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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
22/102

21話 ボイコット

 僕が小鳥遊さんと直樹のデートを妨害しようと試みた日から数週間後のある日の事だった。

 僕たち友誼部メンバーは、またしてもこの世の不思議探索に出かけていた。

 午前の部が終わり昼食を食べながら午後の部メンバーを決めていた時、事件は起きた。




「なんなのこれ!?どういうことなの!?」

 小鳥遊さんは大声で叫び、その声に反応してファミレス内にいた他の客や店員らが一斉に僕等の方を向いた。




「なんでまたモエ君なの!?こんなの絶対おかしいよ!」

「何よ椿、不満なの?」

「どう考えても変でしょ!?先週の不思議探索の時も、午前も午後もあたしずっとモエ君と組まされてたんだよ!?それなのに今日もそうなるなんて変だよ!」

「仕方ないでしょ、クジなんだから」

 小鳥遊さんのヒステリーの原因。それは橘さんのイカサマ爪楊枝クジにある。


 小鳥遊さんに嫌な思いをさせるのが目的で橘さんはこんなインチキをしているのに、よくぞまあそこまで偉そうに正論じみた事を言えたものだ。


「まあまあ椿さん、落ち着いてくださいよ」

 片桐さんはそう言って小鳥遊さんをなだめようとしていた。

 どうでもいいが、この日片桐さんはドンキで四、五千円で買えそうな安っぽい巫女服を着ていた。


「落ち着いてられる訳ないでしょ!だってあたしはずっとモエ君と組まされてるのに、小夜はいつも直樹くんと組んでるんだよ!?変でしょ!?」

「何言ってるの?智代だって組んでるじゃない」

「小夜が直樹くんと組んだのは三回、智代は一回、あたしは0回!なのにあたしはいつも必ずモエ君と組まされるんだよ!?どう考えても変でしょ!?」

 うん、僕もそう思う。でもそんな風に言われると流石に傷つくからやめてくれ。

 あと小鳥遊さんがあんまり大きな声を出すから周りの人皆が僕等を奇異の目で見ているよ。


「おいおい椿、そんな言い方ないだろ。モエが可哀想だろ」

 どうでもいいけど、直樹のこういう全面的に上から目線な発言は橘さんの陰湿な嫌がらせ以上に腹が立つのは何故だろう。


「あたしだって直樹くんと組みたいよ!なんでいつも小夜ばかりなの!?」

「だから智代だって組んでるでしょ」

「でも小夜が一番多い!でもあたしはいつもモエ君ばかりで一度も直樹くんと組んでない!そのクジ見せてよ!何かズルしてるでしょ!?」

 小鳥遊さんはそう言うと、橘さんのイカサマ爪楊枝クジをぶん取った。


「何これ!?全部赤色じゃない!」

 橘さんのイカサマ爪楊枝クジがついに皆の前で暴かれた。

 これで橘さんの悪行が露見される。そしたらこの茶番も終わる。と僕は一瞬期待した。


「ええ、そうよ」

 なんと橘さんはこのイカサマを認めてしまった。もしかして開き直る気なのだろうか?


「モエと椿の仲がね、なんだかぎこちないから仲良くなってもらう為にクジに細工したの。黙ってて悪かったわ」

 よくぞまあここまでの詭弁を瞬時に思いつくものだ。

 この起点の良さと悪知恵には恐ろし過ぎて吐き気がしてくる。


「なんだそうか。だそうだ椿。モエと仲良くしてやれよ」

 偉そうに直樹はそう言ったが、こいつの発言は一々僕の癇に障る。

 というか、こいつはどこまでアホなんだ?明らかに橘さんは嫌がらせ目的でやっているだろうに、なんでこいつは気付かないのだろうか?

 もしかするとわざとこういう態度をとっているのだろうか。それとも脳みそにゴキブリでも住みついているのだろうか?


「ふざけないでよ!こんな事しても全然嬉しくないよ!」

「でもモエは喜んでいるわよ」

 喜んでねえよ。


「なんで小夜はあたしにイジワルするの!?私は直樹くんと一緒にいたいだけなのに!」

 そりゃあなたが直樹の事が大好きで、同じく直樹の事が大好きな橘さんがあなたの事を嫌っているからだよ。


「おい椿、小夜だってお前とモエの事を思ってやってくれてるんだぞ。そんな言い方ないだろ?」

 直樹よ。お前は小鳥遊さんの保護者にでもなったつもりなのか?

 というかそのフォローはなんだ?喧嘩売ってるのか?

