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リア充は死ね(再掲載)  作者: 佐藤田中
第一章
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9話 アニメの話

 僕がカラオケ店から出た時、友誼部の部員は誰一人としていなかった。

 恐らく……。いや、間違いなく僕をカラオケ店に残して皆で勝手に帰ったのだろう。


 これは一応僕の歓迎会だった筈。

 なのに何故僕はここまでハブられているのだろうか。


 僕がキモいから?僕がコミュ障だから?

 これ一応友達をつくる為の部活だよね?

 なら僕とは友達になりたくないって事?

 それとも仲間として認められるまで下積みが必要って感じのストイックな部活なの?

 だとしたらこれも手厚い新人歓迎の一環なの?


 そもそもこれは新人歓迎会と呼んでいいのだろうか?

 直樹とその他女子部員達のデュエットを僕に見せつける余興だったとしても、僕にとっては何も面白くはない。不愉快な気持ちになっただけだ。


 片桐さんのワンマンアニソンライブだってそうだ。

 片桐さんは不気味なくらい見た目には不釣り合いなキャラをしているとわかっただけで何も面白くはない。

 こんな事ならトイレか何か理由をつけて黙って勝手に帰ればよかった。

 僕はそんな事を思いながら、家に帰るべく最寄りの駅に向かった。




*




 駅に着き、僕はベンチに座った。


 この駅は利用者の少ない所謂無人駅だった。

 快速や急行の電車は止まらない。

 ましてこんな半端な時間だった事もあり、辺りを見ても利用者はいなかった。

 電車が来るまでかなり時間があった為、僕はスマホを弄って時間を潰そうとした。


 色々と思う所はあるが、やはりこんなろくでもない部活にはもう関わりたくないという気持ちが非常に強かった。

 しかし僕は橘さんに脅されている身だ。その脅しの内容が真実でも虚言でも関係はない。

 僕みたいな社会的弱者はほんの些細な事で簡単に人生が破滅する。だから今は橘さんの言う事を聞くしかない。


 家に帰ったら石化美少女画像をオカズにオナニーでもして気分を晴らそう。

 今後の事はそれから考えよう。


 なんて思っていたその時、改札口からホームに入ってくる見覚えのある人影が見えた。

 さっきまでハイテンションなオタ芸を僕等に見せつけていたギャルの片桐さんだった。


 何故片桐さんがここに?なんて思ったが考えるまでもない。家に帰る為だろう。

 他の皆は多分徒歩かバス等で帰ったのか、或いはどこかで寄り道でもしているのだろう。

 まあそんな事はどうでもいい。この状況で片桐さんと顔を合わせるのはマズい。

 なぜなら僕は友誼部メンバーの間に溶け込めていない。というか完全にハブられている。

 そんな僕が片桐さんと対面した所で気不味くなるのがオチだ。

 そもそも僕は片桐さんみたいに底なしに明るい人は苦手だ。

 嫌いという訳ではないが恐怖感は覚える。


 という事で僕は彼女がこの駅を利用している事に気づかない振りをし、そ知らぬ態度を貫く事にした。

