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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
21/102

20話 ちょろイン

 正直、小鳥遊さんの話は論点がロクにまとまってなかった。

 その上、話がよく脱線した為非常にわかりづらかった。

 以前も橘さんに同じように身の上話をされた事があるが、あの時以上に理解するのが難しかった。


 学年トップの成績で、全国模試でも上位に君臨しているらしい小鳥遊さんがこうという事は、女性というのは皆細かい説明をする際はこうなるのだろうか……?

 いや、僕の狭い視野で見た事例だけで物事を判断するのは軽率だ。

 僕の周りの人がそうだったからと言って、それが物事の全てであると断定するのは暴論というものだろう。


 小鳥遊さんの話す内容を一字一句事細かに書いていたら、きっとワンピースのゲストキャラの過去回想シーン並みに長くなってしまう。

 だからここはある程度のところまでは、僕が要点だけを取り出した上でまとめさせてもらうということをご了承頂きたい。




 小鳥遊さんのお母さんは若くて美人という理由だけで、25歳年上の小鳥遊さんのお父さんに選ばれたらしい。

 なんでも小鳥遊さんのお父さんは跡取りが生まれる前に奥さんが急病で先立たれてしまい、その後も事業で色々なゴタゴタがあり、再婚する時期がかなり遅れたとかって話だ。

 当時小鳥遊さんのお母さんの家は破産寸前で、小鳥遊さんのお父さんサイドからの申し出を断れなかった様子だった。完全な政略結婚だ。

 小鳥遊さんの家のような上級国民間ではこういう話はよくある事らしい。


 小鳥遊さんのお父さんは、小鳥遊さんのお母さんの若さと容姿にしか興味がなかったし、結婚した理由も跡取りを産むということのみ。勿論家族間に愛情などなかった。

 どうやらこれが、小鳥遊さんが自分に好意を持つ男に対して過度な嫌悪感を持つ原因になったらしい。

 小鳥遊さんのお父さんは完全に性欲だけで小鳥遊さんのお母さんを選んだ。

 だから小鳥遊さんも自分のことを外見だけで判断されたり、勝手なイメージだけで好意を持たれるのに凄まじい不快感を覚えるみたいだ。


 一番酷いのは小鳥遊さんには生まれながらに決められた許嫁がいることだ。勿論お互いに好意なんてない。

 小鳥遊さんのお母さんも、お婆ちゃんもそのお婆ちゃんも、皆家の事情で勝手に決められた相手と結婚したらしい。

 小鳥遊さんの家では自由恋愛なんてもってのほかで、小鳥遊さんは時期が来たら親の決めた相手と無理やり結婚させられるのだ。


 加えて小鳥遊さんの家は裕福だがその分厳しい所もある。

 学年順位は一位が当たり前で常に人の上に立つように教育されているらしい。

 だが試験当日に体調不良を起こした小鳥遊さんは第一志望の高校に落ちてしまった。

 その時は両親を心底失望させたそうだ。


 今の高校に入るとやはり小鳥遊さんは完全に場違いで、周りの生徒達から疎まれたり周りの男子からの過剰な視線を集めたりした為、小鳥遊さんは大層嫌な思いをしたそうだ。

