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【3】腹を割って話そう その1

 待ち合わせは朝五時とのことだったが、土曜日の朝、待ち合わせ場所である駅前に着いたときには五時を二〇分ほど回っていた。

 停まっていた見覚えのある軽自動車とデカいSUVに駆け寄ると、早朝なので人気のない駅ロータリーに光る人影が仁王立ちしていた。

よいこちゃん『キミさぁ……先輩をどれだけ待たせりゃ気が済むのかな』

「…………お待たせしてすみません」

 自分でも驚くほどに抑揚のない重い声が出ていた。

「でも『眠れないから』っつって深夜三時までラインに付き合わせた先輩に言われたくないんですけど。俺ほとんど眠れなかったんですけど。死ぬほど眠いんですけど」

よいこちゃん『そんなことよりさ! 何か私に言うことないかな?』

「そんなことよりって……あー、おはようございます……?」

よいこちゃん『ちっげーし! おいこらキミ、可愛い御茶天目先輩の私服初披露なんだぞ! まずは女子のファッションを一言褒めるのが礼儀だろうが!』

「あー、そっすね。うん、今日もピカピカで可愛いですよ。カ~ワ~ウィ~ウィ~」

よいこちゃん『チッ……』

「やあおはよう慧悟! やっと来たか!」

 先輩とおざなりトークしていたら、デカいSUVからオリヴィエが降りてきた。その後から注連内さんも続いてくる。

 俺も含めて、山は寒いのでかなりの厚着だ。多分先輩も。

「おはようオリヴィエ。いいジャージだね似合ってるよ注連内さん」

「へっ、あ、ありがとう……! これ結構するんだぞー、分かってるなー朝霞は……ッ」

 先輩のアドバイス通り注連内さんの服を褒めたら、彼女は切れ味鋭い両目を細めてニマニマしている。先輩が背中を両手でベシベシ叩いてくるが放置。

「で、二人はそっちの車で行くの?」

「ああ、残念だが私とこいつは先輩と同じ車内には居られないからな……。

 そっちの車は後ろに着いてきてもらうように言ってあるから」

 SUVの運転席には以前と同じスーツの男性が座っている。

「それにしても、本当に手ぶらで来て良かったの?」

「ん? ああ。キャンプその他の道具は全てこちらで用意している。

 費用も全部ウチから出してるから心配するな」

「なんか悪いような……」

「目的は修業なんだ。こちらの都合に合わせてもらってるんだから当然だろう」

「大丈夫大丈夫」

 オリヴィエが横から入ってきた。

「大した事するわけじゃないし、注連内家からしたらガリガリ君奢るくらいの出費さ」

「まあそんなものだ。安心しろ」

「それならいいけど……」

 さて、時間も押しているということで、さっそく各自車に戻って出発と相成った。

「今度注連内さんにガリガリ君奢るべきですかね」

よいこちゃん『お金出してるのは彼女本人じゃないからどうだろ。「ご家族でどうぞ」ってガリガリ君ファミリーパックくらいは渡すべきかもしれぬな』

 二人で軽自動車の後部座席に乗り込むと、運転席に居たのはやはり亜半さんだった。

「慧悟くんおっはー。昨日持ってきてくれたバウムクーヘンありがとな。みんなで食べたけどめっちゃ美味しかったわ」

「おはようございます。お口に合ったならよかったです」

「うちの親も言ってたぞー、さっさと娘貰いに来ないかなぁって」

「【ドギュゥゥン!】」

「はいはいすぐ出発するって! シートベルト締めろよ!」

 注連内さんとこのSUVが発進したのを確認し、亜半さんはその後ろに続いて出発。

 ファンキーな見た目の亜半さんだが、やっぱり運転はとても丁寧で乗り心地が良い。

 思わず……瞼が……。

「ふぁぁ……む」

よいこちゃん『やっぱり眠いか』

「逆に先輩はなんで眠くないんですか……」

よいこちゃん『楽しみで楽しみで高ぶって高ぶって』

「小学生ですかあなたは……」

よいこちゃん『だってここ一年は家と学校しか行ってないし。遠出なんて夢みたい』

「……ああ、確かにそうですね」

よいこちゃん『眠いなら寝てていいよ。今日はやることいっぱいあるし。私は窓の外の景色をのんびり眺めてるだけで新鮮な気分だから』

「それなら……お言葉に甘えて……」

 もうスマホの画面を見てるのすら限界だったので、先輩のOKが出るや否や俺の瞼はすぐに落ちてきた。そのままぐっすり――いくかと思われたが、隣から腕を掴まれ、ぐいっと引っ張られて体を倒された。

