六話 突然の告白
《おさななじみ を ころせ あと じゅうくじかん》
……今日か。
僕は赤い文字を見ながらただそれだけを思う。ただ、それだけ。
僕はすぐさまその文字を意識が省いて、いつも通りリビングに出て朝食をとる。
騎士様はもう去ったようだった。
そして、母さんは、やっぱりいなかった。
だが、いつも通りでは無いことが一つあった。
「手紙?」
なんと、珍しくうちのポストに手紙が入っていたのだ。
件名や宛名は無し。それも高級そうな紙にとても美しい字でただこう書かれていた。
『陽が頂点に達する頃。花畑に来てください』
花畑……か。
僕はすぐに察しがつく。なんと言ったって、この平凡な村の中でも唯一胸を張って言えるほど綺麗な場所だからだ。
黄色い、名も無い花の咲き乱れる場所。
僕は手紙を丁寧に折って、自分の部屋に置いておいた。
誰が書いたのか、少し察しがついてしまったから、今日はオシャレをしようと思う。
ーー ーー ーー ーー ーー
太陽が頂点に達した。
僕は、その花畑に立っている。
僕の周りを彩るのは、光を反射して輝く黄色い花々。それが風に吹かれて優雅に揺れている。
「……やあ」
そして、その花畑の中で一際目立つ、三つ編みにした輝く金色の髪を揺らし、僕に背中を向けて立つ少女に声をかける。
ただそれだけで、僕の心臓ははち切れてしまいそうだ。
しばしの沈黙。そして、その少女がこちらをゆっくりと向いた。
「……まずは、来てくれてありがとう。っていうのかしら?」
そうムード関係なしに、いつも通りに振る舞う彼女に、僕は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ブレないね、リルンはほんと」
「え? 何がよ」
「ううん。なんでもない」
ーー身構えて、必死に心を落ち着かせてきた僕が馬鹿みたいじゃないか。
「どうしたの?」
「伝えたいことがあるの」
そう言って、リルンはそっと胸に手を添える。
そして少し俯く彼女の動作の一つ一つが、僕の心の鐘を早まらせる。
「ーー私、ケルのことが、好きなの」
その言葉とともに、リルンの淡い水色の瞳が僕の目を真っ直ぐに見つめる。
……ああ。先を越されちゃったよ。
僕が言うのはたった一言。
「僕もだよ。リルン」
男として、僕から言いたかったけど……。まったく、情けないな。
リルンの目をしっかりと見つめると頬を赤くしたリルンが顔を俯かせた。胸に当てられた手がぐっと服を握る。
「でも、なんでこのタイミングで?」
「……引っ越すの、私」
……え?
引っ越す? 嘘、だろ……?
「ここから遠い街にね。お父さんが昇進したんですって。……だから、ここにはもう帰って来れないわ」
告白の嬉しさと、その事実の大きさがボクの心を掻き乱す。
「出発は、明後日なんですって」
ーー行ってしまう。せっかく伝えたのに。
「せっかく伝えられたのに、私はーーっ」
リルンの頬を一筋の涙が伝う。
ーー思い返せば、ずっと、何もかもリルンからだった。
小さい頃からずっといて、ご飯も食べたりした。お菓子を振舞ってくれたのは、一番記憶に新しい。
だから、少しぐらい男らしく振舞おう。
「……え?」
僕は、そっとリルンの体を包み込む。
自分より小さいその体は、僕の体の陰にすっぽりと収まってしまう。
「どこに行っても、忘れないよ。リルンは、僕の初恋なんだ。僕も、絶対に忘れない」
自分の心に、刻みつけるように、一言一言を大事に。
「そしてーー騎士になって、会いに行くよ」
「ーーうん、うんっ、う……ん……」
黄色い花びらを、透明な雫が濡らした。
その日は、ずっとリルンと過ごした。多くの思い出を残すために。たくさん遊んで、笑って。
「明日も遊ぼう」
そう約束した。リルンは首がもげそうなぐらに勢いよく頷いてくれた。
そして、この時間を噛み締めるんだと、そう思って寝床に入った。
《にんむ しっぱい》