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十八話 貴族マルド家

「よくいらっしゃった。お疲れだろう、ロビーのお仲間諸君」


ワンドさんについて豪邸の中へ入ると、玄関に立つ大きな男が高い声で出迎える。


「こいつが俺の親戚のマルドだ。ま、名の通ったクソ貴族で落ち着かねぇかもしれんが、ゆっくりしてってくれ。俺から紹介も済ませてあるし、みんなここで一旦解散しよう」

「あなたたちは二階の好きな部屋を使うといい。わからないことがあれば召使いに、何かあれば私かロビーに聞きに来てくれ」


何やら足早な説明だが、流されるがままに僕たちは女の召使いに案内させられて長い廊下を歩き、二階に。


「それでは、ごゆっくり」


召使いが下がると、僕たちは顔を見合わせ、「じゃあ、一旦自分の部屋を決めようか」というワンドさんの提案にうなずいて、何十個もある部屋から適当な部屋へ。

だが入る前にひとつ。


「ワンドさん。僕、体調が悪いのでしばらく部屋にいます」

「おや。わかったよ。何かあったら呼びなね」

「はい」


そして、振り返ることもなく一目散に目のつけていた部屋へ。

扉を開ける。閉める。鍵を掛ける。


――文字を見る。


《ロビー を ころせ あと よっか》


……せめて布団まで。


「うっ……」


ここじゃ、声が――


「うっ、うぅ……」


制御の効かない感情は体の力を奪い去る。膝から崩れ落ち、手触りのいい絨毯に両手をついては、その手の甲に水が。


「うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


絨毯に口をこすりつけて、少しでも声が小さくなるよう、隠せるよう努力する。

しかし、それもむなしく、一人の部屋に耳を塞ぎたくなるような自分の叫びがこだまする。


なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ――また。


『これからも頑張ってね』


いや、単純明快だ。あいつが言った。あいつがやった。あいつがやらせた――また。

やめろ。やめてくれよ。僕はもうやりたくない。あの感触も、痛みも苦しみも葛藤も感じたくない。もう、もう、もう、終わりにしてくれよ……。


「ち、くしょう……」


あいつさえいなければ。あいつにさえ眼をつけられなければ。あいつが存在しなければ。僕がケルンじゃなければ――


「ま、楽しむといいよ」


突然、一人の部屋に声がした。


「僕は彼女と一緒に君のことを見ていてあげるからさ」


はらわたが煮えくりかえるごとき怒りに、僕は悲しさも悔しさも忘れて顔を上げ、影をにらみつけ――


「――ね? リルン」


――今は亡き幼なじみの亡骸が、紫色の影に抱かれていて。


「じゃ、ばいばーい」


二人が消えていくのを、からっぽの眼で眺めていた。


「……あ」


かすれた吐息がこぼれ出る。無意識に叫んでいたせいで、喉に相当な負担をかけていたらしい。

僕は、絨毯の上を這って、窓の縁に手をかける。


――膝立ちで見た外の世界は、隣の豪邸の壁と薄暗い曇り空しか見えなかった。 

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