「ぅぐぁ……っ」

 俺は情けなく横倒しになったが、その頭はふわりと柔らかいものに着地した。

 ああ……程よく弾力があって温かくて……なんか目の前が妙に眩しいけど……気持ちいいなぁ――


■□   □■


 目が覚めたら頭をなでなでされていた。

「――ん……?」

 寝起きで状況が掴めないが、なんだか眼前が眩くて現実感がない。

 頬に触れている布越しに、温かくてもちっとした感触がある。

 手で触れてみるとぴくっと動いた。

 うーん、なんだろうこのスカートとレギンスを穿いた太ももみたいな触感――

「――太ももっ!?」

 跳ね起きると同時に、手に持ったままだったスマホが座席の足元に転げ落ちた。

 慌てて拾うと、ラインで先輩から写真が送られてきていた。

 すやすやと眠る俺。その頭を太ももに乗せ、撫でながらピースしている光人間。

「……え、あの、え……?」

 困惑しながら先輩を見ると、彼女は自分のスマホの画面をこちらに向けた。

 ホーム画面の壁紙が今の写真だった。

「ちょ……やめてくださいそれ! 恥ずかしっ!」

よいこちゃん『え~~~~~~カワイイじゃ~~~~~~ん♡ キミも壁紙にしろよ♡』

「それ傍から見たら一番はずいやつ!」

よいこちゃん『勝手に私を壁紙にしてたくせに自分を壁紙にすんのは嫌か。っっっしょ~~~がねぇ~~なぁ~~!』

 先輩は俺のスマホを奪い取り、なんかポーズとってパシャっと自撮り。

 そのまま何かごちょごちょいじって返却してきた。

「……画面が明るすぎて何も見えない」

 勝手に自分の写真を壁紙にしたなこの人。

 ちなみにエローラは感覚器官から神経に作用して性的興奮を促すものらしく、無生物はエローラを発しないので先輩の写真や映像を見ても一般人は影響を受けないらしい。

 まあ俺の『規制』はエローラ関係なく脳内でエロと判断されたものを隠してしまうので、写真だろうが映像だろうが見えないんだけども。

 ――って、あれ? それじゃあなんで去年の先輩の写真は普通に見えるんだろう。

 当時はエローラが過剰分泌される前だったから?

 いや、石フェチの世界を知って石灰岩まで『規制』された時(あの後すぐ元に戻った。さすがにそこまで『規制』するのはやりすぎと判断したのかもしれない)のことを思い出すに、エロと判断するか否かは結局俺の考え方次第。

 きっと俺の中では、去年の先輩は『憧れの人』というエロやら何やらとは隔絶した存在なんじゃないか。今の先輩には憧れてないみたいになっちゃうのは気のせいだ。

 何はともあれ、壁紙が明るすぎてスマホが操作できない。

「君ら俺もいるっちゅうのに遠慮なしにいちゃついてくれちゃってまあ! 独りモンには辛いぜおい!」

 亜半さんがハンドルを握りながら囃し立ててくる。窓の外はやけに木が多い。

「いやそんなつもりじゃ……」

「構わん! 存分にやれィ! ちなみにもうすぐ着くはずだから今のうちにもっとイチャイチャしとけよ! ナニしてても俺は見てないフリしたるぞ~」

「ナニもしませんって……つか先輩、このままじゃスマホ使えないんで戻してください」

「【パララララ!】」

 先輩はなんか文句らしきものを言っていたが、無事俺のスマホの壁紙は憧れの人に戻った。

よいこちゃん『せっかくオシャレしてきたんだけどな』

「……ごめんなさい」

よいこちゃん『ふーんだ』

 先輩はぷらりとこちらに倒れ込んできた。

「せ、せんぱ」

「【パンッ!】」

 そのままさっきの逆、俺の太ももを枕に寝る格好になりかけた先輩だったが、何か言ってすぐに起き上がった。その拍子に、何かが落ちるカチャっという音。

よいこちゃん『硬っ……。それに太すぎて首痛くなる……。なんだこの甘え甲斐のない太ももは。ふざけんな』

「そんなこと言われても――って何か落ちましたよ」

 俺の足元に落ちたものを拾う。フレームレスのメガネだった。

「メガネ?」

よいこちゃん『おう、それ私の』

 光る手が横から伸びてきてメガネをひょいっと掴み、顔の部分に据える。

 メガネはたちまち光に覆われて見えなくなった。メガネも顔の一部ってやつか。

「先輩メガネかけてたんですか?」

よいこちゃん『学校ではコンタクト。今回は外でコンタクト入れたり外したりが面倒だからメガネで来た。解るか……? これがどういうことか……なあ小僧?』

「先輩は目が悪い」

よいこちゃん『もうちょっと考えろよ。捻れ。先輩との会話に労力を割け。いいか、つまり私は、キミがメガネっ子が好きでも嫌いでも、どちらの需要も満たせる女子なのだということであるのだよ』

