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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
18/102

17話 鈍感難聴主人公

 問い、ハーレム作品の主人公は何故女の子にモテるのか

 答え、わからない

 問い、ハーレム作品のヒロインは何故主人公以外の男を好きにならないのか

 答え、わからない


 何故今になって僕がこのような問題提起を皆さんにしたのかというと、それは皆さんに今一度この物語は相沢直樹を主人公としたハーレム物だという事を思い出してもらう為だ。

 だから脇役の僕が酷い目に遭うのはこの物語の本筋ではない。


 ハーレム物に必要不可欠な要素がある。それは鈍感難聴主人公だ。

 鈍感な主人公はどれだけヒロイン達に好意を持たれようと、決してそれに気づく事はない。何故かというとそうしなければ話が成り立たなくなり、物語がすぐに終わるからだ。


 ハーレム物が終わる時。それは主人公が誰かと付き合った時、或いは主人公が誰とも付き合わずにgdgdな状態で終わる時の二択しかない。

 基本的にハーレム物の主人公とヒロイン達とは良き友人としての関係を維持している。

 物語が終盤に差し迫っている訳でもないのに特定のヒロインからの告白を断ったり、特定のヒロインと付き合ったりしてしまえば良き友達としての関係が崩壊し、主人公を取り巻くハーレムが維持できなくなる。

 だからハーレム物の主人公は、必ず鈍感で肝心な時にヒロインの告白を聞き逃す難聴野郎となるのだ。


 もっともこれはアニメやラノベの中の話。現実ではこんな事起こりえない。

 女の子に告白されて「え?なんだって?」なんて平然と返す奴が現実にいるとしたら、そいつは間違いなくどうかしている。




*




 ある日の事だった。

 友誼部の活動が終わり、帰り際に僕は忘れ物をした事を思い出し、教室に取りに行こうとしていた。


 僕が教室に近づくと、中で直樹と小鳥遊さんがいて二人きりで向かい合っていた。

 夕日に暮れた教室。向かい合う男女。

 青春漫画チック全開なシュチュエーションで、今にも告白イベントが発生しそうな状況だった。

 ロマンチックなムードに包まれているこの二人の間を割って入るのも抵抗があった為、僕は教室の前で中の様子をひたすらと窺っていた。




「好きです!付き合ってください!」

 先に口を開いたのは小鳥遊さんだった。絵に描いたようなベタな告白だった。


 当然と言えば当然だ。だって小鳥遊さんが直樹を好きだって事は火を見るよりも明らかだった。

 それにどの道僕は小鳥遊さんに嫌われている。小鳥遊さんと僕が付き合える可能性は元から0%だったし、今更ショックも感じない。


 あんな美少女からの告白を直樹が断る理由はない。

 恐らく僕以外の全ての人間もそう思うだろう。




 ところが、直樹が言った言葉は思いがけないものだった。


「え?なんだって?」


 僕は一瞬自分の耳を疑った。

 直樹は小鳥遊さんの思いに応える訳でもなく、また小鳥遊さんの思いを明確に拒む訳でもなく、いつもの様なダルそうな顔をしながらよくあるハーレムラノベの主人公みたいな難聴っぷりを発揮したのだ。




 直樹は更にダメ押しとばかりに言った。


「用がないなら帰っていいか?これから用事があるんだ」

「…………」

 直樹のその言葉を聞き、小鳥遊さんはとても浮かない顔をしていた。

 当然だろう。勇気を出して告白したにも関わらず、こんな事を思い人に言われたのだ。

 そんな顔をしたくなるのも当たり前である。




 茫然とする小鳥遊さんに対し、直樹は「じゃあな」と言って去って行った。


 去り際に教室の前で突っ立ていた僕とすれ違ったが、直樹は特に何も言わずに帰って行った。

 僕は目の前で繰り広げられた光景が全く理解出来ず、ただ茫然とその場で立っていた。




*




 その日の帰りの電車にて、僕は再び片桐さんと同じ電車に乗る事になった。

 帰り道が途中まで同じなので、今までも片桐さんと一緒に電車に乗る事は何度もあった。


 なんだかんだ言いつつもこの人は友誼部のメンバーの中では一番信頼出来る。

 小鳥遊さんと橘さんを嫌っているという理由があるとは言え、この人は僕の言う事をちゃんと信じてくれるし、他の皆みたいに僕をハブにしたり僕をバカにする事もない。




 という事で、今日見た事をそれとなく相談してみる事にした。


「あのさ、片桐さん。ラノベの難聴主人公ってどう思う?」

「どうって?」

「女の子にモテまくってて、いざ女の子に告白されると『え?なんだって?』ってはぐらかすような男」

「……何が言いたいんですか?」

「もしも現実でさ、女の子の告白をそういう風にあしらっている奴がいたとしたら、そいつは一体何を考えてそうしてるんだろう?」

「眼中にもないって事じゃないんですか……?」

 確かに直樹はモテる。でもだからって、あんなスペックの小鳥遊さんが眼中にないって……。なんだか無性に納得いかない。


「付き合う気もなくて断るのも面倒で、適当な事を言ってお茶を濁してる……、とか」

 もしそうだとしたらもっとムカつく。


「相手の気持ちを弄んでいるとか……」

 直樹は嫌な奴だからそれもありそうで嫌だ。あいつがそんな風に小鳥遊さんを玩具みたいに扱っているとしたら、これ以上に腹立たしい事はないだろう。


「相手が嫌いだから、苦しめてやろうと思ってるとか……」

 直樹が小鳥遊さんを嫌うだって?そりゃ、小鳥遊さんはスペックが高い割にかなり身勝手な所があるから女子から嫌われているのはわかるけど、だからってあんなラノベ主人公みたいな真似……。


 僕がそんなような事を考えていると、片桐さんはまた鞄からペットボトルに入った水を取り出し何かと一緒に飲んでいた。

 片桐さんがこれをやるのは機嫌が悪い時だ。大抵怒鳴ったりした後にこういう事をする。

 でも今回、僕は彼女の癇に障るような事は何もしていない筈だ。


 まさかと思うけど、片桐さんにも身に覚えがあったのだろうか……。

 もしそうだとしたら悪い事を聞いてしまった。

 



*




 ハーレム作品だと必ず男主人公が複数いるヒロインの中から一人を選ぶ。

 だが現実は違う。

 僕は選ぶ立場ではなく選ばれる立場であり、また僕を選んでくれる女の子はこの世にはいない。


 しかし直樹は僕とは違う。直樹はいくらでも女の子を選べる立ち場にいる。

 直樹はモテる。だから直樹の周りには常に女の子がいる。友誼部メンバー以外の女の子と話している所もよく見るし、教室にいる時だって直樹はいつも女子に囲まれている。


 今日の小鳥遊さんの告白を見るまで疑問にも思わなかったが、ならば何故直樹には彼女がいないのだろうか?

 直樹程のモテる男子なら小鳥遊さん以外の女子にも当然の如く告白もされている筈だ。

 なのに直樹に彼女がいるという話は一度も聞いた事がない。


 誰か好きな人がいる?実はゲイ?それとも理想が高いのか?

 あれだけの高スペック女子の小鳥遊さんを振っておいて?それとも女の子の気持ちを弄んで楽しんでいるのか?




 僕には何も分からない。

 でもこれだけは言える。

 直樹は今日小鳥遊さんの告白に対して聞こえなかったかのような素振りを見せた。

 直樹の真意はわからないが、あれは恐らく故意だろう。




 特に根拠はないが何となく僕にはそう思えた。



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