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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
20/102

19話 直樹を好きな理由

 翌日の夜、僕は単身で映画館に向かった。

 目的は直樹と小鳥遊さんのデートを妨害する事と、直樹が何故小鳥遊さんの告白をスルーしたのか問いただす事。

 休日という事もあり映画館内はそれなりに混んでいた。


 一応映画館に来る前に小鳥遊さんの選択した恋愛映画をググってみた。

 ネットの評判によると、内容は恋人同士がイチャコラして片方が病気で死ぬということ以外特筆して書く点がないらしい。

 どうも映画の善し悪しそっちのけで流行りのごり押しタレントが出ているのが売りのタイプの映画みたいだ。

 以前萌えアニメのヒロインに対し、こんな女の子居る訳ないから気持ち悪いと言い放った小鳥遊さんが、何故こんな映画を選んだのだろうか。まあ考えるまでもない。

 直樹と一緒にデートする口実作りだから映画の内容なんてどうでもよかったのだろう。


 っていうか、そもそもレイトショーで恋愛映画とか時代遅れなトレンディドラマかよ……。

 小鳥遊さん、お嬢様だから俗世間の事には疎いんだろうなあ……。




*




 映画館に着いた時、ロビーで小鳥遊さんが立っていた。

 どうも向こうは僕がいるということに気づいていない感じだったので、僕はそのまま様子を窺うことにした。

 スクリーン内に入ってしまえば、直樹や小鳥遊さんと会話するタイミングが掴み辛いと判断したからだ。上映中は静かにするというのは全日本国民の常識だ。


 小鳥遊さんの私服はフリルのついたブラウスにギャザーたっぷりのスカートを履いていて、一言でいうと童貞殺す系的なファッションだった。

 小鳥遊さんほどの美少女がこんな男受けの良さそうな格好をしながら一人で突っ立っているので、案の定チャラそうな男にナンパされている。

 そして小鳥遊さんはそれを手慣れた様子であしらっている。


 小鳥遊さんは時折バックからスマホを取り出し確認していた。見たところ直樹が来るのを待っている様子だった。

 恐らく映画館で直樹と落ち合う手筈だったのだろう。




*




 ところがどっこい、何分経っても直樹は来なかった。

 10分待っても、30分待っても、直樹は来なかった。


 単に小鳥遊さんが待ち合わせ時間より大分早く映画館に着いたのかと思ったが、映画の上映時間になっても直樹はやって来ない。

 まさかと思うが、直樹の奴は小鳥遊さんとのデートをすっぽかしたのだろうか?あいつならやりかねない……。




 僕は小鳥遊さんに嫌われている上、この状況で話しかけたら確実にストーカーみたいだから凄まじく抵抗があったが、痺れを切らしたので小鳥遊さんに話しかける事にした。


「あ、あれー?た、小鳥遊さん?き、奇遇だねえー!」


 小鳥遊さんは僕を見ると、冷蔵庫で放置された賞味期限が一年切れたヨーグルトを見るかのような視線を向けてきた。


「も、もしかして小鳥遊さんも映画見るのー?わー、凄い偶然ー!」


 声が裏返ってしまった事もあり、我ながらとてつもなくわざとらしい話し方をしてしまった。


 そんな僕を見て、小鳥遊さんは大きくため息をついた。


「も、もしかして小鳥遊さん!誰かとデート?」


 僕のその言葉に反応し、小鳥遊さんは凄い剣幕で僕を睨んだ。


「なんなの……?」

「い、いや……、だから映画を……」

「あたしの何がいけないって言うの……?」


 小鳥遊さんの態度を見るに、どうも僕個人に対して怒りを向けている訳ではなさそうだ。




「……帰る」

「え、映画は……?」

「もういい……」


 小鳥遊さんはそう言うと、映画館を出て行った。

 直樹がデートをすっぽかしたせいで僕と小鳥遊さんのチケット代が無駄になった。まあそんな事はこの際どうでもいい




 僕は小鳥遊さんを追うべきか追わないか迷ったが、小鳥遊さんみたいな美少女がこんな真夜中に外を一人で出歩くのは非常に危険だと思い、やっぱりついていくことにした。

 小鳥遊さんが夜道を一人歩いたりしたらその辺の浮浪者にチョメチョメされかねない。

 言っておくが僕に下心はない。本当だ。




*




 帰り際、僕等は二人で歩いていた。


 小鳥遊さんはずっと不機嫌そうな顔をしていた。

 僕がついてきているせいなのか、直樹にデートをすっぽかされたせいなのか、はたまたその両方なのか。小鳥遊さんのイライラの原因は僕にはわからない。


「……なんでついてくるの?」

「それは、ほら!バス停こっちだし」

 小鳥遊さんはとても嫌そうな顔をしていた。


「モエくん、一人で映画見ていたの?」

「え、うん!そうだよ!」


 結論から言うと見ていない。


「何の映画……?」

「えっと……」


 ここで小鳥遊さんが見ようとしていた映画の名前を言うと怪しまれると思い、僕はとっさに「ラブライブ!」と答えた。


 言ってから気付いたが、ラブライブの映画はかなり前に上映が終了していたことを思い出した。その上BD・DVDだって大分前に出ている。


「そう……」

 小鳥遊さんはとてもどうでもよさそうに返した。


 なんとかこの場はバレずに済んだようだった。


「あたし、てっきり小夜が嫌がらせでモエくんを待ち伏せたんだと思ってた。っていうか、そうだよね?」


 前言撤回。

 小鳥遊さんは全部気付いていた。




「小夜になんて言われたの?」

「えっと、その……」

「あたしが直樹くんと一緒に映画を見るから、邪魔して来い……とか?」


 小鳥遊さんは恐ろしいレベルでカンが良く、思わず鳥肌が立ってしまった。


「やっぱりそうなんだね。小夜、あたしの事嫌ってるから。まあ別にいいんだけどね」


 やっぱり小鳥遊さんも橘さんに嫌われているという自覚があるのか。

 そりゃ当然だろう。あっちもあれだけ嫌って色々な嫌がらせをしているんだから、否が応でも伝わるというものだ。

 