「はあ……でもそれ、もし俺が熱狂的なメガネっ子好きか、狂信的なアンチメガネっ子だったら、先輩は唾棄すべきどっちつかずのコウモリ女扱いだった気がしますね」

よいこちゃん『ええ……コンタクト使用者なら普通のことなのにそこまで言われんのかよ……ちなみにキミはメガネの先輩と素顔の先輩、どっちが好みなのだね?』

「俺は『結局可愛い子はメガネかけてようがいまいが可愛い』派です」

よいこちゃん『そっか~そんなに私のこと好きかー♡ 悪いね~可愛くて』

「先輩は目も耳も悪い……おっとと――」

 急に車がガタガタ揺れ始めた。どうやら舗装されていない道に入ったらしい。

 窓の外を見ると完全に山道だった。


■□   □■


「お腹空いたなぁ……」

 注連内本家傘下の準二等祓魔師である霧ヶ峰(きりがみね)(まとい)(25)は愚痴りながら腕時計をチェックした。

 見張り交代まであと一時間を切った。もうちょっとで帰れる。

 彼女は注連内本家の廊下、扉の脇にもう五時間ほど座っていた。

 ドアの向こう、部屋の中には一人の夢魔の少女が謹慎中である。

 特に問題なく、物音すら聞こえてこない。夜なので普通に寝ているのだろう。

(……あんな女の子相手にわざわざここまですることあるのかな)

 今、夢魔の少女はこの屋敷の内外から十二人の祓魔師によって監視されている。

 ちょっとやらかして自宅謹慎を喰らった中学二年生のか弱い少女に必要なのか疑問に思えるほどの厳重な監視体制だ――そんな思考に陥っていること自体が、纏がオード・エロワの魅惑の支配下に置かれてしまっていることのこれ以上無い証左であった。

(はぁ……オードちゃん、可愛かったなぁ。綺麗なお人形さんみたいで――)

 祓魔師として当然対夢魔用の装備はしているが、人の心を奪うのにエローラは必要ない。

 オードはその神の造形とも思しき美貌だけでなく、いかにして人に好意を抱かれるかという術も十分身に着けていた。

 ただし本質的に人間、特に男性を舐め腐っており「男なんておっぱい揺らして甘えてやればイチコロでしょ」程度の認識(正解)であるため雑に誘惑しがちだが、女性相手、特に今回は対祓魔師ということで、かなり本気で魅力を植え付けたのだった。

(もうすぐ交代か……次の監視当番までオードちゃんに会えなくなっちゃう……)

 纏の視線は勝手にオードの部屋のドアへ引き寄せられていく。

(――あんなただでさえ天使みたいに可愛い子の寝顔なんて……一体どれだけ美しいんだろう……見てみたいなぁ……できたら写真とか――いやそれはさすがに……)

 葛藤しながらもその手はドアノブをすんなり握っていた。

(……いいよね。見るだけならいいよね? これは監視だから……外にいるより同じ部屋の中の方が……至近距離で監視してた方が確実だもんね……仕方ない仕方ない……)

