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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
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27話 不幸自慢

「じゃあまず、この章全部私の不幸自慢ですから飛ばしてもいいですよ。まあ某海賊漫画の使い捨てキャラのどうでもいい不幸自慢みたいなものだと思って軽く流してください」

 片桐さんは唐突に訳のわからない事を言いだした。


「誰得シリアスとか、創作物にストレス要素はいらないって言う人もいるでしょうけど、生憎私の物語はストレス要素ばかりなので、皆さんそこんとこ注意した上で読んでくださいね?まあ別に読まなくてもいいですけど」

 創作物?読んでください?一体片桐さんは何を言っているんだ?


「あの、皆さんって誰に言ってるの……?」

「これを読んでる読者にですよ。私は精神異常によって第四の壁への干渉が可能になったのです」

「第四の壁……?なにそれ……?」

「デッドプールですよ」

「アニメ……?」

「アメコミですよ。ちょっと前に実写映画になりましたよ?デッドプールのあの能力って周りから見たら精神異常って扱いなんですよ。私と同じですね」

 要するに片桐さんは、そのアメコミキャラみたいに自分は精神がおかしいのだと言いたくてこんなメタ発言をしているのか……。


「そういう言い方、悲しくなるからやめようよ……」

「事実です。私は気が狂ってますから」

「そんな事ないって……」

 言っておくがこれは世辞でも慰めでもない僕の本心だ。

 少なくとも片桐さんは、橘さんや小鳥遊さんに比べると圧倒的に良識がある。直樹だってとんでもないレベルで不誠実だし、友誼部メンバーの中だと断トツでまともなのはここにいる片桐さんなのだと切に思う。


「ああ、この話を読んでいる冴えないギークやナード諸君に告げます。この物語において私は不人気なサブヒロインです。完全にいらない子です。他のヒロイン達の魅力を高める為のかませ犬として存在しています。だからこの物語に置いて私が報われる事はありませんから」

 読者に語りかけているって設定なんだよな……?

 なんというか、痛々しいとかそういうのを通り越して切ない気持になってくる……。


「私がカッコいい殿方とイチャコラする事はないですし、誰かにチヤホヤされる事もないです。そういう話を見たいのなら今すぐブラウザバックして他の作品を読んでください」

 多分片桐さんはこうやって、自分が創作物のサブヒロインだなんて突拍子もないことを言う事で、自分を遠く置いて悲しみを軽減しようとしているのだろう。

 ある種の現実逃避だ。僕だってそういう空想に身を委ね、辛い気分を紛らわす事がある。

 それでもやっぱり、こんな事を堂々と口に出して言っている片桐さんを見ていると、なんとも言えない気持ちになる。




「さあ、それでは私、片桐智代の楽しい不幸自慢のはじまりはじまりー」


 片桐さんはそう言うと一人で拍手をはじめた。乾いた拍手の音が部屋の中に響いた。




「昔々あるところに、それはそれはバカな男と女がいました。

 女は精神病患者でバカでした。

 男は健常者ですがバカでした。


 男と女はありえない程のバカなので、知的な娯楽という物を知りませんでした。

 だから毎日毎日猿みたいにセックスしてましたー。

 最初は避妊もちゃんとしてましたが、面倒なんでちょくちょく生でセックスしていました。

 どうせ生まれやしないなんてバカな事を思いながら、飢餓に苦しむアフリカ人の如く毎日性行為に勤しんでいました。

 そしたら案の定……、子供が出来ましたー!


 女は「中絶なんて絶対に嫌ぁー」と駄々をこねました。「産みたい!産みたい!」と毎日毎日バカみたいに嘆いていました。

 男の方も「心に病を抱える女は自分にしか救えない!」とかアホな偽善感にかられて、結果二人は周囲の反対押し切って高校を中退して駆け落ちしました。

 男と女は故郷を遠く離れ、二人だけの生活を始めました。


 この時点で既に十分クズですねぇ。まあ当人達からすると感動の純愛ストーリーでしょうね。

 ある種の感動ポルノですよ。傍から見たら自分勝手で最低な若者二人のバカな行い以外の何物でもないでしょうねー。


 このバカ二人は後先考えずに、二人の愛の巣だのなんだの言って何十年とローン組んでこの家を建てました。

 バブル時代並みの計画性の無さですよねえ。

 この不況の世に一体何考えてるんだか。まあノリで高校中退して出来婚するようなバカ二人なんでこれも仕方ないですね。


 誰も歓迎しない中、二人の間に子供が生まれましたー。

 名前は……、まあ片桐智代ってことにしておきましょうか。




 智代は生まれ、二人は大喜びしました。

 ですが男と女はお互いを異常な程に愛し合っていましたが、子供である智代にまで興味はなかったのです。

 男も女も最初のうちは智代を世話していましたが、智代がある程度自立してくるとロクに智代に構わなくなりました!