「それにあたしも小夜のこと嫌いだし。幼馴染とか言って直樹くんに擦り寄って、本当に迷惑……」

 薄々気づいてはいたが、やはり小鳥遊さんの方も橘さんの事を嫌っていたのか。


 それもその筈だ。

 小鳥遊さんは直樹の事が好き。

 そして橘さんは直樹の幼馴染兼親友的ポジションで直樹の事を実は異性として好いている。


 この二人は完全に一油の関係だ。相容れることはない。

 となると、友誼部の活動の茶番臭さはやはり相当な物だと言えるだろう。




「あ、あのさ……、橘さんのことも僕のことも嫌いなら、なんであんな部活にいるの…?」


 この質問に対して小鳥遊さんがなんて答えるか予想できたが、一応僕は聞いてみた。


「そんなの決まってるでしょ。直樹くんがいるからだよ」


 やっぱり。

 ぶっちゃけ聞かなくてもわかっていたよ。


「直樹くん、あたしの事嫌いなのかなあ……」

 小鳥遊さんは虚ろな目をしながら呟いた。


 折角思い人を誘ったのに、デートをすっぽかされたんだからそう思うのも無理はない。




「ねえ、モエ君。どうしたら直樹くんに気に入ってもらえると思う?」

「え……?」

「モエ君、直樹くんと同じ男の子でしょ。だったら男の子は何をされたら喜ぶか知ってるでしょ?」


 そんなの性行為に決まっている。なんて口が裂けても言える訳はなかった。


「ぷ、プレゼントとか……」


 とりあえずここは無難なことを言ってお茶を濁すことにした。


「直樹くんは何が好きなの?何をもらったら喜ぶの?」


 真面目な話、しらない。だってあいつ無趣味だもん。


 というか、今日の小鳥遊さんはよく僕に話してくれる。

 夜のテンションなのか、単に直樹についての情報を知りたいだけなのか、はたまた大好きな直樹にデートをすっぽかされた反動で半ば自棄になっているのだろうか。


「直樹くんってどんな子が好みなの?何が好きなの?どんなことしてたら楽しいって思うの?モエ君、直樹くんの友達だから知ってるよね?」


 そんな事知る訳がない。

 あいつは超つまらない奴だから、趣味とか好きな事は何もないって事しか知らない。


 というかそもそも僕とあいつは友達ですらない。

 っていうかさっきから小鳥遊さんは直樹の話ばかりしている。

 小鳥遊さんは一体どれだけ直樹が好きなのだろうか。


 ちょっとくらい僕についても何か聞いてくれてもいいのに……。




 でもそんなこと以前に、僕にはどうしても小鳥遊さんに聞きたい事があった。


「昨日さ……、小鳥遊さんが直樹に告白してる所、見たよ」

「…………」

 僕がそう言うと、小鳥遊さんは驚いた様子で口を開けた。


「折角小鳥遊さんが勇気を出して直樹に告白したのにさ、あんな聞こえないみたいな態度取るなんて酷いよ。今日だって折角小鳥遊さんがデートに誘ってくれたのに、すっぽかしたりして……」




「直樹くんの事悪く言わないでよ!」


 小鳥遊さんは突然僕を恫喝した。




 普段は大人しい小鳥遊さんがいきなり大声を出したもんだから、正直かなり怖かった。


「今回だけじゃない!直樹くんには何度も告白してる!でもいつも直樹くんはあたしが言うことをちゃんと聞いてくれない!」


 あいつ、前々からロクでもない奴だと思っていたが、こんな可愛い子の告白を何度もスルーするなんて、なんて奴だ……。


「でも直樹くんは何も悪くない!悪いのはあたし!あたしに至らないところがあるから直樹くんはあたしの気持ちを受け入れてくれないの!」


 小鳥遊さんのこの言葉に、僕は思わず耳を疑った。


「ほ、本気で言ってるの……?」

「本気だよ!今日だって、あたしに至らないところがあるから直樹くんは来てくれなかった!だからもっと頑張って、あたしは直樹くんに認められないといけないの!」


 小鳥遊さんには悪いが、僕には小鳥遊さんの言う事がさっぱり理解できなかった。


「頑張って認められるって……、どういうこと?」

「直樹くんに相応しい彼女になれるように、今よりもっと頑張らないと……」


 頑張るったって、小鳥遊さんはもう十分ハイスペックだし、これ以上一体何をどう頑張ると言うのだろうか……。

 そもそも直樹に相応しいって、どう考えても直樹の方が圧倒的に釣り合ってないだろうに……。


「だってあたしのことを本当にわかってくれる人は、直樹くんしかいないんだから……」


 橘さんも片桐さんも直樹も、友誼部のメンバーはみんなどこかしらおかしい。

 やはり小鳥遊さんもその例に漏れないのだろうか……?




「あ、あのさ……。もし良かったらでいいんだけど、なんでそんなに直樹のことを好いているのか教えてくれない……?」

「…………」


 僕がそう聞くと、小鳥遊さんは思いの丈を語り始めた


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