 自分に言い訳しながら纏はゆっくりとドアを開けた。

 暗い部屋の中、涼やかな清水の流れにも聞こえる微かな寝息が響いていた。

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

 汚く粘つく荒い呼吸を殺そうともせずにベッドに忍び寄る纏。

 膨らんだ毛布に手を掛け、ゆっくりと捲り上げる。

「ハッ……はわぁ~……っ!」

 白いシーツに揺蕩う金色の海のように広がったミルキーブロンドの髪。

 白磁のような肢体を柔らかに包むシルクのネグリジェ。

 世界が恋しそうな神の美を感じざるを得ない寝顔。

 この世の絶景を集約したような寝姿がそこにはあった。

「しゅごいよぉ……! オードちゃんさえいればそこが私のエデンの園だよぉ……!」

 纏はついついスマホを構えてカメラを起動。

「はひっあふはふぅ……こここ、この綺麗な景色を保存しないなんて人類の損失ぅ……」

 パシャっと響くシャッター音。同時に光るフラッシュ。

「はうっ! マズいマズい起こしちゃう……!」

 焦りながらも今撮った写真をチェックする纏。

 画面の中の夢魔の少女は、カメラへしっかり目線を向けて蠱惑的な笑みを浮かべていた。

「――えっ……?」

「一枚だけでいいの?」

 鈴の鳴るような心地よい声が纏の耳へとろりと流れ込んでくる。

 オードはベッドに横たわったまま、星雲のような瞳で彼女を真っ直ぐ見つめていた。

「あっ、あばっ、オ、オードちゃん……!」

「お姉さん、あたしの写真撮りたいんじゃないの? それともぉ……あたしが欲しい?」

 オードは艶めかしく寝返りを打つと、ネグリジェの裾をすすすと引き上げる。

「あびゃびゃびゃ……わわわらひは監視の仕事で――」

「黙ってればバレないわ。ここにはあたしとお姉さんだけ……。ねぇお姉さん、こっそりあたしのいろんなトコロ……監視してぇ♡」

「はぱひぃ……オ、オ、オードちゃぁぁぁん♡」


■□   □■


「兄様たちはどこへ?」

 オードが指を動かすと、クチュクチュという水音と共に、霧ヶ峰纏の半開きの口から「あっ、あっ」という声にならない声が意思に反して勝手に漏れる。

「ねぇ、教えて?」

「あっ、オリヴィエ・エロワは、んっ、あっ、爛様や、御茶天目酔子、朝霞慧悟と共に、あっ、注連内家所有の山へキャンプに、あんっ、ひぎっ」

「その山ってどこにあるの?」

 クチュクチュ。

「あひっ、注連内家は霊場として、んおっ、いくつも土地を所有しており、あっ、そのどれなのかは私には知らされて、あっ、ひぐっ、んほっ」

「ふーん。タイムスケジュールはどうなってるの?」

 クチュクチュ。

「んぃっ、朝五時に駅に集合して、あぐっ、そこから、あっ、あっ、車で、ぉごっ、目的地に向かうと、あっ、あっ、あっ」

「なるほどね。ありがとう、お疲れ様♡」

 クチュクチュ、クイッ。

「あっ、あっ、あひぃ……っ!」

 纏は身体を大きく震わせ、意識を失って崩れ落ちた。

「ゆっくりお休みなさい。楽しかったわ、お姉さん♡」

 オードは指先をぺろりと一舐めし、横たわった纏の半脱ぎになっていた服を全て脱がせ、自ら着込んだ。かなり袖や裾が余ったが、そこは折って済ませる。

 ついでに纏のスマホを拾い、起動しっぱなしだったカメラで纏の全裸姿を撮影。

「あははっ、惨め♡ 無様ぁ♡ 人間にはお似合いだわ♡」

 スマホを放り投げ、ベッドを降りながら自分の美しいブロンドの髪を掻き上げた。

 手が触れた部分から髪色が纏のものと同じく黒へと染まっていく。

 自分の髪一本一本に、黒く見えるごくごく薄いエローラの膜を纏わせたのだ。

 オードのエローラの得意分野は物質化。さらに物質化したエローラの見た目や色、質感、一般人にも見えるかどうかなどもある程度操作できる。

 常人には見ても触れても判別できないレベルの巨乳や美尻を作り上げられるレベルには。

「えーっと、美しくないものになりきるのは難しいわね……」

 部屋の姿見を覗き込みながら顔面をこね回す。数分で纏にそっくりな顔が出来上がった。

 身長こそ足りないものの、そこにいたのはほぼ霧ヶ峰纏だった。

「どうせすぐばれるし、こんなもんでいっか」

 オードはさっさとドアを開けて廊下に出た。

 後ろ手にドアを閉めた瞬間、ちょうど別な祓魔師がやってきた。

「お疲れ霧ヶ峰。交代だぞ」

「はーい、あとはよろしくお願いね」

 さっさとその場を立ち去る。今はとにかく早さが重要。時間が無いので目立たない程度の速足で向かう。

 不自然なほど疑われないことにも気づかずに。

 オードの目的地。それは注連内家を出てすぐ隣にあるエロワ家の屋敷。

 というか、注連内家の敷地内にエロワ家はあるのだが。


■□   □■


 山道を二〇分ほど走って車は止まった。

 降りると、前に停車しているSUVに乗っていたオリヴィエと注連内さん、そしてスーツの男性が車の傍らに立って何やら深刻そうに話していた。

「どうしたの?」

「ああ、その……」オリヴィエが言い辛そうに告げた。「オードが消えた」

「消えた……って行方不明ってこと? それってマズくない?」

「あまりにもマズい……ッ」

 注連内さんが歯ぎしりをしている。使用人さんは眉をしかめている。

「監視役が篭絡されていつの間にか部屋から居なくなっていたそうだ。まったく……霧ヶ峰の奴は一か月玄関掃除の刑だッ」

