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トラブルバスター ふぁいなる前編

あと数日と迫った卒業という名の通過点。その日が近づいていることを意識してしまう理佳。そんな彼女が首を突っ込む最後の事件。それは彼女でさえ想像を絶する結末が待っているのだった。

 トラブルバスターふぁいなる 前編


 嗚呼過ぎ去りし日々。そして波乱万丈な生活に慣れ親しんていたあの頃。時間よ、止まることができるなら、時を刻む針を止めてくれ。そして、いろんなことがあった思い出を永遠に消さないでくれ……


 高校最後の年が開け、季節は小雪の舞う一月になった。小雪よりも、降ったり止んだりが繰り返し、吹雪のようになる日も少なくない。

 気付いた時には、古臭い灯油ストーブのある薄暗いあの場所にいた。ちろちろ揺れる暖色の炎を見据え、理佳は魂が抜け出てしまったようにぼぉっとしている。

「これで、僕も思い残すことはありません。心細くなるでしょう、辛くなるでしょう。桐場君。僕は、君を信じています。これからも、新聞部の活動を意欲的にこなしてください」

 無表情に映る生真面目なメガネの奥の瞳が、今日はやけに感傷的に見える。

「はい。磯部先輩が卒業しても、私が新聞部を守っていきます。三年間、ご苦労様でした」

 部を引き継いだ一年の桐場未彩も、今にも零れそうな涙をこらえている。三年が引退し新聞部を引き継ぐのは、唯一の部員であり一年生である未彩だ。一年にも関わらず、精力的に参加して部の運営を助けた。

「そうですか。そう言ってくれるなら、僕も安心して卒業できます」

「先輩……」

「桐場君……」

 がっちりと握手を交わす二人。互いに頬を染め、何かを恥らっているように目線を合わせない。このまま事態が進めば、熱い抱擁もアリ? って展開になりそうだが、二人以外にもう一人この場にいることを忘れてはならない。

「こんな寒いってのに、お熱いねぇ……」

 ストーブに手をかざしながら、ため息のような水を差す一言を呟く理佳。その言葉に新聞部の先輩・後輩はハッと我に返り繋いでいた手を離す。気まずさを感じた祐樹は、咳払いとクセを同時にする。

「どっ、どうかしたのか、いつもの矢神らしくないな」

「そうか……気のせいだろ?」

「そうですよ。体の具合でも悪いんじゃないですか。早く帰った方がいいんじゃありませんか?」

 いつもの様子とはがらりと違い、知り尽くされている二人に気遣われる。

「別に何ともねぇよ。ただ、ぼぉっとしてたら、考えちまうんだ。今年で、あたし達は卒業なんだって」

 そう、あと数日間で理佳達三年は卒業を迎える。いろいろあった日々を思い起こし、破天荒な理佳でさえ物思いにふけっている。

「そんなことで考え込むな。僕だって、誰だって卒業するんだ。矢神らしくないことをするな。明日、大雪が降るじゃないか」

 元気づけてるのかけなしてるのか、区別のつかないことを祐樹は平然と口にする。

「何だよ、考え込んじゃいけないってのかよ。それに、大雪はヒドイだろ」

 いつもの元気が戻ったように言い返してくる理佳。祐樹はこうなると計算した上で口にしたようだ。

「あっ、元気を取り戻したみたいですよ、矢神さん」

「……ハメられたか」

 まんまと祐樹の手中にはまり、苦笑いの理佳。物思いにふけっても、根本的には何も変わらない。そんな姿にふと安心感を覚える。

 人のまばらな校内は結構冷える。ほとんどの生徒はさっさと家路に着き、残っている生徒もいつものごとくストーブの余熱に当たりながら雑談をしている。放課となった教室は、原則的にストーブを消火することになっている。管理する担任教師が消すもので、生徒に任せっきりではちゃんと管理しているのか分からないためだ。

