16話 馴れ初め
突然だが僕と小鳥遊さんの馴れ初めを話そう。
まだ付き合ってすらいないから馴れ初めとは言えないけどね。
あれは今から一年程前。
僕がまだ一年生で、直樹と友達未満知人以上の関係を築いてから約一カ月経過した時期だった。
その日直樹は風邪で学校を休んでいた。
一人で昼食を食べたら周りの奴らからバカにされるし、直樹と知り合う前のように便所で飯を食べるのも抵抗があったし、どうしたものかと僕は悩んでいた。
そんな時「一緒にお昼食べない?」と声をかけてくれた人が小鳥遊さんだった。
そこいらのアイドルや女優なんかがうんこ同然に思える程の美少女が僕なんかと一緒にご飯を食べたいと言ってくれたのだ。
僕は瞬く間に恋に落ちた。
でも翌日、彼女は僕に目もくれず別の男子に同じように声をかけてその男子と一緒にご飯を食べていた。
僕は呆気にとられた。
そんな時、僕の耳に小鳥遊さんの話題を話しているクラスの女子達の声が聞こえてきた。
「見てよ。小鳥遊さん、また別の子とご飯食べてる」
「なんでも自分のクラスの男子とは一通り食べたから、次は隣のクラスのうちにきたらしいよ」
どういうこと……?
「酷い子だよねー。一緒に食べてるあいつもあんなに嬉しそうにしてるし、なんか可哀想になってくるよね」
「その気もないのにねー」
その気もないってどういうこと?
「ねえ、あいつなんであんな事してるの?」
「小鳥遊って凄く美人でしょ。その上勉強も出来るしお嬢様だし、だから男子には好かれてるけど女子からは超嫌われてるんだってー。だけど誰とも付き合う気ないから、ああやって日替わりで浮いてる感じの男子とお昼食べてるらしいよー」
「何それー。最低じゃん」
「ずっと同じ相手と食べてると相手が小鳥遊に好かれてるって勘違いするから、毎日食べる相手変えてるらしいよ」
「うわっ、超酷い」
「お昼食べたいなら一人で食べれば良いのに」
「それは嫌なんだって。あいつプライド高いから」
「だったら女子と一緒に食べればいいじゃん」
「あんたあいつと一緒に食べたいの?」
「絶対無理。だって超ウザいもん」
「でしょー。友達いないのも納得だわー」
彼女達の会話を聞き、僕は全てに合点がいった。
小鳥遊さんは男子達からは好かれているが誰とも付き合う気はない。
その上女子からは嫌われていて友達がいない。
彼女は単に一人で昼食を食べるのが嫌で一緒に食べる相手は誰でもよく、その場にいたクラスで孤立気味の適当な相手を誘っただけの事だったのだ。
小鳥遊さんは僕への興味があって誘ったのではない。
とどのつまり、僕は小鳥遊さんにとっては大勢いる内の一人。要するにモブキャラだった。
たまたま僕が昼食時に一人でいてそれが彼女の目にとまっただけだ。
だから小鳥遊さんは僕なんかを食べる相手として誘ったのだ。
その次の日、小鳥遊さんはまたしてもクラスの浮いている感じの他の男子と一緒にお昼を食べた。
そして次の日も小鳥遊さんはクラスの浮いている別の男子と一緒にお昼を食べた。
そしてまた更に次の日、うちのクラスの浮いている感じの男子全員と一緒にお昼を食べた為、小鳥遊さんはうちのクラスには来なくなった。
それから約一カ月経ち、小鳥遊さんは直樹の取り巻きガールズの内の一人に加わった。
特に根拠はないが恐らく友誼部が発足した時期もこの辺りだろう。
僕は橘さんの策略に巻き込まれ、小鳥遊さんと同じ友誼部の仲間になったが、小鳥遊さんと僕との関係はこの頃から何も変わらない。