第4話「悪役令嬢は父と交渉する」
コウコの作った美味しい朝ご飯を食べ終わると、ケティは土魔法でわたしの土地一体を囲うように壁を作った。
「こんなもんでいいですかね。巨人でも入っては来られない高さと強度にしておいたよ」
どこに巨人がいるのかは少し疑問だが、いい仕事をする。魔法使いとしても天賦の才があるのは明白。
「わたしも負けてはいられないな」
左右の10本の指にいわゆる魔法玉を作り、それを方々に放った。
建築のスキルを持ち、わたしたちに協力してくれる者が必要だ。わたしの小さな魔法玉は偵察用であり、それは目と同じ。
「カグヤ様、人材探しですか?」
「ああ。さすがに3人で町づくりは厳しいからな。何か人材に希望があれば採用の判断にするぞ」
(二人には言っていないが、町づくりにはわたしとケティ、コウコの他にもう一人絶対に必要だからな)
「はい、は~い。男の子ならカッコいい人より、なんか可愛い人。女の子ならあたしたちと同年代か優しいお姉さんがいいです」
「わたしもケティの意見に賛成です」
「随分と狭めてくれる。まあ、検討してみよう」
「というか、カグヤさん普通に喋ってる。すごい!」
「お父様の前では指摘されても困るから、うまく使い分ける」
「~わ。とか、~なのよ! みたいなツンデレっぽくするのもいいかも」
「ツンデレ? なにそれ?」
コウコは首をかしげる。わたしも同じようにしたい気分だ。
「怒ってる感じがツンだよ。キッといつも睨んでるみたいな……で、たまにデレる。甘えるというか、その人だけにデレちゃうの~」
ケティはものすごく楽しそうに話すが、わたしにはよくわからなかった。
「それでは、お父様との交渉に行くか。さすがに離れた場所には電気が来ているはず。それをここまで引いてきてもらおう。電力が弱ければ雷魔法でわたしが強化する」
「おお、なんとも頼もしいです。今夜は明るいお部屋でトークできるかも」
そんな簡単に引けるか知らんぞ。
「買い足したいものとその他色々運んできたいものが増えました。私はお話の間、マルゲイの町を回っています」
「うむっ」
二人は私を抱きしめるように前後から手を回す。くっついているのを確認してから移動魔法を唱えた。
移動魔法は便利なのだが、一度行ったところにしか行けない。開拓していない場所は無理なのだ。
☆ ★ ☆
ルルブ家のお邸があるマルゲイの町は、この世界において一番栄えている町。この世界にあるものはまず揃うし、生活するうえで不便なことはなく、騎士団を有しているので治安も安定している。
ルルブ家の資産は、ほかの王家に比べても膨大であり、お父様は不正など嫌いだが、効率よく利益を上げるすべに長けている。お父様もお母さんもわたしにとって尊敬できる存在であり、何かあったときはもちろん力になりたいと思っている。
交渉は上手くいったといえる。お父様は好奇心旺盛だから太陽エネルギーを使用した技術開発にすぐに取り組むことだろう。
自然の力が物凄いのは私の扱っている風を目にすれば一目瞭然。
まだわたしは屋敷の広い一部屋で父と向かいあっていた。そろそろ戻りたいが、なかなかに帰そうとしてくれない。
「カグヤ、あの事件以降お前にしなくていい苦労をかけて……いないな。お前は自分を見失うことはないし、噂に耳を傾けるほど繊細でもない」
「それは褒めてくれているの、お父様」
「もちろんだ。自分の相手は自分で決めよ」
「そのつもりです」
「何かしゃべり方が柔らかくなったな」
しまった。ケティとコウコと話すスタイルを使ってしまった。
「実にいいぞ。時々は顔を見せに来なさい。お母さんが心配するからね」
軽い。まあ昔からあんまり叱られたことはないけども。
「はいっ。そのつもりです。また思いつきを話に来ます。そのときはもちろん、こちらも相応の物を求めますけどね」
「かまわない。どうしようもなくなったらちゃんと頼ってきなさい。大抵のことならお前ならやってしまうだろうが」
「頭の片隅に置いておきます、お父様」
「それと一つだけ頼まれてくれないか?」
来た。必ず等価以上のもとを求めるお父様のあきれる点だ。