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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
11/102

10話 デート

 翌日の朝、僕は橘さんに言われた通り待ち合わせ場所に行った。

 待ち合わせ場所は県内でも有数の繁華街の駅で、当然休日という事もあり多くの人でごった返していた。


 僕は基本的に土日は昼まで寝ている。

 深夜アニメを生で見るからだ。だがこの糞な部活の校外活動によって僕の日課は中止せざるを得なくなった。

 なんと忌々しい事だろうか。


 だがこれ以上に腹が立つ事がもう一つあった。

 待ち合わせの時間は朝の九時半だが、僕はわざわざ早起きをして時間の十分前に待ち合わせ場所に到着した。

 ところがどっこい、待ち合わせ時間を過ぎても部員は誰も来ないのだ。

 もしかしたら橘さんに嵌められたのかもしれない。

 あの人ならこのくらいの嫌がらせ平然とやってのけるだろう。




 約束の時間を十分過ぎ、橘さんに文句の電話でも入れようとした瞬間、カジュアルな私服に身を包んだ橘さんが僕の元へとやってきた。


「あれ、なんかここ臭くない?」

 謝罪の言葉でも挨拶でもなく、開口一番に言う事がその言葉だった。


「ねえモエ。ここ臭いわよね?」

「いや、別に……」

「ああ、臭いと思ったらあんたの臭いだったわ。どうりで」

 この人僕に喧嘩を売っているのか?


「あんたちゃんと毎日お風呂入ってるの?」

「ま、毎日入ってるよ……!」

「じゃあ口臭かしら?」

「は、歯磨きだって毎食後してるよ!」

「毎日お風呂入って毎食後も歯磨きしていてその臭いなの?あんたどれだけ臭いのよ?」

 張り倒してやろうかこのアマ。と思ったが気弱な僕にそんな事が出来る訳がない。


「そ、そんな事より、他の皆はどうしたの?」

「ああ、直樹達ならまだ来ないわ。だって待ち合わせ時間十時だし」

 じゃあなんで僕だけが呼ばれたんだ?


「あんたと二人で打ち合わせしたかったの。だから早めに呼んだ訳」

 なるほど。って待てよ……。


「九時半に来いって……、橘さんは十分も遅れてきたけど……」

「それは私が寝坊したから」

 自分から言いだした事なのに遅れるとは、なんて人だ……。


「という事で、今から打ち合わせを始めるわよ」

 何故だろう。凄く気乗りしない。


「今から数分後に部活メンバー全員がここに来る。で、あんたに小鳥遊椿とデートしてもらう。オッケー?」

「ごめん、意味がわからない……」

「本当あんた理解力ないわね。顔やコミュ力だけじゃなくて脳の出来まで人並み以下なの?」

 本当ウザいなこの人。


「わかった。あんたみたいな低能にもわかるように順を追って説明するわ。耳をかっぽじってよく聞きなさい」

「……はい」

「声が小さい!」

「は、はい!」

「宜しい」

 マジでウザいなこの人。




「私達友誼部は休日になると校外活動としてこの世の不思議探索をするの」

 物凄く既視感のある活動だ……。


「具体的には……?」

「まあ宇宙人とか未来人とか超能力者とか、そういう面白そうな物を探すのよ」

「ハルヒ……?」

「ハルヒって……、あんた十年以上前の深夜アニメの事知ってるの?キモ……」

 今の一言には流石に頭に来た。


「知ってるって橘さんだって知ってるじゃん!もろハルヒだよねこれ?この世の不思議探索ってハルヒパクってやってるんだよね!?」

「私はいいの」

「なんで!?」

「女だから」

「はぁ?」

「ほら、あんたみたいなキモオタが昔のアニメに詳しくても当たり前すぎてキモイだけでしょ?でもイケメンとか女の子がそういうの好きだとギャップがあるって言うか、親近感が持てて逆に高感度が上がるじゃない?」

