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ゆびきり。  作者: ami.
14/16

14話 華人

 人間の世の傍らで妖と呼ばれるものが生活していある。


 昔は相入れなかったようだが、今ではほとんどの物が人間に紛れて生活しているとの事だ。


 そんな妖の力は人との混じり合いを重ね年々少しずつ弱まっているっという。

 ただその妖の中で一等に強いもの。


 それが鬼だ。


 鬼の力は今の所衰えていないが、力が強くとも人間の中に溶け込んで生活しているものがほとんどだという。


 そして、そんな鬼のみ持つのが"華人"の存在だ。


 華人とはある日身体のどこかに赤い蕾の痣が浮かび上がり、時期になるとその華が綻び鬼や妖だけがわかる華の香りを放ちはじめる。


 その香りは鬼を惹きつけてやまない華の香りだといわれている。


 そんな華人と伴侶の契約を結ぶと、2人の魂いは固く結びつき死が二人を別つ時が来ようとも永遠に2人の魂は別れる事なく未来永劫、一緒に居続けるのだ。




 「子どもの頃にも話したけど……僕は鬼なんだ」


 少し伺うようにこちらを見つめる頼政が子どもの頃の彼と重なってしまう。

 そんな彼を安心させるように彼の手をぎゅっと握りながら、


 「怖くないです。頼様は頼様ですから」

 としっかりと目を合わせて伝えた。


 「菫はやっぱり菫だね。子どもの君も同じことを言ってくれたよ」

 頼政は安心したよう息を長く吐き出し、菫の肩に額を埋めそう言った。


 しばらく二人はそのまま動けなかった。


 互いの息遣いだけが部屋に漂う。


 頼政が額を置いた肩が焼きつくように熱く感じた。

 ―― そういえば、ちょうどあの痣があるところだわ。


 すみれはぼくの はなびと なんだ


 そう頼政が額を埋めている肩にある、痣=蕾が熱を持ったように熱い。


 「あの……頼様?」

 「なんだい、菫?」

 ようやく顔を上げた頼政が、菫を見つめたその瞳はどろっと熱を含んだように潤んで見える。

 そして今だに痣が熱を持ったようにじんじんと熱かった。



 「話で出て来た赤い痣のある華人って……もしかして私なのですか?」



 「うん、菫がもうそろそろ8歳になる頃に君に痣が現れたんだ」

 彼が優しく痣がある場所に着物の上から触れる。


 「それに気づいた君のお母さんは少しこう言う事情に詳しかったから、秘密にするように言い含めたみたいなんだけどね。菫は1番に私に報告に来てくれたんだよ」


 嬉しそうに言う頼政に、そう言えば思い出の夢の中で何かと「内緒」や「秘密」などを言っていたような気がする。

そう言うのを頼政を共有するのを楽しんでいたのだろうかと7歳だってであろう自分の心理を考えた。


 「それとさっき話し忘れていた事の一つに"魂の伴侶"と言うのがあるんだ。」


 すみれは ぼく の はんりょ ね



 華人と鬼は契約のもと伴侶になるが、それ以上に強い結びつきなのが"魂の伴侶"だ。


 魂同士が惹かれ引き付け合うもののことを言い、その両者は同じ華の紋を持つという。


 そもそも華人が蕾から咲かせる華紋は一人一人違う。


 ただそれがぴったり合致する者たちがいる。


 それが魂の伴侶。ただほとんど見かける事はないのだとか。




 「そういえば昔、頼様も華の紋見せてくれましたよね?」

 菫が思い出したかのように言うと、苦笑を浮かべながらも腕をまくって華紋を見せてくれた5枚の花弁が鮮やかな紋は小さな頃に見たより大きくなっている気がした。


 「私のように華紋を持って生まれてくるものは稀なんだ。だいたいの鬼が華紋は無くて、時たま僕のように華紋を持った者が現れる」

 彼の話しを聴きながらも思い出の夢の光景を思いだしていた。



 菫にもいつか僕と同じ華が咲くといいな


 「もしかして頼様その魂の伴侶を探しているんですね?」

 「そう、だから菫の華紋も見せてくれないか?」


 少し顔を陰らせた菫に頼政は真剣な顔で問い迫ってきた。


 「で、でも私の華紋はまだ咲いていないので……」

 思わず身を引こうとした菫の手を今度は頼政が捉える。



 その手をぐいっと自分の方に引き寄せながら菫に顔を近づける。

 「いや、そんな事ないと思うよ。君の香りはここ最近で一段と強くなり、こんなにも私たち鬼を惹きつけて止まないのだから」


 一段低い声で囁かれ、無意識にビクッと菫の体が揺れた。


 「でも頼様とは違う紋かもしれません」


 顔を染めながらもと頼政と魂の伴侶でない事が怖くて確認するのを躊躇している菫の腰回りが一気に緩くなる。


 気づかぬ間に着物の帯を解かれていたのだ。


 帯が緩くなったことで同じように緩くなる着物たち。

 その着物の襟元に長く綺麗な指を引っ掛けてゆっくり緩めていく。


 左側の方が見えるほどに緩んだ着物の襟元を見つめ頼政は動かなくなってしまった。

 そんな彼の様子を不安に思い、後ろにある鏡に映っているであろう自分の華紋の様子を首をひねって一生懸命にみようとする。




 そこには先ほど見た頼政の腕にあった同じ紋の華が綺麗に咲き誇っていたのだった。



 はっと目の前にいる男の顔を菫が仰ぎ見ると、覗き込んだ男の目は潤んできらきらしていた。


 「ねぇ、菫行ったでしょ。君は僕の伴侶だって。あの時言った通り僕と同じ華が咲いたね」

 蕩けるような笑みを浮かべ近づいてきた泣き笑いの男の唇が菫のものと重なる。



 男の顔が離れて行くと同じように菫の目にも涙が溢れ、目の淵から零れ落ちる。


ー知らなかった。恋って嬉しすぎても、こんなに苦しくらい痛く泣けてしまうものだったんだ。

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