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【2】エロ過ぎて見えない女

 翌日の放課後、地学準備室の扉をノックした。

「【パァン!】」

 中から銃声がしたので扉を開ける。人影は光一つだけ。

 ポケットの中のスマホが震える。メッセージ受信の通知だ。

よいこちゃん『よくぞ来てくれた、ご苦労』

「……あんなこと言われて無視できないでしょ」

 嘆息しながら、部屋の隅にいくつか放置されているボロい丸椅子を引っ張ってきて座った。あの二人はまだなのか。

よいこちゃん『良かったねぇ後輩クン。憧れの先輩と放課後の密会なんて素敵なシチュエーションじゃないの』

「そっすね」

よいこちゃん『声が小さい!!!! そんなんじゃ先輩の心は捕まえられないぞ!!!!』

「…………」

 昨夜と同じテンションで届く感情豊かな文章。しかし目の前には無機質な光る人型。

 至近距離で向かい合ってはいるが、会話はチャット越しだし、どうもチャットの向こうの御茶天目先輩と光の向こうの御茶天目先輩、そして俺の憧れた御茶天目先輩が頭の中でしっくりこない。

よいこちゃん『なぁに、急にじっと見つめてきて。今全裸なんだから恥ずかしいじゃない』

「全裸っ!?」

 驚愕して背もたれの無い丸椅子から転げ落ちた。

「【ババババキューン!】」

 先輩がなんか言ってるが、俺はコケたまま床を這って廊下へ転がるように飛び出した。

「ご、ごめんなさい! でも言ってくださいよ! 見えないんですから! というかなぜ全裸なんですか!」

 閉めたドアにもたれかかりながら部屋の中へ大声で文句を言うと、スマホが震えた。

よいこちゃん『嘘でござるの助』

「…………」

 俺は何も言わずまたドアを開けて部屋に入り、椅子に座った。

よいこちゃん『良いわたわたっぷりだったわw 愛いやつめ……www』

「あの……本っ当にやめてくださいこういうの」

よいこちゃん『悪ぃ悪ぃ。でもこれでキミが嘘ついてないって信用できるわ』

「昨日は『信じてる』って言ってたのにまだ疑ってたんですか……」

よいこちゃん『最終確認よ~』

 俺が転んだ拍子にぶつけた頭を抱えていると、コンコンコンとノックの音。

「注連内です。入ります」

 そう断りが入ってからドアが開き、宣言通り注連内さんが顔を出した。

「遅くなりました。HRが長引いて――って先輩なぜ全裸なんですかッ!?」

「ホントに全裸なのかよ!?」

「【ズキューン!】」


■□   □■


よいこちゃん『ぬっふふふ、これでキミは常に私が隣で全裸なんじゃないかとビクビクしながら会話しないといけなくなったわけだ』

「心が一時も休まらねぇ……」

 今度こそ先輩に服を着てもらい、遅れてきた二人も含め四人揃ったところでオリヴィエが口を開いた。

「さて、先輩のご協力も得られたということで、これから四人で頑張っていこう。

 先輩の力はどんどん増している。こうしている今にも、日祓連の中でも注連内家の権威を失墜させたがってる連中が強硬派と手を組む動きがある。先輩の存在をつまらない政治に利用されるのは気に食わない。早速進めていくよ」

 気になる話が出たが、テキパキと話を進めるオリヴィエに口を挟む隙が無かった。

「今後の方針としては、二つのプランを並行して進めていこうと思う。プランAは御茶天目先輩自身にエローラの扱い方を学んでもらうこと。自分でエローラを制御できればパワーのオンオフや強弱を操れるからね」

「できるのかそんなこと。先輩はお前と違ってただの人間だぞ」

「んー……正直難しいと思う」

 オリヴィエは渋い顔。

「エローラを自在に制御できる人間は、記録上確かに存在する。でも僕ら夢魔のように生まれつき出来る者はほとんど知られていない。何年も鍛錬を積んで、才能が有れば運よく出来るようになるレベルだ。でも先輩に関してはそんなに分の悪い話でもないと思うよ」

「なんで?」

「先輩にとっては別にエローラを自由自在に操れるほど上達する必要はない。せいぜい無意識に垂れ流しているエローラを止めるか、最低でも弱めることが出来るようになるだけでも状況はかなりマシになると思う」

「【バンッ!】」よいこちゃん『せやな』

 銃声と同時に相槌がチャットで流れてきた。親切だ。

「とはいえ、その段階まで出来るようになることすら簡単ではない。出来たとしても時間はかかるし、その間にも先輩の力は増していくだろう。そこでプランBだ」

「そっちは私が説明しよう」

 注連内さんがズイっと出てきた。

「プランBは外的措置による先輩のエローラの抑制だ」

「……つまり?」

「我々祓魔師の有する技術や知識を用いて、先輩のエローラを抑えたり打ち消したりする手段を見つけることだ。世界中の祓魔ネットワークを駆使して、効果のありそうな道具や薬、儀式などを片っ端から試していく。

 とりあえずすぐに用意できたものを今日持ってきた。早速試してみよう」

 注連内さんはカバンからよく分からないものをひょいひょい取り出していく。

「これはブルガリアの教会に伝わっていた貞淑の守護聖人像。こっちは淫奔な女を戒める為にインドの南部で用いられていた特殊な品種の牛の乳(冷凍)。そしてこれがレアものでな……エスキモーのアクィタワン族の伝承にあるアヴィロイコンの骨人形だ!」

 謎の物品を机に並べ、どうだと言わんばかりにドヤ顔の注連内さん。

「なんか楽しそうだな……」

「世界の祓魔グッズ収集が爛の趣味でね」

「それはなんとも……あー、マニアック……? だね」

 オリヴィエに適当な相槌を返し、御茶天目先輩の光へ向き直る。

「えっと、じゃあ、どうします?」

よいこちゃん『……うん、お願い』

 ラインでそれだけ返ってきた。お願いって言われても……。

 オリヴィエと注連内さんも黙って俺を見ている。そうだこいつら先輩に近づかないんだ。

 ……えっ、俺がするの? 何を?