「いやいやいや!そういう問題じゃないよねこれ!そういう問題じゃないから!」

「っていうか、あんた何銀魂好きの腐女子みたいな口調でツッコんでるの?キモ……」

「…………」

「まったく……、キモオタってのは普段黙ってて何考えてるかわからないのに、自分の好きな話になると急に饒舌になって『ってオイイイ!!』とか言い出して、本当キモいわ」

「その……。ごめん……」

 僕は何故橘さんに謝っているのだろうか。僕の何が悪かったのだろうか。やはり僕がキモイのがいけないのだろうか。


「話が逸れたわね。で、その不思議探索はいつも班に分かれて行ってるのよ。今まで友誼部は四人だったからツーマンセルが二組って具合にね」

 まさにハルヒじゃねえか。


「んで、あんたが増えて五人になったから今回は三組に分けようと思うのよ。ツーマンセル二組。ソロが一組ってな具合にね」

「なんで二人と三人で組まないの?」

「私が直樹とデートして、あんたが小鳥遊椿とデートするから。一人残った智代はぼっちで一人さびしく町を散策するのよ」

 やっぱり陰湿だこの人。


「は、班分けはどうやって決めるの?」

「それはこれ」

 橘さんはバッグから爪楊枝じを五本取りだし、手で握った。

「赤と青と無色のがあるわ。あんた、一本引いてみて」

 僕が引くと、先が赤いマジックで塗りつぶされていた。


「つまり……?」

「こういう事だってばよ」

 橘さんは握った手を開き、他の爪楊枝を僕に見せた。

「実はこれ、全部赤色なのよ」

 橘さんの考えている事の察しがなんとなくついた。

「赤色と青色と無色の爪楊枝をそれぞれ事前に用意しているわ。これを交互に入れ替えれば私の思ってる通りに班分けが出来る」

 こんな見え透いた手品でバレないのだろうか……。


「探索は午後一時になったらまたここで集合。皆で昼食を食べたらまたクジ引きで班分けしてまた探索。まあそんな感じよ。二回目も同じ組み合わせで行くつもりだから」

 二回連続でこのイカサマをやるなんて、バレやしないのだろうか……。


「お昼食べたら午後の探索。午後五時にまた集合してその後は解散。打ち合わせは以上よ。班分けが出来たら思う存分小鳥遊椿と対話すればいいわ。何か質問は?」

「デートしたとして、小鳥遊さんに何を話せばいいんだろう……」

「知らないわよ。アニメでもゲームでも適当な話でもしてればいいんじゃないの?」

 昨日それをやって片桐さんに物凄く冷たくあしらわれたんだが……。


「小鳥遊さんとデート出来ても、もし嫌われたら……」

「知らないわよ。センスで乗り切りなさい」

「んな事言われたって……」

「モエ、これはチャンスなのよ。今まで接点一つなかった小鳥遊椿とあんたが近づけるまたとない機会なの」

 あんたはハナから直樹の元から小鳥遊さんを遠ざける事しか考えてないだろうに……。




*




 そんな感じに橘さんと話していたら他の友誼部メンバーもやってきた。


 僕は小鳥遊さんのゆるふわワンピースな私服姿を拝めた訳だが、その感動が一気に吹っ飛ぶような衝撃的光景を目撃する事になった。

 片桐さんがなんとゴスロリ姿でやってきたのだ。


 ギャル風の容姿の片桐さんにゴスロリというのはどう見ても不似合いである。

 しかも片桐さんは汗をかいていて明らかに暑そうな顔をしていた。

 そうまでして直樹の前で目立ちたいのだろうか。

 案の定通行人の皆さんが片桐さんを奇異の目で見ていたが、我が友誼部のメンバーは誰も片桐さんの格好について言及しなかった。

 恐らくこういうキャラとしてこの部活内では通っているのだろう。


 そんな事はともかく、合流した僕等は一通りの雑談をした。

 雑談と言っても、女性陣が直樹の昨日の晩飯の献立というありえないくらいどうでもいい話題について盛り上がり、僕は相も変わらず蚊帳の外だった訳だが……。


 そして雑談が終わると、橘さんの打ち合わせ通りに僕らは順番にクジを引き班決めを行った。

 橘さんの手際はかなり良く、爪楊枝を使ったイカサマを見事に他の皆には悟られずに済んだ。

 そして僕は橘さんの目論み通り小鳥遊さんとペアを組む事が出来た。




*




 道中橘さんは直樹と上手くデートしているのかとか、片桐さんはあんな格好で一人で町を散策して寂しくないのかとか少し思ったが、今の僕にはどうでもいい事だった。