 ああ、ちなみに智代はこの頃精神はまだ病んでませんよ?


 よく女親は過干渉で男親は無関心とか言いますけど、その男は度を超えて無関心でした。

 仕事行ってるか、その女とイチャつくかのどちらかで、智代には目もくれませんでした。

 たまにする家族サービスも女の為です。智代はついでです。智代が「遊園地なんて行きたくないからちゃんとお父さんとお母さんをやってよぉ」と言っても、聞く耳を持ちませーん。


 かといって女の方はと言われると、更にどうしようもないクズ親で頻繁にヒスを起こしていました。

 智代のやることなすこと全てを怒鳴りつける。自分の望まない事が起きるとすぐにヒスを起こす。

 テレビでサザエさん見てたら「部屋が綺麗すぎてイライラする!」って大声出したり、その辺の雑談してる人見ただけで「私の悪口を言ってる!」だのって騒いだり。

 そもそも家事すらまともにしない。かといって仕事もしない。

 最低の母親ですね。子供が子供を産んではいけないといういい見本ですね。


 で、女が毎日何をやっているかというと、どこぞのクソ慈善団体がやっている精神障害者のコミュニティに参加してました。

 名目上は精神障害者の社会復帰の為、まあ実際は完全に慣れ合いのサークルで、精神障害者が集まって子供みたいなお遊戯会的なことしてるんです。

 しょっぼい手書き新聞書いたり、小学生が図工の授業で作るような工作作ったり、ハンドベルの演奏会したり、そういう事を毎日するんですよ。

 で、そこでの主な話題はというと、健常者は自分等を差別してるだの、社会はもっと自分等見たいな障害を持つ人を優遇すべきだの、アホな妄言をお遊戯しながら駄弁るんですよ。

 要するにメンヘラ同士がダラダラと傷を舐め合う為の会合ですよ。


 こんな所に入り浸っているから、女は都合が悪くなれば障害者の権利を振りかざしてダメダメな自分を非難する相手を全て差別主義者扱いするようなどうしようもないモンスター障害者化が更に加速する訳ですよ。

 本気で社会復帰する気があるなら家事か仕事くらいしなさいよって思いますよね?

 んで、女は毎日こんな会合に参加してるから、疲れて家事が出来ないとか甘ったれた事言って何もしないでいつもダラダラしてるんですよ。

 智代がその事を指摘すると、すぐに女はヒスを起こします。


 男も男で、仕事で忙しいって家事なんてロクにしません。

 だから智代達の食事は毎日コンビニ弁当やカップ麺、良くてスーパーの惣菜です。あとたまに店屋物ですね。

 まったく、成長期の子供に何食べさせてるんですかねえ。


 小学生になってしばらくした頃には、掃除や洗濯等は全部智代の仕事ってことになりました。

 毎日好き勝手暮らして幼い子供に何やらせてるんでしょうね、このクズ親達は。


 でも一番最悪なのは女の口癖でした。女の口癖は「あんたなんか産まなきゃよかった!」です。

 後先考えずに生んだのはあんた等でしょうに、本当自分勝手なクソ親ですね。

 何か嫌な事がある度にそれを、ぜーんぶ智代のせいにしてこれを言うんです。 


 智代だって思ってたでしょうね。(私だってこんな家に生まれたくなかった)ってね。

 智代は日々思っていました。(大人になったらこんな家すぐに出て行ってやる)と。

 小学生入って数年の幼女にこんな事思わせるなんて、一体なんというクズ親なんでしょうかね?こんなのそうそういませんよ。




 ですがね、ある日智代は我慢できずにキレました。

 ゴミの分別がちゃんと出来てないと智代を怒り、女はいつもみたいにヒスを起こしました。

 毎度の事ですが、自分でやればいいのに人にやらせた上で指摘してヒス起こすんです。そりゃ智代は頭に来ますよ。


 そして出ました。お決まりの台詞。「あんたなんか産まなきゃよかった!」。

 智代の日頃の我慢の限界が来て、そして智代の日頃の鬱憤が全部噴き出しました。


 智代は女に「病気を理由に親をサボるな!」と怒鳴りました。

 「親ならちゃんと親をやれ!子供になんでも押し付けるな!障害者以前にあんたは人としてどうかしている!子供が子供を産むな!満足に育てられもしないのに一時のテンションで子供を産むなぁ!」智代は思いの丈を全部吐きました。


 智代当時小学生ですよ?小学生にこんなこと言わせる親ってどうなんですか?