 片桐さんだって女の子だ。僕みたいなキモイ奴がベンチに座っている光景を目撃したらその近くで座りたいなんて思わないだろう。




 僕がそう考えていたら、片桐さんは隣に座ってきた。

 このプラットホームにあるベンチは僕が今座っているこれ一つだけである。

 座るとしたらこれを除いて他にない。僕の様なキモオタの隣に座る嫌悪感よりも、早くベンチに座って休みたいという感情が先行した為に隣に座ったのだろうか。


 もしかするとこんな派手なギャルのような人が僕と話したいのではと一瞬思ったが、片桐さんはスマホを手に取り両耳にイヤホンをつけた為、恐らくそれはないのだろう。

 何はともあれこのままじゃ不味い。電車が来るまで十分以上時間がある。

 顔見知りがこんなに近くにいるのに、一切言葉を交わさないと言うのはいくらなんでも気不味すぎる。


 という事で僕は何気ない雑談を振る事にした。


「あ、あの。か、片桐さん……」

 片桐さんはスマホの操作に集中していた。


「片桐さんも、こっちなんだ……?」

 片桐さんは僕が何か言っている事に気付いた様子でイヤホンを外した。


「はい?なんか言いました?」

「い、いや。片桐さんの家もこっちなんじゃないかって……」

「……そうですよ」

 片桐さんはかなりそっけない態度で返してきた。さっきのカラオケ店でのアグレッシブさが嘘のようだった。

 多分僕みたいなキモオタが相手だから直樹の前でするような愛想のいい態度を取る必要はないと判断したのだろう。

それにしたって一応これから部活仲間になる相手だ。僕としても最低限の親睦は深めたい。


 そう思い僕は片桐さんの喜びそうな話題を振る事にした。


「あ、あのさ。片桐さんってアニメとか好きなんだよね……?」

「…………」

「ぼ、僕も結構好きなんだよ?」

「…………」

 片桐さんは黙りながらスマホを操作していた。


「僕が好きなのはそうだなあ……。やっぱ魔法科高校の劣等生とかこのすばとかダン待ちみたいなのが好きかなあ。あと最近じゃリゼロも好きかなあ!ストーリーが最高でさあ……。って、これじゃなろう産ばかりだね!あはは……」

 片桐さんは退屈そうな顔をしながらあくびをしていた。

「か、片桐さんはどんなアニメが好きなの?」

「……ハッピーツリーフレンズ」

「え?」

「ハッピーツリーフレンズ」

 聞いた事もないアニメの名前だった。


「そ、それってどんなアニメ?」

「グロい」

「へ、へぇ……」

 どういうことだ?片桐さんはさっきまでカラオケ店で萌え系アニメの曲ばかり歌っていた筈。

 それなのに僕が聞いた事もないようなグロアニメが好きだなんて……。


「きょ、興味あるなあ。それって今期やってるアニメなの?それとも過去作?」

僕がそう聞くと、片桐さんは大きくため息をついた。

「あの、二人きりの時にアニメの話するのやめてくれませんか?」

「あ、その……、ごめん」

 なんだよこの人……。女の子なのに美少女アニメが大好きなオタク少女じゃなかったのかよ……。 それともやっぱり、相手が僕みたいなキモオタだから愛想良く振舞うのが億劫で無愛想に接しているのか?

 だから趣味の話するのも嫌とかそういう事なのだろうか。

 