 残してきた荷物を取りに戻った理佳は、新聞部の部室に戻る最中、口論をしている生徒と出くわす。

「もう、意気地がないんだから。それでも男なの?」

「男か女かの問題じゃないと思うんだけど……」

「一々、細々と言わないの。ったく、あれごときで怖気づくなんて」

 一年生の二人は、女子の方が勢いに任せ強く言い放ち、片割れの男子はひょろひょろとして頼りなさそうに見える。

「だってさぁ、緊張するに決まってるよぉ。16年間しか生きてないのに、告白するなんて。第一、女の子とも話したこともないんだよ」

「ちょっと待って。あなたが話してる相手の性別は?」

「えっ、女子でしょ? でもさ、これとあれとは違うよ……」

「何? まさか、あたしを女として見ていなかったわけ?」

「そっ、そんなことないよ。だって、小学校からずっと一緒だったから、何かさ、慣れちゃって」

「あぁ〜もう、どっちなの、はっきりしなさいよね!」

 さっきから進展のない会話。どうやら、男子が誰かにコクろうとしているようだ。でも、男の方が勇気を出すことができず言えずにいる。

 状況をそう判断した理佳は、即実行に移る。

「お〜。お困りのようだなキミ達。このおネーさんに任せれば、すぐに解決してやっぜ」

 見知らぬ先輩に声を掛けられ困惑する二人。どんな言葉を口にしてくるだろうと待ち構える。

「あっ、あの〜誰ですか?」

 さも当然のごとく、自分の事を知っているだろうと思っていた理佳。だが、当たり前な返答があるだろうと思っていただけに、衝撃の大きさははかり知れなかった。

「うっ……しっ、知らないのね……」

 だが、理佳の場合、落ち込んでなどいられない。

「しか〜し、そんな問題を解決するのがあたしの役目。窺うところ、何やら押し問答してるんじゃねぇの?」

「そうなんですよ。コイツ、小心者でホント救い難いんです」

 やっと調子に乗ってきた雰囲気を受け、詳しい話を二人から聞きだす。

 まだ初々しさが漂う一年生の二人は、女子は皆本梨花といい、困ったちゃんは氷護影という。口論の原因は、影が思っている女子に告白するつもりなのだが、極度に恥ずかしがって進展がない。そこで梨花が急かすものの、何の効果になっていないことらしい。告白するといっても、一般的な告白ではないことは確かだ。

「影君が女に告白できないからモメてんだろ? だったら、ズバッと直球勝負に出ろよ。どう思われるか分かんねぇけど、このままでいたらモヤモヤが残って気分が悪いだろ?」

「先輩の言う通り、さっさと言えばいいんだよ。ずっとくすぶり続けるのだって辛いでしょ。言っちゃう辛さより、我慢する方が辛いと思わない?」

 二人の受けたくもないプレッシャーを浴びせ掛けられ、影の表情がさらに曇りだす。

「口ではそうは言えるけど、実行するとなるとそうはいかないんだよ……」

 この期に及んでも弱気な姿の影。誰かが躊躇ってると、その周囲の人々も影響を受けてしまう。

「まだ言うか。もういいよ。影が言えないなら、言えるまで絶交だからね。そこまで臆病だなんて思わなかった」

 究極の切り札を叩きつけられ、影の逃げ道は寸断されてしまった。これまで、何か困った事があった時にはすぐ梨花に相談してきた。そんな心の支えである彼女との縁が切れてしまうとなると、頼る存在を失ってしまう。

「そんなぁ……僕は、梨花の力がなきゃだめなんだよ。考え直してよ」

「甘えないで! 高校生なんでしょ? もうそろそろ自分の力で何とかしてみたら」

 冷たく言い放つ梨花。そのやりとりを間近で見る理佳は、入る余地がないことに気付き黙りこくっていた。

「……分かったよ。何とかしてみるよ」

「よろしいっ」

 ケリがついたとたん、梨花は満足気に教室棟へと行ってしまう。一人残った影は、一段と名前通り影が濃くなってしまうように落ち込んでいる。

「そう落ち込むなよ。アイツはお前のためを思ってしたんだ。お前が、一人前になれるようにな」

 肩を抱き慰めの言葉を掛けるが、魂が抜けたような影には聞こえてないようだった。

「他人事だと思っていいよなぁ。告白なんてしないからさ。告白する身にもなってよ……」

「そういえばさ、肝心の告白相手って誰だよ? 彼女か? それとも、アイツだったりして……」

「先生です。理科の高月先生」

「せ、せ、センセー! マジかよ?」

 告白する相手が同世代の高校生ではなく、勤務している教師に告白するなど、なかなか肝の据わった男ではないか。

「はい。だから嫌なんです。分かってもらえます?」

「よ〜く分かった。んじゃ、そうと決まれば行動あるのみ。早速、作戦会議だ。行こう」

「行くって、一体どこへです?」

 おずおずとしている影の手を引っ張り、理佳は連れて行こうとする。

「この学校の、情報発信基地さ」

 得意気に微笑む理佳。だが、これがトラブルバスターとして最後の首を突っ込むこととは自分自身知るよしもなかった。


                                    前半 終わり


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