十三話 パーティーへの加入
「はい。これあんたの分のご飯よ。それとそこに座んなさいな」
「……食欲もないですし、あんまり仲良くする気もないです」
僕はそう冷たく言うと、体つきが豊かな赤髪の大人な雰囲気の女性が肩をすくめて、自分用にパンを多めに取り出した。
「ワンド。飯より先にやることがあるだろう?」
「ああ、そうだわね。じゃ、自己紹介を……」
「いや、違う違う。こいつに何があったのかって話」
「……ごほん。そうね」
この女性はワンドと言うらしい。ロビーが思わず苦笑いを浮かべながら、僕の方を向いた。
ロビーは青いローブに身を包み、そして背中には素朴な弓を背負っていた。その顔立ちは爽やかで整っており、緑色の目が月光に輝いている。
「で、何があったんだ?」
そう問われて、僕は話を始める。
それはリルンにしたときとまったく同じ。だが、そこにリルンを殺したという事実を加えたもの。それを、ロビーのパーティーの四人が、真剣に聞いてくれる。
「――妙な話もあるもんっすね」
語り終えて、最初にそう口に出したのは、水色の髪を後ろで結んだ男だった。その隣には剣と盾が置いてあることから、彼は剣士なのだろうと勝手に推測する。
「……ケロック。この世界。何があっても。不思議じゃ無い」
「ま、そうっすね。アルソネの言う通りっす」
男のことをケロックと呼んだ少女――アルソネは、小柄な体に月光を反射する真っ白な肌。そして赤く輝く瞳が特徴的だった。その隣には本と杖が置かれている。
「まあ、なんだ、大変だったな」
「ロビー。あんた慰めるの下手でしょう。あたしがいなかったらこの二人も……」
「お前のそういうすぐ脱線するところも悪いとこだな。――ケルっつったか」
ロビーが、僕の方に向く。
「お前、今どう思っている?」
そう聞かれて、僕は咄嗟に。
「死にたい」
そう口に出た。
だって、罪を犯した僕はもう必要ない。自分に価値を見いだせない。だからこそ、そうした方がいい。汚物は消えて無くなるべきなのだ。
「じゃあ、そのリルンってやつをなぜ殺した」
ずぐん。と、心に何かが突き刺さるかのような言葉だった。
……なぜ? いや、本当はずっと前からわかっていたのだ。あの苦しみから逃げたかっただけではない。
「……生きたかった、から」
あの苦しみから逃げたかったのは確かだ。だが、その次に「この先に進みたい」という願望があったのは確かだ。
誰かを殺して苦しむことより――誰も殺さないが、延々と同じ場所にいる方が辛いと、そう思ったんだ。
それに、なぜリルンは僕に自分を殺していいなどと言った? ――言っていたじゃないか。僕が苦しむのが見たくないって。だから、彼女は自分の命を差し出してくれたというのに――僕は、それを踏みにじるつもりだった、のか?
「じゃ、もう決まりだな」
すくっとロビーが立ち上がる。
「一応聞いておこう。うちは訳ありが集まってるんだ。もしも、生きたいなら――入るか? うちに。歓迎するぞ」
もしも、僕なんかが入って良いのなら。
それは甘えと言われようとも。
「……いいんですか?」
「違えだろ。もっとしっかりと言ってくれ」
僕は、目頭が熱くなるのを感じながら、それをどうにか堪えて言う。
「僕を、このパーティーに、入れてください」
「よく言った。よし、じゃあ飯を食いながらでも自己紹介をしよう」
僕はロビーさんに促されて、ロビーさんの隣の地面に腰を下ろす。
すると、みんながみんな思い思いに手を合わせて食事をはじめる。僕もそれに習って手を合わせ、パンと干し肉を口に運ぶ。
「じゃ、あたしからしようかしら」
そう口を開いたのは、ワンドさんだ。
ワンドさんがパンと干し肉を置いて、立ち上がる。
「ワンドよ。年齢は秘密。魔法使いやってるわ。そうだねぇ。あとは……ちょっと昔話になるのだけれど、暗殺ギルドの副長をやってたわ。あの頃は……」
「ワンド。脱線しかけてるぞ」
「あら、ほんとね。悪い癖だわぁ。じゃ、ケルくん。よろしくね」
「よろしくお願いします……」
そう恐る恐る返すと、にっこりと膨らんだ頬を持ち上げて笑みを浮かべた。
今度はケロックが立ち上がる。
「ども。ケロックっす。一応十八っす。前衛で剣士やってって……昔話、なら一個あるっすね。一個ギルドを潰したことがあるっす。……こんな感じでいいっすか?」
「ああ」
「じゃ、ケル、よろしくっす」
「よろしくお願いします」
そしてケロックが座り、今度はゆっくりとアルソネが立ち上がる。
「……アルソネ。十五。魔法使い。禁術三つ使ったことある。……よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
なぜかしどろもどろになりつつ、アルソネはまた静かに座る。
「じゃ、次は俺だな」
そうどこか楽しそうに隣でロビーが立ち上がる。
「ロビーだ。二十八だ。今は狩人やってるが、昔は騎士やっててな。あと、騎士をやめてからは勇者パーティーにも入ったことがある。が」
そこで間をとって、ロビーがいう。
「追放された可哀想なやつだ。一応ここのリーダー。じゃ、改めて。よろしく、そしてようこそ、ワケアリのパーティーへ。これからよろしくな」
……いくつか気になることはあったものの、確かにこの人たちは僕と同じ。いや、僕以上にいろんなことがあったのだろう、と思う。
そして、本当に歓迎してくれていることがとても嬉しくて。
「――はい」
僕はロビーの手を強く握り返した。