 学校では友達も出来ず、親にも失望され、家族間は冷え切っている。

 あたしは不幸のどん底だったと小鳥遊さんは語っていた。


 そして小鳥遊さんが一番困ったのが学校の昼休みの時間だ。

 小鳥遊さんには友達がいない。

 かといって自分を性的な目で見る男子と一緒に昼食を食べるのも抵抗がある。でも一人でご飯を食べる無様な姿を他人に見られるなんてもってのほかだ。

 そこで小鳥遊さんが思いついたのは、浮いている感じの男子と一緒にご飯を食べ、その相手を日替わりで変える事だった。

 小鳥遊さんみたいな綺麗な子が誘って断る男子はまずいない。

 でも毎日同じ相手と食べると相手が変な勘違いをするから、小鳥遊さんは日替わりで食べる相手を変えていたそうだ。

 小鳥遊さんと一緒にご飯を食べた男子全員が僕みたい舞い上がっていらしい。


 そんな小鳥遊さんの行いを咎め、余計に嫌う女子も多くいたが、小鳥遊さんは弱者の戯言だとずっと聞き流していた。 




 僕による語りはここまで。ここからは小鳥遊さんの生の台詞になる。




「そんな時ね、直樹くんに出会ったの。直樹くんは言ってくれたんだ。『そういうの、よくない』って。『君みたいな子にそんな事言われたら、普通の男なら自分に気があるから誘っているように思う筈だ』って。『君は単に一緒に飯を食べる相手が欲しいだけかもしれないけど、傍から見ているとそういうのって凄く印象が悪く見えるよ。そんな事したら余計に嫌われるよ』って、直樹くんはあたしの為に言ってくれたんだ。それがあたしと直樹くんの出会い……」

 ちょろイン。という単語が僕の頭の中に浮かんだ。


 まさかと思うが、これが小鳥遊さんが直樹に惚れた理由なのだろうか。

 あれだけ直樹に酷い態度を取られているのに、それでも小鳥遊さんが直樹に執着している理由はよもやこんな程度の物なのだろうか……?


「もしかして、それで直樹のことを好きになったの……?」

「うん、そう。だって直樹くんはあたしを初めてちゃんと叱ってくれたんだもん。嫌いだから嫌なことを言うとか、あたしと付き合いたいとかそういう理由じゃなくて、直樹くんは純粋にあたしのことを思って叱ってくれたの」

 こういう理由で惚れる人って本当にいたんだ。

 なんていうか、ラノベヒロインみたいな惚れ理由だ……。


「直樹くんはとっても優しいの。だからあたしは直樹くんのことが大好き」

 好きになった理由は優しいから。これじゃますますラノベヒロインじみてくる……。


「直樹くんはね、あたしにとっての王子様なの」

 小鳥遊さんは突然メルヘンな事を言いだした。


「直樹くんは童話に出て来るような魔法使いで王子様なの。だからあたしのこの嫌な人生全部を変えてくれる。直樹くんは素晴らしい人。だから直樹くんと会わせたらきっとお父さんもお母さんも考えを改めてくれる。好きでもない婚約者との結婚もきっとなかったことにしてくれる。だからあたしは直樹くんと早く付き合わないといけないの。その為にはあたしはもっと頑張って、直樹くんに認められる立派な彼女にならないといけないの。だからあたしがもっと直樹くんに相応しい人になれば、直樹くんはきっとあたしを受け入れてくれる。きっとあたしのことを幸せにしてくれる」