■□   □■


「ヴゥゥゥ……ッ! 私のコレクションがァ……ッ!」

 見るも無残なことになった物品を前に注連内さんは唇を噛みしめて涙に震えていた。

 彼女に言われるまま、先輩に聖人像を突き付けたり、呪文を唱えながら牛乳を振りかけたり、骨人形を掲げながら踊ったりしたのだが、何も効果がなかった。

 それどころか、像は砕け散り、牛乳は先輩の肌に触れるや否や蒸発し、人形は突如発火し燃え尽きて灰になった。

 どんだけ凄いんだ先輩のエローラ。

「あの……なんかごめん……」

「ヒック……いいんだ……すまない、力になれず……ッ!」

 注連内さんは甲子園の砂を持ち帰る球児のように像の破片や人形の灰を拾い集め、名残惜しそうに牛乳の瓶に入れてカバンにしまった。

「――さて、今日はこの辺でお開きにしようか」

 涙目の注連内さんの背をポンポンと優しく叩きながらオリヴィエが言った。

「本当はプランAもさっさと進めたいんだけど、人間のエローラの制御訓練はちゃんと体系化されていなくてね。もうちょっと文献に当たらなければならないんだ。申し訳ないけれど、訓練開始はもう少し待ってほしい。

 その代わり始めたらビシバシ行きますから、許してください先輩」

「【ズドン!】」

「どうも。ではまた明日。ほら帰ろう爛」

「あの骨人形……ネットオークションで一晩張り付いて落札したのに……」

「元気出しなよ。ハンバーガー奢ってやるから……」

「駅前のあそこじゃなくて向こうの高いやつー……」

「あ、ああ……」

 オリヴィエは注連内さんを慰めながら部屋を出ていった。

「えーっと……じゃあ俺もこれで」

 そう先輩に言って席を立とうとしたとき、スマホが震えた。

よいこちゃん『キミ、今日この後ヒマ?』

「え? まあ、帰るだけですけど……」

よいこちゃん『デートしようぜ』

「は……? デート……? どこに行くっていうんです?」

よいこちゃん『それなのよね~。私が行けるところなんてここ以外だと家しかないのよね~。というわけで、おうちデートへレッツラゴー♡』


■□   □■


「……こちらKG(カーゲー)、今なら見張りはいない。前進せよ。どうぞ」

よいこ軍曹『こちらGB(グッボーイ)。了解した。KGは引き続き先行し斥候を続けられたし。どうぞ』

 俺達は誰もいない廊下で、ロッカーの陰に隠れながらこっぱずかしいことをしていた。

 とはいえ無駄なことではない。今向かっているのは、主に教職員が使用している学校の裏門で、地学準備室から歩いたらものの二分程度で着く場所だ。

 しかしそんな至近距離でも、御茶天目先輩にとっては遠い道のりだ。

 うっかり誰かに出くわしてしまえば、そいつはその場に倒れ伏すことになってしまう。

 そんな悲しい被害者を出さない為に、先輩は毎日こんなスニーキングの真似事をしながら移動しているらしい。

 五分ほどかけて、俺たちは校舎外への出口へ到着した。ここから裏門へは屋外の駐車場を真っ直ぐ突っ切る必要がある。

 周囲に人影はないが、駐車場には何台か車が停まっている。

よいこ軍曹『よう、生きてるか相棒。あと少しでランデブーポイントだ。無事に国に帰ったらまたあのバーで一杯やろうぜ』

「後々死んだ先輩に想いを馳せながら俺が一人寂しく強い酒飲むやつじゃないですか」

よいこ軍曹『何言ってんだ死ぬのはお前だ』

「ひでぇ」

よいこ軍曹『その口から糞垂れる前に、今から私の言うことを耳の穴かっぽじってよーく聞け』

「耳かっぽじっても入ってくるのは目からなんですよ軍曹、文字情報なんで」

よいこ軍曹『だったら目ん玉落っこちるくらい皿のようにかっぴらけ。いいか、右側の車列、門から三番目に停まってるグレーの汚ったねぇ軽自動車があるだろう?』

「イエス、マム」

よいこ軍曹『あれが目的地だ。あそこへ到達すれば我々は国へ帰れる』

「さっさと帰還しましょうマム」

よいこ軍曹『よーし周囲に敵影なし! GOGOGOGOGOGOGOGO!』

 相棒なんだか上官なんだか分からない御茶天目軍曹の号令で俺は屋外へ飛び出した。早歩きで目標の車へ近づくが、その時――

「【パキューン!】」

よいこ軍曹『ぐはっ……!』

 銃声が響き、背後から着いてきていた軍曹がぱたりと倒れた。

「軍曹ーっ!」

よいこ軍曹『へっ、ドジっちまった……一緒にバーで一杯やる約束……守れそうに……ないぜ……カハッ――』

「軍曹……フラグ回収できて満足ですか」

よいこ軍曹『うむ、満ち足りておる』

 俺にしか聞こえない規制音まで使った小芝居に満足げな先輩と共に車へ到着すると、先輩は運転席の窓をコンコンとノック。するとドアの鍵が開くガチャっという音。

 先輩はすぐに後部座席のドアを開け乗り込む。続いて俺も隣に座った。

「おう、なんだよなんだよ酔子ちゃ~ん! 男連れかよ! どしたいきなし!」

 運転席に座っていたのは若い男だった。スウェットにパーカーのラフなスタイル。綿埃のような爆発ヘアで、陽気そうなギョロ目と、喋るときの癖なのか突き出した唇が印象的だ。俺を横目に、ニヤニヤしながら先輩を囃し立てる。

「【ズドドドッ!】【パキュゥン!】【ドンドンッ!】」

「ほほ~ん。後輩たらし込むとは酔子ちゃんやるねぇ!」

「【パララララララ!】【バンッ!】」

「はいはい分かった分かった。今出るよ。シートベルトをお締めくださいませ~」

 陽気にエンジンをかけ、ファンキーな見た目とは裏腹に丁寧な発進で車は動き出す。

よいこちゃん『これ、うちのクソ兄貴』

「へー……お兄さんですか」

「YES! お兄ちゃんの亜半(あはん)です。よろしくな義弟(おとうと)よ」

「【ズドンッ!】」

 みちゃだめ、あはん……。御茶天目さんちの名付け親は林家木久扇師匠なのかな?

「は、初めまして。朝霞慧悟です。先輩とは、その……と、友達? 友達か……?」

 言い淀んでいると隣から脛をげしっと蹴飛ばされた。

「あいてっ! 友達! 友達ですはい!」

「なるほどなるほど、まだ現状はその段階と」

 ハンドルを操りながら、うんうんと頷くお兄さん。

「で、二人はもう【バキューン!】はしたの?」

「だから友達っつったでしょ!?」

 なんて言ったかは聞こえなかったが、友達同士は『規制』されるようなことはしないし、少なくとも俺と先輩はそんなことしていない。

「いきなり全裸を見せつけられたことしかありませんよ!」

「【ズバギュゥゥン!】」

「あいって! また脛……っ!」

「ギャハハハハハ! なんだよ酔子ちゃんから誘ったのかよ大胆だなぁウチの妹は!」

「【ドゴォン!】【シュバババババ!】【パキューン!】」

「友達同士のジョーク? 冗談ポイだぜ! いいか酔子ちゃん、男女の間に友情なんて成立しないんだよ! 【パァン!】と【ドォン!】が出会っちまったらもうゴールは【バキューン!】しかねぇんだ! それが俺の人生で学んだ教訓だ」

