
退屈な日々。つまらない学業。贔屓する教師。ウザいリア充。もっとウザい直樹。
僕の日常はフラストレーションに満ち溢れていた。
そんな生活の中、僕はいつも思っていた。ある日突然ありえない程のサプライズが起き、今までの陰鬱な生活が180度変わる事を。
異世界に召喚、或いは転生しチートスキルを駆使し美少女ハーレムを築く。
突然学校にテロリストが攻めてきて僕に秘められたチートスキルが覚醒し、美少女に惚れられる。
並行宇宙で僕と恋人だった美少女が現われ、僕と付き合う事になる。
そんな感じの現実逃避をライトノベルを読みながらするだけの退屈で陰鬱で根暗な日々を僕は過ごしていた。
だがしかし、人生とは何が起こるかわからないものだ。
僕の日常はあの日を境に変わったのだ。
ただでさえ陰鬱だった僕の日常は、あの日の出会いを機により陰鬱で過酷な物になった。これ以上悪くなる事はないと思っていた僕の日常が、より悪いものになってしまった。
全てはあの日の事件が発端だ。
あの悪魔とさえ関わらなければ、僕はこの平穏で退屈で陰鬱で根暗な日常をいつまでも満喫する事が出来たのだろう……。