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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
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13話 いつもの活動風景

 現実は嫌な事ばかりだ。


 楽しい学校生活。甘酸っぱい恋愛。充実した部活動。

 そんな希望に満ち溢れたキラキラした物はアニメやラノベの中にしか存在しない。

 勉強。虐め。将来の不安。不況。ブラック企業。家庭内トラブル。政治不信。災害。現実は常にそれらの嫌な物で満ち溢れている。

 それはこの友誼部内においても変わらない。


 この物語は所謂部活物である。しかし楽しい部活ではない。

 僕にとってはこれ以上なく嫌な部活だ。

 美少女いっぱいの楽しい部活物が読みたいのなら、大人しくMFJ文庫辺りのハーレムラノベでも読んでくれ。




 友誼部のこの世の不思議探索から約二週間が経過した。

 僕の友誼部内でのポジションも大分固まってきた。やはり僕は基本的に部活内ではいない者として扱われている。


 僕が存在感を発揮するのは橘さんが僕を弄ったり、僕をバカにして笑い物にする時だけだ。

 僕が友誼部の一員になったからと言って、それは僕が友誼部の仲間として認められたと言う事にはならない。

 だから僕が吉田達に絡まれていたからと言って、友誼部の皆が僕を助ける理由はないのだ。

 今までだってそうだった。だからこれから先もそうなのだろう。


 友誼部での活動内容はあってないような物だ。

 皆でダラダラゲームをしたり、皆でダラダラアニメを鑑賞したり、皆でダラダラ何もしなかったり、たまにカラオケやボーリングに行ったり。

 まあラノベとかでよく見る部活物の光景をイメージしてくれ。友誼部の活動は恐らくそれと大差はない筈だ。


 ラノベの部活のような事というのはやってみると案外つまらないものだ。

 そもそもあれは部員同士の仲が宜しいから成立するのだ。

 一見すると仲の良い部員同士に見えるが、裏では一人の男を取り合う為にお互いがお互いを嫌い合っているこの友誼部はその限りではない。

 だからこの友誼部がよくあるラノベのような楽しい部活になれる訳がないのだ。

 この部活がやっている事は言ってしまえばただの仲良しごっこに過ぎないのだ。


 こんな部活は一日でも早くやめたい。

 僕と小鳥遊さんとの仲は全然進展していないし、むしろ小鳥遊さんの僕に対する冷たい視線は日に日に悪化しているような気がする。


 だが僕にはこの部活をやめるにやめられない事情がある。僕は橘さんにやってもいない性犯罪をネタに脅迫されているのだ。

 僕に与えられた責務は小鳥遊さんを退部に追い込み、小鳥遊さんを直樹から引き離し、直樹と橘さんの恋路が成就する為の恋のキューピットになる事だ。

 勿論これが僕にとって理になる訳がない。僕にとっては損しかない。


 幸いな事にあの日以来、橘さんは小鳥遊さんに対するあからさまな嫌がらせを僕に強要していない。

 小鳥遊さんの隣に座れとか雑談をしろとか、精々その程度の物だった。

 しかし、それだけの事でも小鳥遊さんは本気で嫌そうな顔をするのが僕の心に突き刺さる。


 その反面、小鳥遊さんは直樹に対しては僕とはまったく真逆の対応をする。

 直樹に近づいたり、直樹と話したり、直樹に触れたり、とにかく直樹が絡むとどんな些細な事でも小鳥遊さんはとても幸せそうな表情をするのがこれまた僕の心に突き刺さる。


 結局のところ、この部活はどう転んでも僕の不快感を煽るだけだった。