「【ズババババン!】【パシュン!】【ドゴォォォン!】」

「ニートじゃないですぅ! 職探してればニートの定義からは外れるんですぅ! 頼むぜ義弟よ、甥っ子姪っ子は野球チームが組めるくらいの人数は欲しいな」

「野球チーム……七〇人はちょっと現実的じゃないんじゃ……」

「普通この話の流れなら九人でしょ! さすがにプロ野球チームの支配下登録可能選手数を一人で生めなんて妹に言えるわけないでしょ!」

「お兄さん――分かる人ですね」

「キミもな、義弟よ」

 亜半さんとウィットに富んだ会話を楽しんでいたら、隣に座っているシートベルトをした光人間が俺の肩をべしべし叩いてきた。

よいこちゃん『おい、こら、バカ後輩』

「なんですか先輩。そんなに俺の三角筋を執拗に刺激して」

よいこちゃん『あんまりクソ兄貴の戯言に付き合うな。人数が、どうとか、やめろ』

「冗談ですよ。ちなみに先輩は将来子供何人くらい欲しいんですか?」

よいこちゃん『なんてこと言わせようとしてんだお前!!!!』

よいこちゃん『…………二人……か、三人くらい、は……』

 そのあと、家に着くまで蹴られ続けた俺の脛はすっかり青黒く変色していた。


■□   □■


「それじゃああとは若い二人にお任せして、お兄ちゃんは退散しまーす。今夜はカラオケでオールしてくるつもりだから大丈夫だから安心だから! じゃっ! どろん!」

 御茶天目家の前で俺たちを降ろすと、亜半さんはさっさと走り去った。

よいこちゃん『それじゃフォロミー』

「ちょっと待って先輩……足が痛くて歩くのが……ねぇこれ折れてません? 大丈夫かな……ほらこんな色に……打撲かな……プロ野球選手なら登録抹消ですよこれ……」

よいこちゃん『その程度の青タンでぶつぶつうるせぇ男だなキミは』

 ズボンをまくり上げて呻く俺を無視して、先輩はスタスタと家の門をくぐる。

 表札に「御茶天目」と刻まれたおうちは、まあ普通のご家族のお宅といった雰囲気。

 先輩はドアの前で立ち止まり、光ってるせいで何をしているのか見えなかったが何かをごそごそやった後、ガチャリという重い金属音がした。

「……あの先輩、今のって鍵開けた音ですよね? まさか家に誰もいないんですか?」

よいこちゃん『親は今日夜勤だから。兄貴もアレだし。なに? もう親に挨拶する気でいたのかい? 気の早い後輩クンだこと』

「いやそうでなく……」

よいこちゃん『女の子しかいない家に上がり込むのはマズいとか言うの? おいおい、私は言ったぞ「おうちデート」って。なんで両親交えてデートしなくちゃいけないんだよ』

「まあそうですけど……正直深く考えてなかったといいますか……」

 上司に「この後飲み行くぞ」と言われて断れずに付き合わされる新米会社員みたいな気分でここまで来てしまった俺だ。

よいこちゃん『ハァーン!!!! 女子にデートに誘われたってのに浮かれもドキドキもせずボーっと着いてくるだけとか、随分と女慣れしてやがりますな!!!!!!』

「そういうんじゃないですって」

よいこちゃん『おうちデートするっつって来てんだかんな! 今から「やっぱ無しで」は無しだかんな! 死んでもおうちデートはしてもらうぞ! 私の家に入れないってんなら私はキミをストーキングしてキミんちに押し入って無理やりおうちデートすんぞ!』

「ええ……分かりましたよ。入ればいいんでしょ……」

よいこちゃん『チッ……可愛い先輩とのおうちデートだってのに嫌そうな顔しやがって』

 俺は足を引きずりながら、先輩が開けたドアをくぐって御茶天目家に足を踏み入れた。

 玄関で靴を脱ぎ、光人間の後に続いて廊下を進む。階段を上って二階へ。いくつかあるドアのうち一つの前で立ち止まった。

よいこちゃん『じゃあちょっとここで待ってて。軽く片付けるから』

「はい、分かりました」

 先輩は先に部屋に入った。ドアの向こうからガチャガチャガサガサいう音がする。二、三分もすると通知が入った。

よいこちゃん『さあ入れ。現役JKのお部屋の空気を吸いにこい』

「……失礼します」

 自分でドアノブを握って部屋に入った。

 一瞬立ち止まり、思わず部屋の中を見渡してしまう。そしてつい本音が口を衝いた。

「ふっつー……」

 女子の部屋に上がり込むなど初めてだが、なんか……思ってたのと違うというか……雰囲気も散らかり具合も俺の部屋と大して変わらない。置いてある本や雑誌、小物のジャンルが違う程度の違いしかない。

 これが女子高生の部屋の定義だとするなら、似たような部屋に住む俺は逆説的に女子高生なのかもしれない。

よいこちゃん『フハハハ、どうだ。これこそが女子の現実だ。幻滅したか』

 部屋の真ん中に立っている光る人型は心なしか堂々と仁王立ちっぽい。

「なんていうか……ただ友達の家に遊びに来ただけ感がすごいです」

よいこちゃん『実際そうだろうが思い上がるなよ。んじゃ飲み物の用意してくっから。タンスとか開けんなよ。さすがにそういうところは女子だからな!』

「分かってますよそれくらいは。おかまいなく」

 先輩はさっさと部屋を出ていった。さすがにタンスを漁る気はないが、これも先輩の素性を知るチャンスということで部屋を見物してみよう。

 といっても特に目立つ物は無い。小さい折り畳みのテーブルに、俺の分も準備してくれたのかクッションが二つ。タンスにクローゼット。本棚には少女漫画に少年漫画に文庫本などが順番もテキトーに押し込まれている。

 小学校入学時に買ってもらったのをそのまま使ってるという感じの勉強机は化粧道具やら小物やらの置き場所と化している。化粧用品には心なしか埃が積もっているように見える。

 さらに部屋を見渡すと、あるものに目が留まった。

 ベッド。ぐちゃぐちゃのままの毛布の上に脱ぎ散らかされっぱなしの服が重なっているが、その一番上に載っているものが問題だった。

 制服。

「…………」

 おそるおそる指先で触れてみる。汗でじっとりと湿っていた。

 どうやらこれが光の下で先輩が着ていた制服らしい。

「……いやまさか――っひょぅ!?」

 スマホがブルリと振動して飛び上がった。落っことしそうになりつつ画面を見る。

よいこちゃん『見 た よ』

 振り返ると、ほんの少し開いたドアの隙間から光が覗いている。

「……いや、決して変な目的があったわけではないですよ?」

よいこちゃん『いいのよいいのよ。オホホホ。仕方ないよねぇ。目の前に女子が脱いだ制服があったら、そりゃいろいろしたくなるよねぇ。男のコだもんねぇ』

「その感じやめてください。そうじゃなくて、あの先輩……」

 部屋に入ってきて、お盆に載せたジュースやお菓子をテーブルに広げ始めた先輩に、思い切って尋ねた。

「制服脱いでから……部屋着って着てますよね?」

 先輩は地学準備室で全裸になってた前科があってだ。そしてここは文字通り先輩のホーム。疑心暗鬼になっても仕方がない。

 先輩はしばらく無反応だったが、配膳をし終えてクッションにどっかと座ってから返信が来た。

よいこちゃん『それって君に関係ある話? いいじゃんどうせ見えないんだから』

「やっぱ着てねぇな! やめてくださいよホント! 見えなくても目のやり場に困るんですから!」

よいこちゃん『うっせぇ! 汗っかきなんだよ! 下着は着てるからいいの! 私は部屋では基本下着なんだから下着が部屋着じゃい! ま、キミの気づかぬうちにシレっと全裸になっているかもしれないがな』