「それも非常に不味いことですがそれ以上に悪い報告が」

 携帯の通話を切ったスーツの男性が注連内さんに言った。

「霧ヶ峰以外の監視についていた者達のうち複数名から認識錯乱の呪力痕跡が見つかりました。やり口から見ておそらく紅染傘下の連中かと」

「逃がされたか……オードが勝手をやらかすのを期待していやがるのだ……ッ」

 注連内さんが唇を噛む。おずおずと話しかけた。

「えっと……それってマズいんじゃないの? 帰った方が――」

「いや、逆だ。急いで山へ向かおう」

 オリヴィエが言った。

「オードの性格的に、また慧悟を狙ってくるだろう。ここに来るという情報は霧ヶ峰さんから引き出せるだろうし。

 この山は注連内家の許可を受けた者以外は侵入できない結界が張られている。他所よりむしろ安全だ。

 それでも仮に侵入されたとしても、他の目がないから起こったことを揉み消すのも容易。

 それよりなにより……キャンプがしたい――キャンプしたい……っ」

「……そうだな!」

「【バキューン!】」

「オードはうちの者が全力で捜索している。キャンプ中は常に一緒に行動して警戒しよう」

 まあ、オードの口ぶりからしてオリヴィエや注連内さんと一緒にいるときに襲いに来ることはなさそうだし、大丈夫と信じよう。

「さて、車で行けるのはここまでだ。ここから先の山道は歩いていく。

 というわけで車に積んでいる荷物を背負っていくぞ」

 SUVの後部ドアを開けながらそう言う注連内さん。

 中にはキャンプ道具の袋がデカいものから小さいものまでぎっしり詰め込まれている。

「随分と荷物多いな……こんなに道具要る?」

 尋ねるとオリヴィエが頭を掻きながら苦笑。

「いやぁ、注連内家がお金出してくれるっていうからイイ感じのやつを片っ端から購入してたらいつの間にかこんなに……」

「ええ……」

 パッと見、どれも有名メーカーの出してる高級道具(ギア)だ。

 キャンプ道具って良いものは高いんだぞ。それをそんなテキトーに……。

「それでこの荷物を背負って山道を……えーっと、男が四人と女子が二人だから、重いのを四人で分担して女子は軽いのを――」

「何を言ってるんだい慧悟」

 オリヴィエが口を挟んできた。

「これは僕ら四人のキャンプだ。当然僕ら四人だけで運ぶんだよ」


■□   □■


「あああああ……重い……っ! 潰れる!」

 汗だくになったオリヴィエがプルプル震えながら叫んでいる。

 車を見送った後、四人で分けた荷物を背負って山道を歩きだしたのだが、早々にオリヴィエが死にそうになった。

「だから手伝ってもらったらって言ったのに……」

「情けないぞ貴様ッ! 御茶天目先輩の方が重い荷物持ってるぞッ!」

 俺と注連内さんで全体の八割くらいを背負い、残りの二割を先輩とオリヴィエが持っているのだが……。

「僕は君たちみたいな筋肉の集合体じゃないんだ! 頭脳労働担当なんだから!」

「鍛えてる俺や注連内さんはいいとして、しばらく半引きこもり状態だった先輩にすら負ける体力はちょっと……」

よいこちゃん『引きこもりとは失礼な! スタイル維持の為に部屋で筋トレくらいしとるわい! 見よ! このスーパーモデルボディを!』

「見えないの分かってて言ってるでしょ。でも重かったら言ってくださいね。まだ余裕あるんで持ちますよ」

「僕重い! 慧悟僕重いよ!」

 オリヴィエがだいぶ後ろの方で悲鳴を上げている。

「テーブル一個くらい黙って運べ」

「そうですか! 御茶天目先輩もトレーニーでしたかッ!」

 注連内さんが急にハイテンションになって鋭い目を輝かせた。

「朝霞も先輩も、会えて本当に良かったッ! あのもやし男があんな奴なもので、トレーニング談義が出来る相手がなかなかいなかったのだ……ッ! なぁなぁ、二人の推し肉はどこだ?」

「推し肉……?」

 筋トレ始めて長らく経つけど初めて聞いた。

「ちなみに私の推し肉は大腿四頭筋だッ! このな、太ももの前のところだ。よいしょっと」

 注連内さんは大量の荷物を地面に下ろし、ジャージを足首から捲り上げる。

 プリっと張りのある脚が露わになると、胸を張って腰に手をやり、右足を前に突き出す。

「どうだ? このボッコリと盛り上がった肉……ッ!」

「おお……!」

 締まった脚に牛ヒレのブロックをもう一塊くっつけたような重量感。足の動きに合わせてプルプルと揺れる柔軟性。何処をとっても完璧な仕上がりである。

 どうせオリヴィエはまだ来ないし、俺も荷物を降ろして推し肉観賞と勤しむ。

「これは良い筋肉だ……」

「だろうだろう! それで朝霞の推し肉はどこだッ!」

「うーん……強いて言うなら腹筋かなぁ」

「ほうほう!」

 期待を込めた目を剥けてくる注連内さん。……これ見せる流れ?

「……はい」

 シャツを捲り上げて腹を露出する。虫に刺されない?

「おお……ッ! これはいいぞぉ……ッ!」

「はひっ」

 注連内さんはギラギラした目で顔を寄せてくると、両手で遠慮なく俺の腹筋を撫でまわしてきた。

「石畳のようなシックスパックッ! カードリーダーに使えそうな深いキレッ! そして鎧のような外腹斜筋の隆起ッ! これは生半可なトレーニングでは育てられまい……腹横筋や内腹斜筋も助演男優賞相応に養われていて……いいなぁ……これはつよつよだなぁ……ッ! ウッフホッヘヘヘッ」

