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ゆびきり。  作者: ami.
9/16

9話 思わぬ遭遇者


 


 絶望に心が塗りつぶされてしまいそうな一瞬。



 「あっ、やはり菫さんでしたか。」

 真っ暗だと思った闇に冷たい美貌を崩した笑みを浮かべた顔が現れ、自分の暴れる様な心臓の音しか聞こえなっか耳に朗らかな美青年の声が響いた。


 「もしかしてと思って追いついて良かったです。女の人が一人で危ないですよ」

 注意というには余りに優しい口調を紡ぐ青年の顔は心配と安堵の表情が見て取れた。


 そんな青年の安堵が菫にも伝染したのか菫の体にじんわりと暖かさが戻って来る。


 そしてその暖かさは気付けば菫の両の目からこぼれ落ちていた。



 「えっえっもしかして、驚かせてしまいましたか?すみません!」

 何も言わずにポロポロ涙を零す菫にアタフタと慌て始めては、どうしたらいいのか分からないと言わんばかりに青年は顔を歪ませる。

 前とはまた印象の全く違う青年の姿に菫は泣きながら今度は笑い始めていた。


 そんな彼女の様子に再び安堵の表情を浮かべながら、青年は彼女の涙が止まるまでただただ見守る様に立ちたち続けたのだった。


 「ごめんなさい。泣いたりしてしまって、ただ安心してしまっただけなんです」

 手拭きで最後の目尻に残っていた涙を拭いながら青年に詫びるも、青年は気にした様子もなく、

 「いえいえ、あなたを少しでも安心させられたのなら本望です。」と恭しく答えた。


 「ふふふ、見知った顔と言っても、一度しかお会いしてないのに何故こんなにも安心してしまうのでしょう」

 恭しい物言いが可笑しくなりながら菫が返すと、その言葉に青年は何か言葉を返すのではなく子どもの様な少し幼い笑顔を返した。



 背中から子どもがぶつかって来たかのように菫の心臓が跳ねる。


 ―― 何でだろう。この前といい、今日といい。


 ただ1つだけ菫には分かっている事があった。


 ―― 私、この笑顔、好きだわ。




 どうして夜道を一人でっと心配する青年に、訳を話すと青年も用事を終えて屋敷に帰る途中だったとの事で一緒に屋敷まで行く事になった。


 たわいのない事を話しながら歩く道は灯りのない所は変わらず真っ暗闇であったが、灯りの中にいるとまるで青年に守られているように安心感に包まれているのを菫は不思議と感じていた。


 「菫さん、寒いですか?」

 話の途中に無意識に息を吐きつけて擦っていた手を青年は見つめて問うてきた。

 「大丈夫ですよ」

 咄嗟に隠すように両手を後ろに回しながら菫は笑って誤魔化す。


 「良ければこれを。今日買った肩掛け持っているので良ければ使ってください」

 そんな彼女の様子を見抜いているかのように、菫に肩掛けを掛けるどころか、手が隠れるほどぐるぐるに巻きつけきた。

 ふわっと肩掛けから青年の匂いが香理、菫をどきっとさせた。


 あまりの早業と強引さに断る間を貰えず、菫はこの暖かい強引な贈り物を甘受するしかなかった。


 口元まで肩掛けに埋もれてしまっていながら菫が「有難うございます」というと、青年は菫の好きなあの笑みを返したのだった。




 屋敷に着くと門番の男に早速父を呼び出してもらう。


 「本当一緒に歩けて心強かったです。有難うございました。」

 「こちらこそ、ただの帰り道が菫さんのお陰で楽しい買ったです。」

 改めてお礼を言った菫に気にしないで青年が返していると、門番の1人の男も「そうだよ、お嬢さん。こんな可愛い方と歩けてこいつも役得ってもんだい!」と青年を小突いた。



 ―― より様の側仕えだから、身分の高い方かと思ったけどもしかして違うのかしら?


 「うん?なんかいい匂いしないか?」

 「そう言えば香を買ってきたからな。それだろう。」

 鼻を動かし匂いの元を探し始めた門番に、青年がお使いで頼まれたのであろう包みをかかげてみせる。


 「俺が侘しく門を守っている間、お前はお店の姉ちゃんと香が移るほどよろしくやってたんじゃ……」

 軽口をたたき合う姿からも彼らに身分の垣根が無いように思えた。


 ―― とても見た目はそうとは思えないけど、平民出身だったりするのかしら。

 何て菫が考えていると先ほどの門番が父親と馬を引き連れを戻ってきた。



 「菫、こんな夜道に危ないだろう。すぐに父が送っても……」

 顔をみるなり言った父親は菫の隣に他の人物が居たの気づくと口をつぐんだ。


 ―― もしかして不審に思っているんじゃ?


 「お父さん、こちらの方が一緒に来てくださったので大丈夫でした」

 「そ、それは誠に感謝します」

 青年が助けてくれたことを伝えると、父はやけに恭しく青年に礼をする。


 ―― やっぱり、それなりの身分がある方なのね……


 「お父さん、もう上がれるの?」

 何故そんな事が気になってしまうのか、そんな自分の考えを振り払うかのように菫は父親を促すように声をかける。

 このまま居ては青年も何時迄も帰れず寒空の中風邪を引いてしまう。そして何より青年とこのまま一緒にいるのが、何処か危ないと何かが菫に告げていた。


 「……実はもう一刻ほどしないと帰れないんだ」

 とっさに答えようとした父は、何故か一周視線を彷徨わせた後に菫にそう答えた。


 わざわざ馬を引き連れて来た様子から、このまま帰れるものだと思って居た菫は後一刻は待たなくてはいけない事に少し落ち込む。



 「それなら、その馬で私が菫さんを送って行きましょうか?」

 そんな菫の様子を見かねたのだろう青年がと優しく提案して来た。


 「申し訳ないです、大丈夫ですからっ」

 「菫さん、また強がるんですか?」

 頑なに断ろうとする菫に、道中強がったことを後悔した事を思い出させるように声を掛ける。


 「頼りないかもしれませんが、少しは甘えてください」

 駄目押しとばかりに、心配してますっと顔に書いてある青年に顔を覗き込まれた。


 そして、菫は首を縦に振るしか無かった。




 いつも父親に乗せられている馬だが、何故だが違う馬に乗っている気分になった。

 そして落ちると危ないからと捕まるように支持され、腕を回した男の胴が思ったよりしっかりしており再びドキドキさせられたのだ。



 家に着き馬から降りる手伝いをしてくれる青年に、馬だとあっという間についてしまう家路に何故か物足りなさを感じてしまい、そんな自分の出所が分からぬ感情に再び頭をかしげる菫であった。


 「おやすみなさい、今日は何から何までありがとうございました。」

 「おやすみなさい。良い夢を」

 彼を見送る菫に闇の中に消えていった後ろ姿に、菫は改めて今日は新月で真っ暗闇だった事に気づかされたのだった。


 ―― 未だに心臓が早く脈を打っている気がする。温もりが腕に残っている気がする。

 彼に捕まって居た感触と羞恥を思い出し熱をぶり返した菫であったが、


 ―― そう言えば、香の香りはしなかったわ。荷物の中にしまいこんでたのかしら?

 と菫はどんな香りが好みか少しだけ気になった。

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