「ったくあんたって人は……もういいや、何も気にしないことにします」

 構えば構うほどヒートアップしそうなので、面倒だからこの話題はもう置いとこう。

 とりあえずもう一つのクッションに座った。

「で、おうちデートって具体的に何するんですか?」

よいこちゃん『さあ。なにすりゃいいんだろね』

「なんですかそれ。先輩が無理やり連れ込んだくせに」

よいこちゃん『仕方ないだろ初めてなんだから。テキトーにお菓子食べたりお喋りしたりしてりゃいいんじゃないの?』

「なんかもうホントにただ友達の家に来ただけですね」

 言われた通り二人でパーティー開けしたポテチをカッ喰らうと、二分で無くなった。

「お菓子切れましたけど」

よいこちゃん『無言でひたすら食べるから持たないんだ。なんか喋れなんか』

 次はポップコーンの袋を開ける先輩。とりあえず一掴み口に放り込む。

「もぐもぐ……えーと、先輩ってチアリーディング部だったんですよね」

よいこちゃん『せやで』

「その……辞めちゃったんですか?」

よいこちゃん『症状が酷くなって退部した』

「……す、すいませんでした」

よいこちゃん『別にいいよ。キミにはいろいろ知っててほしい。私のこと』

「先輩……」

よいこちゃん『そして私がいかに可哀想か知ってちやほや甘やかしてほしい』

「隠した方がいい本音ってもんがありましてね」

よいこちゃん『キミが私を見たのって去年の夏だっけ』

「はい。夏の地方大会です」

よいこちゃん『じゃあそのすぐ後くらいかな。変質者にに襲われたの』

「……は? お、襲われた……?」

 愕然とし、口に運びかけたポップコーンが零れ落ちた。

 先輩も食べる手を止めてスマホに文章を打ち込み続ける。

よいこちゃん『運動部の夏の大会が全部終わって、打ち上げではしゃぎすぎて帰りが遅くなっちゃって。一人になったところを変なオッサンに絡まれたの』

よいこちゃん『逃げようとしたけど腕掴まれて、無理やり暗がりに連れ込まれて……』

よいこちゃん『ってなんて顔してんの。安心してよ。何もされなかったから』

 言われて自分の眉間に力が入っていたことに気が付いた。

 あの見惚れた可愛い先輩の笑顔が悪漢に穢されたのではないかと思ったら平気でいられるわけがないのだ。

よいこちゃん『力じゃ敵わなくて、もうダメだって思ったけど、何かされる前にいつの間にかオッサンは意識を失ってた』

よいこちゃん『助かったって思ったけど、その日からだんだんおかしくなってきてね。学校で私を見る男子の目が、気になる女子を見る目じゃなくなってきた。想像できる? ティラノサウルスの檻に放たれた餌のヤギの気分』

よいこちゃん『それを皮切りに、同じことが何度も起こった。男子や男の教師、たまに女子、登下校中には見知らぬ人に襲われかけるんだけど、何もできずに相手は気絶してく。そしてだんだん気絶するタイミングも、私の体に触ってから、至近距離に寄ってから、私の姿を見たら……って早まっていった』

よいこちゃん『その頃にはもうみんなと一緒に学校生活なんて過ごせなくなって、先生に頼んで地学準備室に隔離してもらって、授業も全部自習で済ませるようにした』

 ふーむ……学校でのオリヴィエの説明を思い出すと、こういうことだろうか。

 おそらく変質者に襲われた時に、身を守るために先輩のエローラが暴発した。

 それ以来エローラのタガのようなものが外れ、常時垂れ流し状態になり、周囲の人を興奮させてしまうようになった。

 エローラのパワーが増していくと共に、居るだけで他人を気絶させてしまう危険な存在になってしまったと。

「――ずっと気になってはいたんですけど」

 昨日から訊きたかったことだ。

「そんな状態なのに、なんでわざわざ登校してるんですか?

 車で送迎してもらわないといけなくて、登校しても一人だけあんな倉庫みたいな部屋で……そこまでして学校に行かなくても、いろいろ手段はありそうなもんなのに……」

よいこちゃん『私はただ普通でいたかった。主人公じゃなくたって、画面の端っこに映り込んだモブでいい。どこにでもいるような、普通の女子高生でいたかったの』

「…………」

よいこちゃん『でも私はなれなかった。友達はみんな私を見ると嫌な目になって涎を垂らしながら襲ってくるようになった。授業も部活も私がいるだけでなりたたなくなる。もちろん恋愛だって無理。それでも諦めたくなかった。普通の女子高生でいたかった』

よいこちゃん『ほとんどのものを仕方なく手放したけど、ただ一つ、唯一持ってた私の「普通の女子高生要素」が「女子高生である」という自分の社会的な定義だけ。ただそれだけで私の中の「普通の女子高生」にギリギリ小指一本でしがみついてたの』

よいこちゃん『女子高生であることすら諦めちゃったら、きっと私はもう二度と希望を抱こうとなんて出来なくなってたと思う』

よいこちゃん『でも私の症状はどんどん酷くなって、家族以外は私を見ただけで気絶するようになって……さすがの私も諦めた』

よいこちゃん『それで昨日、奇跡に賭けてみんなの前に出ていった。不思議なことが起こって朝起きたらぜ~んぶ元通りになっちゃってたりしないかなってさ』

よいこちゃん『馬鹿みたいだよね。結果は見たでしょ。体育館丸ごと制圧できるくらいに私の力は強くなってた』

よいこちゃん『その瞬間、ああ、私はもう一生普通にはなれないんだって……このまま酷くなっていくのなら、この世界に私の居場所はないんだろうなって、もう全部投げ出しちゃおうって思った時……キミと出会えた』

よいこちゃん『キミには私が光って見えるらしいけど、私にとってはキミが光だった』

よいこちゃん『キミが居なくちゃ、私は普通の女子高生でいられない。キミの前でだけ、私は普通の女子高生で――理想の自分でいられるんだよ』

よいこちゃん『私は、私がやりたい「普通の女子高生」を全部キミと一緒にやろうと思ってる』

「諦めるのはまだ早いですよ」

 先輩を見つめて熱を込めて言う。

「オリヴィエ達も動いてくれてるし、きっとそのうち先輩の症状もなんとかなって、また普通に友達もできますよ。俺は野球部に入って、先輩に応援されるためにあの高校に来たんです。先輩がスタンドに居てくれなきゃ意味がないんですよ」

