1話 僕の好きな人
僕には今好きな人がいる
彼女の名前は小鳥遊椿。
僕と同じ学校に通う違うクラスの同級生の女子だ。
小鳥遊さんは一言で言うと完璧な人間だ。
成績優秀スポーツ万能、家はお金持ちのお嬢様、恐らく処女。その上そこいらのアイドルですら見劣るレベルの超美人。文化祭のミスコンでも一位を取っていたくらいだ。
多分神様がパラメーターの配分を間違って作ったのが小鳥遊さんという人間なのだろう。
それだけ好きなら告白すればいいだろって?
次のシーンを読んでも同じ事が言えるなら堂々と言ってみるがいい。
*
「おいモエ!お前何読んでるんだよ?」
クラスのリア充グループのリーダー格の吉田はそう言うと僕の本を取り上げた。
「や、やめてよ……返してよぉ……」
そしてクラスのリア充連中に絡まれているモエというあだ名のキモオタ。これが僕だ。
「キモイ絵だなwつーか何このタイトルw無職キモオタニートの俺が異世界行ってチートスキルで無双でモテモテハーレムって、内容まんまじゃねえかw」
「お前さ、いくら現実でモテないからってこんなので現実逃避して虚しくならないの?」
吉田に続き、吉田の取り巻きその1とその2の田中と佐藤も続けて僕を嘲笑した。
「お願いだから返してよぉ……!」
吉田達に涙目で抗議していた僕を周囲の女子達が嘲笑していた。キモオタがリア充にからかわれてキモイラノベを晒されているのだ。さぞかし滑稽に映っただろう。
「そんなに欲しいなら取ってみろよお!」
吉田はそう言うと僕の本を窓から外へ投げ捨てた。
「ほら。早くしないと授業始まるぞー」
吉田達にそう言われた後、僕は泣きながら急いで本を取るべく走り出した。
*
僕が大好きな小鳥遊さんに告白しない理由が恐らく皆さんにもわかっただろう。
普通のラノベならこの後、僕みたいなキモオタは異世界転生したり異世界に召喚されて大活躍したり、ある日突然チートじみたスキルに覚醒して美少女にモテまくるのがお約束だ。でもこれは現実。そんな展開ありえない。
これが僕の日常だ。今日が特別酷いって訳じゃない。いつもの事なんだ。
こんな激ダサな僕が小鳥遊さんに告白した所で快く承諾してくれる筈がない。下手したらストーカー扱いされるのがオチだろう。
正直、吉田達との一件やそれにより授業に遅刻して教師に怒られたというだけでも散々な気分だったが、一番酷いのはこの僕の醜態を大好きな小鳥遊さんに見られていた事だ。
小鳥遊さんは僕とは別のクラスなのだが、休み時間になるといつも僕のクラスにやってくる。理由は僕に会う為ではない。このクラスには小鳥遊さんの好きな人がいるのだ。
それが彼、相沢直樹だ。
これが何かの物語だとすればあいつが主人公で小鳥遊さんはヒロイン。
そして僕は取るに足らないモブ、良くても精々脇役という事になる。悲しいけどこれが現実なのだ。
悲しいけどこれが現実なのだ。