 本当にこいつの発言は一々腹が立つ。




 そうこうしてたらとうとうファミレスの店員までやってきて、迷惑になるから静かにするように言ってきた。しかし小鳥遊さんはそれでも大声を出すのをやめなかった。


「もう嫌!なんでモエ君なの!?なんで直樹くんじゃないの!?」

「おいおい椿、我儘言うなよ。モエだってお前と仲良くなりたいんだよ」




「あたしはモエ君なんかと仲良くなりたくない!」




 小鳥遊さんが怒鳴りながら言ったそれが決め手となり、僕の頭の中の何かが切れた。


「アホらし。もう帰る」

 僕がそう言っても、皆はヒスを起こして取り乱している小鳥遊さんをなだめるのに必死で、誰も僕の方は見向きもしなかった。


 なので僕は会計分のお金だけをテーブルに置いて勝手に帰ることにした。もうこんなバカげたことには付き合いたくない。




*




 ファミレスを出てしばらくした所で、橘さんが走って僕の元へとやってきた。

 橘さんは僕の前に立ち止まるとハァハァと息を切らしていた。


「ちょっとモエ!なによあんた!勝手に出てって……」

勝手なのはどっちだよ……。


「もう少しで上手くいきそうだったのに……。折角直樹の小鳥遊椿への印象を下げるチャンスだったのに!」

知るかよ、そんな事……。


「折角小鳥遊椿をあれだけ追い詰める事が出来たのに!もう少しであいつを直樹の元から引き離せたのに!」

 この人、一体どれだけ自己中なんだよ……。


「折角人前でギャーギャー喚く小鳥遊椿のみっともない姿を直樹に見せつけれたのに!このまま行けば直樹の小鳥遊椿に対する高感度激減間違いなしだったのに!私の日頃の苦労がパアよ!あんたのせいで台無しよ!」

「なんだよさっきから……。好き勝手な事ばかり言って……」

「ハァ?好き勝手なのはあんたでしょ?」




「何が好き勝手だ!あんたの方がよっぽど勝手だよ!直樹と付き合う為とか小鳥遊さんを引き離すとか自分勝手な事ばかり言って僕の事巻き込んで、一人で勝手にやってろよ!」

 橘さんのあまりに酷い態度に腹が立ち、僕の日頃貯め込んでいた感情が噴き出した。




「…………」

 僕が珍しく声高らかに抗議するものだから、橘さんはしばらく唖然としていた。


「何よ……。折角私がクソにも劣るキモオタのあんたを有効に使ってあげたのに!」

「何がクソだ!あんたの方がよっぽどクソだろうが!あんたみたいな性悪、直樹じゃなくても誰だって願い下げだよ!」

「キモオタの癖に、偉そうに……」

「偉そうにしてるのはあんたの方だろうが!確かに僕はキモイよ!?でもあんたよりはマシだ!心が腐ってるあんたよりは遥かにマシだよ!」

「あんた口を開けば言い訳ばかりね!男なら直樹から小鳥遊さんを寝取ってやるくらいの意気込み見せなさいよ!」

「都合のいい事ばかり言うなよ!?今まで散々僕に嫌われろって言ってきた癖に、今度はいきなり好かれろっていうのかよ!?なんでそうあんたはいつも勝手なんだよ!?」

「キモオタの癖に偉そうにして!精液の事バラすわよ!?」

「バラしたいなら勝手にしろよ!?僕はハナから何もしていない!」

「いいの!?本当にバラすわよ!?私がバラしたらあんた一生性犯罪者よ!?人生台無しよ!?破滅よ!?それでもいいの!?」

 橘さんはこの期に及んでもまだ詭弁を吐き続けた。

 橘さんの発言の全ては僕の不快感をかきたてるだけだった。

 ハッキリ言って、橘さんの顔を見るだけで嫌な気持ちになる。


 だから僕は橘さんを無視してその場を立ち去った。




 そしてその日以来、僕は友誼部の部室には行かなくなった。




*




 それから数日の時が経った。

 友誼部に行かなくなってからの僕の日常は平和そのものだった。

 学校に行き、退屈な授業を受け、クラスの女子らに陰口を叩かれ、先生からお小言を言われ、吉田達に絡まれ、家に帰ってアニメを見てエロ画像を見てオナニーする日々。実に平和だ。