よいこちゃん『……もしこのまま治らなかったら、私に会えるのはキミだけだ』

よいこちゃん『キミはさ、私を独り占めしたいとは思わないの?』

 そのメッセージが届いた後、先輩はテーブルの上に自分のスマホを置いた。光の人影はテーブルを回りこんで俺の横に移動してくる。

「先輩?」

 左腕が包まれるような温かい感覚に襲われた。驚き見降ろすと、眩い光が俺の左腕に絡みついている。

「せ、せんぱ……」

 感覚から察するに、御茶天目先輩が両手で俺の左手に組み付き、おまけに体を預けてしな垂れかかっているようだった。

「あの、ちょっと……」

 固まって動けない俺をいいことに、先輩は俺の肩に手をかけ、体重を預けてぐいっと自分の体を持ち上げ、ゆっくりと顔らしき部位を俺の横顔へ近づけ――

「ちょちょちょちょそこまで!」

 転げるように先輩の手中から脱した。

「【バーン!】【ズキューン!】」

 床に転がった先輩は何か言いながら立ち上がっている。

 腕に触れたしっとりと汗が滲んだ肌。頬に当たった温い吐息。その感覚が鋭敏に残って顔が熱くなる。

「なんなんですか……いきなりこんな……」

よいこちゃん『どうもキミは私のこと、画面の向こうのチャット友達くらいの感覚でしか見てない気があったからな。これで私という生身の人間の存在を実感できただろ~? もっと触りたいところがあったら遠慮なく土下座しなさい』

「遠慮します!」

よいこちゃん『まあそう言わずに。このDカップもある大きな□□□□とかもっと触りたいだろう? 後輩が先輩に遠慮するんもんじゃないゾ♡』

「……いや先輩Dも無いでしょ」

 この一年で急成長でもしてれば別だが。去年の写真を見る限りそんなに……。

よいこちゃん『殺すぞ。Bカップだって頑張って生きているんだぞ。殺すぞ』

「二度も殺すって言われた……」

よいこちゃん『殺すぞ……』

「三回目……っていうか先輩、さっき組み付かれたときに服の感触が一切しなかったんですけど……本当に下着着てます?」

よいこちゃん『先に部屋に入った後、実は制服の前にまず下着から脱いだ』

「最初から全裸かよ!」

よいこちゃん『常に死ぬほど恥ずかしかったんだからねっ!』

「だったらやるなよ!」

よいこちゃん『ふふ~ん♪ キミには分からないだろうなぁ。ここまで誘惑しても襲いかかってこない相手がいるということがいかに私にとって幸せなことか』

 大きく溜息を吐く俺。先輩がベッドに腰かけるギシっという音がした。

よいこちゃん『観たいな、キミが野球の試合出てるとこ』

「まず服着てください。風邪ひきますよ」

 先輩がベッドの上で服をゴソゴソし始めた。

「……一緒に戻りましょうね、球場に」

「【パァン】」


■□   □■


 その後、先輩がどこかから引っ張り出してきた『ドラえもん のび太のドラビアンナイト』のDVDを一緒に観た。めちゃくちゃ面白かったけど大長編ドラえもんシリーズ中で最長のしずかちゃん水浴びシーンは『規制』されていた。

 晩ご飯も一緒に食べていくことになったが、先輩が「しばらくマックに行ってないから久々に食べたい」と駄々をこね、結局パシリと化した俺が買ってきたものを二人で貪り食って解散、という色気もへったくれもねぇエンディングとなったおうちデートである。

 もうすっかり夜で外は暗かった。亜半さんは本当に帰ってこないし、先輩に送ってもらうわけにもいかないので、俺は夜道を一人、スマホのナビを頼りに帰宅していた。

 いくら俺の体格がいいからとはいえ、こんな時間に堂々と制服を着て歩いているのを警官に見つかりでもしたら補導されてしまう。

 人通りの無い静かな住宅街を、早足で最寄り駅へ急ぐ……つもりだったのだが――

 御茶天目家からわずか三分ほどの道端で俺は足を止めざるを得なかった。

 まさに住宅街の道路という感じの、歩道すらない狭い舗装路。

 ポツンと立つ、少し傾いた電柱に備え付けられた街灯の下に、彼女はしゃがみ込んでいた。

 古い蛍光灯の明かりを反射し怪しく光るミルキーブロンドのロングヘア。

 見たことないブレザー調の制服の背中は、小刻みに震えている。

 なんだかホラーかサスペンスの冒頭みたいな光景に慄き、進むのを躊躇する。

 ゲームなら強制エンカウントで何らかのイベントが始まるやつだこれ。

 とはいえどっこいこれは現実。明らかに何かあったっぽい女の子を放っておくのは流石に出来なかった。

「あのー、どうかしたの?」

「――あっ……!」

 怪しい女の子がこちらに気づいてか細い声を上げた。そのまま立ち上がり、駆け足でこちらに駆け寄ってくる。

 ……ん? アレって――

「助けてくださいっ!」

 女の子は勢いよく走ってくると、正面から抱き着いてきた。

 かなり小さい子だ。身長は一四〇センチくらいか。俺の胸板に顔を埋めている。

「向こうで変な人に追いかけられてぇ……まだこの辺にいるかもぉ……!」

「あの……ちょっと、一回離れようか、ね?」

「怖くって……あたし、怖くってぇ……助けてくださいおにぃさぁん!」

「うん怖いのは分かったからさ、一回さ、ね? 落ち着こう?」

 なんとか宥めようとするが、女の子は「怖い」「助けて」を連呼しつつ俺の体に自分の胸をぐいぐい押し付けてくる。

 それは驚くべき大質量だった。

 かなり華奢な子なのに、俺の腹筋の上で暴れまわる胸部がみっちみちのたっぷんたっぷんなのである。これじゃBカップごときで粋がってた御茶天目先輩がバカみたいじゃないか。