「あの……くすぐったい……」

 夢中で俺の腹筋を撫でまわす注連内さん相手に動くに動けずにいると、視界の外から眩い光がスススと寄ってきた。注連内さんは慌てて離れる。

「せ、先輩?」

 先輩は無言で俺の腹をいじりだした。

「……なんなのこれ……ってちょっと先輩、ヘソに指突っ込んでるでしょ。汚いんでやめてくださいよ……」

「…………」

 先輩は何も言わずどっかの指を俺のヘソにズポズポし始めた。それどころかもう片方の手がするするっと上の方に伸びてきて――

「ホッ!? 乳首を摘まむんじゃない!」

 驚いて手を振り払い飛び退いた。

「【バンバンバンッ!】」

「どさくさ紛れになにすんですかあんた!」

よいこちゃん『キミは乳首が弱いのかぁ……そっかぁ……』

「いきなり摘ままれたら誰だって驚きますよ。ちなみに先輩の推し肉ってあるんですか?」

よいこちゃん『え~? そんなに先輩の肉に触りたいのか~? エッチな後輩クンめぇ♡』

「触らせてなんて言ってないでしょう話振っただけなのに」

よいこちゃん『いいってことよ♡ ちなみに推し肉はここかなぁ』

 すると俺の右手が掴まれた。光る手にグイっと誘われ、下の方に引っ張られた俺の手は何か柔らかい感触に布の上から触れた。

「……どここれ?」

「私も先輩の大臀筋触りたい……だが近づくことが出来ない……ッ」

 注連内さんが歯を食いしばっている。えっ、大臀筋?

臀部(ケツ)じゃないですか!」

「【ドギュゥゥン!】」

「ゼェ……ゼェ……き、君たちは何をいちゃついているんだ……僕がこんなに死にそうになっているのに……」

 やっと追いついてきたオリヴィエがへたり込みながらぶつくさ言った。

「爛……これあとどのくらい歩くんだっけ……?」

「キャンプ地はこの先一キロほど行ったところの川原だ」

「イヂギロおおおおおおおお……」


■□   □■


「よし、ここだ」

 注連内さんが足を止めたのは、川から三〇メートルほどのところにあるまばらな木立の中。地面も平らだし良い感じの場所だ。

「つ、着いた……カフッ――」

 なんとかここまで歩き切ったオリヴィエはそのまま倒れ伏して死んだ。

「もうすぐお昼か……さっさとテント立てちゃわないと。えーっとどれがテントだ?」

 下ろした荷物をゴソゴソ探す。

 折り畳みの椅子に焚き火台に鍋にタープに、これは……簡易トイレ小屋……? そんなもんまであるのか……トイレのあるキャンプ場にしか行ったことないからな……。

「――お、あったあったテント」

「こっちにもあったぞ。二人用を二張りだな」

 注連内さんと御茶天目先輩に指示を出しつつ、協力してテントを立てる。

 こういう共同作業を通して親睦を深めようということなんだろうが、オリヴィエは相変わらず死んでいた。

 タープ張りやテーブルなど、さらに簡易トイレ小屋の設置も含め、作業は一時間もかからず順調に終わった。

「終わった……というのに、まだ荷物が余ってるんだけど……」

「うーむ……何がどれだけ必要かよく分からなくて、とりあえず買った物片っ端から持ってきたからな……」

「大丈夫か? 無計画過ぎないかこのキャンプ」

「ふっ……安心してくれ慧悟……」

 死体になっていたオリヴィエが蘇生してむくりと起き上がった。

「楽しもうという心さえあれば、行き当たりばったりだってなんとかなるさ……!」

「お前結構感覚で生きてやがるな?」

「……だって仕方ないじゃないか! 頑張ったんだよ僕は! でも無理だった!」

 オリヴィエは急に悲壮な顔で吼えた。

「遊びの計画なんか立てられなかった! だって一緒に遊ぶような友達なんて碌にいなかったんだから! 笑えよ! こんな僕を! そして友達になってください!」

「お、おう……分かったから……もういいから……」

 イケメンが地に伏して泣きそうな顔している様は最早哀れだった。

「みんなでキャンプするだけで楽しいよな。大丈夫だから、昼飯でも食べながらこの後なにするか話そう。ところで昼飯はどうすんの?」

「…………え?」

「…………お前……まさか……」

「……ふっ……なあ慧悟」

 オリヴィエはその場にゴロンと仰向けになり、空を見上げて呟いた。

「お腹って、どうして空くんだろうな――」

「マジかお前……早朝から何も食ってないんだぞ……くっつくぞ、背中が、お腹と」

「【バキュゥゥン!】」よいこちゃん『そんなこともあろうかと』

 御茶天目先輩が自分が持ってきた荷物からクーラーバッグを取り出した。開くとデカいタッパーが入っていた。

よいこちゃん『この優しい先輩がお昼ごはんを手作りしてきました~♡』

 フタをパカっと開けたら、ソフトボール大の爆弾おにぎりが十個も入っていた。

「おお! 最高じゃないですか先輩!」

「素晴らしい!」

 オリヴィエがぴょいんと跳ね起きた。

「さっそくランチと洒落込みましょう! さあどうぞ! 僕の運んできたこのテーブルにそのおにぎりをさあ! どうぞどうぞ!」


■□   □■


「うん、美味い。普通に美味いですよ」

よいこちゃん『そうかそうか』

「そうそうこれでいいんだよこれで」という感じの、大きさ以外は普通なシャケ握りを頬張る。少ししょっぱいくらいの塩加減が今は嬉しい。

「そういえば、今更だけど先輩の手作りのもの食べても平気なのか? エローラ的にさ」

 当然手で触れていれば汗やら皮脂やら付着するわけで。

 エローラが感覚器官から作用するなら、直接摂取したらどうなるんだ?