 唯一、僕と友達になってくれる可能性のありそうな片桐さんだけはちょっとだけ僕に優しくしてくれた。

 僕が友誼部内で皆に弄られている時、片桐さんだけは僕にそれとなく助け船を出してくれる事が多々あった。

 他にもたまに二人きりになる機会があると、橘さんや小鳥遊さんに対する悪口も織り交ぜつつ僕の愚痴を聞いたりもしてくれた。

 それだけが今の僕にとっての救いだった。




*




 そんなある日の事だった。

 その日友誼部は流行りの深夜アニメの鑑賞会をしていた。




『君が君の事を嫌いなのは知ってる!でも私は君のいい所を沢山知ってる!その事を君に知って欲しかったの!』




「背筋か痒くなる台詞ね」

 アニメのヒロインの告白シーンを見ながら、橘さんは眉間にしわを寄せ言った。


「そうか?優しくて健気ないい子じゃないか」

 直樹は橘さんに反論するかの如く言った。


「この子いい子いい子ってネットで話題なんだけど、なんつーかオタクの自己肯定願望を最大限に満たす感が強過ぎてキモいわ」


 僕の事を悪く言うのはいいけど、僕の好きな作品まで批判するのはやめてくれ。

 僕以外にも大勢ファンがいるんだぞ。

 その作品のファンが不快な気持ちになったらどうするんだ。




『君は自分の事しか知らない!私が見ている君の事を、君は何も知らない!』




「この作品、女性に肯定された事がない奴の抱く女性に肯定されたい願望が滲み出てるわね」


 今更ながら思ったけど、橘さんはなんでも否定から入る。

 直樹以外に友達がいないのも納得だ。


 僕や小鳥遊さんや片桐さんとは友達じゃないのかだって?

 冗談だろ?


「おいおい小夜、そんな言い方するなよ。いいアニメじゃないか。俺には純粋な愛の告白にしか見えなかったぞ」


 黙れ直樹。

 お前にこの子の気持ちやこの作品の良さがわかってたまるか。


「男から見た理想のヒロイン像全開って感じで、女の私から見るとやっぱり都合が良過ぎて気持ちが悪いわ。この取り柄のないウザい主人公が大好きって感じがなんか受け付けないわ」


 いつも直樹にベタベタしている橘さんが、自分の事を棚上げして偉そうに二次元美少女批判とは……。


 本当どうしようもないなこの人は。つーか嫌なら見るなよ。

 あんたみたいな捻くれた女がこの手のアニメを見て何が面白いんだ……。




「小夜さんはリアルの生活に満足してるからそう見えるんですよ!なんでこの魅力的なヒロインの良さがわからないんですか!?」

 片桐さんが橘さんの批判に反論した。


 どうでもいいが片桐さんは今日はドンキホーテで2、3000円で売っていそうな安っぽいメイド服を着ていた。片桐さんはよくこういうコスプレをして部活にやって来る事がある。

 恐らく直樹に対するある種のアプローチだろう。これも友誼部の見慣れた光景の一つだ。だから今更誰も突っ込まない。


「あんたは女のくせに美少女アニメが好きな異常性癖者だから参考にならないわ」

「そんなに褒めないでくださいよー」


 女の子なのに美少女アニメが好きなだけで異常性癖者扱いとは恐れ入る。

 それにしても、片桐さんのこの返しや煽り耐性には感服する。

 僕もいつかこんなコミカルな返しができるようになりたいものだ。


「やっぱり非リア充じゃない人にはこの作品の良さはわからないんですよ!この子の健気さも!」

「つまり私はリア充だからこれの良さがわからないと?」

「そうです!」


 橘さんがリア充と言われると正直首をかしげたくなる。

 こんなに屈折した性格をした人がリア充であって良いのだろうか?


「って事は、俺は非リア充だからこれを見て良い話だって思った訳か」


 直樹よ。

 それはギャグで言っているのか?