 ただ今はそれどころじゃない。

「分かった! 分かったから離れなさい!」

 強く触れるとポッキリ折れそうな肩に手を添えて無理やり押し返すと、やっと女の子は離れてくれた。初めて彼女の顔をしっかり見た。

 染めたものとは思えない美しい髪を見た時からそんな気はしていたが、西洋人の少女だった。

 まるで超美麗グラフィックが売りのゲームのキャラメイクで弾き出した最適解を現実に持ち出してきたかのような、欠点が一つも見つからない妖精のように整った顔。

 半分デコ出しで片側だけ触角を垂らしたアイドルみたいなアシンメトリーの前髪の向こうから、澄んだ湧き水のように涙を滲ませた瞳を上目遣いにしてこちらを見上げてくる。

 中学生くらいかと思われる未発達な骨格と細い手足。それに反逆するようにブラウスを押し上げる暴虐の胸部と、男を惑わす不埒な腰回りのライン。

 ――とまあベタ褒めしたけど、俺が覚えた物凄い違和感を口に出すか否かとても迷う。

「ご、ごめんなさいっ……いきなり抱き着いたりして。でもあたし、怖くってぇ……」

 もじもじと両手を大きな胸の前で揉み合わせる少女。

「あのっ、おにぃさんと一緒に行ってもいいですかぁ……?」

「……うんまあ、駅に向かってるとこだからそこまで送るくらいならいいけど」

「ホントですかぁ……! うぅ……ありがとうございますおにぃさんっ!」

 涙を拭いながらその場でぴょんぴょん跳ね、わざわざ巨乳をたゆんたゆん揺らす少女。

「えへへっ、嬉しいなぁ♡ 優しいおにぃさんに会えてあたし幸せですぅ♡」

 今の今まで恐怖に震えてたくせに、楽しそうに自分の両腕を俺の左腕に絡ませ、両の房で挟み込むように圧迫してくる。

「あっ、でもぉ……あたし変な人から走って逃げてきたからもう疲れちゃってぇ……どこか一休みできるところに行きたいなぁ……♡

 おにぃさんと一緒ならぁ、そのままお泊りでもいいけどなぁ……♡」

「……えっと、君さ――」

 話が変な方向に進み始めたので、もう限界ということで思い切って質問をぶつける。

「胸とお尻……服の中に何入れてるの?」

「……もーっ! お兄さんったら気が早いんだからっ! あたしの【ズドンッ!】が見たいなら二人っきりになってからたっぷりぃ――」

「いやそうじゃなくて。光って見えるんだよね。本物じゃないでしょ、それ」

 最初から見えていた。暗い夜道だからなおさら目立つ。

 もし彼女が胸と尻を丸出しにしていた場合、当然そこは謎の光に覆われて見えなくなる。

 いくら少女の胸が巨大だろうが、服を着ていれば『規制』されない。

 しかし彼女の胸と尻は、服の中から光が透けて見える。まるで電球を布でくるんだように光が中から漏れている。つまり光って見えるもので服を膨らませているということ。

「エローラ、って名前知ってる?」

「…………」

 少女は俺の腕を抱いたまま何も言わない。俺は一方的に言葉を続ける。

「ブロンド系の髪で、とんでもない美形。エローラを操る、日本語がペラペラの西洋人。

 そんな奴、君以外に心当たりが一人いるんだよ……夢魔なんだろ、君も」

「良い気にならないでくださいよぉ、人間の分際で」

 その声色は、先程までと打って変わって冷たく刺々しかった。

「性欲に支配されてる下等生物が、性欲を支配するあたし達と対等のつもりですかぁ?」

「俺の知ってる夢魔はそんな傲慢なこと言ってなかったけどな」

「兄様は甘すぎる。あたしはあんなに優しくないですよ、朝霞慧悟さぁん♡」

 少女の笑みは、もはや男に媚びるものではなくなっていた。そんな彼女の全身から俄かに謎の光が――エローラが湧き出す。

「うわっ!」

 慌てて彼女を振りほどこうとしたが、それより早く拡散した光が俺を包んだ。

「遅いですよ。『海月の女神(タンタキュル・デ・メデューズ)』」

 視界が光に覆われ目を瞑った刹那、俺の体は強い力で締め上げられた。

「な、なんだこれ……?」

「兄様はエローラ操作の達人ですが、エローラの物質化に関してはあたしの方が上手いんですよぉ!」

 謎の光が凝縮したように形を成し、夢魔の少女から伸びる幾本もの触手となって俺の体を絡めとり、彼女と俺の体を無理やり密着させている。

「ぐっ……なるほど……! それで胸と尻も増量してたってわけか……!」

「こんなもの、アホな男を騙すための化粧みたいなものです。こんなのなくったって、男を堕とすテクニックはいくらでもあるんですよぉ……♡」

 少女の瞳が至近距離で怪しく煌めき、俺を捕らえた触手が不気味に震える。

「や……やめろ……! こんな男の触手シーンなんて誰も喜ばない!」

「そうですねぇ、悦ぶのはおにぃさん一人だけ……いひひっ♡」

 夢魔は悪戯っぽく嘲って俺の耳をズゾゾゾと舐め上げた。背筋を怖気が駆け巡る。

「ひぃぃぃっ! な、なんでこんなこと! 俺を襲って得することなんて何も無いだろ!」

 やけくそで叫ぶと少女は耳元でささやく。

「おにぃさんの体に刻み込むためですよぉ。兄様と仲良くして思い上がってる人間に。夢魔との上下関係というものをみっちりねっぷりと……♡」

「兄様ってオリヴィエか!? だったら注連内さんの方が仲良くしてるだろ! なんで俺なんだよ!」

「だ、だってあの女クソ強いし……お兄さんなら勝てそうかなって」

「は?」

「ごほんごほんっ! それではいきますよぉ♡ おにぃさんの人権もプライドも反抗心も何もかも徹底的に踏み躙って犯し尽くして絞り果たして、あたしの哀れな下僕ちゃんの一人にしてあげますっ♡」

「や、やめ――」

「【ドゴォォン!】【バァン!】【バシュゥゥゥ!】」

 絶体絶命の危機に突然響く激しい銃声。

 暗い路地に、仁王立ちする輝く人型。絶対に出歩くことなどないはずの御茶天目先輩が、なぜかそこに居た。

「なんで、ここに――」

「【ズドドドドドドド!】【バァンバァン!】【ドギューン!】【パラララララッ!】【ズドンッ!】【バキューウン!】【ドシュドシュッ!】【パキューン!】【バキャーン!】【タタタタタタタタタ!】【パァン!】【チュドォォォン!】【ダンッダンダンッ!】【パァニ……パァニ……】【タンタンッ!】【ドゴーン!】」

 なんか……すっごいなんか言われてる……。

「……ハッ! 違う! これは違うんです先輩!」

 ヤバい! これは非常にヤバい! 今の俺の姿、エローラの触手が見えない人からしたら、ただ俺と女子中学生が路上でイチャコラしてるようにしか見えないじゃないか!

 先輩からしたら俺は、おうちデートの帰りに他の女を抱いてる最低浮気男だ……!

「【バキュン!】【タンッ!】」

「この女の子は夢魔です! オリヴィエの妹で! 今俺襲われてて……先輩には見えないと思いますけど、縛られてて……! ホントに……信じてください!」

「…………」

 先輩は黙っていたが、やがて一歩二歩とこちらに歩みを進めてくる。こ、怖い。

「近づかないでくださいっ!」

 しかし突然大声で叫んだのは少女の方だった。

「嘘でしょ……ここまで凄いなんて兄様の資料にも……! 怒りのせい? くっ……」

 そう呟くと、俺の体を捕らえていた輝く触手がふっと消失した。

「はっ……ふぅ……助かった」

「覚えててくださいよぉ! 人間風情がっ!」

 少女は一目散に逃走を図った。御茶天目先輩もそれを追いかけて走り出す。

「えちょ、追うんですか!?」

 オリヴィエの妹ということは分かったし、解放もされたので別にこの場は逃がしちゃってもよかったのだが、先輩が追っかけ始めたのなら放置して帰るわけにもいかない。

 とはいえ所詮は小柄な女子。全速力で追った俺はさっさと御茶天目先輩を追い越し、難なく夢魔の少女に追いついてその腕を掴んだ。

「は、離してくださいっ!」

「別に何もしないから! とりあえずオリヴィエも呼んで話しよう」

「やめて! 来ないでください!」

 少女の怯えた目は俺を見てはいなかった。瞳には煌々と光る女が映っている。

 御茶天目先輩は既に追いつき、俺と少女にゆっくり近づこうとしている。

 そういえば先輩は気づいていた。オリヴィエですら先輩には二メートル以内に接近しない。

 それを知っていて、先輩は今夢魔の少女の二メートル以内へ踏み込もうとしている。

「こうなったらフルパワーで……っ!」

 そう少女が言った瞬間、彼女の胸と尻の光が消えた。

 途端になだらかな起伏の無いボディラインが姿を現す。

「ふンぬァ……っ!」

 そしておそらくは胸や尻に回していた分も含めた全エローラを放出。

 彼女から湧き出た光は御茶天目先輩との間の空間に障壁のようなものを形成し、先輩の放つ光とぶつかり合う。しかし――

「も……ダメぇ……っ!」

 先輩は止まらない。一歩、また一歩と歩みを止めずに確実に少女との間隔を詰めていく。

「ひゃ……やべで……ぐだざ――」

 綺麗な顔を絶望に歪ませた少女は、今度は本心からの涙をボロボロ零していたが、御茶天目先輩は自分より胸の小さな女の子にも容赦なかった。

 最後の一歩を踏み出し少女との距離をゼロにすると同時に彼女に抱き着き――いや、あれは違う、ヘッドロックだ!