 こうして近くで見る小鳥遊さんはやはりとても綺麗だった。

 その辺のアイドルや女優がゴミクズに見えるくらいの容姿を持つ完璧美少女が僕のすぐ隣にいるのだ。


 案の情さっきからナンパやアイドルの勧誘の人が次々と小鳥遊さんに声をかけ、小鳥遊さんは手慣れた様子でそれら全てを丁重にあしらっていた。

 恐らくこれは小鳥遊さんにとっては日常的な事なのだろう。


「ねえ、モエ君。もう少し人の少ない所に行かない?」

 小鳥遊さんはそう言うと人気の少ない公園に移動する事を提案した。


 ナンパや勧誘のせいで僕と会話出来ない事に煩わしさを感じたのか、はたまた単に鬱陶しいだけなのかわからなかったが、何はともあれ小鳥遊さんと対話するチャンスが訪れた。

 憧れだった小鳥遊さんがこんなに近くにいる。しかも今僕と小鳥遊さんは二人きりで道を歩いている。それはとても幸せな瞬間だった。


 思えば友誼部に強制入部させられたものの、昨日の新人歓迎会では一切小鳥遊さんと話せなかった為、まともに交流したのは今回が初めてだ。


「た、小鳥遊さんってさ!休日は何やってるの!?」

「勉強」

「へ、へぇー。そうなんだぁ!なんか趣味とかってあるの?」

「ない」

「へ、へぇー。そうなんだあ……」

 僕が世知話を振ってもどうにも続かない。


 そして小鳥遊さんの方から僕に語りかける事もない。

 このままではただ二人並んで黙って歩いているだけになってしまう。

 女の子はどんな話をしたら喜ぶのかわからなかったが、とにかくここで小鳥遊さんを退屈させる訳にはいかない。

 何でもいいから僕の方から話題を振るしかない。




 そんな時僕は先程橘さんが言っていた『アニメでもゲームでも適当な話でもしてればいいんじゃないの?』という発言を思い出し、僕は立ち止って小鳥遊さんに語りかけた。


「あ、あのさ!アニメのポケモンには放送出来ない話が三話あるって知ってる?有名なのはポケモンショックの話。視聴者の多くが光過敏性発作を起こしたでんのうせんしポリゴン回なんだけど、実はもう二話放送出来ない話があるんだ。もう一つは地震の話。新潟県中越地震の影響で放送が中止になってそのままお蔵入りになったんだ。さ、最後の一つはエネルギー炉が暴走する話!東日本大震災で原発が本当にメルトダウンしちゃったから、その話も放映出来なくなったんだ!」

「…………」

 小鳥遊さんは冷ややかな目で僕を見ていた。


「し、しかもこの話、ベストウィッシュの山場でプラズマ団が初登場する最重要回だったんだよ!それがお蔵入りになったせいで作品自体が大幅な軌道修正をしなきゃ行けなくなったんだ!製作スケジュールは一カ月前倒し!予定していたストーリー構成は年単位で書き換え!原作のゲームで物議をかもしたプラズマ団関連の話はたった1クールで処理!ロケット団もギャグとシリアスを行ったり来たり!あまりの異常事態っぷりに製作陣も完全にやる気をなくして、それであんなルールすら把握していない後輩にサトシがボロ負けする歴代最悪のリーグ戦までやってのけたんだ!」

「………………………………」


 小鳥遊さんはしばらく黙った後「ふーん……、そう……」とどうでも良さそうに呟いた。

 どうもこの話は小鳥遊さんにとっては、直樹の昨日見た夢や直樹の昨晩の献立の話とは比にならない程つまらない話題だったようだ。




 どうすればいい?何を話したらいい?

 僕は必死で考えを巡らせていた。


「あのさ……」

「え!なに!?」

「モエ君ってさ、あたしの事好きだよね?」

 小鳥遊さんの発言の内容に僕は耳を疑った。何故なら僕は一度も彼女に告白していないのに彼女が僕の気持ちを知っていたからだ。


「な、なんで……?」

「隠さなくってもいいの。モエ君の態度を見ていたらわかるから」

 わかる?僕は小鳥遊さんの前でそこまで挙動不審な態度を取っていたのだろうか?


 動揺する僕に対し、小鳥遊さんは続けるように語り出した。


「この際だから言わせてもらうけど……」

「…………」

 僕は唾をごくりと飲み込んだ。




「あたし、モエ君の事嫌い」 




 小鳥遊さんの口から発せられたあまりにも残酷過ぎる言葉に僕の身は凍った。

 かくして僕の初恋は告白もしない内に終わってしまった。


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