 その後、電車が来て僕と片桐さんは隣同士に座った。だが僕らはずっと黙っていた。

 僕が下手に何かを話しても片桐さんを不愉快にさせるだけだろうし、かといって顔見知りなのに故意に離れるのも角が立つ。

 片桐さんの方からも離れる素振りを見せなかったのはそういう事なのだろう。



 結局、片桐さんが電車から降りるまでこの沈黙は続いた。

 去り際に別れの挨拶くらいするべきだったかもしれないが、また片桐さんを怒らせても仕方ないと思い僕は黙ったままだった。




*




 今日は凄く疲れた。やはり慣れない事はする物ではない。

 幸い明日は土曜日。学校は休みの為思う存分疲れを癒せる。

 橘さんの策略にも付き合わなくて済む。


 とりあえず今日はオナニーして寝よう。

 そう思い僕は自室のパソコンを操作し、お気に入りの一軍石化美少女フォルダを開き股間に手を当て、イチモツを扱き始めた。


 その時スマホの着信音が鳴り響いた。


 相手は橘さんだった。

 家族以外の人間から電話が来たのは初めてだったが当然この状況では喜べる訳はない。

 すっかり気分も萎えてしまった。


『モエ!このゴミムシ!ウンコ!』

 電話に出るなり橘さんは僕に怒声を浴びせた。


『ちょっとあんた!やる気あんの!?』

 ないよ。


『何よあれ!?あんたポテト食べながらジュース飲んでただけじゃない!もっと小鳥遊椿に絡みなさいよ!』

 あの状況じゃどう考えても無理だ。小鳥遊さんはずっと直樹の方を見ていたのだ。

 コミュ障の僕があんな状況で小鳥遊さんと対話するなんて、リペアエクシアでELSと対話するくらい無謀である。


『はぁ……あんたね、友誼部の目的忘れてるでしょ?』

「友達作りの為……?」

『違うわよ!私と直樹が二人でイチャイチャする為の部活なの!』

 だろうなあ。友達作りの為の部活なら僕への待遇がここまで冷ややかになる事はない。


『はぁ……あんたには失望したわ』

 それは結構だ。

 なら僕を速くこのクソみたいな直樹のハーレム部から解放してくれ。


『あのね、あいつを直樹から引き離す事はモエにとってもプラスになるの。私はウザい女を直樹から引き離す事が出来る。あんたは憧れの小鳥遊椿と近づける。そうでしょ?』

 小鳥遊さんはあれだけ直樹にゾッコンなのに、どうやって引き離せばいいのだろうか。


 でもそれ以前に僕にはある一つの疑問点があった。


「片桐さんはいいの?あの人だって直樹の事好きみたいだし、今日だってカラオケで目立とうと必死だったじゃん」

『ああ、智代ね。あの子は別にいいの』

「なんで?」

『あの子は小鳥遊椿と違って脅威ではないから、いつでも消せるわ』

「消せるってどういう事?」

『だってあの子、キチ○イだもん』

 正直橘さんの言っている放送禁止用語の意味がよくわからなかった。




 そりゃ片桐さんのキャラ付けは不自然というか、正直無理があると思った。

 見た目は完全に今風の派手なギャル。中身は美少女アニメ好きの異様にハイテンションなオタク少女。

 その上女子なのに一人称はボク。実に漫画染みたスペックだ。

 恐らく完璧超人の小鳥遊さんや、直樹の幼馴染兼親友である橘さんと差をつけたいとかこの二人以上に直樹に気に入られたいとか、そういう気持ちが片桐さんにあのような無理なキャラ付けを強いているのだろう。


 でも、だからと言って片桐さんをキチ○イ呼ばわりするのはどうなのだろうか。

 僕としては平気で人を罵倒したり、あらぬ疑いで人を脅迫したり、自分が嫌っている恋敵に何度も陰湿な嫌がらせをする橘さんの方がよっぽどキチ○イだと思う。




 なんて事を僕が思っていたその時だった。


『でね、明日の部活の事だけど』

「え、ちょっと!?明日ってなに!?」

『だから明日の活動よ。言ってなかった?』

「明日は休みでしょ!?」

『あんたバカ?世の中には週休二日と言いつつも、平然と休日出勤させる企業はいくらでもあるのよ?そんなんじゃ社会じゃやっていけないわよ。勿論サボったらあんたが精液ぶちまけた犯人だって言いふらすから』

 なんというブラック部活だ……。あまりにも理不尽過ぎる。


『という事で明日校外活動するから朝九時半までに来て』

「来てってどこに?ってか、校外活動って何やるの?」

『ちょっとしたレクリエーションよ。名駅の銀時計前ってわかる?』

「わかるけど……、正直行きたくないよ。今日だって全然馴染めなかったし……」

『まあそう気を落とさないで』

「無理だよ……」

 さっきのカラオケだってあんな調子だったのだ。気だって滅入る。


「また僕をハブにするんでしょ……?」

『あんたがウジウジしてるから誰もあんたに話しかけなかったんじゃないの。もっと自分から絡みなさいよ。陰キャのあんたが何もしないで黙っているだけで友達が出来るなんて甘い考えは捨てる事ね』

 あれはもはやそういったレベルのものではないだろう……。

 現に橘さんだって僕の存在を忘れて直樹とのデュエットに躍起になっていた。


「僕、コミュ障だし、友達だっていないし、皆と、まして小鳥遊さんと話すなんて……」

『はぁ……、わかったわ。じゃああんたが小鳥遊椿と話しやすくなるように手配する。それでいいわね?」

「どういう事?」

『モエ。明日小鳥遊椿とデートさせてあげるわ』


 デートなんて急に言われても、やっぱり嫌な予感しかしない。


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