「ああああああああああああああああああああああああああああひうっ……」

 哀れ夢魔の少女は、絶叫しながら体をガクガクと痙攣させて意識を失った。

 アスファルトにぱたりと横たわった少女は小刻みに体を震わせながら失禁していた。

 なるほど……夢魔でも御茶天目先輩の強すぎるエローラに至近距離で曝露したら危険なのか……それでオリヴィエも絶対に近寄らなかったわけだ。

「先輩……助かりました。ありがとうございます」

 とにかく先輩に礼を言うと、ポケットのスマホが震えた。画面を見ると、先輩からの未読メッセージが溜まっている。

よいこちゃん『今日は楽しかった』

よいこちゃん『次までにおうちデートの勉強しとこうぜ。ぐだぐだする時間がもったいない。それともぐだぐだするのがおうちデートなのかね?』

よいこちゃん『とにかく次はどの大長編ドラえもん観るかだけ決めとけよ』

よいこちゃん『あ』

よいこちゃん『おーい後輩、パスケース忘れてるぞー』

よいこちゃん『スイカも入ってるぞー、いいのかー』

よいこちゃん『いいのかー……かぁ……カァ……(セルフエコー)』

よいこちゃん『既読つかねぇ』

よいこちゃん『しっかたねぇなぁー! 親切な先輩が愛する後輩の為にデリバリーしてさしあげますかー! 感謝してよねっ♡』

よいこちゃん『駅までは行けないからな。誰かいたらそこで引き返すからな』

よいこちゃん『ねえ』

よいこちゃん『なにしてんの』

よいこちゃん『その乳だれ』

よいこちゃん『たわわな乳の感触は気持ちよかったか?』

「……いや、あれニセモノですからね? ほら見て、もう無い」

よいこちゃん『小さい本物よりでっかい偽物の方が良かったか?』

「俺もホント大変だったんですから……危うく触手でいろいろされそうになるし……」

よいこちゃん『ほほーん。眺めてるのも良かったかな』

「勘弁してくださいマジで……さてと、オリヴィエ呼んで妹引きとってもらわなきゃな」

 さすがに女の子をこんな無様な姿で路上に放置していくわけにはいかない。

よいこちゃん『なら私はもう家に帰るよ』

「ああ、誰かに姿見られたらマズいですよね」

よいこちゃん『それもあるけど……やっぱり夢魔は信用できないってのが分かった』

「あー……」

よいこちゃん『ああそうだ。忘れるところだった。これ』

 先輩の光る手が何かを差し出す。俺の定期入れだ。そうだ、先輩はこれを届けるために追ってきてくれたんだった。

「ありがとうございます。でも……別にわざわざ届けてくれなくてもよかったのに。明日の放課後に渡してくれれば……」

よいこちゃん『まあいいじゃん。それじゃ私はこれでバイナラ』

「はい。お気をつけて」

 先輩はさっさと歩き出した。夜なのに散々大声出してしまった気もするが、周囲に人の気配は無いし、まあ大丈夫だろう。土地勘は先輩が一番あるはずだし。

 さて、オリヴィエを呼び出さないと。あいつまだ起きてるかな。

 定期入れをポケットに入れようとして、紙が挟まっているのに気づいた。

 メモ帳をちぎったような切れ端に、水色のボールペンで書かれた繊細で丁寧な文字。

『また明日ね』

 俺は急いでスマホを操作。メッセージを送ろうとしたが一瞬逡巡し、やめて音声発信のボタンをタップした。相手はすぐに出た。

「もしもし! 返答は大丈夫です。ただちょっと、すぐに伝えたいことがあったので」

 俺はだいぶ遠くなった御茶天目先輩の姿を見据えながら言った。

「また明日、学校で」

 電話口からかすかに息を飲むような音が聞こえた。気のせいかもしれないけど。

 遠く離れても闇夜にくっきりと浮き上がった先輩は、控えめに、でもこちらに見えるように手を振ってきた。こちらも大きく振り返すと、満足したように角を曲がって見えなくなった。

 さてさて、今度こそオリヴィエを呼び出すか。


■□   □■


「連絡ありがとう。本当に助かった」

 オリヴィエは真面目な口調で言った。

 連絡して十数分程度で、デカいSUVが狭い道路を占めるように停まった。中からはそれぞれ私服のオリヴィエと注連内さん、そして運転していたスーツの男性が降りてきた。

 注連内さんによると、男性は「家の者だ」とのことだった。

 意識を失ったオリヴィエ妹は、注連内さんによって麻縄で拘束され、何やらお札のようなものを貼られて車の三列目のシートに寝かせられた。

 作業を手早く済ますと、スーツの男性は携帯でどこかへ連絡。

「回収完了しました。これから戻りますので速やかに収容準備を」

 お堅い業務口調。なんだろう、遅くに出歩いていた悪い子を迎えに来た雰囲気ではない。

 何も言えずにいると、オリヴィエが声をかけてきた。

「慧悟、よかったら車で送っていくよ。中で話しをしよう」

「えっ? あ、いや、大丈夫だよ。別に一人で――」

「朝霞」

 思わず遠慮すると、注連内さんが有無を言わせぬ口調で言った。

「乗れ」

 鋭い双眸でこちらを見据えながら、ドアを開けて座席を顎で示す。

 ……これは多分、乗らなきゃ帰してもらえないやつだ。

 仕方なく、言われた通り乗り込んで二列目のシートに座る。続いてオリヴィエが隣に座り、注連内さんは助手席へ。最後に男性が運転席に収まり、車は動き出した。

「まず、今回は妹が本当に申し訳なかった。僕の注意不足だ。ごめん」

 オリヴィエが深々と頭を下げる。

「やめろよそんな……で、やっぱりあの子は夢魔なのか」

「ああ。彼女の名前はオード。中学二年生の立派な夢魔――サキュバスだ。どうやら僕の研究ノートを勝手に覗き見て君達のことを知ったらしい」

「なんか夢魔と人間の上下関係がどうのこうの言ってたけど……」

「うん、彼女はちょっと……夢魔としてのプライドが妙な方向に捻じ曲がってしまってね。

『性欲から脱して生きられない人間は、性欲を統べる夢魔が上に立ち支配して導くべきだ』とか、そんな思想に染まっていてさ。

 ほら……あるだろう? だれにでもそういう時期って、人間でも夢魔でもさ。

 早く大人になってほしいんだけど……」

「まあ、中二だしな……」

「もちろん、それを理由に許してくれなんて言わない。妹には僕からキツく言っておく。

 ……正直、彼女がどこまで聞く耳持ってくれるかは悩ましいところだけれど」

 オリヴィエは疲れたように大きく息を吐く。

「彼女は夢魔としては本当に優秀で、過激な思想を実現出来てしまう力を……実際に他人を征服するだけの能力を持ってしまった。オードに本気で誘惑されたら、堕ちない男はそういないだろう。エローラが見えるとはいえ慧悟はよく跳ねのけられたと思うよ」

