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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
25/102

24話 廃部

 僕にはわかっていた。

 橘さんにあの事を話したら、確実にロクでもない事になるとわかっていたんだ。だから僕は、直樹のやっていた事に苛立ちながらも今までずっと黙っていたのだ。


 だが僕は話してしまった。だからこんな事になってしまった。

 でもこんな事態になるなんて、多分事の発端である直樹と橘さんでさえ、思ってはいなかっただろう……。




 片桐さんを除く僕等友誼部四人は、先生達に連れられ職員室近くにある相談室へと行く事になった。

 この相談室は本来来客対応の為に使われる物らしいが、僕等生徒にとってはもっぱら生徒同士の間でトラブルが起きた時に使われるイメージが強い。

 何故僕達がこんな場所に連れられたのか、その理由は今回の片桐さんの起こした事件の事情聴取の為である。


 僕や直樹や小鳥遊さんは突然起きたこの事態にただ戸惑うだけだったが、橘さんは皆でアニメを見ていたら片桐さんがいきなり大声を出して発狂して部室の物を壊しまくったと、今日起きた事を淡々と先生方に説明していた。

 片桐さんは精神的ダメージが大きかったらしく、もう既に片桐さんの担任の先生が家まで車で送り届けたらしい。


 何人もの先生達が僕等の事情聴取に当たっていたが、不思議なことにここまで多大な問題行動を起こした片桐さんを責めようとする先生は一人もいなかった。

 それどころか、むしろ片桐さんに対して同情的な見方すらしている様子だった。


 本当は橘さんが小鳥遊さんに対して精神的苦痛を与えるべくねちっこい嫌味を沢山言って、その結果今の事態に至ったということを僕の口から言おうかどうか迷ったが、事態が更に混乱する事になりそうだったからやめた。

 当初はただこの事態に混乱するしか出来なかった僕だったが、事情聴取されている際にしていた先生方の話から色々な事がわかった。


 どうも友誼部の存在は学校側もちゃんと認知していたらしく、その上で学校側は友誼部の事を黙認していたようだ。

 生徒が使われていない部室を私物化し、放課後集まってダラダラと過ごす部活。

 一昔前のアニメやラノベ等ではよく見たが、現実でこんな部活が認められる訳がない。


 なら何故この友誼部は今日まで教員らから存在を黙認されていたのか……、その答えは片桐さんにある。

 片桐さんは所謂心の病を抱えていたらしい。


 それを知らなかったのは僕だけのようで、他の友誼部メンバーは全員この事を知っていたみたいだった。

 何故僕に黙っていたのか橘さんに問い詰めたら、「聞かなかったでしょ?」と見事に論破されてしまった。

 だとしても一言くらい言ってくれても良かった筈なのに……。


 もっとも、そんな事を今更嘆いていても仕方がない。今思えばもっと早く気づくべきだった。

 片桐さんは明らかに普通ではなかった。

 突然キレて大声を出したり、泣きだしたり、今まで僕はその兆候を何度も見て来た筈だ。片桐さんが時々取り乱した際に水と一緒に飲んでいた物、あれはどう考えても精神を安定させる為の薬だ。


 何故僕は今までこんな簡単な事すら気づかなかったのだろうか……。

 気づく事が出来れば、こんな事にはならなかったのかもしれないのに……。




 以下は先生方が話していた断片的な情報を、僕なりの解釈でまとめた物になる。 


 中学時代の片桐さんは俗に言う問題児で、度々こういう事件を起こしていたらしい。

 授業中にいきなり大声を出したり、学校の備品を壊したり、他の生徒に因縁をつけたり、何の脈略もなく突然泣きだしたりと、とにかく色々と問題を起こしていたそうだ。

 でも片桐さんはそういう病気の為、中学校側も退学などの強制措置を取れずに手をこまねいていた。


 ところが、ある日突然片桐さんは何故か急に大人しくなった。

 そして高校に入ってからは問題行動を殆ど起こさなくなった。


 高校入学後に片桐さんが起こした問題行動は、使われなくなった茶道部部室を私物化したり、明らかに校則違反の派手なファッションをしたり、文化祭でもないのに学校内でコスプレをしていた等、他の生徒に被害が及ばない物ばかりだった。

 片桐さんが中学時代どんな風だったのかうちの学校側も把握していた。

 下手に取り締まって片桐さんに無視できないような問題行動を起こされても困るという事で、今日までの片桐さんのあらゆる行動は黙認されていたらしい。

 友誼部が今までかなり好き勝手やっていたにも関わらず学校側からの注意や退去勧告等を一切受けなかったのもこの為だ。


 しかし今日、片桐さんは学校側が無視できない程の問題行動を起こしてしまった。

 今後またこのような問題を起こされても困るという事で、僕達友誼部にはある措置が取られる事になった。


 まず片桐さんが荒らした部室の清掃と今まで部室に置いてきた備品の撤去をすることを命じられた。

 加えて、片付けが終わり次第私物化していた部室の鍵の返却をする事も命じられた。

 そして僕等は今後もう、あの部室は勝手に使ってはいけないと厳重に注意された。

 事実上の友誼部廃部通告である。


 この部活にはいい思い出なんて殆どない。

 だから廃部になろうとどうなろうと僕の知った事ではない。

 それ以前に、僕は前々からこの部活をやめたいと思っていた。


 だがこんな形で廃部が決まっても、正直全然嬉しくない。




*




 片桐さんを除く僕等友誼部メンバー四人は事後処理と立退く準備の為、片桐さんが散らかした部室内を片づけていた。

 損傷が酷くもう使えなさそうな物をゴミ袋に詰め、まだ使えそうな物があれば誰が持ち帰るか決め、部室を当初の状態に戻すべく作業をしていた。




 片づけの最中、直樹が虚ろな目をしながら呟いていた。


「なんで……、なんで智代はあんな事をしたんだろう……」

 そんな事考えるまでもなくわかる事だろうに……。


「知らない。生理だったんじゃないの?」

 嘆く直樹に対し、原因の一端である橘さんはどうでも良さそうに答えた。

 この事件の原因の半分は橘さんのせいなのに、どうやら罪悪感という物はこの人には一切ないようだ。腹が立つ。


「小夜、こんな時にふざけるなよ」と直樹は真剣な目で橘さんに言った。

 今まで散々色々不誠実な事をやってきたのに、こいつは一体何を言っているんだ?

