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トラブルバスター ふぁいなる後編

放課後の校内で見かけた一年生の二人。その一人の氷護影は、ある人に告白するとのこと。その相手というのは、なんと教師! 

妄想爆発! 高校生活の集大成がここに。

 トラブルバスター ふぁいなる 後編


 哀れな子羊のように、影はさっき会ったばかりの矢神理佳に連れられ情報発信基地、新聞部部室を訪れる。

「さっ、遠慮なく入りな。まっ、あたしが言うことじゃないけどな」

 促された影は、そのどんよりとした空気を感じ警戒心を一瞬にして漲らせる。

「ここに、入るんですか?」

「やっぱ、入りづらさを感じるよなぁ。あたしも最初来た時、地獄に通じてるんじゃないかって思ったぜ。でも心配すんなって、すぐ気に入るさ」

 理佳の言葉を半信半疑で受け止めながら、何とか状況を打開しようと思う心に突き動かされ、開かずの扉みたいな恐怖感を胸にドアを開ける。

「あっ……」

「どうした……って、おいっ!」

 部室に入ったとたん広がる光景。それは机という机に膨大な数の書類が置かれていた。

「なっ、何だよ、すげぇ数の紙!」

「あっ、矢神さん来たんですね」

「どうしたんだ、その一年は?」

 二人とも両手には紙の束を大量に抱え、部室内を歩き回っていた。

「うん? さっき拾って来たんだ。それより、どこからこの紙が出てきたんだよ?」

「すごいですよ、矢神さん。この膨大な量の紙は全部、この校全ての人間を調べた調査書類なんです。ここにいる私達の資料もここにあるんです」

「だから、一体、どこから出てきたって言うんだ?」

「説明するとだ、この書類は、マル秘保管所にあるものだ。僕が卒業すると、管理する人間がいなくなるから、こうして全部出して桐場君に説明しようとしていたんだ」

 重たそうに書類を下ろし、祐樹はいつものクセを行う。よくもまぁ、こんなに出してきたものだ。

「何だよ、マル秘保管所って。まったく、卒業が近いってのに、まだ校内に知らない場所があるなんてな」

 半ば呆れた様子でため息を交えて呟く。

「で、その一年は誰なんだ? 年下を捕まえて、食う気じゃないだろうな」

 ずっと黙っていた影は、祐樹の一言に一抹の恐怖を感じ始める。

「捕まえて食うだ!? あたしはヤマンバかっての」

「連れてきた目的って何ですか?」

 やっとそれかけた道が修正されたようで、本題に入る。

「このもやしっ子がな、先生にコクるんだってさ。それで、情報を求めるなら、ここしかねぇと思って連れてきたんだよ」

「なるほど、教師か。それはそれは大胆不敵なことだ」

 大して驚いた様子もなく、祐樹は理佳と影を部室に招き入れる。

「それで、告白する先生って誰なんですか?」

「……高月先生です」

 依頼者? の影を一人ポツンと座らせ、残りの三人は面接官のように横一列に並んで座る。

「高月先生って、理科担当の先生ですよね?」

「そう、です……」

「その先生なら、わたしも受け持ってもらってます」

 未彩にはその教師の見当がつくようで、何度も頷いて共感する。

「どんなセンセーなんだ?」

「えっとですね、身長はわたしくらいで、髪はちょっと色が抜けてて、毎日イヤリングを替えて来る。そんな人です」

「そんな人ですって、髪と身長ぐらいしか分かんねぇじゃねぇか。もっと、こう、性格的なことは分かんねぇのか?」

「性格は……明るいですよ、多分」

「多分か……適当すぎて、コメントできねぇよ」

 あまりにアバウトなイメージ像に、力を入れるはずの理佳は考えに苦しむ。

「あ〜もぅ、いいや。お前、その先生に告白するんだろ? だったら、腰を据えて、当たって砕けろ精神で行って来い。良くても、ダメでも、お前のしたことには文句はない。それどころか、文句を言ったヤツがいたら、あたしがぶっとばしてやるから」

 力こぶしを作り、励ましのエールを送る理佳。それが効いたかどうか分からないが、影は何かを決心する。

「う〜ん、破れかぶれで行ってみます。どうなるか分からないですけど」

「よ〜し、その粋だ。ふっ、今回はあたしの出る幕じゃないみたいだな。まっ、頑張ってこい」

 戸口の所で一つお礼の会釈をして、男影は教務室へ向かった。

「何か、一瞬で変わっちまったみたいだな」

「でも教師に告白するのって、並みの勇気じゃ通用しないと思います。先生と教え子の恋。まさに、禁断の果実ですね」

 理佳と未彩は、影の願いが成就することを望んでいるが、現部長の祐樹は一人不敵な笑みを浮かべている。

「二人とも、彼のコクハクの本質を分かってないみたいだな?」


 祐樹の言いたいことは何なのか? 告白の本質とは?