「ん? そりゃ体液やら体の一部やら摂取したら影響は出るかもね。調子はどうだい爛」

「私を毒見役みたいに使うなッ。まあ平気だが」

よいこちゃん『失礼な。ちゃんと衛生面に配慮してそれ用の手袋して作ったわ』

「なら気にしなくていいか。ところでオリヴィエ」

「なんだい?」

「昼飯のことは忘れてても、晩飯のことは大丈夫なんだろうな。キャンプの晩飯つったらもうイベントのメインだぞ」

「ふふふ、あまり僕を舐めてもらっちゃ困るな慧悟」

「舐めてるんじゃない。憂慮してるんだ」

「であれば安心してほしい。ちゃんと考えてあるとも。ディナーの準備も出来るし、みんな一丸となって取り組むことで団結力も養える一石二鳥の方法をね」

「……なんかもう悪い予感が当たりつつある気配を感じるけど、それが杞憂だと信じてあえて訊こう。その方法って何?」

「これからみんなで夕食の材料を採集しに行くのさ!」

「はい大当たり! お前なあ! 知識も何もない素人がいきなり山に入って食えるものと食えないものの見分けなんて出来るわけないだろ!」

「それがいるんだなあ出来る名人が。ここにね」

 オリヴィエが隣で二個目のおにぎりに齧り付く注連内さんに視線を向けた。

「注連内さんが?」

「んぐんぐ……ごくん。ああ、任せろ」

 口元にご飯粒を付けたまま注連内さんは胸板をドンと叩いた。

「注連内家の者は十歳から十一歳にかけての一年間、この山に独り、身一つで籠って生き延びながら、霊力を高める修行を行うのだ。

 だからこの山は地形も気候も、生息する動植物のことまで知り尽くしている。何が美味しく食えて、何が食ったら不味くて、何を食ったら死にそうになるのか、自分の身体で思い知った」