 小鳥遊さんのその発言を聞き、僕は身を震わせた。


 どれだけ直樹に入れ込んでいるんだこの人は……。

 ちょっと変なところもあると思っていたけど、ここまで来ると怖いよ……。


 家庭環境に問題があり、誰かに救いを求めるのはわからない話ではない。

 でもだからって、たかだか一回ちょっと説教したくらいで小鳥遊さんがここまで直樹に固執するなんて、ハッキリ言って異常だと思う。

 これではもはや好意というより、崇拝に近い。


 友誼部のメンバーはみんなどこかしらおかしい。やっぱり小鳥遊さんもその例に漏れないという事がよくわかった。




*




 それから数日後の休日が明けた月曜日の放課後、直樹が僕に話しかけてきた。


「おいモエ、部活に行くぞ」

「……この前の小鳥遊さんとのデート、お前すっぽかしただろ」

「なんでその事知ってるんだよ?」

「小鳥遊さんから聞いたんだよ」

「予定があったんだよ」

「予定って何さ?」

「なんでもいいだろ」

「じゃあ何度も小鳥遊さんに告白されてるのにいつもスル―してるってのは?」

「すまんがお前が何を言ってるかわからん」

「告白される度にお前が聞こえない振りしてるって小鳥遊さんから聞いたよ」

「だから何の話だよ?」

「小鳥遊さんが可哀想だよ。付き合う気がないならちゃんと断れよ」

「訳のわからん事言ってないで部活行くぞ」

「なんなの?遊んでるの?小鳥遊さんの事苦しめて楽しんでるの?そういう趣味なの?」

 僕がそう言っても直樹は無視を貫き、一人で部室へと向かっていった。




 別に直樹が僕の発言を無視するのは今に始まった訳ではないが、今回はとりわけムカつく。

 何故こいつの態度はいつもこうも不誠実なのだろうか。


 そりゃ小鳥遊さんはちょっと……、いや、かなりおかしい所がある。でもやはり直樹の態度は許せないし、交際する気がないならないでちゃんとその意思を伝えるべきだと思う。

 直樹は女子にかなりモテる。そして僕はモテない。だからモテる直樹の気持ちはわからないし、直樹の小鳥遊さんに対する対応は不誠実で不愉快だとしか思えない。

 なのに何故か小鳥遊さんは、依然として直樹に対して崇拝に近しい好意を抱いている。




 僕はふと女の子が好きになる男とはどんな奴なのだろうかと考えてみた。

 まあ考えるまでもない。顔が良くて面白くってスペックの高い男だ。

 少なくとも僕じゃない。そんな事はわかっている。


 でも、よりにもよってなんで直樹なんだ?何でみんな直樹を好きになるんだ?

 顔は普通。話もつまらない。趣味もない。スペックは中の下。その上不誠実だ。小鳥遊さんも、橘さんも、片桐さんも、なんでああも直樹なんかに固執するのだろうか?


 考えてはみたが、僕には何もわからなかった。




*




 その日も僕等友誼部部員は適当にダラダラと過ごしていた。


 そんな中、小包を持った小鳥遊さんが直樹に近づき言った。

「直樹くん。クッキー焼いたんだ。良かったら食べて」

 先日僕は男の子はプレゼントをもらうと喜ぶといった感じの事を言った。だから小鳥遊さんは僕の発言を真に受けて直樹の為にクッキーを作ったのかもしれない。


「お、椿。悪いな」

 直樹は小鳥遊さんのクッキーを受け取り食べた。 


「美味いなこれ!皆も食べろよ!」

 直樹がそう言うと、小鳥遊さんはとても残念そうな顔をしながら皆に持っていたクッキーを配った。

 多分小鳥遊さんは直樹以外の人にはあげる気はなかったのだろう。


「椿のクッキーは美味しいわね」と橘さんがクッキーを食べながら言っていた。

「まったくです。嫁の貰い手には困りませんね」と片桐さんもクッキーをほうばりながら言っていた。

 二人とも小鳥遊さんの事を嫌っていて、直樹や本人のいない所では悪口ばかり言っている癖に、こういう時は普通に褒める。

 やっぱりどうかしていると僕は思った。




 僕も小鳥遊さんの作ったクッキーを食べさせてもらった。

 小鳥遊さんの作ったクッキーはスッキリとした甘さでとてもおいしかった。

 小鳥遊さんが直樹の為に作った物とは言え、僕は大好きな女の子の手作りのお菓子が食べられた訳だが、正直あまり嬉しくなかった。




 やっぱり、この人達の関係はとても不自然だと思う。 


 小鳥遊さんの方だって橘さんの事を嫌っているし、詳しくは聞いていないが多分あの様子だと片桐さんの事も嫌っているのだと思う。

 片桐さんも橘さんと小鳥遊さんの事を双方共に嫌いだと言っていた。

 橘さんだって小鳥遊さんの事を本気で嫌っていて嫌がらせばかりしているし、片桐さんの事はキチ○イだとかクズだとか言って見下している様子だった。


 この三人は、裏では好きな男を取り合う恋敵としてお互いを疎ましく思っている。

 それなのに、直樹の前では皆仲良しみたいに振舞っている。

 楽しいなんて思っている筈がないのに、嫌いな人同士で友達みたいにつるんで、一緒に楽しい時を過ごしているかのような素振りをしている。


 そして当の直樹はと言うと、小鳥遊さんからの度重なる告白をラノベの鈍感難聴主人公の如く幾度となくスルーしている。


 なんというか、変とか、不自然とか、おかしいとか、そういう次元を通り越して、この友誼部内の人間関係はただただ歪だと僕は思う。




 こんな茶番、一体いつまで続けないといけないんだ……?


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