 友誼部というクソ忌々しいバカげた部活が絡まない僕の日常は平穏そのものだ。


 橘さん達と教室で顔を合わせる事もあったが、元々僕はいない者として扱われる事が多かったから存在感も薄かったし、正直部活内ではハブられていた。

 だからあの日以降も彼女達が僕に何かを言ってくることもなかったし、ラインや電話等も来なかった。


 何はともあれ、僕が友誼部に関わる前の平穏な日常が帰って来たのだ。

 でもただ一つだけ、以前とは変わった事がある。それはあの日以来、直樹と僕は一切口を聞かなくなったということだ。

 授業で二人組を作る時、抵抗はあったが勇気を出して陰キャラグループに声をかけて組んでもらった。昼食だってトイレの個室で一人で食べた。

1秒たりとも直樹とは話したくはないからそうした訳だ。理由は友誼部内での嫌なことを思い出すから。後は純粋に僕が直樹の事を嫌いだからである。

 だから直樹に話しかけられても僕は無視した。

 ラノベの難聴鈍感主人公の真似をして、女の子の好意を踏みにじって遊んでいるような奴とは会話したくない。




 まあ一見すると平穏に見える毎日を取り戻せた訳だが、僕には一つだけ不安があった。

 それはあの日の去り際に橘さんが、精液の事をバラすと言っていたという事だ。


 勿論僕は無実だ。でもそれを一体何人の人が信じてくれるかはわからない。

 橘さんの行動次第で僕が性犯罪者扱いされ、僕の人生が破滅するという可能性もあり得る訳だ。

 でも不思議なことに、橘さんがあの嘘を皆に言いふらした様子はなく、僕の身の回りではこれと言って変わったことは起きていなかった。これは一体どういう事なのだろうか。




 *




 そんなある日、僕は通学時にたまたま片桐さんと鉢合わせた。


 明らかに無理なキャラ付けをしていたり、性格にやや難はあるけど少なくともこの人は友誼部の人間の中では一番良識がある。

 片桐さんは僕に対しても最低限の礼儀を払ったコミュニケーションを取ってくれる。

 この人は他の人達とは違う。僕の話もちゃんと聞いてくれるし、他の皆みたいに僕を意図的にハブにしたりしないし、僕をバカにしたり僕を傷つけたりすることもない。

 片桐さんは友誼部内で僕が唯一信頼出来る人物だ。




 だから僕は友誼部や橘さんの近況を片桐さんに聞くことにした。 


「今の所あまり変わったところはないですね。普段通り皆でゲームしたりアニメ見たりして、相変わらずダラダラ過ごしていますよ」

「そう、なんだ……」

「モエさん元々存在感薄かったですから。皆さんそんなに気にしてないんでしょうね」

「まあ……、ね」

「無事辞められてよかったじゃないですか。部活」

「うーん……」

「何か不安があるんですか?」

「橘さんの事だから、きっとロクでもない事考えてる……、と思う」

「そうですねえ……」

 今まで散々僕をありもしない罪で脅迫してきた橘さんが、言うことを聞かず部活もボイコットしている僕に対して何の措置も取らないというのはかえって不気味だ。

 きっと僕や小鳥遊さんを陥れる為の卑劣な策略を練っているに違いない。




 僕がそう思っていたら、片桐さんは言ってきた。


「あの、無駄かも知れませんけど、もし小夜さんが嘘を言いふらしたら、私が小夜さんの犯行を証言しましょうか?」

「え……?」

 片桐さんの思いがけない発言に僕は自分の耳を疑った。

「それでも小夜さんはモエさんがやったって言うでしょうけど、私も小夜さんがやったって言ったら少しは事態はマシになるんじゃないかなって思うんですよ。まあ、私が言っても皆信じてくれないかもしれませんが……」

「え……。ほ、本気で言ってるの?」

「だって、許せないじゃないですか。こんな事」

「え、でも、だって、僕なんか庇っても何のメリットもないよ……?」

「それ以前に人としてどうなんですか?そんな酷い事を平然とするって」

 僕なんかの為にここまでするなんて、この人は一体どれだけいい人なのだろうか……。


「それにメリットならありますよ。私も小夜さんの事嫌いですから」

 例えそれが本音だとしても、片桐さんは僕にとって非常に有難い申し出をしてくれているという事には変わらない。


「でももし、このことが原因で直樹の片桐さんに対するイメージが落ちたりしたら……」

「大丈夫ですよ。小夜さんの評判が落ちれば御の字ですから」

「その……、ありがとう」

「お礼を言われる程の事でもありませんよ。私も嫌いな人を陥れたいってだけですから」

 口ではこうは言っていたが、やっぱり片桐さんはとてもいい人だと僕は思った。


 しかし片桐さんはこんなにいい人なのに、どうして直樹みたいなロクでもない奴を好いているのだろうか、これじゃますますわからなくなる……。

 気にはなったが、聞くのはやめておいた。また取り乱すかもしれないと思ったからだ。




*




 そしてその日、あの日以来一度も送られて来なかった橘さんからのラインのメッセージが入った。内容は思いがけないものだった。


『謝りたい。次の休み時間に部室に来て』


 あの吐き気を催す程の性悪である橘さんが、僕に対して謝罪するなんてあり得る事なのだろうかと疑問に思った。

 橘さんがここで今までの僕に対する非礼を素直に詫びるような人間なら、僕は彼女にここまで苦しめられることもなかった筈だ。


 だがしかし、もしかすると橘さんは本気で僕に謝る気なのかもしれない。

悪魔のような性格をした橘さんだって一応は人の子だ。最低限度の良心や、謝罪の念や罪悪感くらい覚えても不思議ではない。

 それに橘さんは、僕が言うことを聞かなければ精液事件の犯人は僕だという嘘を言いふらすと散々脅していた。

 しかし、今のところそれが行われた気配はない。となると、やはり橘さんは本気で自分のした行いを悪いと思っているのだろうか?




 無視した方が賢明かもしれないが、やはりどうしても気になってしまう。


 そう思った僕は、再びあの部室へと足を運ばせるのであった。


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