第3話「悪役令嬢は言葉を普通にする」
目が覚めると、ケティがわらわに幸せそうに抱き着いていた。まったくかわいい子じゃ。起こさないようにベッドから出て、ネグリジェ姿でカーテンの外へ出る。
元召使いということが抜けないのか、コウコはせわしなく何やら動き回っていた。どうやら朝ごはんの準備をしてくれているらしい。
「そんなに働かなくてもよい。ちゃんと熟睡したのであろうな?」
「さっき起きたところです。おはようございます、カグヤ様。今お着替えを……これなどいかがでしょう?」
コウコが大きくしたのは、ワンピースのようなパーティードレスのようなもので……黄色に赤の刺繍が入り、肩から手の先まで覆うものがないものだった。
「コウコが選んだものならこれでよい」
ネグリジェをコウコに渡し、そのままワンピのようなドレスのようなものに着替える。
髪が少し邪魔に思えたので、後ろで結んでみた。
「すごくお似合いですよ」
「それはコウコのセンスが良いのじゃ」
まだ早い時間だというのに、フルで働きだしている太陽を右手で顔を隠しながら見やり、いい考えが思いついた。
「その可愛らしい感じは何かいい案が?」
「うむっ。自然の力とは偉大だ。人間の力では太刀打ちもできぬ災害を時に起こす。その中でも太陽のエネルギーは脅威であり、ありがたいもの。凄まじ過ぎるエネルギーを借りないのはもったいないとは思わんか?」
「はあ……」
「太陽エネルギーを変換すれば役立つであろう。例えば充電のように蓄積して、明りに代用するとかの」
「さすがはカグヤ様です。アイディアだけで生活ができそうですね」
「まあこのくらいはな。お父様に伝え、交渉の材料にするとしよう。電気を引いて貰わねばならん。屋根を作れば夜中は真っ暗。怯えるケティはずっとわらわを抱きしめているじゃろうが、泣かれると困るからの」
「ふっ、そうでございますね」
「蝋燭というのも手じゃが、ケティは嫌いじゃからの。わらわが話した怖い物語がトラウマになっておる。商売をするなら、色々あるぞ。空を飛ばせてあげるとかの。スキル持ちや魔法使いでなければ浮遊などできないからな。一番最初に飛べたときはわらわですら感動を覚えた。資金調達できそうじゃ。ケティの土魔法も使い方によって色々出来そうだし、コウコのスキルも便利じゃからの」
「――カグヤ様、謝らなければならないことが……私、昨日は忘れていたことがあります。あれなんですが……」
コウコの指さしたところにはドラム缶があり、その下には薪が用意してあった。
☆ ★ ☆
ドラム缶に水を入れ、薪を火の最弱魔法で燃やし、水の温度を上昇させる。
あとは適温になれば浸かるだけ。風呂は命の洗濯よ。
湯気を上げ始めころにわらわは湯船につかりだす。
「お風呂か。朝風呂もわらわは好きじゃ。コウコも入れ。どのくらい体が成長したかわらわが確かめてやろう」
「まだご飯の準備中ですから……」
コウコは少し恥ずかしがりやの面があるからの。
「あ~、お風呂だぁ。ずるい、カグヤさんだけ! あたしも飛び込む」
眠気眼で起きてきたケティは乱雑にパジャマを脱ぎ捨て、狭いドラム缶の中に入り込んでくる。
「うわっ、やっぱり気持ちいい」
「――ケティ、体は成長が著しいのう」
まさに豊富なバスト。両手で優しく揉んでみるとその何とも言えぬ柔らかさ。
「やあぁん、カグヤさん、ダメ! くすぐったい!」
「ケティは性格も男性が好む感じだからの。そしてこの体。気をつけろよ、異性の内面を見抜く目を養え。と……わらわが言えることではないが」
「――あのう、カグヤさん。一つお願いしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「何でも言うがよい。恋愛事か?」
「違うよ! あたしたちの前だけ使う言葉を変えていただけませんか? わらわをわたしやわたくしにするとか……ここはお邸ではありませんし、あたしとコウコの前ではカグヤさんはお友達でもあってほしいと思って……すいません、調子に乗ってますか、あたし?」
「なんじゃそんなことか……たしかにわらわというのは偉そうだからの。別に調子に乗ってはいないし、乗ってもいいぞ。友達だろ」
「いや、カグヤさん偉いんですけど」
「別に自分が偉いなどと思ったことはない。ケティやコウコとは対等な立場でもよいと思っている。なら、わたしにするか。語尾も鬱陶しいから、二人の前だけは普通になるぞ」
「はいっ。嬉しい」
「私もそうした方がカグヤ様はかわいいと思います」
ケティもコウコも笑顔を向けた。もっと早く言えばいいのにとわたしは思った。
今から語尾は普通になるぞ。
この世界にないもの……太陽光発電 この世界あるもの……魔法・スキル
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