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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
12/102

11話 責務

 友誼部のこの世の不思議探索午前の部が終わった。

 当初の目論み通りに直樹とデートできた橘さんは、この世の終わりが来たかのような心境の僕とは対照的にとても幸福感に満ち溢れた表情をしていた。


 予定通り僕等友誼部の五人は駅近くにあるファミレスで食事をする事になった。

 ファミレスに到着すると、女子三名は誰が直樹の隣に座るかで揉めていた。

 そして直樹は自分を取り合って口喧嘩をする女子三人を見ながらニヤニヤ笑っていた。

 傷心の僕の事を気にかける人なんてこの場には一人もいなかった。




『顔とか性格とかそういう問題じゃないの。態度、話し方、臭い。何気ない仕草。とにかく全部気持ち悪いの。モエ君の人間性そのものが受け付けないの。いいとか悪いとか以前にとにかく無理なの』


 僕は今日、大好きだった小鳥遊さんにこっぴどく振られた。


『全然知らない男の子から、勝手な先入観で好きになられて、それで喜ぶ人なんていないよね?ロクに話した事もない人を好きになるって、上辺だけの勝手なイメージを好きになるって事だよね?それって完全に性欲だけで好きになってるって事だよね?』


『好きでもない人にそんな目で見られて喜ぶ女の子なんていないよ?』


『違うって言うの?だってモエ君、あたしと殆ど話した事ないのにあたしの事が好きなんだよね?モエ君はあたしの何を知ってるの?あたしが何が好きでなにが嫌いなのかちゃんとわかってるの?知らないよね?それってあたしを性的な目でしか見てないって事だよね?でも直樹くんは別。本当のあたしをちゃんと見てくれる。モエ君とは何もかも違うの』


『モエ君みたいな人があたしの事を好いているって考えるだけでも嫌な気持ちになる。気持ち悪いの。考えただけでもゾっとしちゃう。はっきり言って迷惑なの。だから本当は話すだけでも嫌。一緒にいるなんて絶対に御免』


『でもモエ君は直樹くんの友達。だからあたしも我慢する。直樹くんに嫌われたくないもん。だからモエ君もあたしと付き合いたいとか、仲良くなりたいとか思うのを我慢して』


 小鳥遊さんに言われた言葉の数々が僕の頭の中に蘇る。

 すぐそこで直樹の隣の席になる為に躍起になっている小鳥遊さんの表情を見ていると頭が痛くなった。




「ちょっと、トイレ行ってくる……」

 僕がそう言っても、誰も気にする素振りを見せなかった。


 昨日の新人歓迎会の時からずっとこんな感じだから今更文句も出ない。




*




 僕は店の外に出て大きくため息をついた。


「我慢しろって……。一体何をどう我慢しろって言うんだよ……」

 僕は持っていたスマホを操作し、ラインを起動し『話がある 店の外まで来て』と橘さん宛にメッセージを入力した。


 十分くらいその場で待っていると橘さんがやってきた。恐らく僕を差し置いて他の皆だけで勝手に盛り上がっていたのだろう。まあ今はそんな事はどうでもいい。


「何よ?急に呼び出して」

「……とりあえず、場所を変えよう」




*




 僕等二人は人気のない所へと移動した。


「そんな顔してどうしたの?地上デジタル放送がアナログ放送にでも戻ったの?」

「……ふざけないでよ」

「私はいつでも真剣よ。なあに、怖い顔して?小鳥遊椿と何かあったの?」

「そうだよ……」

「ふーん、小鳥遊椿に振られたとか?」

「…………」

「あーあ、図星なんだ~」

 橘さんは何故か嬉しそうな顔をしていた。


「橘さんが小鳥遊さんに、変な事言ったでしょ……」

「変な事?例えば?」

「僕が性的な目で小鳥遊さんを見てるとか……。制服に精液かけたのは僕だとか……」

「言ってないわよ」

「でも、だからって、いきなり嫌いだなんて……」

「単にあんたがキモかっただけでしょ?」

「それだけであんなに言われるなんて、あり得ないよ……」

「なんて言われたの?」

「……気持ち悪いって言われた」

「他には?」

「僕が小鳥遊さんの事性的な目で見てるって……、僕が小鳥遊さんの事を好いてるだけで迷惑だって……、一緒にいるのですら嫌だって……」

「全部事実じゃない」




「違うよ!」

 僕は怒鳴るように叫んだ。




「何が違うって言うのよ?あんただってどうせ小鳥遊椿を性的な目で見てたんでしょ?」

「そんな事……、ない……」

「どうせ小鳥遊椿の事想像しながら毎日シコシコしごいてるんでしょ?」

「そんな事しない!」

「だったらあいつのデカ乳揉みたいとか、キスしたいとか、舐めまわしたいとか、そういう事も一切考えた事がない訳?」

「…………」

「ほら、やっぱり事実じゃない。あんたがキモくって、小鳥遊椿の事を性的な目で見ていて、それが嫌で振られたってだけの話でしょ?で、用事はそれだけ?じゃあ私戻ってもいい?このままじゃ折角頼んだ料理が冷めてしまうわ」