「兄バカめ」

 注連内さんが吐き捨てるように言うと、オリヴィエは頭を掻いた。

「事実可愛い妹だからね。あーいや、本当に反省してるんだよ。

 こうなることも想定してしっかり彼女を見ておくべきだった。

 彼女にとっては、僕が人間と馴れ馴れしくしていることが我慢ならないんだろう」

「オードの方の事情はもういいだろう。朝霞にお願いがある」

 オリヴィエの話を打ち切り、注連内さんが助手席からこちらを向いた。

「今回の一件、オードが君を襲ったことは、他言無用でお願いしたい」

「へ、まあいいけど」

 別にこんなこと話せる相手もいないし。

「なんでわざわざそんな?」

「……少し面倒な話なんだがな」

 注連内さんは顔を顰めて前に向き直った。

「日本祓魔師連合協会に所属する祓魔師は属する家系ごとに独立し、それぞれ反目し合ったり傘下に入ったり、異なる方針で動いていて一枚岩ではない。

 その中でも尼渡(あまたり)紅染(べにぞめ)今久留主(いまくるす)、そして注連内――この国の祓魔師で最も高い格式を持つ四つの家系『四伯』は常に主導権を巡って政治闘争を続けてきた」

 フロントガラスに映った注連内さんの顔は苦み走っていた。

「注連内家は代々穏健派で、夢魔のエロワ家を保護する契約を受け入れたのも家風故だ。

 だがそんなもの以ての外と怒っている過激な連中もいる。

 オードが君を襲ったことは明確な契約違反だが、それが露呈すると急進派に突かれかねない。

『やはり夢魔は危険。殺処分すべし。奴らを保護している注連内は祓魔師の資格無し』とな」

「そんな……何もそこまで」

「世界トレンドとしてはその方が普通なんだよ、慧悟」

 オリヴィエがぽつりと言った。

「欧州の祓魔界はみんなそうさ。だからエロワ家は日本へ逃れてきた。

 僕が小さい頃、オードがまだ母さんのお腹の中に居た時にね」

「そうだったのか……」

 注連内さんは「それだけじゃない」と話を戻す。

「連中が危険視して消したいのは御茶天目先輩も同じだ。

 急進派の声が大きくなれば、我々が貰っている猶予も無かったことにされるだろう。

 今はこちらが多数派だから抑えられているが……奴らに大義名分を与えたら終わりだ」

「なるほど……」

 先輩の安全の為にも、今回の事件は無かったことにしなければならないわけだ。

「オードはうちの屋敷内で厳重な監視付きで謹慎させる。二度とおかしな真似はさせない」

「分かった。……ねぇ、その辺の事情諸々、御茶天目先輩にも言っといた方がいいと思うんだ」

「ああ。明日の放課後だな」

 注連内さんが再び溜息をつくと、オリヴィエが口を開く。

「今回のことでかなり先輩の不振を買ってしまっただろうね……」

「ああ……言ってたよ」

「んん……。やっぱりまずは信頼関係だよね。何をするにも……」

 オリヴィエは背もたれに深く体を預け、呟いた。

「みんな仲良くって、どうしてこんなに難しいんだろう」


■□   □■


 翌日、授業が終わると、田辺君が話しかけてきた。

「あれ? そういえば朝霞、野球部入るとか言ってなかったっけ?」

「え、ああ……」

 もう授業も普通に始まり、部活を決めた連中はさっさと入部届を出して練習に参加している。「ちょ……っと、他にやることができて忙しくてさ……」

「やること? チアリーディング部の先輩に応援してもらうのが夢じゃなかったのかよ」

「うん……その夢は変わってないんだけど……」

「ちなみに俺はサッカー部に入ったぜ」

「そ、そうなんだ」

 具体的に説明も出来ないので「じゃ、急ぐから!」と逃げるように教室を出た。


■□   □■


 注連内家周りの事情を一通り聞いた御茶天目先輩は「ふーん」という感じの反応だった。

 オリヴィエと注連内さんを信用できるか否かの結論は出していないようだが、少なくとも先輩にとって一番の目的は自分の体質を何とかすることなので、目的が一致している以上二人のプランは素直に受け入れるとのことだった。

 そんなことよりオードの及んだ暴挙に腹を立てていたらしい。

 絶対にあんなことさせるなと何度も注文を付けていた。

 というわけで今日も御茶天目先輩のエローラを抑える方法探しを始めたのだが――

「うぶぅわぁああああ……わだしのコレクションがぁああああ……!」

 相変わらず試した祓魔グッズは片っ端から見るも無残に破壊され、その度に注連内さんは涙を流し、再びオリヴィエが飯を奢ることが決まった。

 さらにオリヴィエによるエローラ操作レッスンも始まったのだが――

「目に見えないエローラを操るには、何よりもイメージが大切です。身体の内側と周囲にエローラが満ちている様をイメージして感覚を掴まないと話になりません」

 ということでまずはひたすら座禅を組んでイメージトレーニング。

 俺も一緒に時間いっぱいまで続けたが、特に何が変わったということも無かった。

「家に帰っても、出来る限りトレーニングを続けてください」

「【パーン!】」

「ちなみにオリヴィエ、それどのくらい続けたら出来るようになるの?」

「さあ……。才能ある人ならすぐ感覚掴めるみたいだけど、一生やっても出来ない人の方が圧倒的に多い」

「それじゃあちょっと不安だよな……」

「これが一番王道の方法なんだよ。他に方法がないか文献を漁ってるんだけどね……。

 ただ、トレーニングの効果を高める方法は考えたから試してみようと思う」

「なに?」

「山だ」

 オリヴィエはにこやかに言った。

「エローラは全ての生命が持つエネルギー。つまり生命がたくさんいる場所に行けば天然のエローラが溢れている。つまり山だ。

 そういう場所でイメージトレーニングを積むことで効果が上がる……可能性がある。

 しかも注連内家所有の由緒正しき霊山。人もいないから先輩も誰に気兼ねすることもない。

 というわけで今週末、山にキャンプに行こう!」

「キャンプ!」

 テンションが上がって思わず叫んでしまった。

「お、慧悟乗り気だね」

「小さい頃からよく行ってて好きなんだよアウトドア!」

「へー、お父さんに連れてってもらってたとか?」

「あ……ん、まあ、そう。先輩はどうします?」

 話を先輩に振ると、ややあってから通知が来た。

よいこちゃん『キミが行くなら行く。行かないなら私も行かない』

 というわけで、高校生になって初の週末土日二日間は友人四人でキャンプに決定。

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