 これでは最低なんて言葉も控えめに聞こえてしまいますね。


 流石に女も反省したのか、泣きながら智代に謝りました。

 そして女は「これからはちゃんと母親をやる。もうあなたを悲しませない」と言いました。

 これで改心したら万々歳ですよね。でも現実はそんなに甘くありません。


 その日以来女は「自分はもう病気じゃない」と言い出し、「こんなの飲んでるから頭がおかしくなるぅ」と言って薬を飲むことを拒むようになりました。

 当然情緒も乱れます。前以上に人や物に当たるようになります。

 男がいくら薬を飲めと言っても女はそれを拒否しました。


 そしてしばらくしたある日、女はいきなりトチ狂って家の物を片っ端から壊しだしました。

 挙句女は、隣の家の人が自分を殺そうとしているだのと訳のわからない妄言を言いだし、平日昼間に警察を呼んで大騒ぎしました。

 イカれてる人が薬で無理やり精神を安定させてたんですから、薬をやめたらこうなるのは当然ですよねぇ。


 これを機に女は精神病院に収監されました。

 精神的なダメージが大きかったらしく、自律神経がヤバいことになったらしいですよ。

 今では字すら満足に書けない程ダメダメになってしまい、トイレももう一人では行けないらしいです。

 まあどうでもいいですけど。

 



 悪い母親がいなくなり。智代は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

 なんで風にはいきません。

 智代は自分の母親である女を廃人に追い込んでしまった責任感で自身も精神を病んでしまったのです。

 散々智代に酷い事を言ってきた母親でしたが、やっぱり母親をこんな風にしてしまったというショックは初潮迎えたばかりの小学生の未発達なメンタルでは耐えられなかったんでしょうねえ。


 で、残された智代の父親である男はどうしたかというと、相変わらず智代に対して無視を貫きました。

 智代のメンタルケアは全部精神科医とカウンセラー任せ。依然として家事は全部智代に丸投げです。

 男は毎日のように女のいる精神病院に面会していました。女がそれだけ大事だったんですねえ。

 でも男は相も変わらず智代には生活費を与えるだけで後は何もしません。

 一緒にいても特に会話もしませんでした。

 まあ当然ですよね。智代のせいで愛する女が一生精神病院暮らしになったんですから。

  

 智代の主治医である精神科の先生も、カウンセラーもあまり良い人とは言えませんでした。

 いかにも仕事上の対応って感じで、薬を飲めと言うだけで智代の話なんてロクに聞きませんでした。

 親が酷いとか、学校で酷い目に遭ってるなんて智代がどれだけ言おうと「あーはいはい、そうですかー、あーつらいですねー」みたいな、いかにも事務的な事しか言ってこないのです。

 まるで子供をあやすように、まあ子供でしたけど。

 知ってます?精神科医って医師免許いらないんですよ?

 精神病患者相手にとりあえず薬だけ与えてればいいんですから、歯医者なんかよりずっと簡単になれますよ。

 カウンセラーだってそうです。話聞いて頷くだけで大したことはしてません。ペテン師みたいなものですよ?

 お金払うのも馬鹿馬鹿しくなりますよ?


 だからですね、智代は薬だけは絶対に飲まなかったのです。

 そりゃそうです。こんな医者モドキもクソカウンセラーも信用できません。そんな人達の処方する薬なんて飲む気がしません。

 ですがそれ以上に、智代は薬を飲んだら自分が母親みたいな駄目な人間になったという事を認めるみたいだったのが嫌だったのです。


 でもやっぱり智代は精神病患者。薬を飲まないとすぐに情緒が乱れて周りの人や物にあたってしまいます。

 だから学校では智代は完全にキチ○イ扱いされていて嫌われていました。




 ああ、言い忘れてましたがこの辺りで智代は中学生になっています。


 智代には世界中の全ての人間が自分の敵に見え、この世界そのものが自分を排除しているように思えました。

 だって智代にばかり悪い事が立て続けに起きるのに、周りの人達は皆楽しそうに笑って過ごしているんですもの。智代にとってはさぞ不愉快な事でしょう。


 なので智代は中学校では問題ばかり起こしてました。

 他人が自分に対する悪口を言っているという妄想に取りつかれ、他の生徒に殴りかかる。周りの色々な物が目障りに見えて壊したくなる。

 今まで起きた嫌な事がフラッシュバックし、突然大声を出して泣きたくなる。他にも智代は沢山問題を起こしていました。

 こんなだったらそりゃキチ○イ扱いされて嫌われるのも当然ですよね。まあ薬飲んで精神安定させないといけないような危険人物が薬飲まなかったらこんなものですよ。

 



 そんなある日の事、智代の最高にロクでもない人生にもついに春がやってきたのです。


 この話、まだまだ続きますよ」


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