「待ってよ!」

 僕は去ろうとしていた橘さんの肩を掴んだ。


「なあに?八つ当たり?女に振られたくらいでみっともないわねえ」

「ふざけないでよ!」

「まさかと思うけど、あんた自分が小鳥遊椿に好かれるなんて本気で思ってたの?それともアレ?『小鳥遊さんは何もかもが完璧な女の子だから僕みたいなキモオタでも肯定してくれる~。僕みたいなキモオタでも優しく受け入れてくれる~。僕の事を好きになってくれる~』とか、そんな都合のいい事でも思ってたの?ばっかじゃないの?」

 正直橘さんの言葉を否定出来なかった。何故ならそれは、常日頃僕が小鳥遊さんに対して求めていた願望そのものだったからだ。

「要するにあれでしょ?好いてた女の子といざ話をしてみたら結構キツイ性格だったってだけの事でしょ?小鳥遊椿が性格悪いって事が知れて良かったじゃない」


その言葉を聞き、僕の頭から血管がぷつりと切れたような音がした。




「性格悪いのは橘さんでしょ!?小鳥遊さんに嫌がらせばかりして、僕をこんな事に付き合わせて!橘さん程性格の悪い人なんて今まで見た事ないよ!」




 僕が柄にもなく大声を出したせいか、橘さんはしばらく唖然としていた。

 そして表情を曇らせ、とてつもなく不機嫌そうな顔をした。


「ハァ?クソムシにも劣る犬畜生以下の分際でなにいっちょまえに人間様である私に抗議してるのよ?私としてはむしろ感謝して欲しいくらいだわ」

「なんで!?」

「だって私があんたを誘わなかったら、あんた絶対小鳥遊椿と一切話す事なく高校を卒業してそれきりだったのよ?社会に出て生涯独身が確定してから『あの時告白しておけばよかった~』って後悔するよりも、いっそ今振られてスッキリしたでしょ?」

 そういう言い方をされると何も反論出来なかった。


 確かに僕は今まで小鳥遊さんに対してやり場のない感情をずっと持っていた。

 正直橘さんに誘われた時、心のどこかで僕は喜んでいた。

 小鳥遊さんと付き合えるだなんてムシの良い事を思っていた訳ではないが、もしかすると小鳥遊さんと友達くらいにはなれるかもしれないと思っていた。

 というより思っていたかったのだ。


「第一あんた、自分が異性に好かれるような人間だなんて1ミリでも思ってたの?どれだけ現実見えてないのよ?」

「……思っていない」

 この言葉は嘘だ。事実僕は僕の事を好いてくれる人が現われるのをずっと期待していた。


「あんたなんか好きになる女の子なんて一人もいないのよ?何も小鳥遊椿に限った話じゃないわ。今後生きていてもあんたを好きになってくれる女と出会う事は絶対ない。女の視点から見ると根本的にあんたみたいな男って無理なのよ。嫌いとか以前に絶対無理。生物的な本能以前の問題で受け付けない。いくら積まれても絶対に付き合えないタイプ」

 橘さんのそれらの言葉を聞いた時、僕の心の中に何とも形容しがたいドス黒い感情が渦巻いた気がした。


「要するにアレでしょ?あんたは傷つきたくない。とにかく女の子に肯定されたい。肯定される事で嫌なことから目を逸らしたい。居心地のいい世界にずっといたいの。だからいつもクソ見たいな異世界物のラノベを読んでいる。だったら外になんか出ずにずっと家に籠ってラノベでも読んでればいいんじゃない?それが嫌なら異世界転生にワンチャン賭けてさっさと死ねば?どうせ現実にはあんたの居場所はないんだし、もしかしたらあんたみたいなキモオタを受け入れてくれる都合のいい世界に行けるかもよ?」


 気がつくと、僕は橘さんの胸倉を掴んでいた。


「女の子殴るの?本当あんたって最低ね」

 橘さんはまるで汚物でも見るかのような冷たい視線を向けながら言い放った。

「最低なのはどっちだよ……」

「この状況だとか弱い女の子に暴力で訴えようとしている方がどう見ても最低だけど?」

 確かにその通りかもしれないが、この人の言動には本当に腹が立つ。


「最初に言ったわよね?小鳥遊椿に嫌われたとかでやめるのはなしだって。あんた、私の言う事聞かないとどうなるかわかってるでしょ?あんたの人生破滅するの。一生性犯罪者の烙印を押されるの。そこんとこわかってるわよね?」

「クソッ!」

 僕は叫びながら橘さんを解放した。そして近くの壁を思いっきり殴った。


「ゴミにも等しいあんたがそのキモさを駆使する事で私の役に立てるのよ?あんたが小鳥遊椿に嫌われてるならむしろ好都合よ。これで直樹からあいつを引き離すのが容易くなったって物だわ」

 この人はなんでこんなに嫌な人なんだ?