「凄いな、ホントに今は令和かよ」

「とにかくそんなわけだから」

 オリヴィエは注連内さんの口元のご飯粒をとって自然に食べながら言った。

「まずは釣りでもしようか。そこの川に天然のヤマメがいっぱいいるみたいだよ」


■□   □■


 注連内さんが慣れた手つきで準備した仕掛けをつけた竿とバケツを手に、俺達はテントからほど近い川辺へ。

 ごろごろと石が転がる間を、川幅一〇メートルほどの澄んだ流れがさわさわと輝いている。確かに魚がいそうな雰囲気だ。

「では先輩と慧悟、さっそくエローラ訓練だ。この川の中に何か感じるかい?」

 川原で静かに座禅を組み、せせらぎを聞きながら意識を集中する。

 自分の体内、身体の周囲に滞留するエネルギーを伸ばして川を浚うイメージ。

「……分かんない」

「【パパパパパン!】」

 俺も先輩もしばらく粘ったが何も感じなかった。

「OK、エローラの感覚が分かってくると、目で見なくてもいろんなものが見えてくる。

 例えば川底から発せられるエローラを辿れば――」

 オリヴィエはざぶざぶ川に入っていき、中の石をひょいと拾い上げた。

「ほらいた。川虫だ。まあこんなに小さな生物のエローラを感じ取れたら一人前かな」

 石の裏をこちらに見せてくる。小さな虫がうごうごしていた。

「【ドドドドンドン!】」

 先輩が何か言いながら俺の袖をガシっと掴んでくる。

「落ち着いて先輩。つまりそれを餌に釣りをするってことか」

「そういうこと」

 オリヴィエは同じ手順で川虫をあっという間に捕まえていき、それぞれの釣り針に刺した。

「さて、晩ごはんが懸かってるんだから絶対に一人一匹は釣りたいな」

よいこちゃん『釣りとか初めてなんだけど大丈夫かな』

「俺も釣り堀くらいしか……オリヴィエ、なんかコツとかあんの? 釣れそうなポイントとかさ」

「要らない要らない。みんなはただ手近なところに糸を垂らしてさえいればいいよ」

「は? さすがにそんな簡単に釣れるようなもんじゃないだろ。というかなんでお前は竿持ってないんだ?」

 釣り竿を持っているのは俺と先輩と注連内さんのみ。オリヴィエは手ぶらだ。

「まあまあ、騙されたと思って、ほら」

 オリヴィエは楽しそうに笑ってそれしか言わないし、注連内さんがさっさと言われた通り目の前の水面に仕掛けを投げ込んだので、俺と先輩も同じようにした。

「でも見たところこの辺に魚いないんだけど」

 美しく澄んだ水面は容易に水中まで見渡すことが出来、そこに魚影らしきものは全くない。

「それともエローラ探査によると実はいるとか」

「いや、この辺にはいないね」

 オリヴィエは静かに両腕を水中へ沈めた。

「まあ見てなって。エローラを極めればこんなことも出来るのさ」

 そこまで語るとオリヴィエは一つ息を吐いて黙った。なにかに集中している様子だ。

 そのまま十数秒、川のせせらぎだけが響いた。

「……慧悟、君にはどう見えている?」

「どうって……お前が黙って両手を濡らしてるようにしか――」

「なるほど、このくらいの濃度のエローラじゃ君にも見えないか」

「エローラ? 今エローラで何かしてるのか?」

「エローラは生きとし生けるものなら皆持っているし、影響を受ける。もちろん魚もね。

 相手の生物に合わせて濃度や性質を調整してやる必要はあるが……」

 ――あ。言われてみれば、川の中に沈んだオリヴィエの両手が、ほんのりではあるが光を放っているように見える。

「今、オスのヤマメを発情させるエローラを水を媒介として川中に行き渡らせた。

 そして今度は、発情したメスのヤマメが発するものと同質のエローラをこの場に滞留させる。

 すると――」

 オリヴィエは静かに両手を水から引き揚げた。

 しばらくそのまま待つ。

「――あ、魚……!」

 来た。一匹、二匹……と見ている間にも、上流から下流からものすごい勢いで魚影が泳いでくる。ヤマメたちはオリヴィエが手を入れていたあたりの水中を中心に、イワシの大群のような密度で川面を埋め尽くした。

「うっそだろ!? エサに群がるコイかよ!」

「みんな恋に燃えるオスのヤマメだよ」

 そんなこと言ってる間に俺の竿がビクンビクンと震えた。エロい意味ではない。

「きた!」

 そっと引き上げると、体長三〇センチほどのヤマメがかかっていた。

「デカい! 釣り堀のと全然違う!」

「だろう」

 メスに気に入られようと一生懸命やってきたオスを、メスの偽物の色香で騙しておびき寄せて美味しく戴くというわけか。うーん罪の味。

「【パンッ! パンッ!】」

 横から細かい銃声。見ると先輩の竿にも魚がかかり、先輩は焦ったように川原をじたばたしている。

「先輩落ち着いて! ゆっくり引き上げて!」

「【ドバババ!】」

 ぎこちない動きで竿が上げられ、水面からヤマメが顔を出す。

 糸にぶら下がったままビッチビチと跳ね回るヤマメを前に先輩は手をこまねいている。

「【ズキュン!】【ドンドンッ!】」

「あ、ちょっと先輩そのまま」

 あわあわしてそうな先輩と魚をスマホで撮影。まあ俺には見えないけど先輩の記念にはなるだろう。

「【ドォン!】【ドゴォン!】」

「はいはい今取ります取ります」

 多分文句言われてるので、さっさとヤマメを掴んで針から外しバケツに入れた。

よいこちゃん『キミなぁ! 分かってるならさっさとやれよ! 写真撮ってないでさぁ!』

 やっとスマホを使えた先輩が案の定文句を打ってきた。

「いいじゃないですか、面白い顔してましたよ、おそらく」

よいこちゃん『いいや、私はいついかなる時でも可愛い顔を崩していないだろうよ』

「じゃあ決めました。俺このキャンプ中は先輩の写真撮りまくります。写真フォルダを謎の光る女だらけにします」

よいこちゃん『え』

よいこちゃん『mきい』

よいこちゃん『勝手にしろ』

よいこちゃん『っていうかキミよく魚触った手でスマホ触れるな……』

「別に後で拭けばいいじゃないですか」


■□   □■


 竿を入れれば釣れるような状態で、続けてれば何十匹でも獲れそうだったが、獲り過ぎても良くないということで一人あたり二匹分として八匹だけ釣り、残りのオス達はオリヴィエがエローラを相殺して打ち消すことでお帰り頂いた。

 ぜひ本物のメスと元気な子供を産んでほしいところだ。

「これでメインディッシュは手に入ったな」

 バケツをテントのところへ持ち帰り、椅子に座って一息。

「次は山の奥に入って、私がかつて行った修行を体験してもらうッ」

 注連内さんが勇んで言った。

「そして山中を歩きがてら食材を採集するぞ。ちょうど春の山菜が頃合いの季節だ。美味しいものがいろいろある」

「ほほう、たらの芽とかわらびとか?」

「あー、うん。多分そんな感じだ。名前は知らないがな。食って覚えたから」

「そ、そう」

「あのさぁ……」

 さっそく繰り出そうかという空気のところでオリヴィエが口を挟んだ。

「僕はここに残って、ヤマメの下ごしらえと火おこしをやっておくよ」

「……貴様、山歩きで疲れるのが厭なだけだろう」

「それじゃあ、いってらっしゃい!」

 オリヴィエはイケてる笑顔で元気に手を振って俺達を送り出した。

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