 本当直樹の発言にはいつもイライラさせられる。




「ねぇ、モエさんならこの作品の良さがわかりますよね!?この子はいい子ですよね!?」


 片桐さんは僕に話題を振ってきた。好きな作品を橘さんに思いっきりディスられている僕の気持ちを汲んでの事なのだろうか。


「え……、あ、うん」

「あんたこういうの見て妄想してシコるんでしょ?本当キモいわ」


 おい。

 やっぱり橘さんは口が悪い。性格が悪いから言葉選びも相手の気持ちを無視した物ばかりになるのだろう。




「椿さんはどう思います?」

 片桐さんは、今度は小鳥遊さんに聞いた。


「あたしも気持ち悪いと思う。こんな女の子ありないから」


 小鳥遊さんまでそんな事を……。


 やはり片桐さんがおかしいだけで、女性から見た美少女アニメの感想とはこういう物なのだろうか。

 もっとも、片桐さんが本気でこう思っているかどうかは疑わしい。


「小鳥遊さんも小夜さんと同じ意見なんですね!やっぱり気が合うんですね!」

「え……」

 小鳥遊さんは本気で嫌そうな顔をしていた。




 この時僕は確信した。ああ、小鳥遊さんの方もやっぱり橘さんを嫌っているのか……。

 だから同じなんて言われてそんな顔をしているのか。

 まあ、同じ男を取り合っているんだから当然と言えば当然か。




 僕がそんな事を思っていたら、アニメを見ていた直樹が大声を出した。


「おいおい!主人公、こんないい子を振っちまったぞ!」


 お前みたいな女の子にモテモテなリア充が今更アニメの恋愛如きにそれだけムキになるなんて滑稽だ。


「当たり前よ、こういう童貞の妄想を体現した女は裏では何を考えてるかわからないわ。実は性格ブスなのよ。断るのも当然よ」


 性格ブスはあんたの事だろ。

 裏で腹黒い事ばかりしてるのはまさにあんたの事だろうが。


 と僕は思ったが、そんな事を橘さんに堂々と言えるほどのメンタルがあれば僕はここでこうして鬱々とした部活生活を送る訳がない。




「ところで、モエ。あんたってなんで自殺しないの?」

 橘さんは何の脈絡もなく、僕に対してとてつもなく残酷な質問を投げかけてきた。




「な、なんでそんな事を……?」

「だってあんた、このアニメ見たいに異世界に行く糞ラノベが好きじゃない。それにあんた現実世界には居場所がないって感じじゃない。生きてる意味ないでしょ?だったら自殺して異世界転生にワンチャンかけないの?」


 この人はどうしてこう公然とここまで人を傷つける質問が出来るのだろうか。

 親の顔が見てみたいものだ。きっとまともな教育を受けていないのだろう。


「それ、実は俺も気になってた」


 ウゼえこいつ等。

 やっぱり幼馴染だけあって、直樹も橘さんと同様に人に思いやりを持てない人間なのだろう。


「現実とアニメは違うから……」


 そもそもこんなアニメじみた部活を作る程現実と空想の区別がつかない橘さんに、何故僕はこのような不愉快な質問をされなければいけないのだろうか。


「でも死んでこのアニメの女の子みたいな子がいる世界に行けるんだとしたら、迷わず行くんでしょ?」


 本当この人ウザい。


「い、異世界物は基本自殺して異世界行く事はないんだよ……。事故死とか急死、あとは何の説明もなく突然ってのがお約束……、だから」

「あーあ、そう言えばこのアニメもコンビニ帰り突然異世界に来てるもんねー」

「なるほどな。こういう作品も自殺者を増やさないように上手く出来てるのか」

「よかったわねモエ。死ななくて済んだじゃない」


 殺すぞお前ら……。




 まあ、こういう具合に弄られるのは何も今に始まった事じゃない。

 友誼部のいつもの活動風景、そして友誼部内での僕の扱いは大体いつもこんな感じだ。




 *




 日も落ち空も暗くなり、友誼部の活動が終わり僕達友誼部一同は解散となった。

 そして僕がまっすぐ家に帰ろうと学校の校門を出たタイミングで電話が掛かってきた。電話の相手は橘さんだった。


『ちょっと話があるんだけどいいかしら?友誼部部室で待ってるわ』


 橘さんはそれだけを言って電話を切った。

 恐らくロクでもない話だろう。


 しかし僕がここで黙って帰れば後でどうなるかわからないので、僕は渋々彼女の言う事を聞くのであった。


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