 この事態の元凶たる直樹が、一体何を思ってこんな虫酸の走ることを口走っているのだろうか。

 橘さんの態度にも腹は立つが、こいつの無責任さには反吐が出る。


「ふざけてるのはお前だろ……」

 僕は怒りに耐えかね、思いの丈を口に出した。


「モエ……?」




「橘さんもおかしいけど、お前はもっとおかしいよ!」




「……………………」

 僕は直樹を怒鳴ると、直樹は申し訳なさそうに俯いた。


「お前、片桐さんが病気だって知ってたんだよな?ならなんであんな事したんだよ?」

「……………………」

 直樹は申し訳なさそうに黙っていた。


「お前……、片桐さんにも小鳥遊さんと同じ事やってただろ。告白された時、『え?なんだって?』って、ラノベの主人公の真似みたいな事してさ。だからさっき、片桐さんは橘さんになじられてキレたんでしょ。だから片桐さんは頭にきて、それでこんな事したんでしょ?」

「……ごめん」

 今まで散々僕の言及に対して誤魔化していた直樹がようやく自身の犯行を認めた。


「小鳥遊さんにしたのだって十分酷いけど、片桐さんはもっと繊細なんだよ?お前それわかってたよな?なのになんであんな酷い事出来るんだよ?」

「ごめん……」

「だってお前、僕と違って片桐さんが病気だって知ってたんだろ?なのになんであんな酷い事したんだよ?」

「智代は……、一緒にいる時普通だったから、だから大丈夫だって思ってたんだよ……」

「何が普通だよ……。どうみたって無理してただろ……。あのわざとらしいキャラが素だと本気で思ってたのかよ、お前……」

「ごめん……」

「お前は知らないかもしれないけど、片桐さんはお前に好かれたい一心で、一生懸命あんな変な性格取りつくろってたんだよ?それなのに片桐さんの好意蔑ろにして、お前何とも思わなかったのかよ?」

「だって智代はいつも明るいから……、俺が聞こえない振りしてもいつも笑ってたから……、だから大丈夫だと思ったんだよ……」




「大丈夫な訳ないだろ!?」




「……………………」

 僕がそう怒鳴ると、直樹は再び黙りこんだ。


「なんであんな事したんだよ?悪ふざけ?嫌がらせ?」

「そんなんじゃない……」

 直樹は弱々しく否定した。


「じゃあ何?嫌いなの?性癖?フェチなの?そうやって女の子傷付けるのがお前の趣味なの?」




 僕がそう言うと、直樹はいきなり壁をドンと叩いた。


「人から好かれた事もないお前に、俺の気持ちなんかわかるかよ!」




 こともあろうに直樹は僕に対して逆切れし、僕を怒鳴りつけた。


「なんだよそれ……」

「……悪い」

「お前……、今まで僕の事、そう思ってたのかよ?」

「ごめん……」

「僕の事、人から好かれた事もない奴だって、今までずっとそう思ってたの……?」

「ごめん……」




「そうやってずっと僕の事見下してたのかよ!?」




 頭に血が上った僕は直樹に殴りかかろうとした。


 すると誰かに手を掴まれた。


「やめて!直樹くんを虐めないで!」


 振り返ると、小鳥遊さんが僕の腕を掴んでいた。

 自分に好意を持つ男が大嫌いな、潔癖症の小鳥遊さんが僕の腕を掴んでいる。 

 日頃僕を散々黴菌扱いしていて、自分の湯呑を僕に使われただけで捨てろと騒いだり、僕と握手しただけで急いで手を洗いに行った小鳥遊さんが、直樹の為に僕の腕を掴んでいる。

 それがどういうことか考えると、余計に怒りが湧いてきた。


「小鳥遊さんだって何度もこいつに同じ事されてただろ!?頭に来ないのかよ!?」

「来ないよ!だって直樹くんは優しいんだもん!」

「こいつのどこが優しいんだよ!?最低だろ!」

「直樹くんの事悪く言わないで!お願い!直樹くんを虐めないで!」

 直樹が小鳥遊さんを虐めていた筈なのに、何故小鳥遊さんはここまで献身的な好意を直樹に向ける事が出来るのだろうか……。

 そもそも小鳥遊さんだってあんな不誠実な態度を今まで何度も取られてきたのに、片桐さんと同様に沢山傷ついている筈なのに、どうしてこんな風に直樹を庇う事が出来るのだろうか……。


 こいつはとても不誠実で、無責任で最低な事を今まで何度もしてきたのに……。

 考えれば考える程、気分が悪くなり頭が痛くなってくる。




「……帰る」

 僕はそう言ってこの場を去ろうとした。


 この荒れた部活の片づけなんてもうどうでもいい。

 悪いのは直樹と橘さんである事は確かだが、僕に原因が一切ない訳ではないから責任は感じているし、勿論僕が片づけに加わるのが筋だとも思う。

 でもそれ以前にこれ以上ここにいると気が狂う。




 勝手に帰ろうとする僕を、誰も引き止めなかった。


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