 直樹はこんな人と付き合っていて嫌にならないのか?

 なんで直樹はこんな嫌な人と親友でいられるんだ?


「不服なの?あんたみたいな何の取り柄もないクソ虫が人の役に立てる事はこれしかないのよ。だったら自分の責務を全うしなさい。あんたの存在意義はこれだけなの」

 なんで僕はこんな酷い人にここまで自分の存在を否定されなければならないんだ……?


「まあ私も鬼じゃないわ。そこまで言うなら午後の部は小鳥遊椿と組ませないであげる。同じ組み合わせじゃ流石に怪しまれるでしょうしね。じゃあ私戻るから」

 橘さんはそう告げると一人でファミレスまで戻って行った。




 気がつくと、僕の目元は涙でいっぱいになっていた。

 一体僕が何をしたって言うんだ?

 僕は何も悪い事なんかしていない。なのになんでこんな目に遭わないといけないんだ?


 もはや女の子に泣かされたとかそういうレベルではない。もっと根本的な意味で自分の存在が情けなく思えて、涙がどんどん溢れてきた。


 僕はその場に立ちすくみ、長い間一人で泣いていた。




*




 涙が止まった後、僕は一人ファミレスに戻った。

 ファミレスのテーブルには一通り料理が配膳されていて、他の四人は談笑しながら昼食を食べていた。

 直樹の両サイドには橘さんと小鳥遊さんが座っていた。

 片桐さん一人のみが直樹と面と向う形で座っていたので、僕は片桐さんの隣に座った。


 僕が戻ったからと言って、誰も気にも留めなかった。だから当然僕の目の周りが真っ赤になっている事に気づく人もいない。

 『どこ行ってたの?』『大丈夫?』『何か頼む?』なんて優しい声をかける人はいなかった。

 完全にこの場において僕はいない者として扱われていた。

 あまりにも存在感がなさ過ぎて、誰も僕の存在を認識していない。

 だから僕はただひたすらその場で直樹達の雑談を聞いていた。


 直樹が途中で僕の方を見て、「あ、モエ。いたんだ」なんて言ってきたが、僕は特に返事はしなかった。

 ここまで来るともうムカつくなんて感情も湧いてこない。

 あるのは果てしない虚無感だけだった。

 注文もしてないので僕だけが飯抜きという事になっていたが、正直こんな気分じゃ食欲なんて湧く訳がない。




*




 ファミレスにて食事が終わった後、友誼部のこの世の不思議探索午後の部が始まった。

 橘さんはまたしてもイカサマで自分の好きなように組み合わせを決め、直樹と橘さん、僕と片桐さん、小鳥遊さん一人。といった具合に組み合わせが決まった。


 派手なギャル風のメイクに不似合いなゴスロリファッション。こんな格好をした片桐さんと一緒に並んで町を歩いているのだから、当然周囲の人達から変な目で見られる。

 普段ならこんなファッションをしている人と歩くなんて絶対に御免だが、今の僕にはそんな事はどうでもよかった。

 早く帰って眠りたい。そして今日の事を早く忘れたい。僕の頭はもうその事しか考えられなかった。 


 当然の如く僕と片桐さんの間に会話はなかった。

 昨日の電車の時もこんな感じだったし、今更気にするようなことではない。

 どうせ橘さんは僕のキモさを利用して片桐さんも追い出すつもりなのだろう。

 だからクジのイカサマを使ってこの人と僕を組ませたんだ。

 それにこの人だって普段は底なしに明るいのに、僕と二人きりの時だけはこうして無愛想な態度を取っている。僕には愛想を良くするメリットがないからだろう。


 僕は小鳥遊さんには嫌われていて、橘さんには犬畜生以下と見下されている。

 だからきっとこの人だって僕の事を軽蔑しているに違いない。

 もう何もかもがどうでもいい。

 この世界には僕の事を好きになる人どころか、傷ついている僕を心配する人すらいないのだから。




 僕がそう思っていたら、片桐さんは思いがけない言葉を口にした。


「あの……。なにかあったんですか?」


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