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第7話「悪役令嬢の考える町づくり」

 お菓子などが置かれたテーブルに腰を下ろし、順番に自己紹介をしていった。

 最後に先ほど連れてきた少女の番になり、


「まみといいます。苗字は今言いたくはありません……13歳だと思います……なぜあんなところに居たのかわかりません! 怖いよ~」


 子猫ちゃんはよくわからない自己紹介をし、ケティに近づいて抱き着く。


「よしよし。大丈夫だよ。まみっちのことはあたしが守ってあげるから。可愛いなぁ。待っていたよ」


「わからないということは、記憶を喪失しているということでしょうか?」


「その可能性があるな。わたしの傍に居れば安心だ。仲間は守る」


「仲間……まみがですか?」

 涙を流し、抱き着いていたその子は顔を上げわたしを見る。


「ああ。連れてくるときに話をしたが、わたしはこの地に町を作りたい。だがそれには、そこのケティとコウコだけでは、人材が不足しているのだ。まみの力が必要。スキルを持っているだろ?」


「スキル?」

 んっ? という顔で首を傾げられる。


「百聞は一見にしかず……コウコ、まみに見せてあげてくれるか?」


「はい……私は物を縮小・拡大出来るスキルを持っています。左手で触ったものを」

 コウコは左手でテーブルに触れそれを縮める。


「小さくでき、右手で触れれば大きくできます」

 右手で触れ、元の大きさに戻した。


 まみはそれを見て、ぎょっとしコウコを妖術使いのような眼差しで見ている。


「さっきの移動する術も、今のも……ここなんか違う……なんで?」


「まみっち、泣かないでね。まずあたしたちは自分で言うのもあれだけど、悪い人じゃないよ。目の前にいるカグヤさんは強くて、美人で魔法使えてルルブ家の令嬢。悪役令嬢っておかしな通り名みたいなのが付いちゃってるけど。あたしは土魔法が得意な魔法使い。コウコは博識な僧侶。一緒にいてくれないかな、あたしたちと」


「驚かせてしまいましたか。他人のスキルや魔法を見るのはもしかして初めてですか?」


「――はい。見たことありません」

 ケティ、コウコ、わたしとまみのその怯えた目が順々に移動し、


「まみは行くところがありません。3人様は悪い人ではないのがわかります。かぐやさんに話しかけられるまでまみはこの世界で誰とも喋ったことがありませんでした」


 この世界で誰とも喋ったことがない……


「お風呂に入れますか? フカフカのお布団で寝られますか?」


 お風呂とお布団はまみの中でかなり重要な位置づけらしい。


「ん、ああ。一定の生活はわたしが保証しよう。その身を必ず守ることも」


「――なら、まみの方から頼みたいくらいです。一緒に居させてくださいと」


「やったぁ! よろしくね、まみっち」

「仲良くしてください」


 がばっ、がばっと二人は小さくて怯えた子猫のようなまみを抱きしめた。

 ふっ、どうやらケティとコウコは相当にまみを気に入ったらしいな。

 3人並んでいると、姉妹のようだ。


 ☆ ★ ☆


 暖かい紅茶をコウコがまみの前に出し、まみがそれを飲み干すころにはかなり落ち着いてきていて、すぐに泣きだされる心配はない様子。


「では、スキルについて聞きたい。【調合】ってスキルを所持しているはずだ。そのスキルはわたしが考える町づくりには欠かせないものなんだ」


「まみはスキルなんて……あれ、でも頭の中に何か貰った記憶が残っているような気もします」


「使ったことがないのか、忘れているのか。まあどっちでもいい。試してみよう」


 わたしは石と赤い砂の入った袋をまみの前に置く。


「調合してみてくれ。お腹のあたりを意識して、両手を包み込むようして、石と赤い砂を覆ってみるんだ」


 まみが言われるがまま、そうすると石と赤い砂は光だし、くっついてレンガに形を変えた。


「おお、まみっち、すごいじゃん!」

「お見事です」


「あれ? これ、まみが……」


 本人が一番驚いていた。

 どうやら本当に初めてスキルを使用したようだな。

 言動といい少々気になる点はあるが、もう少し仲良くなってから色々と聞いていくか。


☆ ★ ☆


 テーブルを片付けた後、わたしはまみが作ってくれたレンガを右手に持って、3人にわたしがしようとしている町づくりについて話し始めた。


「建物を設計図から作る点においては、わたしの町づくりも同じだが、材料や素材は自分たちで集め、そこからいろんなものを建てようと思う」


「はい、は~い。材料や素材集めってどうやるんですか?」


「ケティ、よい質問だ。わたしは町づくり協会に所属し、そのノウハウを吸収し、使えそうな素材調合は丸暗記し、【職人】スキルを手にした」


「頻繁にお邸を抜け出していると思ったらそんなことをしていたんですか!」


 コウコにもケティにも内緒にしていたことだ。

 この時のために言うのを我慢していた。二人はわたしにとってもはや友。こちらから誘わなくても、ここにいてくれる。かけがえのない存在だ。


「そういうことだ。素材集めは魔物を倒し、落としたアイテムを組み合わせていく。闇の教団や魔王という存在がいる以上、日々の訓練は欠かせない。ゆえに魔物を討伐しながら、素材アイテムを収集し、町づくりもしていくということだ。一石二鳥にもなるだろ。ギルド加入も情報収集という点で役に立つ。手に入りにくい素材があるらしいからな」


「魔王、ギルド……」

 まみはぼそぼそとつぶやき、顔を青ざめた。全部の歯が虫歯ですと言われた後のようだな。


「心配するな。戦闘参加は徐々にしていけばいい」


「ま、ま、まみが戦うんですか!」


「当然だろ。ギルドにも登録してもらうぞ」


「無理です、無理です、無理です! 何もない女の子です!」


「まみっち、大丈夫だよ。よわっちい魔物もいるし、あたしたちが万全サポートするし。レベルはすぐ上がっていくから。ていうか、ギルドはあたしたちもカグヤさんに入れられちゃって、まだ未経験だからその点でも仲間だよ」


「カグヤ様の思い描いた町づくりには、【調合】スキルを持っているまみは必要不可欠な存在ということですね」


「そういうことだ。土魔法で建物の強度を補ったり修復が出来るケティ。【縮小・拡大】スキルで大きなものでも持ち運べるコウコの能力。色んなアイテムから別の素材に変えてしまうことが出来る【調合】スキルを持つまみ。そして物の配置を瞬時に判断でき、材料を組み立てることに長け、職人技を有しているわたし。4人がいてこそ町づくりがスタートできる」


 町づくりは、今この瞬間から始まる。

石+赤い砂=赤レンガ

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