Prologue
天地を創造した神は次に「光あれ」と言ったらしいが、俺にとっては彼女こそが神の齎した最高の贈り物だったのだろうと思う。
なぜなら彼女はいつでも光り輝いているのだから。
観客でいっぱいのスタンドの中で、彼女がどこに居るのか一目でわかる。
あの光を見ると、いつでも心が穏やかになる。
彼女の為ならば、なんだって出来るような気がしてくる。
頬が緩むのを感じ、気を引き締め直して打席に立った。
■□ □■
試合後、球場から流れ出す人の群れの中に輝く彼女を見つけて駆け寄ると、彼女はじっとりとした目で突き刺すように言った。
「【バキューン!】」
「今日は向こうのピッチャーと相性が良くなかったんですよ……。勝ったんだからOKです」
「【ズドンッ!】【ババババババババ!】【パンッパンッ!】」
「分かってますって。次の試合ではちゃんと先輩の前で打ちますから」
「【パララララララ!】【パーン!】【ドンドンドンッ!】」
「いやそんな……決して先輩の応援が足りなかったせいとかじゃ――」
「【タンタンタンッ!】【ドギュゥン!】」
「はい……次は活躍できるようもっと練習頑張ります……」
そう言うと彼女は短く息を吐いて、その場でくるりと回った。
「【ズキューン!】【バンバンッ!】」
「ああ、はいはい。今日も可愛いですよ」
「【パスン!】」
満足げに頷いた先輩は、鞄から保冷バッグを出して俺に差し出した。
「いつもありがとうございます。いただきます」
受け取った保冷バッグを開くと、特大おにぎりが三つ。
さっそく一個に齧り付きつつ、先輩と連れ立って球場の周りを歩く。
おにぎりの中身は牛のしぐれ煮だった。疲れた肉体に炭水化物とタンパク質と塩分が染みわたる。
「うん、美味しい。――そういえばその帽子、俺があげたやつでしょう?」
「……【パンッ!】」
「そりゃ気づいてましたよ。やっぱり良く似合ってますよ」
「【ズドドドドドドドドッ!】」
「はっはっは、そんなやわな拳で叩かれたところで痛くも痒くも――ってやっぱり食ってる最中に腹を殴るのはやめてもらっていいですか……?」
先輩はじゃれ合いだろうが的確にこっちのウィークポイントを突いてくる。
「……【バギュン!】【バババンッ!】【ズバンッ!】」
「え? ああ、みんなにはもうバスで先に帰ってもらうように言っときました。一緒に帰ろうと思ったんですけど、どうします?」
「【パキュゥン!】」
俺にだけ見えず、俺にだけ聞こえなくて、でも俺としか一緒に居られなかった先輩。
これはそんな俺達が抗えない人間の性に折り合いをつけるまでの、ぐだぐだと他愛ない回り道の話である。