「さてと、管理方法を教えたことですし、片付けしてしまいましょう」

 待つ時間を利用し、祐樹は引き継いだ未彩に資料の管理方法を教え、諸々のやるべきことを済ませていた。

「出したってのに、また片付けるのか。ご苦労なこった」

 その様子を、理佳はただストーブに当たりながらしみじみ感じていた。二人でやっているが、一学期から未彩が一人でやるとなると、かなり骨の折れる作業になる。

「みっ、みなさん!」

 その時、告白という重大な偉業を成し遂げたであろう影が、明るい表情で戻ってきた。

「どっ、どうだったんだ?」

「うまくいきました?」

「大丈夫でした。どうにかなるそうです」

 想像した言葉とはどこか違う返答。

「えっ、どうにかなる? 何がどうなるんだ?」

 不思議に思う理佳と未彩。

「だから言ったはずだ。本質の違う告白だって」

「だから何だよ、遠回しに言わねぇではっきり言えよ」

「告白っていうのは、理佳達が想像している『恋』ではなく、何かを、例えば成績とか」

 祐樹が指摘したとおり、散々緊張し嫌がっていた告白とはひどく単純なことだったようだ。

「そうです。すごい、ほとんど会話していないのに分かるなんて」

「ふっ、簡単なことだ、君の資料は読んだ。君は物事を大げさに言うクセがある。その上、成績はあまりよくない。それでピーンときた。告白。それを単なる聞くこととして考えれば、君の行動は想像できる」

 劇的なことが起こると思っていたのに、そんな誰でもできるようなことを『告白』という言葉で表現されたことに一瞬で冷めてしまった。

「そんなことを聞く事を「告白」だって言うから、こっちは熱くなっただけ損じゃないか」

「そこまで読んでいたんですね。さすがです磯部先輩」

 最後の最後まで部長だった祐樹を立てるなんて、未彩は後輩の鑑である。

「なんか、余計な心配をさせてしまったみたいで、ホントすいません」

 平謝りを繰り返す影。

「で、首尾はどうだったんだ?」

「生物だけ、一・二学期とも赤点だったんです。でも、三学期頑張れば解消してくれるって言ってくれたんです」

「はぁ〜もうだめだ」

 何を思ったのか、深いため息をついた理佳は荷物を持って部室を出て行こうとする。

「どうしたんですか、どこか様子が変ですよ矢神さん」

「もう、足を洗うよ。トラブルバスターは卒業だ」

「いいのか、それで」

 影の横を通り過ぎようとする理佳を、新聞部の二人が止めようとする。

「いいのさ、もう潮時なんだよ」

 苦笑いを自分に向けて笑ってると、そこへ息を切らした皆本梨花が駆け込んでくる。

「やっ、やっと見つけた影!」

「梨花、どうしたの、そんなに慌てて」

 唖然としてしまう影。その慌てている理由が分からない。

「また大げさに言って、他の人を困らせたんでしょ? まったく、成長しないんだから」

「何だ、こいつのすることが予測できてたのかよ」

 全てを見透かしていた梨花に、びっくりする理佳。

「当然です。こいつとは、もう何年になるか分からないくらい一緒だったんですよ、考えくらい見当がつきます」

「そうか、そうなんだ」

 何かを確信した理佳は、荷物を下ろしそばにいた一年の皆本梨花の肩を叩く。

「よしっ、今度のトラブルバスターはお前だ!」

「えっ、何ですか、トラブルバスターって?」

「この学校の、全てのいざこざに首を突っ込む、大バカのことさ」

 そんな時、元部長の祐樹が一人鼻で笑う。

「思い出した! トラブルバスターって、あの事件を解決に導いたっていう……」

「導いたも何も、ただの直感であっという間に解決しただけさ。その直感も、あんたにもちゃんとある。あたしの直感がそう告げてるから、間違いない」

「そうですか?」

「ああ、そうさ」

 明るく微笑みかけると、のほほんとしている未彩を招き、無理矢理影を含めた三人で手のひらを重ねさせる。

「よ〜し、この三人であたし達が卒業したあと頑張るんだ。先輩命令だぞ。必ず果たしてくれよな」

 成り行きのまま交わされた重ねた手の上に、矢神理佳は片手でしっかりと絆を固めるように押し込むのだった。


                                       END


この話が最終話となります。個人的には、空白の一話があり完結したという気持ちはありません。でも、一方的に押し付けて終わりとするよりも、どこか抜けている方がキャラクターに深みを与えるんじゃないかなって思います。

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